第一幕ー五
「いくぞ! 紅蓮!!」
『はぁ、もうなんか好きにしてください』
生徒達が各自班になり、バラバラに動き出す中で紅蓮は半ばもう諦めた態度で、沸点の低い主の投げつける札を受け入れる。
すると体がデフォルメチックな侍から武骨で重厚感があり、兜と胸部は獅子の顔を模った赤い鎧を着た5階建てのビル位の巨大な鎧武者に変化する。
「桔梗もあなたも!!」
『……紅蓮、帰ったら二人で小太郎と雪風に怒られよう』
桔梗もそんな若君に随従する自らの主の札を受け入れながら、帰ってからのことを口する。
紅蓮と同じく桔梗もデフォルメチックなクノイチから、狼の仮面を付けた桔梗の花を思いここされる紫の忍び装束を着た4階建てビル位の巨大なクノイチの姿へと変化する。
「うちらもだ!」
大百足の号令に従い百々目鬼や石蛸も各々司機神に札を張り付ける。
こちらの三体は、紅蓮や桔梗とは違いやる気に満ちた姿勢だ。
三人の司機神は、陣傘を頭にかぶり長槍を装備し、まるで時代劇で出てくる足軽の様な装備をしている。共通点は多いが、体に各々の主となる妖の特徴を取り込んだ約10m位の巨人へと変化する。
例としては石蛸の司機神は下半身が足八本の蛸のものになっている。
五体の司機神の巨大化が終了するのと同時に洋輔達が新しい札を取り出すと、体が光の玉に包まれて司機神の体へと吸収される。これで五体とも戦闘準備が整った状態となった。
ちなみにこの大きさはこの場にいる司機神の多くに言えることではあるが、施設上の都合もあり、本来のサイズよりも小さく、また鎧等の外観の装備も本来の形態とは違うものである。
あくまで、学校の地下訓練場という狭いスペースに合わせて使用と外観である。
先ほどまでのデフォメチックな姿が日常生活でのセーブモードなら、こちらは授業ようでのセーブモードである。
「にしてもやっぱり狭いな」
「えぇ、それにこの状態だと、技も策も制限されますしね」
セーブモードなため、当然、全力での時と比べるときは、技も能力にも制限がかかる。
それにサイズの制限がかかっている司機神が多く収容されていたるが、約10m以上の巨体が集まっているため、空間的に狭い。
洋輔が昼休みに実技の授業に対して、ゲンナリしていたのは、この狭さが理由である。
それに他の生徒の司機神を巻き込まない、巻き込まれないようにするため、策にも制限がかかる。
「ははは、お前らと違ってうちらは、制限なしの全力だ」
一方で、制限が必要のないこのサイズが全開の制限なしのものも存在している。
それにより、大百足は既に洋輔達に勝った気で高笑いを上げている。
他の二人も大百足と同じく既に勝った気でいる。
司機神達も戦闘態勢はとっているが、どこか余裕というか、相手を舐めきった雰囲気を醸し出している。
『はぁ、行くぞ! 桔梗』
紅蓮がそんな三人の態度の呆れながら、刀を抜き、構えると、それに続き桔梗もクナイを両手に一本ずつ持ち構えをとる。
それと同時に石蛸の司機神の足が全て、紅蓮達に向かって一直線に伸びてくるのと同時に、他の二体が地面を勢いよく蹴って、突撃をかける。
「相変わらず、わかりやすい正面突破ね。桔梗!」
『……砂塵壁』
アヤメが札を一枚取り出すと、桔梗が印を結び、手を正面にかざす。
すると砂嵐が侵攻を妨げるように正面に砂嵐を起こり、石蛸の足を弾く。
しかし、大百足と百々鬼の司機神は、砂嵐をつっきて突撃を続行する。
これは五行において土は水に対して強く、そのため、五行において水の力を行使する石蛸の技は土の力を使うアヤメには効き目が薄く、こうして弾くことも可能だ。
それに対して、同じ土の力を持つ大百足や金の力を持つ百々鬼には、水ほど大きく発揮する訳ではないため、ダメージは受けるが、突破することも不可能というわけではない。
『『だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』』
『ふんっ!』
そのまま、つっこんできた二体は力任せに薙刀を振りかざすが、紅蓮に刀で簡単に弾かれる。
