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お嬢様の婚約

「い―や――――っ!」


 ドゥラック伯爵邸に、ヒルダの悲鳴が響き渡った。


 ヒルダは、珍しく一人でメリッサ大伯母の家に二日間泊まっていて、帰宅した今、初めてリーシャの婚約を知らされたのだ。


「なぜっ? どうしてっ? ニワトリがお姉様と一緒にお嫁に行けるのに、どうしてわたしはダメなのぉぉぉぉっ?」

「それは、ヒルダ、お前が人間だからだ。そして、あれは雄鶏だから嫁入りするわけではない」

 ウォルフが肩をすくめながら、そう口を挟んだ。

「じゃ、ニワトリになる! 今日からわたしはケッコよ」

「ヒルダ? 無茶を言わないで」

 リーシャがなだめるように言う。

「大伯母様に謀られたわ。だから、家を空けるのは嫌だったのに……公爵様、お姉様にくっつきすぎです」

 いつもお淑やかなヒルダが、リーシャの横に座っているクリスティアンをギロリと睨みつける。

「いつも通りだが?」

 クリスティアンがそう答えると、ヒルダは姉にすがりついた。

「うわぁん……お姉様ぁ。ヒルダ、一生の不覚です。本当はお姉様とウォルフ様を別れさせて、わたしはどこかにお嫁に行ってから子連れで出戻りする予定だったのにぃ」

 何か穏当でない台詞を聞いた気がする。

「ヒ、ヒルダ?」

 ヒルダはガバッと身を起こしてリーシャに迫った。

「お姉様、今からでも遅くありません。結婚なんてやめて、ヒルダと仲良く暮らしましょう」

「いや、それは困る」

 と、クリスティアンがリーシャを抱き寄せる。

「はい、そこまで」

 ウォルフが、文字通りヒルダの首根っこを掴まえた。

「俺がドゥラックの跡取りなのは、親父殿も認める決定事項だからな。別に結婚しなくても、リーシャかお前の子供を養子に指定すれば済む話だ――それで? 俺の嫁になってリーシャの里帰りを待つか、どこか遠くに嫁にやられるか、好きな方を選べ」

「ぐっ……卑怯な!」


「ウォルフ君……君、容赦ないな」

 クリスティアンが呆れたように言った。

「ヒルダには、これくらい必要なんですよ。筋金入りのシスコンだから」

 そう言って笑うウォルフの目はどこか優しくて――リーシャは、自分の直感は間違っていなかったと思った。

「さあ来い、ヒルダ」

「えっ? 何? どこへ?」

「俺の執務室だ。少し躾し直した方がいいみたいだからな」

「お、お姉様ぁ~」


 リーシャは、笑顔でヒルダに手を振った。

 その指には、貝殻をモチーフとした繊細な細工の白金の指輪があった。指輪には、リーシャの瞳と同じ若草色の宝石が散りばめられている。

 クリスティアンは、リーシャの好きなものをちゃんと理解していた。

 そして、これから先リーシャが失敗することがあっても、二人で笑い飛ばそうと言ってくれた。


「クリスティアン様、ヒルダを躾し直すってどうするのでしょうね」


 リーシャが首を傾げると、クリスティアンがクスッと笑った。


「さあ、分からないな。それより、私は貴女に練習相手になってほしいのだけれど」

「はいっ!――あら、クリスティアン様?」

「今日は、会話ではなく――ね?」


 そうか。結婚式の予行演習か。


 相変わらず的はずれなことを考えながら、リーシャはクリスティアンとキスを交わしたのだった。






 ―fin―





これにて本編終了。この後、おまけ話を投入予定。


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