それからそれから
それからそれから1か月、よく在る話の通りにギルドの簡単な依頼をこなし、冒険者としてのイロハを体に叩き込みながら過ごした。
色々な初期モンスターを退治し、戦闘を学び、レベルも上がり、今では12となった。
●ワイルド・セヴン(16歳)
[種 族]:ダークエルフ [クラス]:メイジ
[レベル]:12
[スキル]:ダークボール(闇)ウィンドウォーク(風)(new)
[称 号]:冒険者ランク1
どうやらこの世界では、レベル20になると冒険者ランクを上げる試験が受けれるらしく、まずはそれを目指し、日々モンスター狩りをしながら経験値を稼いでいた。
稼いでいたんだが…
なにこれ?魔法使いってメンドクサイ!今まさに街の周りの森で狩りの真っ最中なのだが、先ほどから10匹程度初期モンスターの[ゴブリン]を倒しているんだが、早くも魔力が尽きかけ、体力もかなり減ってきている。
そして目の前のコイツ、[ゴブリンチーフ]。闇魔法で数発攻撃を当てたのだが、そのおかげでご立腹のようだ。必死な形相でヤァッ!ヤァッ!っと何か人外語で叫びながら追いかけて来る。
この世界の魔法使いの基本戦闘は《引き狩り》と呼ばれる物で、遠距離で魔法をぶち込んだ後、そのモンスターが近くに寄って来れば逃げながら、魔法の準備期間を待ち、次弾をぶち込む。当然その間追いつかれ攻撃されるのだが、魔法使いってとにかく脆い…。数発良い攻撃を食らうと、簡単にコロンと転がってしまう。
ちなみに神からの祝福を受けた者は、死亡しても死亡代価を受け、経験値低下と基本能力低下を頂戴しながら契約した神殿にて復活できる。ご都合主義である。
「やっばぁい!もう体力無いのに!」
そう叫びながらもう一度、背後から迫る[ゴブリンチーフ]に目がけて振り向きざま魔法をぶち込む。
【ダークボール!!】
真っ黒な球体が[ゴブリンチーフ]目がけて飛んで行き、大きく吹っ飛んだモンスターは動かなくなった。なんとか勝利したようだ。
コロンっと[ゴブリンチーフ]の目玉が落ち、それと共にお金がチャリンと落ちると、モンスターはスゥッと消えていった。死体が残らない環境に優しい仕様である。このまま死体が残り腐乱したりしたら、いたる所から悪臭がして、とてもじゃないが外に出たくなくなる。
「ヤバイなぁ、魔力もさっきので切れたし体力も無いや。またお座りかぁ…」
魔物の落とし物を拾い、よっこらしょと近場の地面に座り込むと休憩をする。
座り込み休憩をする事で魔力と体力がジワジワと回復していくのだが、少し狩りをすると直ぐにまた休憩しなくてはならない。そんなセヴンの目視できる距離で、剣の加護を受けたファイターであろう同族の青年が次々とガチでモンスターと斬り合ってる。
ファイターの場合、強靭な体と体力に物を言わせ、モンスターの攻撃を避けながら近接で戦うのだが、体力や防御力もメイジとは違い少しくらい攻撃を受けても、平気な顔をして次々とモンスターを倒していける様だ。
「あ、あいつこっち見てニヤケて走り去って行きやがった!ムッキーッ!!」
話しかけて一緒に狩りをすれば良いのだろうけど、直ぐに魔力が切れてしまい、お座りが必要になる低レベルのメイジとファイターでは、狩りのスピードも効率も違い、現段階ではパーティを組んで狩りをする事もほとんど無いのである。ボッチである。
魔法使いと言う者はもっとこう、高威力の魔法で一撃でボンボンッとモンスターを倒し、サクサクと狩りが出来る者だと思っていたが、低レベルのメイジでは威力も中途半端で、大体の同レベル帯のモンスター相手に二発から三発必要なのである。ほんと魔法使いメンドクサイ…。
「さぁって回復したし狩りを続けますか。でもなぁ、もーちょっと効率良くなんないかなぁ?いっそのこと装備を替えて、俺もなぐり合おうかなぁ…」
そんな事を考えながら、狩りをしつつダークエルフの森を進んでいくと、木々が少なくなり、赤い毒々しい沼が見えてきた。
「あれ?[死霊の沼]まで来ちゃったかぁ」