勢いに乗せた攻撃だったので、弾かれた反動で二体ともバランスを崩してヨロケテしまう。
「紅蓮!」
『御意に!』
その隙を逃さず、洋輔が出した指示に反応し、紅蓮は刀を持ったまま、百々目鬼の司機神に回し蹴りをくらわす。
百々目鬼の司機神は回避が間に合わず、直撃を受けてそのまま隣にいた大百足の司機神にぶつかり、そのまま、二体とも転倒する。
『はっ!』
転倒した二体に向けて桔梗が大量のクナイや手裏剣を投げつける。
「やばっ!」
「ちょっ、まっ、うちら、横に倒れたら、簡単に起き上がれねんだよ!」
それを見た百々目鬼は司機神を起き上がらせて、一人、起き上がれない大百足を置いて後ろに跳んで離脱する。
何とか起き上がろうとしていたが、そのまま「ぴぎゃ!」という短い悲鳴を上げながら、大百足はクナイと手裏剣の雨を浴びる。
それでも、同属性なうえに種族として体も固く、フルパワーな分、ダメージはある程度は軽減できている。
「お前の仲間は、一人で逃げるとか薄情だな」
「それに毎度おなじみの全力での突撃って、通用すると思っているですか?」
一人置いてかれ、何とか起き上がろうとうねうねと司機神を動かす、大百足に対して同情半分、呆れ半分に洋輔とアヤメは、声をかける。
「うっ、うるさい。いつもは、だいたいそれでどうにかなるんだよ」
大百足はそのままの姿勢で、怒鳴りながら槍を振るが、届いてない。
確かにいきなり三、四人で勢いよく全力で突撃をかけられば、確かに相手に怯むだろう。
「あっ、そうかよ」
『はぁ!』
洋輔は興味を示さずに冷たく返し、札をかざすと紅蓮の右足に炎が燃えがある。
紅蓮は勢いよくサッカーボールを蹴るように、うねうね動いている大百足の司機神を蹴り飛ばす。
「ちょっ、一人? あいつは?」
「ごめん、突撃失敗したうえにコケたから、置いてきた」
一人、砂塵の向こうから出てきた百々目鬼に尋ねる石蛸に短く謝罪と状況を告げる。
次の瞬間、ボン問い短い爆発音ともに砂塵の向こうから、少し焦げた大百足の司機神が、飛んでくる。
「よかった。無事だったんだ」
「これのどこが、無事に見えるの?」
飛んできた大百足にかける百々目鬼に対し、石蛸は冷静にツッコみを入れる。
「おーい、すまない。起こしてくれ」
「はい、はい」
うねうね動きながら、声をかける大百足を、石蛸は足を使って助け起こす。
その光景を横から見て、百々目鬼は二人には聞こえない小さな声で「きもっ」と呟く。
「それにしても、おまえなぁ。リーダーであるうちを置いて一人で、逃げるってどういう領分だ!」
「だって、あったら痛いじゃない」
詰め寄る大百足に対して、百々目鬼は全く悪びれることなく返す。
それを聞いて大百足のさらに怒りをあらわにする。
「だいたい、いつからあんたがあたしらのリーダーになったんだ? 命令できるのはご主人でしょ?」
「あぁ! うちの家が一番、長く仕えているんだ! この場合は当然、うちがリーダーに決まっているだろ」
百々目鬼の質問に対して、大百足はさも当然のような態度で答える。
「お前の家なんか、ご主人の家に仕える前なんてケチなスリだろ! 生まれも歴史からもうちの方が上なんだよ」
「ぐぅっ!」
大百足の挑発的な言葉に対して、歴史を重視している彼らの性質上、百々目鬼は言葉を詰まらせて黙り込んでしまう。
もっとも納得してはおらず、大百足を体中の目で睨み付ける。それに対して、負けじと大百足も百々目鬼を睨み返す。
「ふっ、二人とも落ち着い……」
「戦闘中に喧嘩とか随分と余裕ですね?」
険悪な雰囲気を醸し出す二人の間に石蛸は間に入ろうとするが、背後からアヤメの声が突然聞こえてきた。
そのまま振り返ることもなく「えっ?」という短い驚きの声だけを上げ、背中にクナイで一閃、斬られる。
属性的な不利ものあったが、背後からの一撃をまともにくらってしまったのが、致命的なダメージとなった。
そして、ダメージに耐えきれなくなった石蛸の司機神は、自らの主である石蛸と分離し、巨人の姿から先ほどまでのデフォルメチックな姿に戻る。
