昇級試験(2)
「自己紹介も終わった事だし、色々説明するね。まず試験の事なんだけど、さっき渡した木札を持って試練の洞窟に入って、奥にある湖から[女神の涙]を汲んで来る事。知っての通り洞窟には冒険者ランク2以上じゃないと入れないから、一先ずその木札が通行書みたいな物ね。それが試験よ」
そしてリーガルは試験官として同行し、不正が無いかの監視と、最低限危険が無い様に見守ってくれる言わば子守みたいな役割らしい。そしてエルフの少女について語り始める。
「彼女はダークエルフの森で倒れていた所を、狩りをしていた冒険者に助けられたの。どうも発見された時に記憶喪失になってたみたいで、そのままウチ(冒険者ギルド)で保護したんだけどね。どうやら冒険者の登録はしてたみたいでエルフの国に帰る為にこの辺りで修業をしていて、丁度レベル20を迎えて試験を受けれる様になったんだけど、ちょっと一人で行かすのは心もとないからセヴン君と一緒に試験を受けてもらおうと思ったわけ」
なんかよくある話しの記憶喪失の謎の少女なのだが、幸い冒険者登録していたお陰で登録した街は解るらしく、その街へと帰る為にこの街で生活を続けていたらしい。
各種族の国々には入国する為に関所を通る必要があるのだが、冒険者ならランク2以上、それ以外の場合は国からの許可証を持って行かないといけないのだが、身分がはっきりしない者には当然許可証は出ない。
だから冒険者として出国する為、発見から数か月努力し、冒険者レベルを上げていたらしい。不憫と言えば不憫なのではあるが、なんかもうフラグの臭いしかしない。そうですフラグです。
「う……うぃっす…」
「この数か月でなんか種族は違うけど妹みたいに感じる様になっちゃってね、だから弟みたいなセヴン君に頼みたいのよ」
「あのな坊や、冒険者たるもの人助けはどんどんやるもんだぜ?この娘もヘタにモンスターにやられて神殿送りにされちまうと、それこそどこの神殿に飛ばされるか解ったもんじゃねえからな。確実に痕跡のある登録した場所に行くのが最善なんだよ」
「よ、よろしくおねがいしましゅっ!あっ、しゅっ!」
(((大丈夫かな…)))
「とにかく頼んだわよセヴン君、ここの食事代くらいは私出すから、後は三人で相談して試練を乗り越えてね」
優しい笑顔で去って行くナッツ。何時もなら安らぎを与える素敵な笑顔なのだが、今日に限っては面倒事を押し付けて肩の荷が降りた安堵の笑顔にしか見えない。
三人は一先ず色々な打ち合わせも含めて同じテーブルに腰を掛け、飲み物を注文した。
「おやっさん!ビール1つね!」
「俺はドクター○ッパーお願いしますっ!」
「コ…コー○お願いします」
「あいよっ!」
厨房から気持ちの良い返事が返ってくる。
各々が頼んだ物が届くと口を付け、バニアも少し落ち着いたようだ。そしてリーガルが仕切り、話し始める。
「まずは各自の職業だな、まぁ大体見た目で解るんだがな。俺はファイターだ、得物は二刀のダガーだ。坊やはメイジでそっちのお嬢ちゃんは俺と同じファイターだな。得物はなんだい?」
「倒れていた時に近くに弓があったらしく、そのまま弓を使ってます。あと種族特性らしいのですが初期の回復魔法が使えます」
「ほうほう、まあエルフと言えば弓だわなあ」
どこのファンタジーの世界でも、エルフは弓!理由なんてあっても無くても良いのである。もちろん異論は認めます。
「坊やの魔法に関してはまあ、同じ種族のメイジが覚える魔法って所で良いのかい?」
「あ…うん…それで良いと思うよ」
色々普通とは違うのだが、あえて色々言うと説明が面倒なのでここは流れに沿う。
「それでだ、試練の洞窟の場所は解るかい?」
「いえ、詳しい事までは」
