玩具のチャチャチャ
所変わりとある異界。
辺り一面オーロラの様な物が漂っており、どこか幻想的な場所。そんな異界にある誰が建てたかも定かではない小さいながらも気品がにじみ出る宮殿の一室。その奥にある四角いテーブルを囲み、何やら真剣な表情で向き合っている4人の謎の人物。
「ツモ!チートイドラドラドラドラ!跳ねて18、000点!」
「あう、親っ跳ねなのです」
「おいおい、黙テンかよ!クソーッ!」
「私は気が付いてたわよぉ?」
そんなアズガルドの言葉では無い異世界で使われている暗号が、四角いテーブルに座る4つの影から聞こえて来る。
そしてテーブルの真ん中部分がせり上がり穴が現れ、その中にジャラジャラと音を立てながら、四角い小さな物を各自入れて行く。するとテーブルの各隅に四角い小さな物が綺麗に積み重ねられせり出して来る。それを各自が順番に何個か手元にチャッチャッと音を立てながら取って行き、その後は順番に1個ずつ積み重ねられた所から取っては自分の前に置いていく。
「しっかしあれだなあ、お前も中々面白そうな玩具を手に入れたなあ」
「そうでしょ~すっごく面白いのよぉ~あの子、可愛いしぃ~、黒いしぃ~」
「僕も真似して面白い玩具を作るのです。」
「ロンだぜ!タンピンイーペードラドラ!満貫!」
「あうぅ!」
小さい、一見幼女の様にも見える女性が悲鳴をあげる。そして褐色の肌をした赤髪の女性が豪快に笑いながらその幼女に話しかける。
「がははははっ、悪りぃ~な!」
「そいで、その玩具を使いはって何をしようとされてはるん?」
「ウフフフフッ、何かこの頃つまんなかったからぁ、ちょっと遊んでみようかと思ってるだけよぉ?まぁ色々と考えてるけどぉ」
着物を着たおっとりとした感じのする女性が、妖艶でスタイルの良い女性に語り掛ける。妖艶な女性は
取っては捨てる、取っては捨てると作業を繰り返しながらも、色々と考えている様で、終始ニヤニヤと笑っている。
「ツモ!きたわぁ!国士無双よぉ!!」
「「「ぎゃああぁぁぁあっ!!」」」
そんな叫び声が鳴り響くここはアズガルドの上空、雲の更に上に位置する禁断の場所の異界。
場所は戻りダークエルフ達の住む国の森。
セヴンとバニアは狩りの為に2人で森の奥にある沼地まで来ていた。そう、ダークエルフの森の南側に位置する[死霊の沼]、俗に言うアンデット型モンスターの徘徊する地域である。ここに以前来た時はまだセヴンがレベル12の頃。それほどその時から日数も経っていないのに、今ではレベルは26だ。
「おしっ!この辺りのモンスターは大体余裕だな。バニーは平気か?」
目の前の[デスストーカー]を一撃の元に消し飛ばし、後方に居る少女に声をかける。
「はい、少し独特な臭いがする場所ですけれど、私の目から見てもココのモンスターは白ネームです」
少し臭いが辛そうにしながらも、セヴンに笑顔を見せ答える。
「ちょっと辛そうな所を悪いんだけどさ、今からココで一気にレベル上げをしようと思うんだ」
そう宣言し、自らとバニアへ補助魔法ウィンドウォークをかける。
「んじゃ、最初は見本を見せるから、同じ事を後でバニーにお願いするから良く見ててな」
杖を走りやすい様に背中にある紐に通し固定させ、沼地に所々ある雑草の茂った浮島のよな場所をヒョイヒョイと次々に飛んで行く。そして一本の大きな樹に向かって進んで行き、近場にあった小石をおもむろに拾い上げ、全力でその樹にぶつけた。
ガッコーーーーンッ!
見事に当たった小石は樹に当たり小気味良い音を響かせる。
「だっしゃぁーーーーっおらぁっ!ストライクッ!!」
小石が見事に当たった事でガッツポーズを取りながら吠えるセヴン。するとその樹がバキバキバキッと音を立てならが突然動き出す。
「ようっ!久しぶりっ!」
そう友達に話しかける様に話す樹の頭上には、お気づきだと思うが[ブラックウィロー]の文字が浮かんでいる。前回よりも遥かにレベルを上げたセヴンでも、未だに真っ赤に表示される名前は、現状でもかなりの強敵だと判断されるのだが、そんな事はセヴンには関係が無い。
「それじゃあ、ドンドン行くよぉ」
不思議な光景を見る様子のバニアを引き連れ、そのまま何事も無かったかの様にその場を後にする。
そしてまた大きな樹を発見し、名前を確認後、また名投手も唸るほどの投球フォームで小石を投げつける。
ガッコーーーーンッ!
