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たとえ 運がなくとも  作者: 中原 誓


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その後の話1 幸運の鳥

 時々、夢を見るんだ。


 薔薇祭に色ヒヨコの露店を出してた頃の夢だよ。

 あれは、ヒヨコには難儀なことだっただろうが、羽毛の先をちょっと色粉で染めるだけで、飛ぶように売れたもんさ。

 いつも夢に出てくるのは、迷子の女の子なんだ。

 いいとこのお嬢ちゃんみたいで、綺麗なベベ着てさ、ピカピカの銅貨みたいな髪をしてるんだよ。

「嬢ちゃん、父さん母さんとはぐれたのかい?」

 俺がそう訊くと、泣きそうな目で頷くんだ。

「迷ったのなら、なるべく動かない方がいい」

 ヒヨコはピイピイ泣いてたよ。

 女の子は物珍しそう色ヒヨコを見て、『この鳥は何という鳥ですか?』ときたもんだ。

 ヒヨコだよ。ヒヨコ――そう言いかけて、俺も何を思ったか、『幸運の鳥の雛だよ』って言っちまったのさ。

 女の子は握りしめてた銀貨を差し出して、『一羽下さい』って。

 ――それから? 俺は、紙箱に藁を敷いて青色のヒヨコを入れて渡したんだ。

 女の子は両手で箱を大事そうに持って、『みんなに会えますように』って言ったよ。

 するとさ、やっぱりピカピカの銅貨みたいな髪をしたデカイ父さんが女の子を迎えに来たのさ。

 俺は『よかったなぁ、嬢ちゃん』って笑って――ああ、いつもお釣りを渡すのを忘れちまう。

 俺は貧乏人かもしれないが、悪どい商売はしねえ。

 だからなんだろうな。

 あの時、お釣りを忘れたのがずっと気になって夢を見るんだろう。

 いつかあの嬢ちゃんに会えたらいいな。

 あのヒヨコは、達者かな……







「――と、いうわけで、コッコはニワトリに見えますが、幸運の鳥なのです」


 ディートハルト公爵クリスティアンの婚約者は、真っ白いニワトリを抱えて、自信たっぷりにそう言った。

 周囲にいた公爵家の使用人全員が、『いや、ただの雄鶏だって』と思ったが、婚約者を溺愛する公爵は『そうか』と頷いた。


「雄鶏は古来より、太陽神の使いと言われている。縁起のよい鳥なのは確かだね」


 そうか。そうなのか。まあ、公爵様がそうおっしゃるなら――使用人達はそう思った。


 それに二人はとても幸せそうで、ひょっとしたら本当に幸運を呼ぶ雄鶏なのかもしれない。


 一方、鶏小屋を作りに来ていた大工の男は、一人空を見上げ、結婚祝いに雌鳥を小屋に入れておいてやろうと考えていた。


 ヒヨコのお釣りにちょうどいい。


 天国の爺さんもそう思ってくれることだろう。







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