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司機神  作者: bb
第一幕
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第一幕―壱

 第一幕


「この駄犬! また、俺の布団に忍び込みやがって!!」

 早朝、まだ、新聞配達が朝刊を配っている時間に日本家屋の一室からえんじ色の瞳に茶色い紙をした少年、(ほむら)洋輔(ようすけ)は布団中に忍び込んでいた侵入者を怒鳴り散らしながら蹴りだす。

 そのまま、蹴りだした侵入者を睨み付ける。

 視線の先にいる侵入者の姿は黒い長髪ではあるが、前髪に白いが縦一直線のメッシュが入っており、瞳の色は琥珀色でぱっちりとしていた。

 体つきは、胸は大きく腰からウエストのラインも引き締まっており、肌も白く清楚で、どこなく大和撫子という名称がよく似合う姿をいる。

 だが、それよりも彼女の中で最も特徴的なのは、頭とおしりに生えている犬の耳と尻尾である。

 そう彼女は、人間ではなく(いぬ)(がみ)という種族の妖である。

 正確には狗神そのものは、妖一種ではなく、犬の魂を媒介にした呪術の一種である。その魂を調伏し、陰陽師である洋輔の先祖が自らの一族、焔家の従者へして土門の姓と実体を与え従えたものである。

 彼女はそんな土門の一族の長女であり、洋輔の直属の従者、アヤメである。

「いいじゃないですか? これくらいちょっとした主従のスキンシップですよ。洋輔様」

 アヤメ主である洋輔の怒気をものともせずにケロリとした表情を浮かべる。

 犬の魂を媒介にした一族であるその特性として当然、主である洋輔に対して、強い忠誠心をもっているが、それ以上に洋輔に対して強い恋愛感情を持っている。

 もともと、元気がよく物事に対して積極的な性格の持ち主であったため、それが拍車をかけて歯止めがきかなくっている

 なので、清楚な見かけとは裏腹に夜な夜な洋輔の布団にもぐりこむという行動をほぼ毎日おこなっている。

 人と妖の共存化も昔と比べ、半妖(はんよう)と呼ばれる人と妖の間に生まれたハーフも昨今珍しくもなく、身分を重視していた昔ならともかく今は21世紀である。

 昔ほど主従の間での恋愛に対して口うるさく(とが)めるようなことはなくってきている。

 そのため、主従の間で結婚し子供を設けた陰陽師である従者の妖も多くいる。

 なので、洋輔とアヤメの両親も彼女が主に対して抱いている恋愛感情には問題視していない。

 土門家そのものもアヤメの兄弟が継げばいいので、血が絶えることもないで家の存続としても問題はない。

 ただ、見た目とは正反対のほぼ毎夜、布団に忍び込むというふしだらな行為そのものは、両者の両親も少々問題している。

 というか世界中どこを探してもこんな主従のスキンシップは実在するとは思えない。

『若様、朝からうるさいぞ!』

『……近所……迷惑』

 洋輔の部屋に突然、赤い獅子を模した武者と狼とクノイチを掛け合わせたデフォルメチックの大きさ20cmぐらいの物体が宙に浮いた状態で現れ苦情を言う。

 武者の方が紅蓮、クノイチの方は桔梗という冒頭で戦っていた巨人と同一の存在である。

 紅蓮は洋輔の桔梗はアヤメが使役している司機神である。

 なぜ、このような小さなデフォルメチックな姿をしているかという、共存化が進み街のあちらこちらに建物が密集しているため、戦闘用の姿に常時必要もなければ、あの強大な姿にいても通行の邪魔になるので、力を押さえてこの小さな姿になっている。

 また、こうした近代化とは逆に戦乱に世において、陰陽所も妖もかつては、自分で新しい司機神を作りだし使役していたが、戦乱が進むに連れて、若い陰陽師が即戦力になるように、祖先が作った司機神を子孫が契約を受け継ぐ形で再度、使役する形がとられてきていた。現代においてもこのやり方は、後発の育成には適した形式なので受け継がれている。

