冒険者ランク2へ
「お前たち無事だったのかっ!?」
街に帰り着いて早々、神殿にて復活したであろうリーガルが、数名の冒険者を連れて2人を出迎えた。
話を聞いてみると、どうやら神殿で復活した後、試練の洞窟に未知のボスモンスターが出現したと冒険者ギルドに報告し、冒険者ギルドにてクエスト発注。その後手の空いていたランク2以上の冒険者達でパーティーを組み、神殿に戻って来ない2人の救出に出かけようとしていた所だったらしい。
「ごめんよ兄ちゃん、あんな事になるなんて…」
「ご心配をおかけして申し訳御座いませんでした」
「いあいあいあ、無事だったらそれでいいさ、っで、あの魔法で閉じ込めて逃げてきたのか?」
キョトンとした表情でお互いを見合わせた少年と少女。
「ん?倒して戻って来たけど?」
「はい」
「「「えっ!?」」」
集まっていた冒険者達とリーガルは驚愕の表情で2人を見つめる。中には「あの少年ならやりかねない」や「流石常識外の新人」などと言う声も聞こえて来て、セヴンは平常を装っている様に見えながらもやはり恍惚の笑みを浮かべている。
色々と説明するのは面倒なので倒した事実だけを伝え、救出隊の人々に感謝の言葉を伝え、冒険者ギルドへと向かう。
冒険者ギルド内には何時もより人が少なく、救出隊に加わってくれた冒険者達はリーガルと会話を済ませ、空いた席へと散って行った。そして3人に戻り、ナッツの元へと報告に向かう。カウンターに辿り着くと、セヴンとバニアを見たナッツは安堵の表情を浮かべ、いつもの笑顔を取り戻し、語り掛けて来る。
「おかえり2人共、無事だったみたいね。リーガルさんから聞いて心配したわよ」
「兄ちゃんは大げさなんだよっ!まったくっ!」
「ちょっ!馬鹿っ!!あんなモンスターに遭遇して2人無事なのがおかしいわっ!」
いい加減大事になっていた事に少し面倒になって来ていたセヴンはリーガルに悪態をつくが、逆に突っ込まれてしまう。そしてなにやら言い争いを始める男性2人を余所に女性2人で話し始める。
「またセヴン君が可笑しな事でもしたんでしょ?巻き込まれて災難だったね」
「いえいえ、巻き込んだのは私ですから、それにおかしな事と言ってもしっかりと私を守ってくれましたし、私のほうがお姉さんなのに、何も出来ませんでした」
「そう、守ってもらえたんだ、良かったね」
その言葉に少し頬を赤く染め、俯くバニアを笑顔で見守るナッツ。そしていい加減五月蠅い男共をやれやれと言った表情で止めに入る。
「貴方達そろそろそれくらいにして、試験をそろそろ終わらせないかな?」
それもそうだとお互い言葉の武器を収め言い争いを止める。そして少年と少女はそれぞれ持ち帰った[女神の涙]をカウンターに並べる。
「確かに受け取ったわ。試験の最後は詳細が分からないけど、[女神の涙]を手に入れるまでの詳細は聞いてあるからこのまま手続きに入るわね。あ、あともう不要になるから木札は返してね」
そう言って木札を返却させ、まずはセヴンに石版へと手を置かせ、その上から自らの手を重ね呪文のような言葉をつぶやき、ステータスの更新をおこなって行く。そしてその後脳内アナウンスが流れる。
【称号:冒険者がランク2になりました】
バニアにも同じ作業を行い、それが終わりいつもの笑顔で2人を祝福してくれる。
「2人共おつかれさま。これで晴れて冒険者ランク2よ」
「色々あったがおめでとう!レベルもなんか跳ね上がっちまってるし、こりゃ俺も頑張らなきゃだな」
「それでこの後なんだけど、バニアちゃんやっぱり行くの?」
「私は予定通り自分が冒険者として登録した場所へ行こうと思ってます。でも正直まだまだ実力として旅に出るのは不安ですね…」
自分の過去、そして記憶を取り戻す為、自らが冒険者として登録した場所へ向かい、何か思い出す事もあるのではないかと考えていたバニアは、この度晴れて冒険者ランク2となった事により、国々の境界にある関所も通過する事が出来る様になった時に、街を離れようと前々から考えていた。
しかしながら、遠く離れた場所に1人で向かうのはどんな危険が待ち受けているか解ったもんではない。現在の自分の実力に不安があるので悩んでいたのだ。
「セヴン君、貴方いつも1人で狩りしてて、パーティを組みたいって嘆いていたわよね?あと少しで上位職にも手が届く様だし、これから更に狩りをしてレベル上げするのよね?」
「坊やはそこいらの冒険者には無い実力はあるが、パーティ戦闘も経験しておかないと色々と不便になってくるぞ?」
「ねえセヴン君?」
「なあ坊や?」
