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里美と出逢ったあの日

作者: kazutomi

告白

「どうだい?オレの彼女になった気分は?」

 PM7時20分、大宮駅ナカのルミネ前。宏樹は買ったばかりのiPHONE3Gから里美に電話した。昨日告白したばかりである。宏樹と里美は同じ会社の埼玉支店と札幌支店に所属しているため、二人は遠距離恋愛だった。里美は自分の気持ちを上手く伝えられない性格のため、宏樹からのプロポーズに対して、「う...ん」と言うのが精一杯だったようだった。一晩たって、宏樹は里美の本当の気持ちを確かめたくて、そんなキザな言い方をしたのだった。

「うん。ま、まあ嬉しい。」里美の抑揚のない声が聞こえる。「嬉しいならもっと嬉しそうに言えよぉ。」宏樹は彼女ができた喜びを含みつつも苛立ちながらそう言った。

「今、何してんの?」宏樹はつぶやいた。「今、ちょっと昨日宏樹君に言われた事で頭がいっぱいになってしまって...。突然の告白だったから頭を整理しようと思って、家を飛び出して千歳にホテルを取ったの。」「千歳?」それを聞いた宏樹は、里美の心を少しだけ焚きつけてやりたくなったのだった。

 「今、千歳にいるの?もうチェックインしちゃったの?」「ううん、まだ...だけど。」里美は遠慮がちに答える。「そんなとこ(千歳)にいたってしょうがないじゃん。こっちに来いよ。」宏樹もまだ見ぬ彼女に会いたかったから冗談半分で言ってみた。

 「えっ?いいんですか?」

 里美の声色が変わった。ちょっと嬉しそうに、でもハッキリと彼女は答えた。「えっ?ホントに来るの?」宏樹はちょっとびっくりしてそう言った。「だめ....ですか?」里美は聞き返した。「いや、だめじゃないけど...、でもホントに来るんだったらオレ、ホテルとか取らなきゃいけないから。」宏樹はもう一回里美に確かめた。「ほ、ホントに来るんだよね。」「は...い。」里美は戸惑いながら返事をした。すでに7時半を回っている。今から里美が飛行機に乗っても、羽田につくのは午後10時過ぎ。宏樹は戸惑いながらも、里美に浜松町まで来るように指示した。「羽田まできたらモノレールで浜松町まで来てもらっていいかな?ホテルとかこっちで取るからさ。」「うん、じゃあ飛行機取れたらまた連絡するね。」そこで電話は切れた。

 宏樹は内心ちょっと焦った。「里美のこと、上手くキャッチできるかな?」北海道から東京へ降ってくる愛しの彼女を宏樹は無事抱きかかえ、キャッチできるのだろうか?


 「ちょっと今日、仕事の仲間と飲む約束しちゃって、今日は泊まるから。」宏樹は自宅に連絡すると、上野行きの高崎線に飛び乗った。乗り込んで少しして里美からメールが来た。「8:45羽田行きチケットが取れました。これから乗るね。」大宮からなので、浜松町へは小一時間で到着した。時計は9時20分を回っていた。

 1月21日、東京浜松町。雪こそ降っていないが、冬の東京よろしく北風の冷たい夜だった。宏樹は歩き慣れた道を進みながら、「さて、ホテルはどこがいいかなぁ?東横やルートインじゃちょっと味気ないし....」などと一人ごちながら奥に進んでいくと、三井ガーデンホテルがあった。「ここならツインで泊まってもデートのムードが出るかも。」宏樹は早速チェックインした。幸い当日でのチェックインができたので、宏樹はホテルにいながらしばらく里美からの連絡を待つことにした。

 時計は10時を過ぎていた。そろそろ里美からの連絡が来るはずだが一向に来ない。宏樹はだんだん焦り始めてきた。宏樹もまた意図していったわけではないので、実は着の身着のままきたわけではなかったので、携帯の充電器をもって来てなかったのだ。発売すぐのiPHONE3Gのバッテリーはどんどんなくなって来ている。

 「里美、ちゃんと羽田まで来れたかなあ?」宏樹はつぶやき、「ちょっと早いけど里美に電話してみよう。」宏樹は里美に電話をかけてみた。しかし、「こちらは、ソフトバンクです。おかけになった電話は電波の届かない場所にあるか・・・」とおなじみのフレーズが電話越しにこだました。しびれを切らして宏樹はホテルを出て浜松町駅に向かった。駅で里美にもう一度電話をかける。やっぱりつながらない。時計は10時半を過ぎていた。仕方なく宏樹は里美の留守電に入れてみる。「宏樹です。今、浜松町駅にいます。羽田からはモノレールの空港第一ビルから浜松町行きに乗ってください。いいかい!1番線だよ!!」宏樹もよっぽど焦っていたのだろうか?最後の方は語気が荒かった。30分たっても里美からの連絡は全くない。ついに宏樹の携帯の充電が切れた。


