恋の実
ソノヒトを最初に見たのは、5月。
ラッシュ前の下駄箱で。
ひとつにまとめられた黒髪がハラリ。
甘い香りを残して僕の前を通り過ぎた。
二度目は6月。
7月始めの文化祭の準備で忙しない廊下で。
大声でクラスメイトが不平不満を言っていたところにソノヒトは通りかかった。
クラスメイトはソノヒトにたしなめられていた。
その次は7月。
クラブ棟の前の広場で。
夏の大会前に向けて、吹奏楽部とうちの部の応援の合同練習にて。
ソノヒトはうちの部の先輩と笑顔で話していた。
隣に立っている先輩がうらやましかった。
気がついたら、ソノヒトを目で追っている。
ソノヒトのことを知りたいと思う。
まだまだ青いこの恋の実。
熟れるのは、もう少し先。