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第2試合白雪姫VSシンデレラ



 「さあ、いよいよ第2回戦、プリンセスあーんどプリンス対決です!」

 「ふむ、それぞれ逸話も多く知名度も高い者同士、白熱する戦いになろうな」

 ティンカーベルの言葉にかぐや姫は何やら書物を開きながら口を開く。

 「現在も受け継がれし物語、派生した物語、多くの物語を持つ両社だからこその戦いが見れそうじゃな」

 「そうですねえ、王子たちもそれぞれ個性の強い逸話を持ってますので、楽しいことが起きそうです。では、選手入場!死にかけた回数なら世界一!不死との噂も囁かれる美少女《紅色乙女》白雪姫&夫にしてガラスの棺を用意する変人さん《死体愛好家》王子対掃き掃除からスナイピングまで掃除ならなんでもお任せ《灰色掃除屋》シンデレラ&愛のためなら相手の身の安全はオール無視!《冷酷タール》王子です!」

 「白雪様ー!」

 「姫様ー!」

 「白雪姫を応援するのは7人の小人たち!小さい体で必死に幕を持っていますね」

 「シンデレラー!負けたら承知しなくてよー!」

 「王子かっこいいー!こっち向いてー!!」

 「シンデレラ側は継母に継姉たち、王子のファンたちか。応援層は差があるな」

 うむうむと頷くかぐや姫にそうですねえと雪女も頷く。

 赤コーナーからは艶やかな黒髪、血のような赤い唇、雪のように透き通る肌をした美しい少女が穏やかな笑みを浮かべた王子に手を引かれ入場する。伏せた目は感情を隠すようで、肩にかけたマントとフードからは何やら香草のにおいがする。

