第一回:赤ずきんVSピーターパン
※和洋折衷様々な童話の主人公たちが一番強い物語を決める戦いをするコメディーバトルになります。
童話キャラの雰囲気は戦いに合わせるよう私のイメージによって作られているため本物の童話とはかなり変わってしまいます。ご注意ください。
ここではない、ある世界のある場所でのお話。
様々なおとぎ話の登場人物達が集まって楽しげに談笑していました。
初めましてにお久しぶりです、様々な会話が聞こえてきます。
さて、一体誰が始めの一言を発したのか、今となっては誰にも分かりません。
もしかすると、神々の宴に金の林檎を投げ入れ、結果人間界すら巻き込む女の意地と名誉と美貌をかけた争いの原因となった、かの女神なのかもしれません。
ただ、どんな言葉が原因なのかは分かっています。
「この中の誰の話が一番有名なのかしら」
その言葉を耳にした途端、登場人物達はこぞって自分の話の主人公の名を叫びました。
その中でもとくに激しく名乗りを上げた者達の中で、それを決めることになりました。
誰の話が一番『最強』のおとぎ話なのかを――――
「――――と言うわけで、始まりました、第一回裏御伽武闘会!司会兼審判は私、ピーターパンの相方の座をウェンディに盗られたティンカーベルですぅ!実況は『私に触ると凍傷するわよ』の雪女さん、解説は絶世の美女にしてわがままクイーンの二つ名も持つ月の姫君、かぐや姫さんですぅ!では、お二人、準備はよろしいですかぁ!?」
なぜかどこかのお昼の番組の司会者よろしく、黒いサングラスをかけた金髪の妖精、ティンカーベルは手に自分にあったマイクを持っていた。
そこは先ほどまでのパーティ会場ではなく、どこかの闘技場のような場所だった。
真ん中にはリングのようなものが設置されており、周りを観客席が取り囲んでいる。
今回は傍観を決め込んだ童話の面々と、試合に出ている童話の脇役達が会場を囲んでいた。
「絶対優勝だー!!」
「俺、白雪姫に50ポイントかける!」
「えー、鶴の織った布で作ったハンカチー、きれいな涙で作られた真珠の首飾りー、色々あるよー。今なら出場選手のサイン色紙もあるよー」
それぞれが応援の旗を振ったり賭けをしたり商人魂に火をつけたりしている。
ある種、異様な光景だ。
リングの近くには結界で厳重に守られた場所があり、そこに、二人の姿はあった。
その中で銀の髪に薄い青の瞳の少女がマイクを片手に手を振った。
「はい!ティンクさんそんな状況に負けずにがんばっちゃってください!私はこれからの実況を務めさせていただきます、雪女のユキです!今回は熱くなり過ぎてとけることを避けるために、後ろに雪女シスターズを従えております!」
ばっと後ろを差す様に腕を広げると、そこには似たような服と顔立ちの雪女達が微笑を浮かべながら手を振っていた。
美女ぞろいの雪女一族に対し一気に観客(一般的な男)のテンションが上がる。
司会の雪女の合図でそちらに雪女シスターズ達は微笑みと冷気を向け、黙らせた。
「そして、解説をしていただきます、我らがかぐや姫様!」
『ううぉーー!』
一気に男達(一般的な)のテンションが上がり、野太い声援が飛ぶ。
もちろん、その中にはかぐや姫に求婚したとされる貴族なら帝やらの姿もあったが、さらりとかぐやは無視した。そしてそのまま叫び続けた男達は氷漬けになる。
「妾がかぐやじゃ。的確な解説をできるように精進するで、皆、よろしく頼むぞ」
『ううぉーー!』
また、野太い声が響く。そしてそれに向かってもはや容赦のない氷のつぶてが飛びかかる。
よくみると、雪女シスターズ達の微笑む姿の後ろには、怒りのために具現化した吹雪がたちこめていた。それを見ないようにしながら、引きつった笑顔で司会は進める。
「はい!もう、男性陣(一般的な)の心をがっちりキャッチしちゃったかぐやさんでした!さて、試合の方を進めましょう、ティンクさん?」