 その際、契約した術者の影響で若干形が変わったたり、力量によって司機神の能力に多少の制限はかかるが、知識や経験はそのまま残るため、安定した状態で即戦力の確保はしやすくなっている。

 紅蓮も桔梗もそうした形式で受け継がれ契約してきた司機神である。

 紅蓮は正確にいってしまうと、焔家が作り出した司機神ではなく焔家の盟友であった人間だが、諸事情により同じく五行において火を扱う焔家に託したものである。

 焔家が火の五行から作り出した司機神が存在しているが、昔の戦で大きなダメージを受けてうち一体は休眠状態でまた別の一体は戦闘のダメージで消滅している。

 ちなみにいうとアヤメの土門家が使役している桔梗は土門の名の通り土の五行の力を持つ司機神うちの一体だ。

「文句は俺言うな! こいつに言え!!」

 紅蓮たちに対してアヤメを指さしながら、反論する。

 指さされた先にいる着物が若干、崩れたアヤメ見て二体ともげんなりする。

「あたしはただ、主様がただ冷えないように添い寝を」

「いや、今6月だからな」

『むしろ、冷えるというか暑いからな』

 アヤメの言葉に対して洋平と紅蓮は容赦なくツッコミを入れる。

 しかも、洋輔はどこから取り出したのか不明だが、ハリセンでパンとアヤメの頭を叩いている。

 確かに現在の季節は6月の半ば、まさに梅雨真っ盛りである。

 年頃の男性としては、スタイルの良い美少女と添い寝いうのは嬉しいことではあるが、実際問題、時期的にただでさえ蒸し暑いのに、さらにプラス1人分の体温は暑い。

 一応は、エアコンのドライをつけて寝ているため、湿気は抑え込まれてある程度は涼しくはなるが、タイマー設定において自動的にきれるため、一定時間が来ると暑くなってくる。

「はぁ、今日は晴れてるし、せっかく早く起きたんだし、ちょっと朝練をかねてジョギングでもするか」

 アヤメの行動にため息をつき、窓の外に視線を移す。

 窓の外は雲一つない快晴というわけではないが、梅雨真っ盛りには珍しく晴れている。

 基本、戦闘を行う時は司機神をしようする陰陽師ではあるが、遠くから観戦しているわけではなく司機神の中に乗り、そこから直に司機神をあやつるっている。

 そのため、とうの術者本人にも体力や、司機神たちを使役し能力を発動させるため必要な霊力を向上ために鍛えなければない。

 洋輔は、寝間着のボタンを手にかけるが第2ボタンを外したところで、背中に突き刺さる視線を感じて手を止める。

 後ろを振り返るとものすごく期待した目で凝視しているアヤメがいた。

 因みに洋輔自体の体も鍛えているため、全体的に引き締まっており、整った体つきをしている。

「あのさぁ、着替えるんだけど」

「はい、わかっています。だから、こうしているんです」


「出てけぇぇぇぇ!」


 叫びながら、洋輔はアヤメを部屋から追い出しドアをバンっと力いっぱい閉める。

 そんなアヤメに随従するように桔梗も部屋から出てくる。

 あえて言おう! 普通こう言うのは男女逆なものである!!

