第一幕ー捌
次の日の朝、食卓にて洋介は不機嫌な顔で朝食を食べていた。
『若様、朝から何を不機嫌にされているんだ? 今日はアヤメは布団にもぐりこんでいないのだろ?』
雪風はそんな洋介の様子を見て首を傾げながら、疑問口にする。
『昨日の稽古で負けたのが、悔しいそうだ』
雪風の疑問に対して紅蓮が静かに答え、桔梗が無言で頷く。
「聞こえてるぞ。紅蓮」
『はっ! 申し訳ございません。若様』
睨み付ける洋輔の言葉に対して紅蓮は膝をつき謝罪を述べる。
それを聞くと洋輔は視線をテレビに映して、再び箸を進めて食事を食べる。
「昨日は絶対、二人から一本取れると思ったのになぁ」
「まぁ、まぁ、洋輔様、過ぎたことはいつまでも気にしていてもしかたありませんよ」
愚痴りだす洋輔に対してアヤメはお茶碗に新しいご飯をよそいながら、なだめに入る。
基本的に次期頭首という点の教育方針から、精神年齢が同年代と比べると少しばかり、オチつてい見えるが、前記で述べたとおり結構沸点が低かったり、こうした勝負ごとに対しては結構負けず嫌いな面が強くあったりする。
「そうだけどよ。お前は悔しくないのかよ?」
「万全を尽くしたので悔しいと言えば、悔しいですが、それで今回の稽古はダメだったのら、次はそれを超えられるだけ万全を出せばいい。それが主様の軍師としての私の意見です」
彼女も普段は洋輔の沸点の低さに引っ張れることが多いが、勝負ごとに関しては、無論負けるのは嫌だが、軍師としてあり方のほうが強く出る。
そういった彼女の意見や切り替えの早さが勝負に負けて不機嫌になった状態の洋輔を宥めて沈静化さている。
まるで普段の彼女のストーカー具合にツッコんでいる洋輔とは立場逆転している。
といより、小太郎や桔梗的にはこうした側面を普段から出してもう少し落ち着いてほしいというのが、本音だがここは空気を読んでいわないのが花だろう。
でいないと現在、背後でそのこと口に出しそうになって、紅蓮からスリパーホールドで首を絞められている雪風の二の舞になり兼ねいので……
ちなみに、前の稽古の次の日にもこの光景を見て雪風は、空気読まないにことを言って紅蓮からシャイニングウィードを食らい居間の天井まで蹴り飛ばされている。
『次のニュースです。先日、脱獄した武蔵坊弁慶と鵺島高等学校の陰陽科の生徒が昨夜遭遇し、討滅に入ったようですが、生徒は敗戦し、そのまま武蔵坊弁慶は逃走したようです。こちらはVTR映像が届いているのでそちら方をご覧ください』
ニュースアナウンサーが原稿を読み上げると映像が切り替わり、画面右側には背中に籠を背負い中には大量の刀を入れた僧兵とカブトムシを組み合わせた巨人が立っていた。
それに退治するように画面左側には大百足、百々目鬼、石蛸の司機神が立っていた。
三体の司機神に対して一斉に突撃をかけるのに対して、弁慶の司機神は背中から三本の刀を抜き取り、突撃をかけてきた三体に振るう。
すると、三体いとも簡単に力尽き自らの主を排出しデフォルメ状態へと移行する。
その光景を見て弁慶の司機神は、三体と三人を見下ろして立ち尽くす。
別段、勝利の余韻に浸っている訳でもなく敗者である彼らにとどめを刺そうとしてるわけでもなく、単純にあまりの弱さにポカンとしているだけである。
そこで映像が切り替わりニュースキャスターが映し出されるが、先ほどのVTR映像の弁慶と同様にポカンとしてまっている。
それはテレビが目の前で映像を見ていた洋輔達も画面を見てポカンとしていた。
「はぁ、これは先輩の引き籠り長引くな」
我に返った洋輔は、VTR映像に対して苦笑いを浮かべながら、ぽつりと感想をもらすと、アヤメや紅蓮達も無言でなずく。
もっとも、このVTR映像を見た人物は弁慶やキャスター達と同じリアクションを取っている。
「それにこれじゃ、姿くらいしかわかりませんね」
「あぁ、俺達、そろそろ学校行くわ」
洋輔が箸を置き、席を立つとアヤメもそれに続き箸を置いて席を立つ。
それと同時に紅蓮もスリーパーホードルを解除し雪風の首を離すと洋輔達の後に続く。