「はい!では、第一回戦です!一回戦はいきなり優勝候補同士の戦いです!神速の拳を持つ《闘拳士》赤ズキン&ヘタレな突っ込み《捕食者》狼ペア対空飛ぶ永遠の十代、ご存知我らが《不老者》ピーターパン&影を縫う力がどう活かされるか《影縫士》ウェンディペアの対決です!個人的には私の物語の主人公で元相方を応援したいところですが、ここは審判らしく心を鬼にして公平に行きたいと思います!では、選手入場!」
ティンカーベルがそう言うと、会場の灯が一気に落ちた。
スポットライトによって浮かび上がるリング。
赤コーナーからは可愛らしい赤いズキンの少女と、申し訳なさそうな狼が、青コーナーからはおっとりした笑顔の少年と自信満々の不敵な笑みの少女が出てきた。
「せーの!ピーターパーン!ウェンディ!がんばってー!」
「おーっと、ピーターパンの応援はピーターパンの舎弟達とウェンディの弟君だあ!」
ピーターパンとウェンディの名前を刺繍された垂れ幕を持つ応援に対抗してか、赤ズキン側からも声が上がる。
「あ・か・ず・き・ん!あ・か・ず・き・ん!」
「こちらは赤ズキンに倒されてきた猛者達と狩人だ!!野太い!これは野太いぞ!」
「妾に入った情報だと、あの娘御のズキンの赤は自分が倒してきた猛者達の血の証らしいぞ。赤ズキンの誇りじゃと聞いた。いやはや、素晴しいの」
熱のこもった雪女の実況に、かぐやは冷静にプチ情報を伝えた。
「えーと、それは、黒くならないんでしょうか?ほら、血って乾くと黒くなるじゃないですか。あれってこびりついて落ちないんですよねー」
「そうじゃのう。そう言えば、そなたの血も赤いのか?」
かぐやは思い出したように雪女に尋ねた。
それに一瞬詰まりながらも雪女はこくりと頷く。
「ええ、まあ、一応は。って、そんなことを話してる場合じゃないですね!」
のんびりとかぐやのペースに巻き込まれた雪女は、慌てて顔を手で軽く叩いた。
「ティンカーベルさん、おねがいします!」
雪女に頷いて、ティンカーベルはリングの上に飛びたった。
「ではー!第一回戦!レディ……ファイト!」
カーン
ティンカーベルの掛け声と共に、どこからともなく鉦の音が聞こえた。
「ふむ……倒し甲斐のある敵だ。喜べ、我のズキンの百一人目の赤色にしてやる」
「言ってくれるじゃねーか。俺様に勝つ気か?餓鬼」
相変わらず無表情の赤ズキンと不敵な笑みのウェンディは、まずは小手調べとばかりに自信あふれる発言をかました。恐縮するのは相方達のほうだ。
「あ、赤ズキンちゃん、言いすぎですよー」
慌てる狼に、赤ズキンの拳が容赦なく決まった。
それを見て、ピーターの額に冷や汗が浮かぶ。
「ピーター、あの馬鹿のように邪魔しないだろうな」
「も、もちろん!がんばってね」
慌てて引きつった笑顔を浮かべるピーターパンにニッコリと微笑み、ウェンディは赤ズキンに向き直った。赤ズキンは狼に目もくれず、ウェンディをみる。
「フン……これから先は拳で語る事。参る!」
「懸かってきな!」
赤ズキンは姿勢を落とし、一気にウェンディに詰め寄った。
その素早さは予想外だったのか、一瞬慌てたウェンディは間一髪でその攻撃を避ける。
その後も容赦なく降りかかってくる拳に、防戦一方のウェンディ。
それを見ながら、赤ズキンはふっと笑った。
「どうした?攻めて来ないのか?」
「言って――――――くれるね!」
ウェンディは憎らしそうに赤ズキンを見て、渾身の一撃をみぞおちに叩きこむ。
しかし、赤ズキンはそれを察してくるりと器用に宙返りとバックステップでそれを避けた。
「おーっと!!さすが強い、赤ズキン!あのウェンディが防戦一方です!しかし、ウェンディも負けていられないようす!お、ウェンディの反撃だ!しかーし、避けられた!」
一気にヒートアップする観客と雪女。
その雪女がとけないように必死で冷気を発している雪女シスターズ。
それも間に合わないのか、足を雪だるまに突っ込んだ状態で雪女はかぐやにふった。
「かぐやさん、今の攻撃はどうですか?」
「うむ、両者の攻撃とも、相手が普通の相手ならば決まっていた攻撃じゃな。さすがは優勝候補同士、攻撃の切れが鋭い。見たところ、赤ズキンは一発の破壊力よりもスピードを重視した攻撃、ウェンディは一撃必殺を狙っているようじゃな。その所為でタメが長い。この組み合わせは、赤ズキンに有利なようじゃな。それをどう克服するか、見物じゃ」