「まずは一番厄介なの撃破っと」
アヤメは、余裕の笑みを浮かべてながら、石蛸と気を失っている彼女の司機神を見下ろす。
「こんのぉ!」
それを見た百々目鬼は、自らの司機神で桔梗に力いっぱい槍を突き刺す。
次の瞬間、どろりと溶けだし、桔梗は泥の塊へと変貌する。
『……泥分身』
その少し右に連れてたところには桔梗が腕を組みながら、姿を現す。
どうやら、百々目鬼の司機神が、槍で刺したものは、泥で作られた分身であり、本体は、石蛸を倒したあと、姿を消していたようだ。
「あっ、くっ、嘘!? 抜けない!」
それを見た百々目鬼は、司機神に槍を抜くように命じるが、泥の塊に力いっぱい刺した槍は、幾ら引っ張っても、なかなか抜くことできない。
しかもこれは、単なる泥の塊のではなく桔梗の能力で作られた泥の塊である。
そうそう、簡単に抜くことはできない。
「やった! 抜け……」
『烈火一文字!』
泥から槍が抜けると同時に紅蓮が炎を纏った刀で、百々目鬼の司機神を縦に斬る。
この一撃により、火に弱い金の力を扱う百々目鬼の司機神は、石蛸の式神と同様にダメージ限界を超えて、主と分離し、デフォルメチックな姿に戻る。
「こんのぉ!」
不意打ちに連続で仲間を倒された大百足は槍を回転されながら、技を放ったばかりで、硬直している紅蓮に司機神を走らせる。
「行かせませんよ!」
が、真上から桔梗に跳び蹴りをくらわされて、倒れないように踏ん張るために足を止めてしまう。
『だぁ!』
そして、次の瞬間には炎を纏った紅蓮の右足で再び蹴られて、爆炎ともに蹴り飛ばされる。
「なんの!」
今度は横に倒れていなかったことにより、着地に成功して綺麗に直立姿勢を保つ。
着地点で勝ち誇った顔を浮かべて、そのまま大百足は立ち尽くす。
「これでいいんだろ? アヤメ」
「えぇ、作戦通りです」
そんな大百足に対して、涼しい顔して洋輔が尋ねるとアヤメも涼しい顔をして答える。
「ごめん! 避けて」
次の瞬間、木の蔦が大百足の司機神を貫いた。
「へっ?」
状況が理解できずに大百足は目を丸くしながら、左右を確認する。
右側には蔦を伸ばして申し訳なそうにしている司機神がおり、左側には自分の司機神と同じく蔦に貫かれている司機神がいた。
どうやら、他の学生たちの模擬戦へと吹き飛ばされて、その巻き添えをくらったようだ。
しかも、アヤメはこれを洋輔に作戦通りと答えた。つまりは、蔦を見抜いていたかは、不明だが、見事に術中にはまったのだ。
「この卑怯者ぉーーー!」
それを悟った大百足はダメージ限界を超え自分を分離されるなか、叫び声をあげる。
「卑怯者ってれっきとした作戦だよ! 作戦!」
「えぇ、作戦は周囲の状況や物も把握して、それを利用することも考慮に入れて立てるものですよ」
大百足の言葉に対して、洋輔もアヤメも呆れた感じで冷たく返す。
言い方にして、棘はあるが戦いにおいて理が適っているのは、アヤメである。
戦いにおいて、状況を把握して立てて使い分けること大事である。
某大作RPGにおいても、作戦コマンドは複数あり、状況に応じて使い分けられるようになっている。
その中で、同じコマンドだけを連打していたら、全滅は必至である。
「おっ、チャイムだ。教室戻るぞ」
「はい、洋輔様」
授業終了のチャイムが鳴ったので、未だに文句を言っている大百足たちをよそに紅蓮達と分離して、デフォルメチックな姿に戻す。
「こっ、この女ァ! 何のため班分けだよ!!」
「えぇ、確かにそうですけど、別段ルールに反してはいないわよ」
「違反はしない。違反はなな」
そんな洋輔達の態度の気に入らない大百足たちは、司機神と同様に突撃をかまそうとする。
しかし、そのことをアヤメに読まれており、彼女のまいたマキビシを踏んでしまい、足止めをくらう。
「本当に行動がわかりやすい三人ね」
まきびしを踏み叫び声をあげる三人に対して、アヤメは黒い笑みを浮かべ、洋輔と一緒に教室を後にする。