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図書室

図書室〜友情〜

作者: 鮎沢琴美

祝10作目!


誰か祝って!


この物語はフィクションです。


 僕の居場所、図書室。


 冬休みがあけて、またいつもの日々が始まる。もうすぐ卒業する三年生はどんな気持ちでこのときを過ごしているのだろう。僕はその頃になっても今と変わらぬ日常を続けているだろうか。それならいい。


 と、冬の窓に思いを馳せてはいるが、今日学校は休みである。


 なぜ、僕は休みの日にまで図書室にいるのか、そこまで図書室が好きと言うわけではない。


 ―それは彼女のせいだ。


 春に出会ってから今に至るまで恋人でもなく、友達でもなく、よくわからない関係を続けている。強いて言えば、図書室仲間か、いや、孤独仲間かもしれない。


 事の発端は一週間前であった。その日、いきなり一時間目が自習になった、僕はもちろん嬉しく思ったが、隣のクラスもそのまた隣のクラスも自習であった。結局全学年全クラスが自習だったのだ。それは教師だけに蔓延するウイルスがやってきたのではなく、緊急の職員会議が行われたためであった。その朝、学校に封筒が届いていた。


 学校の爆破予告だった!!!


 ・・・・・・が教師も生徒もはっきり言って信じていない。ただこんな世の中だから、その爆破予告の日を休校日にするかどうか話し合いが行われていたのである。


 二時間目は全学年全クラス、臨時のホームルームとなり、なぜかどのクラスでも歓声が起こった。理由は簡単だ、結局休校になったからだ。しかも三日間。


 なぜ、三日間もあるのか。そして今日に戻る。


 「どうして、休みの日まで図書室なんだ。そしてよく入れたな。」

 「九谷先生から鍵もらってたから。」

 「なんでもアリだな。」


 九谷先生は図書室で司書をしている女の先生である。僕たちがよく図書室を利用するのでいろいろ気にかけてくれるが、鍵はいいのか?


 「大丈夫、九谷先生もここに来るから。」


 来るのか。


 今日は休校日の三日目、つまり最後の日だ。休校が始まる前の日、いつもと同じように図書室来ていた僕は彼女に


 「休校日の三日目、図書室に集合ね。」


 とだけ、言われ、また僕も正直に来てしまった。学校の門はもちろん閉ざされていたが生徒だけが知っている抜け道があるから、そこを通ってきた。どこにあるかは秘密だ。


 「で、どうして集合したの?」

 「犯人を推理して捕まえるの。銀さんみたいに。」

 「銀さん?ああ。」


 『銀さん』とはこの図書室にあるシリーズ物の推理小説の主人公の名前だ。


 ―小学生か!


 推理小説の探偵にあこがれて推理するなんて、今じゃ小学生もやらないかもしれない。それに、


 「推理とか犯人とか何のことだ?」

 「もちろん爆破予告文を出した犯人よ。」

 「・・・・・・。」

 「なんかワクワクする。」

 「・・・・・・ちょっと待って。どうやって推理するんだ?何もわからないじゃないか。それにただのイタズラだろ?」


 ガラガラと図書室のドアが開いた。九谷先生だった。


 「はい、これが爆破予告文のコピーよ。」

 「ありがとうございます。」

 「それは、いいのか?」


 僕はなんだか不安になってきた。すると先生は


 「君たちにこういうのを見せても他の生徒には言わないでしょ。」

 「どうしてわかるんです?」

 「私はあなたたちを信じているからよ、それにおもしろそうじゃない。」


 おもしろそうって。

 でも興味が無いと言えば嘘になる、僕は迷わずそのコピーを見た。


 『私はこの学校を爆破する。決行日は次の三日間のうちいずれかとする。』


 文章はこのあとに今日を含めた三日間を書き記しただけであった。


 「ずいぶん簡潔だな。」

 「気になるところは無い?」


 彼女が聞くので、ひとつ答えてみた。


 「『この学校』ってなんだか学校内部の人が書いているみたいだな。外部だったら学校の名前を書いたりすると思うけど。」

 「その通り。」

 「その通り?」

 「この文書は学校のパソコンから見つかったの。」

 「え?わざわざ調べたの?」

 「パソコンの授業のとき、私が使ったパソコンのデスクトップ上にファイルとしてあったの。『look』っていうファイル名でね。」

 「『look』って『見ろ』ということだな。」

 「そうよ、たぶん犯人は私たちに挑戦しているのよ。」

 「・・・・・・推理小説の読みすぎだ。」


 僕はコピーを彼女に返した。僕は興味ないフリをしたが、やはり疑問を感じた。学校内部の人間だとしたら何のためにやったんだろう。何か学校に恨みでもあるのだろうか?ただ単に学校を休みにしたかったから?もしくはただのイタズラ?それ以上におかしいのはデスクトップ上にそのままのファイルが残されていたこと・・・・・・あ!