部屋を追い出されたアヤメは、頭をさすりながら階段をおりる。

 その顔は追い出されたにもかかわらず、嬉しそうにニヤけていた。

『……アヤメ、ご機嫌?』

「えぇ、まぁ、洋輔様とあつい一夜をすごせたからね」

 どうやら、洋輔の部屋に忍び込み、添い寝に成功させたことにご機嫌のようだ。

 暑いは暑いでも梅雨の湿気による単に蒸し暑い一夜である。

 というよりも、彼女場合は主である洋輔が絡むと頭の中がお花畑かつ、思考回路が残念なのだろう。

 おそらく、先ほどハリセンでたたかれたのも……

『……でも、叩かれて、部屋から追い出された』

「それも私にとってはご褒美だから!!」

 彼女にとってご褒美以外の何物でもないのだろ。

 というか、ドMかと疑われるような面があるが、それとは違うのだろう。

 誰でもいいという変態的なものではなくて、洋輔限定にされたものだ。

 つまり、洋輔以外の誰かに同じことをされれば、普通に怒る。

「お前、洋介様の部屋に忍び込んだな」

 階段を下りた先に灰色に髪に浅黄(あさぎ)色の瞳をした今時、時代劇にしか出てきそうな黒い忍び装束を身に持った青年が呆れた声で言う。

 青年を見た途端、アヤメは苦い顔してその場を立ち去ろうとする。

「別に小太郎には関係ないじゃない」

「確かに」

 アヤメは、そっけない感じで答えて一回にある自室に戻ろうとする。

 小太郎と呼ばれる男は、フルネームは風魔(かざま)小太郎というは1000年以上生きている鬼である。

 その象徴として頭部には、2本の角が生えている。

 もっともアヤメの土門家とは違い調伏された妖ではなく生粋の妖としての鬼である。数百年位前の焔家の当主に命を救われてそれ以来、焔家に忠誠を誓い仕えている。

 現在の役職としては、洋輔のお目付役をしている。ついでに言えば、字面から風魔(ふうま)小太郎を連想させるが全くいいほどの他人である。

 そもそも風魔小太郎を始めとする真田十勇士そのものが、信長復活を目論んだ豊臣に仕えた真田幸村の力の強大さを描く故で作られた創作の存在であり実在はしていない。

 だからと言ってそんな彼に対してアヤメ自身、苦手意識や対抗意識は持っておらず、むしろ同じ主に仕えるものとしての仲間意識を持っている。

 なら、なぜ苦い顔をしたかというと……

『従者の身でありながら、主と同衾(どうきん)するとは不届き選抜! 誠に遺憾である!!』

 彼の司機神である蝙蝠を模した姿をした雪風に対して苦手意識を持っている。

 雪風の考え方はいささか時代遅れで、強いて言えば、古臭い前時代的な思考が強い部分がる。あまつさえ、性格は固く頑固で、今のこのデフォルメチックな姿を承認するまでは時間がかり、その間、小太郎は人里離れた山奥での生活を数年強いられ、現場まで移動時間が大変かかっていた。

 そんな性格なため、主である洋輔に恋愛感情を抱き、現代的な価値観を持つアヤメは強い苦手意識を持っている。

 幼いころは、桔梗を使っての抵抗も試みたが、雪風の持つ五行は木であり、土の桔梗では相性的に不利なく雪風の方が経験で勝ち目が低いく、成長と共に仮に倒したところで戦力的にマイナスにしかならないので現在は行っていない。そもそも自身が雪風に抵抗したところで、桔梗は確実に自身に力を貸してくれないのは幼い頃に実体験として身に染みている。その逆として、小太郎がこの一件で雪風に手を貸さないことも熟知している。

 それに対して小太郎は比較的柔軟な価値観を持っているため、桔梗の恋愛感情にある程度は理解を示している。最もアヤメの行き過ぎた行為に関しては若干、呆れてもいる。

「はぁ、主様はこれから朝練へ、お出になるそうなので、あたしは着替えて奥方様のお手伝いに行ってきます」

 アヤメは雪風の説教を聞き流して桔梗を連れて自室へと再び足を向ける。

 ほぼ毎日、彼女と雪風はこれと似たようなやり取りを繰り返している。

 それこそ、今回のようなことに限ったことではなくアヤメの洋輔への愛情表現について、雪風はあれこれ説教をしている。それこそ、耳にたこができるほどに……

ある意味、嫁入り前の少女が夜中に異性の忍び込んだという貞操観念のだけなら、雪風の方が正論であり、雪風からみれば男女交際は、貞淑かつ清くあるべきなのだろう。

よく言えば、厳格である雪風の説教に対して、似た様ことをやって懲りないアヤメに当然問題があるが、いい加減、彼女は雪風とのこのやりとに対して飽き飽きしてきている。

 そのため、ここ数年は雪風のお説教はこうやって聞き流している。

 そもそも、恋愛に関しては理屈でこうなるものではない!