かぐやも楽しげに微笑みながら試合に魅入っている。
「おっと!ここでウェンディが奥の手か!?不適に笑いながら何かを取り出した!」
「……?なんだ、それは」
「教えてやるぎりはないね」
不思議そうにウェンディの持つものをみる赤ズキンに、ウェンディはニヤリと笑った。
その意図を理解したピーターパンは、顔を青くしてウェンディの元へ飛んだ。
「ちょ、ウェンディ。それはいくらなんでもやりすぎだよ」
「うるさい、ピーター。俺様に指図する気か?」
慌てて止めようとするピーターパンに鋭い視線を贈ると、ウェンディは持っていた針を赤ズキン達めがけて投げた。
「フン、このようなもので我を倒せると思ったのか?」
冷静にそれを避け、赤ズキンはつまらなさそうにウェンディを見て、反撃に移ろうとする。
が
「何!?」
「あ、赤ズキンちゃん!動けませんよ!」
動揺する赤ズキンと狼に、不敵な笑顔のまま、ウェンディはゆっくりと近づいていった。
「本当は決勝戦で使うつもりだったんだがな。俺の二つ名、聞いてなかったか?」
その笑顔に、赤ズキンは思い出したように、かすれる声で呟いた。
「影、縫士……。そうか、そういうことか」
「え、な、なんなんですか?」
全く分からないと言った様子の狼は無視して、ウェンディは赤ズキンを見つめた。
赤ズキンも悔しそうにウェンディを睨む。動けるようになったら一瞬で決めるつもりだ。
「そう、リングっつーのは客からよく見えるよう、ライトが多い。影は薄れるが、消えるわけじゃない。なんせ、真っ暗な中の影を縫った人間だからな」
「フッ、我が負けるか……。それも、面白い」
「赤ズキンちゃん?」
体から力を抜く赤ズキンを、狼は心配そうに見た。
しかし、それが定めなのか赤ズキンもウェンディも狼を無視している。
赤ズキンはふっと苦笑し、ウェンディを力のこもった視線で見つめた。
「さあ、そなたの勝ちを皆に示せ」
「なかなかに骨のある餓鬼……いや、相手だったよ。またやろうぜ」
その言葉と同時に、ウェンディの右拳が赤ズキンを宙へ飛ばした。
「おーと!!赤ズキンがやられました!あれはウェンディの特性、《影縫い》です!」
「ほう、《影縫い》とは、相手の影を地面に縫いつけ、動けなくする技なのじゃな。まるで忍者の忍術の様じゃの」
かぐやは感心したように赤ズキンの影を縫い付けていた針を見た。
「はい、元々は飼っていた犬がピーターパンから盗ってしまった影をピーターパンに付けなおしてあげたというものですが、なかなかカッコイイ技になりましたね!」
「そうじゃの。しかし、これで決まったようじゃ」
かぐやはリングを見て、微笑んだ。
「勝者、ウェンディ(とピーターパン)!!」
わきあがる歓声の中、倒れた赤ズキンの元へウェンディはゆっくりと歩み寄った。
赤ズキンもそれに気づき、勢いを付けて起き上がり、ウェンディをみる。
「いい勝負だった。ありがとうな」
「フン。それはこちらのセリフだ。まだまだ、強い者がこの世界にはいたのだな」
二人は、がっちりと握手した。
「いやあ!いいですねぇ。戦いの中で認め合う二人!両者とも、武士道です!」
「まあ、約二名が置いてけぼりのようじゃがのう」
がっちり握手をしている二人に、会場から大きな声援が送られていた。
「この試合結果を、どうみますか?」
「ふむ。ウェンディは本人が言っていた通り、奥の手を出してしまったことになる。それをどうカバーしてこの先闘っていくかが腕の見せ所じゃの」
雪女はかぐやの言葉に大きく頷いた。
「ありがとうございます!では、一回戦第二試合です!」
雪女の言葉にティンカーベルが続けた。
「はい!で二回戦はお姫様同士の戦いです!死にかけた回数なら世界一!不死との噂も囁かれる美少女《紅色乙女》白雪姫&夫にしてガラスの棺を用意する変人さん《死体愛好家》王子対掃き掃除からスナイピングまで掃除ならなんでもお任せ《灰色掃除屋》シンデレラ&愛のためなら相手の身の安全はオール無視!《冷酷タール》王子です!」