 「ちょっと待って、君がそれを発見したんなら、もうすでにみんな内部が犯人って知っているってことじゃないか。予告文の内容もみんな知っている。」

 「知っているのは、九谷先生と私とあなただけよ。」

 「え?」

 「『look』のファイルを見たとき、何かあるなって思って、そのときには開かずに別のファイルの中に隠しておいたの。みんなが知ったらまた大騒ぎするでしょ、私騒音は嫌いなの。」

 「なるほど。」


 実に彼女らしい。思わず納得してしまった。


 「でも犯人はわかるわけないよ、いくら内部とはいえ生徒は何百人もいるし。教師も含めればもっとだ。」

 「大体検討はついてるの。私のパソコンの授業はその日の一時間目にあった。その前に授業を行ったクラスは前の日の六時間目、そのときには何の異変も無かった。だから文書が作られたのは前の日の放課後になる。」

 「まあ、普通に考えればそうだけど、六時間目の授業のときこっそり生徒が打ち込んでいたかもしれない。」

 「それも考えたけど、情報の先生のパソコンにはクラスの生徒全員のパソコンの画面をモニターで見ることができるの。だから、たぶん無理。可能性はゼロではないけどね。」

 「そうか、君がファイルを隠したのはよくバレなかったね。」

 「ファイルを隠すのはちょっとした作業だからね。画面に『爆破する』って出てくるよりはインパクトは無いと思う。」

 「なるほど。」


 あのパソコン室を放課後使うには許可を取らないといけない。だから、誰があの日の放課後、パソコン室にいたかはわかるはずだ。


 「それはもう調べたわ。でもこの中の誰が犯人かはわからないの。手がかりが無いし。」

 「それで、それを一緒に推理しようと思って図書室に僕が呼び出された。」

 「正解。」


 やけに熱くなって会話していた僕たちを冷ますような声で先生は言った。


 「私もいわゆる容疑者ってのをさっき彼女から聞いたけど、誰もそんなことしそうに無いのよね。」

 「私は絶対この中にいると思う。」


 彼女はより熱くなってそう言った。


 「先生、そのいわゆる容疑者を教えていただけませんか?先生の口調からすると先生もよく知っている生徒なんですよね。」

 「まあ、そうね。まず一人目、矢野洋子さん。陸上部の冬季練習メニューを打ち出して印刷していたそうよ。彼女は部長だからね。それに地区大会も準優勝していたような実力者で、そして努力家よ。学校が休校になって、がっかりしてるんじゃないかと思うわよ。練習ができないんだから。それに学校に恨みを持っているとも思えないしね。」

 「それはそうですね。矢野さんにとってこの騒動は何のメリットもないし、いたずらでやったとも思えないなあ。」

 「思い込みはダメよ。事件には裏があるんだから。」


 ミステリ愛好家が口を挟んだ。


 「わかってるけど、どうもなあ。」


 僕の中で運動部キャプテンがさわやかで健康的ということからあの予告文とはどうも結びつかなかった。


 「先生、次、お願いします。」

 「二人目は前野大吾君。」

 「前野って生徒会長の?」

 「そうよ、まあ、もう代が変わってるから元生徒会長って言うことになるけどね。わたしもさすがに彼は無いと思うんだけど。あ、あまり個人的な感情を入れてしまったらだめよね。前野大吾君はその日は生徒会の会報に載せる卒業生の代表としてコメントを打ち込んでいたそうよ。その日のうちに仕上がっていたらしいわ。彼のエピソードでいうとやっぱり不登校だったクラスメイトを登校させたことかな。」

 「それはすごいですね。」

 「何でも『最後の一年だからみんな一緒に卒業するんだ』って。」

 「何か学園ドラマを見てるみたいね。」

 また彼女は口を挟んできた。


 「先生、次、お願いします。」

 「三人目、これで最後ね。佐藤由美さん。」

 「そう、由美なのよ。」

 「君の知り合いかい?」

 「クラスが同じなだけ。あまり話したことも無い。」

 「なんだそれ。」


 先生は続けた。

 「佐藤さんもいたのは確かだけど何をしていたかはわからないらしいわ。さっきの二人はクラブや生徒会のことだから大体わかるけれど、彼女はそういうのではないからね。私もそんなに詳しくは知らないけど廊下とかですれ違ったらあいさつをしてくれるから一応は覚えているの。そんな子数えるくらいしかいないからね。」