『あいつ、VTRで呆けている間も力を抜かなかったぞ。死ぬかっと思った』
「まぁ、自業自得だろ」
首をさすりながら浮遊する雪風に小太郎は、呆れながらそう言って卵焼きを口にする。
『お前、それが長年連れ添った相棒に言うことか?』
「だいたい、お前は頭が固いと言うか、いちいち一言多いんだ。それで拙者のこの間の見合いも……」
雪風の言葉に対して返すと同時に小太郎は先日、雪風の余計なひと言が原因で破談になった見合いを思い返して、涙目になる。
ついでに言えば、1000年以上生きており、小太郎のお見合い回数は500回以上に上るが、ことごとく失敗している。
基本的には、雪風の余計なひと言が原因で相手を怒らせるというのが、そう場のオチである。
ちなみに見合い相手は焔家の人脈からの紹介のために失敗と聞く度に紅蓮が、雪風を追い掛け回している。
『だいたい、あいつと比べるとどの相手もお前にはふさわしくない!』
「あいつの話はするな。奴とは縁がなかったんだ。縁がな!」
雪風の言葉に対して小太郎は不機嫌そうな声色で告げ、雪風を指で弾くとテレビ画面に視線を移す。
そんな自ら主の姿を見て『なんか、忘れようとしていて必死になり過ぎて、相手にも失礼だし、見てられんのだよ』と雪風は誰にも聞こえないように小さな声で呟く。
「今朝のあの映像で何かわかったか?」
「いいや、ただ弁慶が強いというくらいしかわかなかった」
「あの突撃トリオじゃねぇ」
学校に到着すると陰陽科の生徒達は、今朝のニュースの話題で話していた。
しかし、話題の内容はあっさりとやられてしまった突撃トリオについてだった。
実際にテレビに映った彼らは弁慶に突撃をかまして一発で負け、倒した本人にも呆れられ、見逃される始末だ。
そのため、映像を参考に使用としても単純に弁慶が強いということしかわかず、何の参考にもならない。
「なぁ、洋輔、陰陽科が言っているのって昨日のホームルームで行っていたやつだよな?」
「せっかく、昨日のデートをキャンセルしたのにまだ、対処できないの?」
陰陽科の生徒達の話を聞いた史郎と暦は、洋輔とアヤメに不満を言うが、洋輔は史郎をハリセンで叩く。
それに反面、アヤメは少しばかり呆れた表情を浮かべる。
彼らにとってはそれが続くことによって自分たちの行動が制限されるといこの方が不満なのだろう。
実際、史郎にしろ暦にしろ今回の一件に対して、自分たちが何をする訳でもなく、積極的に関わるわけでもないので近いところで起きた事件だが、いまいち実感がわかず危機感が薄い。
この危機感の薄さは史郎と暦だけではなく一般生徒達の多くが持っているものである。こればかりは、事件の解決に挑まなくてはならない陰陽師と解決に挑まない一般時との当事者意識の違いとしか言えないだろう。
歳が同じとは言え、当事者と部外者で意識の向け方と言うのは、こうも違ってくる。
あくまで、部外者である彼らはあくまで守ってもらう立場であり、周囲から飛び交う情報をもとに割と好き勝手言うことができるのだから。
「お前らなぁ、そんな簡単に解決できたら誰も苦労してなねぇよ!」
「というか、二人とももう少し危機感を持たないと絶対痛め見るわよ」
二人の態度にあからさまに激昂している洋輔に対してやや冷たくアヤメは言い放つ。
確かに、洋輔の言うとおり、たった一日でことが片付いたら、最初の時に封印でなく討滅と言う形で事態は解決している。
それができ簡単にできないから、今まで封印と言う形でどうにか事件を解決してきたのだから……
そして、アヤメの言うとおり、幾ら実感がわかないからと言ってももう少し彼女たちはもう少し危機感と言う物を持つべきでしょう。
なんせ、本日もこの二人、ニュースを見ずに登校し、弁慶との戦いがあったことを言ったのも今、陰陽科の生徒達が話しているのを聞いて初めて知った。
というか、若いうちからちゃんとニュースを見て世の中のことを知っておかないと将来、絶対に苦労する。
そんな感じに洋輔とアヤメが二人に注意しているとチャイムが鳴り、生徒達は皆、席へとつき始めた。