 「愛してる。好きだ。付き合ってくれ!」宏樹が里美に告白したのは、まだ昨日のこと。正確には12時を回っていたため、今日だ。宏樹は里美のまじめでひたむきな性格に、顔も知らない相手に告白した。いや、里美が一度送ってきた写真を見て「大塚愛似のかわいい子」に惚れた。「まじめそうな子だと思ったけど、意外と遊んでそうだな。」それが宏樹の里美に対する印象だった。宏樹は告白するのに電話で3時間以上かかった。惚れたとは言え、もし断られたら潔く諦めるつもりだった。自分より5歳年下の22歳の里美の返事はあっさりと一言「うん」だった。

 それにしても素っ気なかった。喜びを言葉に表してくれない。本当に嬉しかったのだろうか?それを確かめたくてさっきはあんなキザな言い方をしてしまった。でも、こういう喜びを言葉に上手く表さないような子は、言葉を超え、行動で自分の気持ちを表すのか。宏樹は里美をそんな風に思い直していた。ここで立ち尽くすまでは。

 宏樹は途方にくれた。「ああ、里美のヤツ、迷子になっちゃったのかな?オレがあんなこと言わなきゃこんなことにならなかったかなあ?」宏樹は自分が言ったことを後悔し始めた。「なんかこれじゃオレが里美をたぶらかした見たいじゃん。」まだ見ぬ彼女を思い、宏樹はごちた。迷子になった?里美を思い、不安と共に宏樹は里美をとても愛おしく感じ始めていた。


 里美にちゃんと会いたい。宏樹はひらめいた。「そうだ!公衆(電話)からかけよう。ええと番号は、と。」宏樹は普段ろくにメモも取らないようなズボラな男だったが、その分記憶力はいい方だった。でも頭が「080」か「090」かがどうしても思い出せない。もう夜も大分遅い。宏樹は里美が出てくれることを祈ってその番号にかけた。「080」の方はつながらなかった。「090」に電話するとすぐ留守電になったので、メッセージを入れた。「宏樹です。モノレール乗れたかい?浜松町で待ってる。充電きれたから公衆からかけました。」10分後にまた「090」に電話した。直感的に「090」が正しいような気が宏樹にはしたのだ。程なくして里美につながった。「ごめん羽田降りたけど、どこがモノレールか分からなかったから、タクシーでそっちに行くね。」少し安堵した宏樹だったが、携帯の充電が切れ、向こうからの電話には対応できないため、里美が無事に着くまでは気が抜けない。「ごめん・・・なさい。」日付が変わる10分前のPM11時50分。里美がようやく浜松町についた。宏樹は無事北海道から来た里美を東京でキャッチしたのだった。


出会い


「ごめん...なさい。」少し顔を赤らめ、悪びれた様子で宏樹に言った。そこには外連味のない、あどけなくもじもじしている里美の姿がそこにあった。「意外と大塚愛っぽい写真と違うね。」大塚愛似のちょっと遊んでいる短大生っぽい印象の子と違ったので、宏樹は聞いた。「大塚愛ですか?似てるって初めて言われました。どっちかと言えば新垣結衣に似てるって会社の人に言われたことはありますけど。」確かに、凛とした目鼻立ちの中に可憐さを併せ持つ。「言われて見れば確かに似てる!」宏樹は言った。

 「それはそうと、」宏樹は心配から解放された安堵と、心配をかけられた怒りが入り混じりながら言った。「もう、心配したんだぞ。ホテル取ったから行こう。」宏樹は里美の手をつなごうとした。里美は緊張のあまり千鳥足になって宏樹の手を握り返した。「手、つないだことないの?」普通だったら、恋人らしく二人寄り添って腕を組んで歩くはずなのに。里美はまるで父親や年の離れたお兄ちゃんと手をつなぐ子供のような手のつなぎ方しかできなかったのだ。

