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曰く、戻れば進む(1)

なんで、なんでなんでなんでこうなるんだ。


袴で足が縺れるけれどそれどころじゃない。あの女絶対に許さない。


ー「ごめん!私急用ができて!代わりに巫女やってくんない?!」


ー「いやおかしいでしょ!そんな罰当たりなことできるわけないだろ!」


ー「あ、いやなんか直前になって面倒臭くなっちゃってさ。」


ー「ちょ、ふざけんな…ってああっ…僕巫女じゃないですってば!!」


ー「何言ってるんですか。あなたが近森かなめさんでしょ。」


ー「生徒会長さん?!こんな名前ですけど僕男なんですよ?!」


ー「神聖なる新藤家直系の女子の言うことには誰も逆らえないのよ。ごめんなさいけど代わりやってちょうだいね。」


ー「副会長さんまで?!!」


なんてこった、ああ見えてとんでもない権力者だったんだ並波さん。男であることを度外視した挙句僕のことを巫女に誂えるだなんて。


残りの学園生活を棒に振る、いや、もっと酷いビジョンが見える。早く並波さんを見つけ出さないと。


学園ではすでに矢倉が組まれていた。それに登り舞うのが巫女の勤めらしいのだが、そもそも僕は舞い方すら知らないのだからどだい無理な話なのだ。


それにいくら華奢で女顔とはいえ、同じ授業をとっている生徒からは一目瞭然、いくら空気のように過ごしていようと僕ということがバレてしまう。


だがしかし、ああなぜ神様は、僕の髪を白くなさったのか。


観念したふうを装って髪をセットしてもらったとき、同時に白髪であることもバレてしまった。


するといよいよ青柳祭実行委員どもが「これならバレないかもよ!」と言い出し、僕を見事に巫女に仕立て上げた。


矢倉に登る手前、お手洗いに行くと嘯いて全力疾走で森の方へ駆け出した。ああ、新緑が眩しいな。


もう夕方だというのに日も長くなったものだな、とか考えてる場合じゃなかった。とにかく並波さんをだな。


「ん…?」


僕は奇妙な光景を目にする。


社だ。社があるのだがあの男の人は何をしてるんだろうか。


何をしてるというか、見たままだな。腕立て伏せをしている。迷彩服を着ていてめちゃくちゃに強そうだ。


もしかすると並波さんを見たかもしれない。


「すみません、あの…」


「ちょっと待ってくれ。あと10回で1000回なんだ。」


はあ、そうですか。と、言うが早いか10回の腕立て伏せを終えて僕の方へ向き直る。


「なんだ。どういうわけで俺を呼んだんだ。」


「いやちょっと、呼んだというか…」


「呼んだろ!まだこんな明るい時間に!おかげでこっちは眠いんだ!」


彼はグイグイ捲したてると、僕を二度見する。


「お前それ、地毛か?」


「はい、そうですが…」


「なるほどな、カリナの家系か。道理で美人なわけだ。」


そう言いながらまじまじと僕の足先から頭のてっぺんまで見渡した。


「申し訳ないですけれど、僕は男です。」


「はあ?!!」


信じられないと言ったふうに


「信じられねえ!」と言った。


「トチ狂っちまったのか?!青柳祭の巫女は毎年美人な女がやってるって聞いてたぞ!!」


頭を掻きむしりながら後ろによろける。よく見ると彼は剣を携えていた。


「ところでお前、名前は何ていうんだ?」


その声の主は罰当たりにも社にその屈強な脚を掛けながら、まるで興味がないのが分かる程にため息混じりで僕の方を見た。


「近森 かなめっていいます…」


「ふーん、で、俺にどういう用件があったわけ?そんな巫女の格好までしてさ。」


「ちがっ…この格好は…」


「あっ、そうかもうそんな時期なのか。そうかそうか。」


意味ありげにニヤつく彼はその肩まで伸びた茶けった黒髪を、5月の新緑に揺らしながら僕の方へ歩いて来た。


近付いてみると彼は僕より頭1個分は背が高いことに気付く。おそらく180cmは下らないだろう。


「長いこと寝てたから今が何年なのか分からねえ。おい、今何年だ?」


「はあ、2012年です。」