 青コーナーからは冷たい瞳の少女と楽しげに笑う王子。少女はその存在の証拠ともいえるガラスの靴を履いている。

 カツンッ

 ガラスの踵を鳴らし、少女――――シンデレラは肩を鳴らす。

 「なあに、生温そうな子ね。綺麗なお手々なんてして、ここは戦場なんだから危なくてよ?」

 「僕はシンデレラの自分は違うと思ってる高慢なところ、大好きだよー」

 シンデレラに笑顔で王子は支持する。

 対する白雪姫は表情一つ変えず、王子は姫を守るように一歩前に出て刺突剣を構えた。

 「スノー、今回は僕がやろう」

 「……」

 王子の言葉にも答えずに、くしで髪をすき始める白雪姫。

 そんな白雪姫に王子は苦笑しながら肩をすくめ、シンデレラたちに向き直る。

 「おや、王子対決の方がいいかな?」

 「私が必要とするのは勝利、過程は必要ないわ」

 一歩前に出た王子に並びながらシンデレラは軽く答える。


 「いやあ、両者ヒートアップしてますねえ!」

 「白雪とやらはやる気がなさそうだがのう」

 雪女の言葉にかぐや姫は白雪姫を見つめながら答える。

 確かに彼女からやる気は感じない。だが、戦う気を持たないわけでもなさそうだ。

 「いったいどんな奥の手を隠しておるのやら、楽しみじゃのう」

 かぐや姫の言葉を受け、ティンカーベルがリングの上で一回転した。

 「レディー……ファイト!」


 カーン



 「お先に失礼!」

 鐘の音に合わせてくるりと回転を加えた刺突剣による攻撃を白雪姫側の王子が開始する。

 それを王子より前にシンデレラが箒の柄で受け止める。

 キィンという高い金属同士がぶつかった音。かすかに白雪姫側の王子の表情が変わった。

 「なるほど、≪掃除屋≫ね……」

 「あんたみたいな綺麗な形した攻撃は読みやすくて嫌いじゃないわ」

 ふんと笑い、シンデレラは箒で王子を払いのける。

 受け身を取り白雪姫の隣に王子が並ぶと同時に、シンデレラがそこに向かって箒を振りかぶる。

 「スノー!」

 王子はそれを受け止めるべく前に出ながらも白雪姫に逃げるよう促す。

 白雪姫はかすかに頷き一歩下がろうとして、何かに足を取られ転びかけた。

 「スノー!?」

 「ごめんねえ、陰湿って言われてもこれが僕の攻撃方法だからねえ」

 笑うシンデレラ側の王子を見て白雪姫側の王子の顔色がはっきりと変わる。

 「貴様……これだから生きている人間は嫌いなんだよっ!」

 転びそうになる白雪姫を抱えてタールの零れた範囲を飛び超え態勢を整えると白雪姫側の王子は怒りと憎悪に満ちた顔でシンデレラ側の王子に突撃する。

 「残念だが接近戦は私としていただこう」

 その間にシンデレラが飛び込む。刺突剣の鋭い突きをすべて王子からそらし、みぞおちにけりをめり込ませた。

 「ぐっ」

 そのまま飛ばされ、リングに倒れる白雪姫側の王子。


 「おっと、これは決まったか……!?」

 ティンカーベルの声に会場が一瞬静まり返る。

 しかし、白雪姫側の王子は立ち上がった。

 「……もういいわ」

 ぽつりと、零れた鈴のなるような声。

 はっとした顔で白雪姫側の王子は自分の姫君を振り返った。

 「スノー」

 「おっと、ここでついに白雪姫に動きがあった!」

 「やはり、何かをしていたようじゃのう」

 雪女も、かぐや姫も、シンデレラたちも白雪姫に視線をやる。

 先ほどまで戦いに触れていなかった彼女は、今、凄絶な笑みを浮かべていた。

 「っ!」

 遅いくる言い知れぬ恐怖。シンデレラは本能から床をけり、後ろに下がった。


 それは正しかった。


 シンデレラのいたその床から、鋭い針が何本も飛び出したのだから。

 「コレはっ……」

 「私は白雪姫、実母は魔女、そして、私も」

 彼女の手の中にあった櫛にリボンは結ばれていた。それをもう一度床に放つとまるで蛇のように地面をはい、シンデレラたちに向かい櫛の先が飛びかかる。

 「魔法っ!?」

 「これは、中々……っ!」

 「おっとおおおお!先ほどとは一転、今度はシンデレラ側が防戦一方、白雪姫の魔法にかき回されています!」

 ティンカーベルの言うとおり、まさかの展開だ。

 それでもシンデレラは不敵に笑う。

 「奇遇ね、私の『逸話』にも、似たものがあるわ」

 パチンと指を鳴らすシンデレラ。それに合わせて白雪姫の上から衣装入れのふたが降ってくる。

 間一髪、白雪姫側の王子の救いの手が届くが驚いたような顔をしたのは白雪姫側の王子だけではなくシンデレラ側の王子もだ。

 「こ、これは一体!?」

 「ふむ、シンデレラの童話派生のひとつ、『灰かぶり猫』の中で実際にシンデレラが行ったものじゃな。少しきつい話となるがこれで人が一人死んでおる」

 「意外と彼女の逸話は人が死にますねえ」

 かぐや姫の解説に雪女は冷や汗を流す。

 「まったくだ。怖いねえ」

 「階段にタール塗りたくってよくて骨折、悪くて死亡ルート作った男が馬鹿言ってんじゃないわよ」

 笑うシンデレラ側の王子にシンデレラは冷たく返す。

 「うーん、死んでくれたらあの二人も愛せるんだけどなあ。死体を作る側には興味ないんだよねえ。ねえ、スノー」

 「私は、貴方のような趣味は、ありませんから」

 白雪姫側の王子の、にこやかな笑顔に似合わない恐ろしい言葉に白雪姫は淡々と返す。

 「シンデレラ、箱、12時に溶ける魔法。お友達の動物たちは使いませんの?」

 「へえ、手の内を知ってるってわけね……」

 面白いじゃない、シンデレラは笑う。白雪姫はただ美しくも凄惨な笑みを浮かべ続ける。

 「まあ、私は戦いを楽しむ気はありませんけれど」

 そう呟いた白雪姫にシンデレラは真意が読み取れず眉をひそめる。

 「どういう意味だ」

 「まあ、こういう意味かな?」

 直後、背後から聞こえた声に息を飲む。

 振り向こうとするがもう遅い。


  最期に見えたのは


   狂気に満ちた、男の笑み



 「勝者、白雪姫&王子!!」



 「まさか、白雪姫が陽動とはな」

 のど元に突き付けられた刺突剣にシンデレラは笑う。自嘲の声にそれくらいの覚悟が必要だったからねと白雪姫側の王子は笑う。

 「スノー、大丈夫だったかい?すまないね、君を囮にするなんて」

 「別に、私はその程度の刺激は刺激でもありませんわ」

 微笑む白雪姫。隣にいたはずの王子は泥人形となり崩れ落ちた。

 そう、蓋が降ってきた時から王子は偽物だったのだ。

 「それもこれも、こちらの手の内を読まれていたから、かな」

 白雪姫のもう一つのリボンによって動きを封じられていたシンデレラ側の王子はようやく動けるようになった体を動かしながら苦笑する。

 戻ってきたリボンとくしをスカートの中にしまうと、さっとマントのフードをかぶり白雪姫はゆっくり王子に手を差し伸べる。

 王子は恭しく手を受け取ると優しく白雪姫をエスコートしながら出入り口へと消えていった。

 会場に、多くの声援を残して。



 「いやあ、私まで騙されました、妖怪失格ですね」

 「リボンすら陽動とは、己の体を張り、相手の手の内を研究する。まさに魔女じゃな」

 ほうとため息をつく雪女にかぐや姫は感心したように言葉を漏らす。

 「元々魔女は薬学に長けているという。薬師、占い、様々なことを学び、調べることも魔女の仕事ではあるからの。それにしても大胆な戦法ではあったが」

 「確かに、生誕からずっとお姫様であった方の戦い方とは思えませんでしたね。かぐや姫はどう思いますか?」

 「妾には無理じゃの。命を狙われ、何度も死地をたどった彼女だからこそできたことかもしれぬ」

 かぐや姫の言うとおり、普通の姫君では無理だろう。

 もちろん、この舞台に上がろうと考える姫君の中に『普通の姫』などおらぬだろうが。

 「立ち去り方もかっこよかったですねえ」

 「シンデレラたちも素晴らしい戦いでした!」

 雪女とティンカーベルの言葉にもう一度会場は湧く。

 「では、次の戦いです。ティンカーベルさん」

 雪女の言葉にティンカーベルは頷く。

 「はい!では三回戦、紡ぎ針に刺され百年の眠りについた≪眠れる森の美女》と己の王国を探し、いばらの困難を乗り越えし≪苦難の王≫対苦難の数なら負けはしない、幾度もの結婚と闘争を繰り広げた≪チューリップ少女≫親指姫とその最後の夫にして幸せの暖かい国の王子≪妖精王子≫です!」


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