 ホテルに着いた。若い二人にとってはそこそこ上々なホテルだった。広々としたツインルームで、二つのベッドと綺麗な調度品が並べられていた。「綺麗なとこだね。」里美が言った。「高かったんじゃないの?」里美が心配して言うと、「札幌からわざわざ来てくれたから・・・」と宏樹が返した。「いやーどうなっちゃうのかなって思ったよ。」すでに、里美が持っているおそろいのiPHONE3Gの充電器に宏樹の携帯がつながれている。里美は宏樹がiPHONE3Gを買ったことを聞いて、自分も同じものを買っていたのだ。「遠距離だからソフトバンクはいいよね。」宏樹は言った。ソフトバンク同士の通話は夜9時までは無料だからだ。「でも、宏樹君は今日使っちゃったんじゃないの?」里美はかわいらしい声でそう言った。「いいよ。里美に会えたんだから。」部屋はツインベットになっていたが、早くも二人は一緒のベットで一夜を明かした。お互い恋人がいない時間が長かったせいか、二人は抱き合うことで互いのぬくもりを感じ合った。「明日、」宏樹はベットの中の里美に言った。「連れて行きたい場所があるんだ。」里美は「宏樹君と一緒ならどこでもいい。」嬉しそうな笑顔で里美はそう答えた。


 そこは宏樹が2年前、友達から借りたビッグスクーターで偶然深夜の首都高を走っていたとき、迷い込んだ場所だった。埼玉に帰ろうと首都高を走っていたとき、誤って芝公園口を降りてしまった。心もとない気分で、あてもなく走っているとある商業施設がそこにあった。麻布十番の先にあるその施設。LINCOSというマルエツ系のスーパー、TSUTAYAとスターバックスが入っている。そこは日付が変わった深夜にも関わらず別世界のようで、店内は昼間と変わらない人だかりで、思い思い、本を読んだり、カフェで寛いでいた。宏樹はいつかもう一度行ってみたいと思っていたので、里美を誘ったのだった。


 次の日、二人は麻布十番から歩いてその場所に行った。二人の記念すべき初デートである。北海道から来た彼女に東京の一番いい場所を宏樹なりに見せたかったのかも知れない。「着いたよ。」宏樹は言った。確かに宏樹が2年前見たあの施設があった。スタバでカフェグランデを二つ頼むと、外のテラスで寛いだ。テラスのテーブルの上には傘状のオイルヒーターがあり、客が座ると点火して温める仕組みになっていた。二人が座ると程なくして係の人が点火してくれた。「東京って進んでるね。」里美は言った。「オレも知らなかったよ。」宏樹が答える。「あれ、ここ、六本木ヒルズだったんだ。」里美が言った。宏樹もそこが六本木ヒルズだとは知らず、思わず「来たことあるの?」と聞き返した。「ううん、東京は初めて来たんだよ。そこに書いてあったから。」里美は看板を指差した。「あ、ホントだ。」宏樹が答える。そこはけやき坂を降りた所の六本木ヒルズゲートビルだった。

 隣にコーンズの看板が見えた。宏樹は大の高級外車好きである。「ちょっとあっち行こう。」里美を誘った。ショーウンドゥの前にベントレーのコンチネンタルGTが鎮座してあった。当時SADAKATAを著して話題になったアルカサバの貞方邦介が所有する高級外車だった。「オレもいつか社長になってこういう車に乗れる男になりたいな。」宏樹は里美の前で写メを撮りながらそう言った。てっきり「そんなの・・・」みたくあしらわれるかと思った宏樹だったが、「うん、宏樹君だったらきっと乗れると思うよ。」と里美があまりに素直で真剣にいうもんだから宏樹は照れながらも嬉しくなった。「里美、ありがとう絶対夢を叶えて里美を幸せにするよ。」宏樹は里美に誓った。

 その後二人はけやき坂を上って森タワーに行き、東京タワーも登り東京見学を楽しんだ。


 夕方の羽田空港。里美が札幌に帰る。「里美、急に呼び出してごめん。でもありがとう。まさかホントに着てくれるなんて思わなかったよ。里美は感情を言葉に出さない子だけど、その分、行動で示す子なんだって分かった。オレも今の嬉しい気持ちを形にしたいから、来週早速、札幌に以降と思う。里美、会ってくれるかい?」「宏樹君ありがとう。待ってるね。」里美は目に薄っすら涙を浮かべていた。「じゃあね。里美。またね。」宏樹は言った。「したらね。」里美は北海道弁でそう答えた。宏樹は振り返らずにスタスタと歩いていった。歩きながら宏樹は自分の目から涙がスーっと流れてくるのに気づいた。「オレ、泣いてる。止まんねぇ。」気づいたときには、それは自分でも止められないほどになっていた。

                                    END

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