 「まあ、一番怪しいといえば怪しい、か。」

 「あまりよく状況が見えないぶんね。」


 「・・・・・・うーん。」


 僕と彼女と先生は同時にうなった。


 よく考えてみれば、こんなこと推理する必要も無いのだが、悩み始めるとのめりこんでしまう。窓の外で細い枝が冬の風に揺れていた。


 些細なイタズラでない限り何か動機があるはずだが全く思い浮かばない。


 沈黙を破って、彼女が言った。


 「最近、学校で変わったこと無かったっけ。」

 「そんな小説みたいに変わったことなんて滅多に起こらないよ、強いて言えばこの予告文だけど。」

 「学校の行事はどうかしら?」

 今度は先生が言った。

 「最近の行事といえば始業式、マラソン大会、終了式、卒業式。僕が犯人だったらマラソン大会の日を決行日にしましたけど。」

 「なるほど、そういう手もあるんだね。」

 先生は感心したように言った。

 「そんな手、ばかばかしすぎてできません。」

 彼女が声を張り上げていった。


 「・・・・・・うーん。」


 僕と彼女と先生は再びうなった。


 先生が口を開いた。


 「あとはインフルエンザくらいね。今年は学級閉鎖にならなくてよかったと思ったのに結局なっちゃったけどね、この紙のせいで。」

 「インフルエンザか、僕はかからなかったけど、やっぱり何人かは休んでましたね。」

 「去年よりはまだマシよ、結局犯人はわからなかったね。もうあなたたちも帰るでしょう。」


 僕はそのとき、ひとつ思いついた。


 もしかしたら・・・・・・。


 「ちょっといいですか。あくまで僕の推測なんですけど・・・・・・。」







 次の日、僕はある人物を待った。僕の推測の確認のために。


 「呼び出してすみませんでした。少し話があって。」

 「話というのは。」

 「あの爆破予告文を作ったのは、あなたですね。












 ― 前野大吾さん。」




 「ああ、そうだよ。やっぱり僕にたどり着くやつがいたんだな、なんだか嬉しいよ。」

 「僕らが一番困ったのはどうしてこんなことを行ったかについてです。つまり動機が全くわからなかった。」

 「なるほどね、でも僕だとわかったということは動機がわかったんだろ?」

 「わかった、というかこれは僕の推測でしかありません。だから何の証拠もありません。それを前提の上で聞いてもらいたいと思います。」

 「どうぞ。」

 「僕たちはずっと学校が休みになることによってメリットになる人物、学校に恨みを持つ人物、遊び半分で行う人物を想像しましたが、おそらく犯人はどれにも当てはまらない。犯人は自分ではなく別の誰かのためにこの予告文を出した。」

 「それは斬新な考え方だね。」

 「学校が休みになるということによってメリットがある生徒がいるんです。それは遊べるからとか学校がしんどいからという理由ではない。」

 「それじゃあ何だろう。」

 「出席日数です。あなたのクラスには不登校になっていた生徒がいた。その生徒はあなたの努力の甲斐もあり復帰した。出席日数ギリギリではあったが、このまま卒業の日まで登校し続ければ文句無しに卒業することができた。しかし、ある理由によって出席日数が足りなくなってしまった。」

 「インフルエンザ」

 「どうやら僕の推測は当たっていたようですね。彼は仕方なく学校を休むことになった。一日やそこらではインフルエンザは治らない。治るまでには日数がかかった。結局必要な出席日数に、」

 「三日足りなかった。」

 「はじめから不自然な感じはしていたんです。爆破を三日間のうちいずれかに行うというのは。」

 「君はすごいな、銀さんみたいだ。」

 「銀さん?いえ、そんな。」

 「銀さんは悪を憎む。さあ、僕は職員室に行ってこのことをすべて話さなければならない、行こうか。」

 「僕は銀さんではないですよ、あなたはこのことを誰にも言わなくてもいいと思います。」

 「え?」

 「それに悪だと思っているのは先生ぐらいです。生徒はいきなり三連休が現れて喜んでいたでしょうし。」

 「君は銀さんよりもすごいかもしれない。」

 「それに何より大切な友達のためにです。一緒に卒業してください。たぶんその不登校の方はあなたの幼馴染か何かでしょうから。」

 「どうしてわかるんだい?」

 「そうじゃないとここまでやりませんよ、いくら元生徒会長であったとしても。」

 「君には負けた。本当はこの三日間の休校が終わればすべて白状しようと思っていたんだ。

僕の計画だと学校のパソコンから例の文書が見つかって大騒ぎになるはずだったんだ、そして出席日数のことは伏せたまま適当な嘘をつけばいいと思っていた。ただこの三日間が欲しかったんだ。」

 「たぶん、これで良かったんです。卒業おめでとうございます。」

 「ありがとう。」






 「これが僕の推測です。」

 「なるほど。」


 彼女と先生が同時に頷いた。


 「これこそ友情ね。」

 「ちょっとずれてるような気もしますけどね。」


 「それじゃあ、本当に帰りますよ、もうこんな時間。」

 「はい、さようなら、先生。」


 外はもう日が落ちていた。


 帰り道、最近になって寒さはやはり厳しくなった。


 「友情ってこんなにすごいのね。」

 「ひとつ言っておくけど僕は君が出席日数足りなくて卒業できなかったとしてもあんなことはしないよ。」

 「私もしないわよ。」


 僕と彼女は顔を見合わせて笑った。


 こんな日々が卒業の日まで続いていればいい。


読んでいただいてありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 10作品目おめでとうございます。(笑) 心温まるお話でした。私も図書室常連だったので話に入り込みやすかったですし、本格推理小説みたいにポンポン話しているシーンが、なんだかとても面白かったです…
2007/11/18 17:32 退会済み
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