「さてと、次つぎ」
はたから見ると何をしているのか全く分からない不思議な行動。そしてこの辺りで狩りをする冒険者にとっては、無謀でしか無いその行動を数回続ける。一緒に居るバニアでさえ意味の全く分からないその奇行を一定数繰り返した後、少し沼を離れて開けた場所に移動した。
「何をしているのですか?」
「ああ、ちょっと戦友に挨拶して回ったんだよ」
(???)
分からない、どう考えても分からない事を言うセヴンに首をかしげる。
「まぁ少し待っててみ?面白い事が始まるからさ」
程なくして地面にかすかな振動が起こり始め、その振動は徐々に大きくなって行き、木々をなぎ倒す様な音が近づい来る。明らかに大きな何かがこちらへ向かって来ているのである。
ドドーーンッドドーーンッバキバキバキバキバキバキッ!!!
けたたましい音を上げながら目の前に現れたのは8体の[ブラックウィロー]である。大き目の地震と変わらないほどの振動をおこしながら、1体でも凶悪な樹のモンスターが8体も2人目がけて近寄ってくる。本来ならば阿鼻叫喚の地獄絵図となるその光景。あまりものその状況に既に思考を停止させ、口をポカーンと開けて樹を見上げるバニア。悲鳴を上げる事すら忘れているらしい。
「バニーは絶対に攻撃されない距離を保ってね。後はこっちでやるから」
と、全く気にしない様子で指示を出し、バニアの腕を取り後退する。そして8体のモンスターが広場内に全て入った事を確認し、背中の杖を手に取り呪文を唱える。
【ダークプリズン!】
小さな蟻を全力で踏みつぶそうと近づいて来るモンスターの足元に、巨大な魔法陣が現れ、いつもの様にドームを発生させる。
「おっしゃぁっ!コレでもう終了!!」
自分の持つ強力な魔法の発動に、早くも勝利宣言をする。だがしかし!そこまで甘くない!
パチーーーーンッ!
なんと形成されていたドームはモンスター達を覆い尽くす前に泡が弾ける様に消えてしまったのである。どうやら形成されるドームには高さに制限があり、15メートル以上もあるモンスター達を覆い尽くす事が出来ず、途中で魔法がキャンセルされた様だ。
「ほんぎゃぁぁぁぁぁぁああああぁああぁっ!!」
勝利を確信し勝ち誇った顔から一転、絶望の淵に立たされた現状に未知の生き物の鳴き声の様な声で叫ぶセヴン。
「無理無理無理無理っ!この魔法が効かないなんて聞いてないよぉっ!10回は逝けるっ!もっと逝けるっ!!倍率ドンッ!更に倍だっ!!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
自分のとっておきの魔法に勝手な信頼を裏切られて慌てふためくセヴン。それとは対照的に、真っ白になって呪文を唱えるかのようにひたすら謝り続けるバニア。
「ともかくこりゃやり合っても無理!無茶!無駄の三拍子揃ってる!でも足はものすごく遅いからこのまんまほっといて逃げるぞバニー!」
「は、はい!」
思っていた状況とはまったく違う状況に陥ってしまった2人は、その場から一目散で逃げ出す。だがここですんなり逃げ出せたらそれはそれで作者も読者も面白くはない。2人の逃げ出した前方には切り立った崖が見えて来て、周囲を囲むように追いかけて来るモンスターに、その場所に追い詰められてしまう。絶望的状況とはこうでなければいけないのである。
「しまったっ!崖だっ!逃げ場が無いっ!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
追い詰められた2人に徐々に徐々にと遅い歩ながらも近づいて来る[ブラックウィロー]達。
「バニーごめんっ!俺が馬鹿やったばっかりにっ!」
「またどこかで会えると良いですね。お元気で。」
完全に諦めて、短い間ではあるが、一緒に過ごした相手に別れの言葉を告げるバニア。彼女はどこに飛ばされてしまうのだろうか。そして襲い来るモンスターの1体が、枝と言っても、そこいらの木々より太くて逞しい枝を大きく振りかぶったその時、セヴンは忘れていた事を思い出す。
「あっ!そうだっ!新しい魔法っ!!まだ効果は試して無いけどどうにかなるかもしんないっ!!」
【チックタック!!】
本日新たに女神から授かった魔法を、祈りをこめて声高らかに唱える。