ダークエルフの森の南側に位置する[死霊の沼]、俗に言うアンデット型モンスターの徘徊する地域である。なんか甘酸っぱい臭いが立ち込める…。
現在のセヴンのレベルでは、まだ少し立ち入るのは厳しい場所ではあるのだが、死んでも生き返るご都合主義の世界。けして慎重派では無く、好奇心のほうが勝るセヴンにとってはこのまま引き返すなど有り得ない事である。
「とりあえず適当に魔法ぶち込んでみるかぁ」
近場にいたフヨフヨと浮いた半透明の後ろ?を向いた幽霊に魔法を放つ。
魔法が当たった瞬間、こちらを振り向いた幽霊の手には大きな鎌が握られており、顔は骸骨其の物であり、モンスターの頭上にはピンク色の文字で[デスストーカー]と書かれていた。
初めて遭遇したモンスターであっても、名前が頭上に自動で表示され、その文字の色が青>水色>白>黄色>ピンク>赤となるにつれて相手と自分のレベル差が大体解る、これまたご都合主義である。
[デスストーカー]は骸骨の顔をニヤリと歪めた様な気がしたが、そのままセヴンに向かって近づいてきた。
「ピンクネームかぁっ!まぁどうにかなる?しょっ!」
セヴンはあまり名前や色を気にしない、とりあえず一杯いっとく?の精神で一撃入れるのである。
二発三発と魔法をぶち込んだ所で追いつかれ、[デスストーカー]の大鎌がセヴンの背中に襲い掛かる。
ザックリと背中を斬り付けられ、血飛沫と共にダメージを受ける。大きく体力を削られ、半分を少し上回るくらいの体力を残される。
「いったぁいっ!三回受けると終わりじゃないか!」
そう自業自得な事に文句を言いながらも、後ろに下がりつつ魔法を次々ぶち込んでいく。ザクゥッ!そしてまた追いつかれ大鎌の一撃を受ける。このままではまたコロンッと転がって、神殿で目覚める事になるだろう。
「デ・ス・ペ・ナ・は・いやぁっ!」
最後の一撃を食らいそうになった時に、ギリギリこちらの魔法が先に当たりる。
『ガァァァァッ…』
[デスストーカー]は自らの大腿骨らしき骨とチャリンッとお金を落とし、昇天するかの様に消えていった。本当ギリギリの勝負であったが、セヴンにはあまり焦りの色が無い様に見受けられる。コイツ、転び慣れて感覚がどこか可笑しくなっていやがる。
「やっぱピンクはきついなぁ、またお座りタイムだなぁコリャ」
近場にあった大きな樹の下で座り込む。普通なら少し沼から離れた所で休憩すれば良いのだろうが、危機感の欠乏しているセヴンにとってはどこでも良いのである。先制的モンスターに襲われる危険性もあるのだが、気にしちゃいない。
休憩していると沼の奥のほうでは自分より先輩であろう同族の冒険者が2人でデスストーカーを軽く狩っている姿が見える。ファイターとメイジのコンビであろうペアパーティーは魔法使いが魔法をぶち込み、近づいて来たら剣士が斬り付け、ダメージを受けると、何やら魔法使いが手をかざし、剣士は光に包まれてまた攻撃をしている。
「あれは回復かな?パーティー戦闘かぁ、効率良さそうだなぁ。早く俺もヒールを覚えたいなぁ」
そんな事を考えながら、休憩していると、なにやら背中がモゾモゾと動いた気がして、振り返る。しかし、後ろには何も無い。大きな樹があるだけだ。
その感触を不思議と感じながらも、また正面を見て休憩を続ける。しかしまた数秒後背中に違和感を感じ、振り向く。
(?????)
振り向けども、そこにはやはり何も無い。そして正面を再度向うとした時、また背中がモゾモゾとする。
「なんだよっ!」
【ダークボール!!】
意味の解らない背中への違和感に苛立ちを感じ、とっさに魔法を放ってしまう。黒い魔法の球体は後ろにそびえ立つ樹に当たり弾けた。
その瞬間、樹の枝がセヴンに向かって襲い掛かって来た。
「ふわぁっ!危ないっ!」
すんでの所でその枝をかわし、後方へと下がる。すると亀の移動速度より少し早いくらいのスピードで樹が近づいて来た。頭上を見上げると15メートルはあるであろう樹の上に小さく、それでもギリギリ見えるくらいの文字が浮かんでいた。[ブラックウィロー]真っ赤かである。