彼はまたもや、信じられないと言ったふうに


「信じられねえ!」と言った。


「時間が逆行している…? 何故だ…?俺はとうとうおかしくなっちまったのか…?」


ブツブツと呟いては指を折り折り、また頭を抱え込む。


「あの…」


「いや分かった!とりあえずお前の疑念を1つ晴らしてやろう!俺はこの社の神様だ!名前は新藤 綾太郎で生まれたのは2493年だ!!」


あ、この人おかしい人だ。僕は素直にそう思った。


なんでも、神様は戦国時代を生き抜いた人らしいしそもそも迷彩服を着ているわけがないのだ。それに神々しさのなさったらない。腕立て伏せをしている神様なんて初めて見た。


「お前信じてねえだろ!」


「信じる方がどうかしてるかと…」


「いいんだよそんなことは!それでお前の用件はなんだ?!」


「えっとですね…」


僕は(やっとこさ)今置かれている状況を端的に、かつ具体的に話した。


並波 万里という少女が本来の巫女であること、その少女がドタキャンした故に自分が巫女に仕立て上げられたということ。


そして今も探している途中だということ。


「というわけでここを通りませんでしたかね?」


「いや…そのなみなみまり?とかいう女がどんな姿をしているかが分からない限りは探しようがないだろ。」


「あ、それなら画像がありますよ!」


僕は懐からスマホを取り出すと並波さんのLINEのアイコンを見せた。


「ぶ厚っ!!なんだこれやたら旧式だな!」


「えっ、やっぱり未来から来られたんですか…?」


「シッ、気が散る。」


破天荒だなあ、と思いつつもなるほどやはり並波さんっぽさを感じる。やはり祖先なのだろうか。


いやしかし、未来の祖先っていうのはおかしくないか?それをいうならこの人の方が子孫で僕らのほうが祖先のような気が…


「見つけた。」


しばらく目を閉じたままだった新藤が口を開いた。


「悠長にタバコふかしてやがるぜ。」


やっぱりタバコ吸ってたのか。ときどき部屋を出ては煙臭くなって帰ってくることがあったのを思い出した。


「どこにいるんですか?」


「これは…喫煙所って書いてあるな。学園の喫煙所か…?」


「うわー、学園戻りたくないんだよな…」


「それでも戻らなきゃ進まねえだろうが。ほらつかまれよ。」


戻らなきゃ進まない、という言葉に若干の疑問を抱きながら彼の腕を掴む。


「ほっそいなお前!折っちまいそうだぜ!」


いや放っておいてくれよ。


「着いたぞ。」


ありがとうよ。


「ぎゃっ!チカちゃんどこから湧いて出たの?!」


「どっからってそりゃ、社からって…えええええ!!」


時計を見る、スマホを見る、そして新藤を見る。


今まさに僕は千里眼と瞬間移動を経験したのか…?!


「だから言っただろ、神様なんだって俺。」


何が何だか分からない。とりあえず現状を受け入れることに必死になる。


喫煙所の他の生徒が遠巻きにこちらを見ているのをひしひし感じながら、なんとか僕は体裁を立て直そうと試みる。


「そう!並波さん!彼は神様の新藤 綾太郎さんだ!」


かなり変な人になった!


「あ…初めまして…」


するとまたも新藤は並波さんのことをジロジロと眺め回して、言い放つことには。


「お前が俺の子孫か…俺とカリナの子孫か…」


そしてわなわなと震え出し、タバコを一本、震える手でポケットから取り出した。


「いいか、巫女はかなめがやるんだ。分かったな?」


「ええ?!何でですか!?僕男…」


「この際男か女かなんてのはどうでもいい! …俺はお前に舞って欲しい…カリナ似のお前に舞って欲しいんだ…。」


そんなことをとんでもない気迫を込めて言うのかこの人は。正直呆れるやら狼狽えるやらで僕は今かなり忙しい。


しかし、なんだ、500年振りに目覚めたらしいこの神様の為に、そういう気持ちを抱いて舞うのはこれはかなり巫女っぽいんじゃないのか?やっぱり恥を晒してでも舞うべきなんじゃないのか?

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