頭上に浮くもの
一週間ほど前から死神にねらわれている。
背丈ほどのカマを持ち、黒いぼろきれを身にまとい、全身がガイコツ、という典型的な死神だ。
初めて存在に気がついたときは、ボクの頭上十メートルぐらいの位置をただよっていた。
ボクの頭上を中心として、ゆらゆらとあらゆる方向に飛び回っていた。そしてときどき、ボクを見下ろしていた。
それが日に日に降下してきており、いまでは手をのばすと死神のまとっているローブに届いてしまうほどの距離だ。
ボクが死神を見上げると、死神はそっぽを向いてボクに興味ないフリをする。
そうしてしばらくしたある朝、目を覚ますと真正面に死神が座っていた。
――ついに来たか。
いつか来ると覚悟はしていたが、いざそのときとなると動揺がかくせなかった。
飛んでいる姿を散々見ていたとはいえ、目の前で動く白骨の顔に恐怖せずにはいられない。
心臓をわしづかみにされたように息がつまり、さけぶことすらできなかった。
死神は、からっぽの眼孔でボクを見ている。
なにを考えているのかわからない。
見つめ合ったまま長い沈黙が続いた。
なんの脈絡もなく死神はカマを構える。
ボクは全身を硬直させ、死を覚悟した。
カマを振り上げ、半回転させ、振り下ろされた。
ボクの眼前にカマの柄の部分が突きつけられる。
「……これ……お前…………落とした」
むき出しの歯のスキマから切れ切れに言葉を発する。
柄の上には、銀でできたユリの紋章のアクセサリーが引っかかっていた。
一週間ほど前にボクが落としてしまった携帯電話のストラップだ。
ゆっくりと差し出した手に、死神は柄からストラップを落とした。
カマを引っ込めて、ボクに顔を向けたまま部屋のスミへと後退する。
死神はそれ以上なにもしてこない。
敵意がないとわかったことや死神を長時間見て慣れてきたことやもあり、じょじょに冷静にものを考えられるようになってきた。
そんな頭で思いついた真っ先にしなければならないことは、
「ありがとう」
死神にたいするお礼の言葉だった。
表情のない頭蓋骨が、一瞬のおどろきと戸惑いを見せ、死神はフードを深くかぶりなおして顔をふせる。
部屋の中を浮きながら移動し、窓を開けて外へと飛び出していった。
照れ、だったのだろうか。
ふとみると、部屋の隅の、死神のいた場所に刃を突き立てるようにしてカマが置き忘れられている。




