第一幕ー肆
学園の地下には、陰陽科の実技スペースとして広大なスペースが用意されている。
実事授業の多くには、司機神の力を解放させて巨大化させての実技がとり行われているからである。
一応、授業の一環なので解放といっても完全ではなくある程度は抑えた生徒から死者が出ない程度には威力や能力は抑え込んでいる。
また、実技事業の余波で上にある一般生徒達や教室に被害が出ないように実技スペースには、結界と特殊な霊石で処置を行っているため、外への被害は最小限までに抑え込まれている。
ちなみに陰陽科の実技の授業は、学年ごとだったり、クラスごとだったり、陰陽科全体だったりとわりとその時々の時間割次第で参加する人数が変動することが多い。今回は、学年ごとによるものである。
「おい、焔! 昨日はよくもうちらの獲物を横取りしてくれたな!!」
広い空間の中で三人組の妖の集団が洋輔に近づき、中心の妖が大きな声で絡んでくる。
絡んできた三人組の中心となる妖は、男子の制服を着ているが、体中に赤い鎧ようなものに包まれており、頭には長い触角生えており、下半身は明らかに人間のもではなく蛇のように長く伸びているが無数の足が生えており、百足を連想さる外見をしている。それもそのはず、彼は百足の妖、大百足である。
残りの二人は、髪はセミロングでスタイルもアヤメには劣るがそれなりに整っており、女子の制服を着ているが体中が目まで覆われているは百々目鬼と髪はショートでスタイルも顔も平均的で同じく女子の制服を着ているが下半身は蛸となっている石距で構成されている。
三人ともすごい剣幕で司機神ともどもいきなり洋輔を睨み付ける。
「昨日? なんのことだ?」
「しらっばくれるな! あしたらが追ってた窃盗団横取りだろうが!」
気だるそう尋ねる洋輔に対して百々目鬼は先ほどより、より強い怒気を込めて睨めつけながら怒鳴る。
体中にある瞳が一斉に怒気をのせて睨み付けているのは、実際に睨んでいる人数の倍の数に睨まれている感覚を錯覚されるものがある。
「あれ、お前らが追って奴なのか? それは悪かった。ごめん」
しかし、それすら気にすることなく洋輔は軽く謝罪する。
こういった視線を感じても特段気にしないのも人と妖が共存による影響のようなものなのだろう。
目の前で自信を睨み付けているのが複数の目を持つ百々目鬼という種族だとわかっていれば、なんてことないのだろう。
「ごめんで済むか! よりによっても一番の大物である頭領を横取りして!」
そんな彼の態度に対して石蛸はさらに怒りを増長させて怒鳴る。
どうやら、昨夜(冒頭)にて洋輔、アヤメ、小太郎の三人が倒して妖は元々彼らが追っていた窃盗団の一人だったようだ。
しかもその中でも一番の大物だった頭領を洋輔達が撃破した。なので、彼らの怒りは当然といえば当然である。
「そうはいっても、お前ら雑魚を全部倒したあたりで、全霊力を使い果たして力つきてたじゃん。なぁ、アヤメ」
「えぇ、あたしの読み通りでした。おかげで効率よく一番大きな獲物を打ち取ることができました」
「ってか、お前、うちらの獲物だってやっぱ知ってただろ!」
三人対して呆れた感じで返答する洋輔に対して、黒い笑みで相づちを打ちながら答える。
つまるところ彼女は彼らが窃盗団を追っていることを知り、彼らが途中で力尽きるということも計算に入れて頭領を打ち倒す作戦を立てていたのである。
それを聞いて、三人の怒りは苛烈を増し、さらに怒気を帯びた視線を洋輔達に向ける。
要するに自分たちは完全に利用されていたのだから当然である。
「つーか、お前ら雑魚相手に大技を連発しまくって最終的に俺らがあそこで仕留めに入らなきゃ撃破どころか取り逃がしてたろ」
洋輔の指摘に対して三人は先ほどまでの怒りに満ちた顔から苦い顔に打って変る。
要する、わかりやすくいってしまえば、テレビ番組に地球上で三分しか戦えない光の巨人が、エネルギー消費の大きい技を連発してまくってしまい肝心な怪人を目の前にして力尽きて変身がとけてしまったという図である。
人の獲物を横取りした洋輔達の行いが決して良いとは言えないが、頭領を逃したことによるのちの被害について考えると結果的に言ってしまえば問題はない。
「だいたい、何でもかんでも力任せの正面突破で勝てるわけないでしょうが、時と場合を考えて作戦を立てることも大事ですよ。別にそれが悪いと言いませんけど」
アヤメは追い打ちをかけるように三人に辛辣な言葉を投げかける。
確かに彼女の言うとおり、力任せの正面突破が悪いわけではないが、何でもかんでもそれで勝てるかというと世の中そんなに甘くはない。