『おい! こら!! まだ話は……』

「わかった。その間の若様の護衛は拙者が勤めよう」

 説教を続けようとする雪風の口をふさいで、小太郎はアヤメの後ろ姿を見送る。

 比較的に平和になった現在に必要か不必要かというと、あまり必要性は感じないが、焔家は陰陽師としてそこそこ歴史もあり、大富豪とまではいないが、お金持ちとしては中の下ではあるが、結構お金のある一族でもある。

 実際、焔家の屋敷にはアヤメや小太郎だけではなくアヤメ以外の土門一族も皆住んでいる。それくらいのスペースを誇れる広さは持っている。

 そのため、身代金目当て誘拐しようする(やから)や、退治された恨みを晴らそうとする輩が若い跡取りを狙ってくることが時たま起こる。

 そういった輩から、いざという時に跡取りを守る護衛は必要となる。

 基本的には同い年のアヤメが、学校など部外者が入れないところでは、一人でおこっているが、基本的にはお目付役の小太郎との二人で体制を状況に応じて行っている。

 もっとも、小太郎の場合は、外見通り、陰から見えないところでおこなっている。基本的に彼の姿を見せるのは、こうして家にいるときか必要なときである。

 姿を見せらないようにすることができるなら、学校での護衛も当然できるが、そこは学校には他の家の陰陽師の跡取りと従者の妖もいるし、なにより陰陽師でもない一般の生徒もいる。そういった他の生徒達に気を使って小太郎は学校内での護衛は控えている。

 特に気配を感じることのできる陰陽師や妖とは違い一般の生徒は、気配は感じないとはいえ、常時監視されているのは、気持ち的に嫌であろう。

 この関してもやはり雪風は「学校でも自分たち見張るべきだ」と主張したが、なんとか説得した。

 最も、これは焔家だけではなく、どこの家系の陰陽師でも学校内で跡取りの護衛は同年代の妖もしくは同じ学生の妖が勤めている。

「はぁ、雪風もそのかった苦しい性格どうにかならないのか?」

 アヤメと桔梗と入れ違いになるように階段から降りてきたジャージ姿の洋輔が呆れながら言う。

 ジャージに高級品があるかどうかは不明だが、着ているのは学校指定のものではなく、スポーツ用品店に行けば、一着1980円くらいで手に入りそうな安いジャージの赤いものであった。

「『若様、おはようございます』」

 それを見た小太郎と雪風は丁寧に朝の挨拶を返す。

 洋輔としてはアヤメの行動にも困っているが、雪風の古い考え方にも困っている。

『お前が、何事も堅苦しいから、小太郎の見合いがうまくいかないのではないか?』

『紅蓮殿! それはどういう意味か?』

「そのまんまの意味だろな」

 紅蓮の言葉に雪風は声を荒げるが、それに対して小太郎はフォローを入れず、便乗する。

 実際、小太郎自体にも思い当たる節があるからであろう。

 雪風としては、小太郎を思ってのことなのだが、それで見合いを失敗さられたら、たまったもんじゃない。

 それゆえに、小太郎もこの話題に関してはあまり雪風のフォローをしてない。

「まぁ、俺はジョギング行くから護衛の方頼むぞ」

 洋輔はそれをスルーして玄関の方に向かっていき、ランニグシューズを履く。

 どうやら、この話題に関しては食わる気はないようである。

 というより、彼としては下手に触れて回らない方が、小太郎のためだと考えている。

 そのまま、洋介が玄関の戸を開ける当時に、小太郎と雪風の姿が見えなくなる。


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