「西の山肌に沿って歩いた所にある洞窟だよね?たまたま見つけて入ってみようと思ったら、なんかバチンッて弾かれて中に入れなかったよ」
「そうそうソコだな。入口に結界があってな、ランク2以上の冒険者かその木札を持って無いと弾かれるんだ。中はそんなに深い洞窟でも無いんだが、アンデッドモンスターが住処にしてやがる。ボスモンスターも居ないし、レベル20まで上げた冒険者なら、よっぽどヘタをしない限りまあ死に戻る事はないだろうな。何か質問はあるか?」
「先生!おやつは幾らまでですか!?バナナはおやつに含まれますかっ!?」
「そんなお約束は要らねえっ!ってまあ、ヘタすれば一日仕事になるからな、携帯食くらいはあったほうが良いかもな」
「バナナ好きです」
「お嬢ちゃん、まともに相手しちゃいけねえぜ…」
バニアは訳が分からず首をかしげている。
やれやれと言った感じでリーガルは話しを進める。
「んじゃまあ、今日はもう遅いし行くとしても明日だな。で、どうする坊や?」
「そうだね、それじゃぁ明日[アビスの瞳]が上弦の月(半月)になった時、神殿前で集合ってことでどうだい?」
「オッケー俺はそれでいいぜ?お嬢ちゃんはどうだい?」
「私もそれで良いです、よろしくお願いします」
打ち合わせは終わり一先ず解散となり、リーガルはもう少し飲んで行くらしくそのまま残り、セヴンとバニアはそれぞれの常宿へと帰って行った。
次の日の上弦の月、集合場所の神殿の前にセヴンが着いた時、すでにバニアは待っており、石段に小動物の様にチョコンと座っていた。
「ごめんごめん待たせたみたいだね?」
「いえいえ、私もさっき来たばかりですから」
昨日は持っていなかった弓と矢筒を背中に背負い、立ち上がりお尻の砂を払う。そしてセヴンをじっと見つめ口を開く。
「面倒な事押し付けられて迷惑じゃないですか?」
「はははははっ良いよ良いよ、気にしてないって。それよか俺パーティ組むの初めてだし、逆に楽しみだよ」
「優しいんですね、安心しました」
バニアはその言葉で笑顔を見せ、そしてその笑顔を見て少し可愛いと思ってしまったセヴンは恥ずかしさを隠す為に何時もの挨拶をする。
「ヘラ様!俺はよーやくパーティー組んで試練受けて来ます!見ててくださいねっ!」
「あ、私も挨拶するべきなんでしょうか?」
「いやいや良いって、なんかコレは俺の習慣みたいな物で決められた事でもないからね。それにエルフ族の人達ってヘラ様の加護じゃなくて…ダレだっけ?」
「ナッツさんに教えていただいたのですが、アルテミス様らしいです」
アズガルドにおいてのエルフ族は狩猟の女神アルテミスを信仰し加護をもらっており、狩猟民族として知られている。先にも記したが、ダークエルフと同じく眉目秀麗、容姿端麗であり、アズガルドの南に位置する大きな滝[ナラク]の周りに国を持つ。
「あらら、そのあたりの事も記憶喪失で?」
「すみません…本当に当時自分の名前すら解らない状態だったので、なんとかステータス確認で名前だけは解ったのですが…」
「あっ!ゴメンっ!悪かったっ!解らない事ばっかで本当に不安でたまらないだろうに、余計な事聞いちまった!この通りっ!!」
マッハの速さでジャンピング土下座をして謝る。
「おうっ?もう尻にひかれてんのか?」
眠そうな顔で欠伸をしながらリーガルが現れる。昨日深酒したのかまだ酒の匂いが体に染みついている。
「あ…あ…あの、私のお尻は汚くないですよ?」
((あああぁぁぁ…))
なんとも言えない返答に反応に困る男性陣、そしてその様子を見て不思議そうに首をかしげる少女。集合場所に全員揃った所で、三人は街を出て試練の洞窟を目指すのだった。
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