世話好きの近所のおばちゃんとおじちゃんみたいな誘導の仕方で、2人してセヴンをニヤニヤと笑みを浮かべながら見て来る。何か無理やり外堀にコンクリートを流し込まれた気分だ。
「分かったよっ!そんな顔で見るなよっ!!バニアさん、まずはお友達からお願いしますっ!!」
そう叫んで、くの字に体を曲げて右手をバニアに向けて差し出す。
「私、足を引っ張るかもしれませんよ?記憶も無いし、分からない事もいっぱいありますし…」
何も言わず姿勢を崩さず、そのまま無言で待ち続けるセヴン。そして沈黙の時が少しあり、そっと差し出された手を、柔らかく白い手が掴む。
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
こうしてまだまだお互いの事を知らないが、冒険者として新しいパーティが生まれた。
そしてニヤニヤと笑みを浮かべ続ける世話好き達と別れ、若い2人はギルドを後にし、翌日また神殿の前で集合する事を約束し、宿へと帰って行った。
翌日、約束の時間より早く集合場所に現れたのはセヴンだった。
昨日レベルが大幅に上がったので、集合時間前に神殿でお祈りをし、スキルの更新を済ませておこうと考えての行動だ。
ちなみにバニアの場合はこの神殿ではスキルの更新が行えず、狩猟の女神アルテミスが祭られた神殿に行かないと、新しいスキルを覚える事が出来ない。なので現在は記憶喪失以前に覚えていたスキルを駆使し、だましだまし狩りを続けていたのだ。ゆえにこの事もエルフの国に戻る旅路に不安を感じるひとつでもあった。
「ヘラ様っ!お陰様で俺にもパーティメンバーが出来ましたっ!」
そう一言いつもの挨拶を石像にして、神殿の中へと進む。そして何時もの様に礼拝堂まで進み祭壇の前で司祭に挨拶を済ませ、頭を垂れて祈りを始める。
《どうもぉ~ヘラちゃんですよぉ~》
(あ、どうもヘラ様。今日も下りて来てくれたんすね)
《そうよぉ?「またね」って言ったでしょぉ?それに何時も私はセヴン君の事見てるからねぇ》
(前回頂いたスキル、ヤバイっすね!なんか昨日ものすんごいモンスターが出たんですけど、サクサクッと倒しちゃいましたよ)
《私も驚いたわぁ、少し盛り上がりにかけたからあの子に行ってもらったんだけどぉ、もう少し苦戦してくれると思ったら、あっさり倒しちゃったものねぇ。あの後戻って来てからしっかりお尻ペンペンしてあげたら、逆に喜んでたわねぇ》
(えっ??どゆ事ですかっ??)
《ど~ゆ事もこ~ゆぅ事よぉ?あの子は私があの場所に送ったのよぉ。楽しかったでしょぉ?》
(あ、はい…オモシロカタデス)
《それじゃぁ今日も張り切ってすんごいのいくわねぇ》
●スキルリスト
・ダークボール(闇)
・ウィンドウォーク(風)
・ポイズンミスト(闇)
・ウィンドカッター(風)
・ダークボルテックス(闇)
・ロアー(闇)
・ダークプリズン(闇)
・カームヒール(風)(new)
・シャドーバインド(闇)(new)
・チックタック(闇)(new)
《今回はこの3つよぉ、うまく使って楽しんでねぇ》
(はいっ!あざっす!)
《それじゃぁまた近いうちに会いましょうねぇ。バイバ~イ》
気の抜けた様な女神との脳内会話を終了し、礼拝堂を後にする。
神殿の入口まで戻ると、昨日と同じ様に小動物が石段にチョコンと座っていた。
「ごめんごめん、結局また待たせちゃったか」
「いえいえ、礼拝に行かれてたんでしょう?お気になさらずに」
「そか、ありがとう。バニアさんはスキル更新できなくて不便そうだね。早くエルフの国に戻れる様に、バシバシッと狩りをして、ドカドカッと経験値稼ごうかっ!」
「はい、微力ながら頑張りますのでよろしくお願いします。あと…セヴン君にお願いが…」
俯きながら両手を自分の両足に挟んでモジモジとした様子のバニア。
「ん?なんだい?まだ友達になったばっかだから一緒に寝ようとかはまだ無理だよ?お、俺も初めてだからさっ!心の準備が…」
「セヴン君はまだ眠たいのですか?」
「あ、あぁ、いやぁ、ネムクナイヨ」
「そうですか。あの、お願いと言うのは「バニアさん」じゃなく……」
「あ、あぁ了解っ!一緒にパーティ組むんだもんな?そんじゃぁ親しみを込めてバニーって呼ぶねっ!」
「はいっ!」
他人から見たらどこか微笑ましい部分のある若い冒険者2人は、自らを鍛えるためにモンスターの蔓延る街の外へと出かけて行った。
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