ぱぅわぁあっぷ
手持ちのアデナがゴソッと無くなるのを実感しながら、店主に代金と、着慣れて少し愛着の湧いたローブを手渡し、新しい装備を受け取る。
早速装備してみた。
「いぃっ!いぃわコレ!なんか…み・な・ぎ・って・キターーーーッ!!」
「まぁ坊主の今まで装備していた中古品のお古よりゃ、5段階くらいはグレード上がってるわな。大事に使えば、この先クラスチェンジして上級職になっても余裕で使えるぞい」
光が完全に消えて灰色になった杖と、白を基調とした所々赤いラインの入っているダークエルフの装備としては派手なローブを身に着ける。
すると今までの、体内のまだまだ湧き水がチョロチョロと言ったくらいの魔力が数倍跳ね上がり、某異世界のマーライオンの口から噴出される勢いのある水くらいに魔力が湧き出て来る。
「ありがとうおっちゃん」
「おうっ!装備に負けない様にガンバレよっ!」
感謝を伝え、店を出ようとした所で、何かを思い出し振り返る。
「絶対臭い嗅ぐなよっ!」
「誰が嗅ぐかいっ!!」
セヴンが去った後、あまりにも言われた事により気になり、少し臭いを嗅いで自分の中の何か大事な物が崩れ去る気がした店主であった。押すな押すなは押してくれだ。
新しい装備を身に纏い、すれ違う人々の目が、どこかしら自分の装備を羨ましそうに見ている様に感じ、えも言われぬ快感を押し殺しつつ、街の北側に向かい歩を進める。スキルの更新に神殿に向かうのだ。
程なくして大きな女神の石像が見えて来た。
「ヘラ様!おにゅ~の装備ですっ!良いでしょっ!」
物言わぬ石像が返事を返してくれる訳でもないのだが、神殿に立ち寄った時には声をかける習慣が、セヴンの中にはあった。恒例の挨拶を済ませ、神殿の中へと歩を進める。
薄暗い神殿の中を迷う事もなく、燭台の明かりを目印に祭壇へと辿り着く。何時もの司祭がお祈りを捧げており、声をかけづらい空気を感じ、少し離れた所で待機する。
「おぉ、気を使わせた様ですな。どうぞヘラ様の前までお越しください」
「いえいえ、お気になさらず」
簡単な会釈を済ませ、祭壇の前へと進み、膝を付き、頭を垂れる。
「本日は女神様のご寵愛を受けに参りました」
「それでは目を閉じ、女神ヘラ様にお祈りなさい」
目をゆっくりと閉じ、心の中で女神ヘラへの祈りを捧げる。すると何も無い天井から光が差し、祝福の光が体を包む。
(女神ヘラ様、新しいスキルをどうか授けてください…)
なぜか静寂が続く、いつもならば頭の中に自分の使えるスキルが表示され、その中に新規で追加されるスキルがあれば表示されるはずなのだが…。
《は~ぃ聞こえる?》
(!?)
突然聞こえた女性の艶っぽい声に祈りを中断し、周りを見渡してしまう。
「いかがいたしたのだ?しかと集中し、祈りを捧げるのです!」
不敬であると顔をこわばらせながら怒られ、苦笑いをしながら会釈し、またゆっくりと目を閉じる。
《あ~ららぁ怒られちゃたね。テステス、聞こえますかぁ~?》
またも聞こえて来る声に内心混乱しているが、また怒られるのも嫌なので、なんとか祈りの体勢を続ける。
《んもぉ~聞こえてるんでしょ?私よ私》
(ど…どちらさまでしょうか?)
《ヘラちゃんですよぉ~》
(え!?どちらのヘラさんですか?)
《もぉ~セヴン君が今、お祈りをしているヘラちゃんだよぉ》
(うっそぉ~ん!?)
頭の中に聞こえる妙齢の女性が醸し出す艶っぽい声でありながら、どこか子供っぽい喋り方の声の主は、闇の女神ヘラであると言う。にわかに信じられない物がある。てかこんな事初めてだ。
《あははははっその反応。やっぱりセヴン君面白いわねぇ》
(は、はい、ありがとうございます?)