時と場合を考えて作戦を立て状況に応じて使い分けることも大事だ。いついかなる時も力任せに行動し、肝心なところで力を使い果たしてしまったら意味がない。
何より、こっちが力任せの正面突破で挑んだとしても向こうが合わせてくれるかというとそうではないのだから。
「うっさいなぁ! 熱い意志と情熱があれば大丈夫なんだよ!」
「つーか、お前ら獲物横取りするから、うちらご主人、また寝込んじゃったじゃないか!」
「はぁ、先輩、また寝込んでるのかよ」
「というか、熱い意志と情熱があれば大丈夫なら歴史上に軍師なんてもの登場しませんよ」
ヒートアップする大百足と石蛸の言葉に対して洋輔とアヤメ完全に苦笑いを浮かべている。
アヤメの言うとおり“熱い意志と情熱”だけでどうにかなるなら、諸葛孔明や黒田官兵衛など軍師が歴史上に名を残すはずがない。
それ故に作戦を立てることや、それ考える軍師の必要さは歴史が証明している。
それにテレビに出てくるヒーローたちも時と場合によっては一見、卑怯とも呼べる作戦を用いり、そして勝ちを収めている。
彼がそれでも人々に称賛されるのは、負けられない戦いを戦い抜き、人々の笑顔と多くの命を守るという強い意志と覚悟を持っているからである。
そして、それは現実における犯罪を犯す妖や堕ち人と戦う彼らにも言えることである。違いがあるとすれば、フィクションとは違い、現実はそこまで優しくなく実際にやれば、こうして他人から批判されることも当然ある。
「これだから、歴史も浅くて盟友も下法に手を出すような一族は嫌なんだ」
「はぁ! 歴史が長くたって大した実績ないうえにその下法を使う一族すら盟友がいない一族の使いぱっしり風情が俺の幼馴染を何、貶してるんだ? おい!!」
「えぇ、そうですよ。それが原因であなた達の一族しか配下がいないじゃないですか。例え、下法に手を出していたとしてもあの子が上げた功績はあなた達よりも上ですよ。それなのになにあの子の一族を侮蔑してるんですか?」
百々目鬼の言葉に対して今度は洋輔とアヤメがえらく怒気のこもった言葉を彼らに向ける。
それこそ、先ほどまでの彼らに対しての呆れていた態度が嘘のように怒りで満ちていた。
洋輔自体、一見年齢に対して大人びて見えるが、それはあくまでアヤメや妖に関することのみである。この二つに関しては長年の慣れと焔家次期党首として育て上げられた教育よるものである。
そのため、こうした友人をバカにされたりすれば、普通にその相手に対して怒りをあらわにする。
二人の怒気に対して三人とも飲まれて一瞬後ずさりするが、負けまいと睨み返す。
「アヤメ、こいつら潰そうか。昨日の出来事なら、まぁ、こっちにも多少は非があるから黙っていたけど、さすがにこれは我慢できない」
「そうですね。少し痛い目を見てあの子を侮蔑したことを後悔さてあげましょう」
二人とも札をと出して構え、それに対抗すべく三人も札を取り出して構える。
しかもこうしたことに関しては、普段の年齢に対して大人びた態度に取っていることにより、溜まっているストレスも兼ねて沸点は極めて低くすぐにキレて怒鳴り、実力行使に訴え出る。しかもアヤメも止めることなく彼の行動にたして随従する。
『若様、落ち着いてください! この手の挑発は今までも何度もあったじゃないですか!』
「その度に俺とアヤメでそう奴らは潰したけどな」
『……でも、相手していたらきりがありません』
「そうはいっても桔梗向こうの司機神もやる気満々みたいよ」
慌てて主たちを止めに入る紅蓮と桔梗に対して、三人の司機神達は主を止めることなくやる気満々の視線を紅蓮たちに向けている。
それと同時に授業開始のチャイムが鳴り担当教師が部屋へと入ってくる。
「おー、なんか知らないけど今にも一触即発になりそうな雰囲気だな」
『申し訳ございません。教官殿、開始前からこのよう醜態をお見せして』
入ってきた教師に対して紅蓮は謝罪の申し訳なそうに謝罪の弁は述べる。
「まぁ、今日は実技の内容は生徒同士の班を組んでの模擬戦ということにして、この一触即発しそうな雰囲気は、なかったことにしよう。ということで、各自に班に分かれて模擬戦開始ね」
紅蓮の謝罪の言葉を一蹴して見なかったことにして、授業の内容というとことにして思いっきり、自分の責任を逃れようとした。
それを聞いて他の生徒達も教師の指示に対して、生徒達も各自班を作りはじめる。
いや、他人の喧嘩を止めに入るのは面倒なのはわかるけど、教師なんだから止める動きは見せなさいな。
『おい、こら教師ィーーーー!!』
そんな中で教師の態度に対して紅蓮の叫び声が、教室全体に虚しく響き渡る。