《んもぉ~何時も通りの喋り方で良いわよぉ?そのほうがセヴン君面白いしぃ、私も楽だしぃ。でもこ~やって直接話してる時だけよぉ?頭の中でだけはフレンドリ~にいきましょ》
(え?いいんですか?不敬では?)
《いいのいいのぉ、何時も私の石像に声かけてくれてるから気になっちゃって、良くセヴン君の事見てたのよぉ?おっもしろいから気に入っちゃって声かけちゃったわぁ》
(は、はい、あざっす!お気に入りあざっす!)
なんとなく、もうどうにでもなれと思い心を落ち着かせ女神ヘラと名乗る声との会話を頭の中で続ける。
(それで、なんで俺みたいなヤツに声をかけてくれたんです?)
《さっきも言ったとーりにぃ、なんか見てて面白いのよねぇセヴン君。だから気にいちゃったぁ》
《珍しいのよ?私が気にいる子なんてぇ。基本私を信仰しているのは闇の眷属であり、人型で言えばダ~クエルフが主にでしょ?なんかダ~クエルフってク~ルにきめちゃってる子が多いから、セヴン君みたいな子少ないのよねぇ》
(さ、さいですか…)
《だからぁ、お気に入りのセヴン君にはぁ、色々サービスしてあげたいのぉ》
(サ、サービスですかっ!ちょちょっとそう言うのは、もっとお互いを知ってからと言うか、そもそも現状ヘラ様は体が無い頭の中だけの存在ですしっ!)
《あははははっそっちのサービスは今は出来ないわねぇ。今度そっちのサービスをしてあげてもい~んだけどぉ、今はセヴン君がも~っと楽しく冒険が出来るようにぃ、色々祝福をさずけちゃいま~っす》
突然頭の中に何時もの様にスキルリストが現れた。
●スキルリスト
・ダークボール(闇)
・ウィンドウォーク(風)
・ポイズンミスト(闇)(new)
・ウィンドカッター(風)(new)
・ダークボルテックス(闇)(new)
・ロアー(闇)(new)
・ダークプリズン(闇)(new)
《今回はまだクラスチェンジもしてないから、少し多めの便利魔法を付け足してあげるねぇ》
(あざっす!ご寵愛あざっす!)
《あとぉ、称号なんだけどぉ、面白い称号付いてたでしょ?アレはレベルアップのついでにセヴン君らしいのを付けておいたんだけどぉ、それ以外に2つおまけしてあげるねぇ》
【称号:[女神の玩具] 称号:[幸運]を手に入れた】
(玩具ですか…)
《うふふふふっソレは置いといてぇ、前のと合わせて称号の効果を説明するねぇ》
《まず[見られる者]はその名の通り注目を浴びて目立つ事で身体能力が強化されるわぁ、次に[異常快楽者]は快楽を感じると魔力が大幅に増加するのよぉ、[女神の玩具]は私のお気に入りって証明かなぁ?[幸運]はそのまんま何をやっても普通の人よりラッキ~ってとこかしらねぇ》
(何か色々アレな称号の名前が多いけど、効果が凄ぇ!あざっす!)
《よかったぁ、喜んでもらえて、それじゃぁあんまり長居も出来ないし、そろそろ行くねぇ》
(めちゃめちゃ目立って、めちゃめちゃ気持ち良くなって、めちゃめちゃラッキー!な男になりやす!)
《あははははっ精々楽しませてちょ~だいねぇ。またねぇ~》
頭の中に聞こえていた声が聞こえなくなった事を確認して、そっと目を開けてみると、体を纏っていた光は消え、結構な時間話していたのにも関わらず、司祭は気にせず声をかけてきた。
「お祈りが済んだ様ですね?では女神ヘラ様に恥じぬ様精進いたしなさい」
「それでは失礼します」
司祭に挨拶をし、神殿を後にする。神殿の前の女神の石像が、どことなく微笑んでるような気がしたが、気のせいだろう。
色々と女神ヘラのイメージが崩れはしたが、なぜか気に入られた事が嬉しく、スキップなんかしちゃって常宿へと向かう。