オートスティール
「絆さん! 大丈夫ですか?」
「問題ない。かすり傷」
装備が良いからか、受けるダメージは120程度だった。
「ボマーランサー」
しぇりるが攻撃スキルを放ち、持っていた銛の先が爆発し、赤鉄熊にダメージが入る。
おお……カルミラ島のダンジョンじゃ後半だとかなり楽に戦えたのに、しぇりるの攻撃を受けてもビクともしていないぞ。
やっぱ強いんだなこの魔物は。
「よっと! ほ!」
青鮫の冷凍包丁<盗賊の罪人>で切りつけるとズバズバと良い感じにダメージが入って行く。
「おー! 本当にお兄ちゃんの武器、攻撃力たかーい!」
「絆さん。良い武器を手に入れましたね」
「戦闘時は俺以外の誰かが使っても良いんだぞ? 俺は前衛は得意じゃないから」
やっぱ戦闘が得意な連中の動きを見ていると俺が何ランクか劣るのがわかる。
良い武器は戦闘が得意な奴に渡すのも時には必要な事だ。
「さすがにお兄ちゃんから没収するほど落ちぶれてないよー」
「ええ、むしろ絆さんがそれで私達と肩を並べられるなら、それが一番なのですから」
みんなの優しさが染みるよ。
効率的に動けないと罵倒される様な状況は心が荒むんだよねー。
なんて思いながらズバァっと赤鉄熊を斬ると、キンってお金を落とした様な音が聞こえた。
オートスティールが作動したっぽい
鉄鉱石獲得。
「コイツからは鉄鉱石が盗めるみたいだな」
「ああ、その武器、オートスティールがあるんだっけ」
「そうだ」
「良いなー一石二鳥だね」
「ロミナが作った短剣があるから紡も使うか?」
「んー……さすがに熟練度とかそう言った関係から今更持ち替えはちょっとねー」
うん。確かにそれは間違ないのは認める。
攻撃力は俺の持っている冷凍包丁に劣るし。
俺達の中で短剣使いは居ない。
精々どこかで売るのが良いのか?
「むしろアルトさんに渡したら?」
「確かに」
死の商人にこそ、この短剣はふさわしいかもしれない。
今度余裕があったら狩りにでも誘うか。
一応、予定が無い訳じゃないし。
「ドレインでござる!」
なんてしている間に闇影がドレインを放つ。
バシュッと良い音がして、俺達が戦っていた赤鉄熊が倒れる。
「じゃあ次!」
「増援でござる!」
ドスンドスンと更に二匹赤鉄熊が駆けよって来た。
「今回はちょっと歓迎が手荒ですね」
「だねー。本気で行った方が良いかも?」
「ちょっと待った」
ここ最近、習得したスキルをここでこそ使うべきだろう。
俺は駆けよって来る赤鉄熊の前にガチンと……罠を仕掛ける。
そう、俺が最近上げたスキルはトラップマスタリーだ。
「トラバサミ!」
仕掛けるのはトラバサミ。
パーティーメンバーにしか見えないトラバサミを赤鉄熊は踏む。
するとトラバサミがガチンと赤鉄熊の足に食いこみ、赤鉄熊の進みが止まる。
よっし! 上手く掛った!
「足止めの罠スキルですか?」
「お兄ちゃんこんなスキルを習得したんだ?」
「今のうちにササっと二匹仕留めろ!」
「承知したでござる!」
って事で足止めをしたお陰で硝子と紡が戦っていた赤鉄熊を速やかに処理、トラバサミの効果が切れた頃には安全に次の戦闘に入る事が出来た。
「ではトドメでござる! ウインドボール!」
闇影が決めるぜ! って感じで後衛の癖に魔法詠唱をしながら赤鉄熊に詰め寄り手に風の球を作って赤鉄熊に当てて決めポーズを取る。
「にんにん!」
ズバァって感じで赤鉄熊は闇影の風魔法で切り裂かれて倒れた。
絶賛……だってばよ! 路線を進んで行くな闇影は。
「闇ちゃん。その魔法を押し当てるの好きだよねー」
「普通に飛ばせるのに、よくやりますね」
「演出」
ああ、そうなのか。完全に意味の無い漫画再現でしかないか。
「絆さんが来たお陰で安定して戦えましたね。損害も殆どありません」
「だねー」
「助かったでござるな」
「はいはい。んじゃ、早速解体して行くからな」
「……そう」
って訳で手短に赤鉄熊を解体する。
熊の解体ってどうなんだと思ったけれど解体技能の向上で切るべき場所が分かってサクッと解体が完了した。
手に入るのは熊の手、熊の肝臓、熊の肉、赤鉄熊の毛皮、熊の骨みたいだ。それと時々鉄鉱石と銅鉱石が手に入る。
熊の手と熊の肝臓は雰囲気的には薬系かな? 漢方的な発想から使えそう。
肉は料理に使えるのがわかるけど……俺のスキルだとまだ熊鍋しか作れない。
「よし完了。次に行こうか」
「やはり絆さんがいないとしまりませんね」
「倒して放置ってのが勿体ない気持ちにさせちゃうんだよねー」
「そうでござるな」
「そう」
「はいはい」
「ま、兄ちゃんが復帰したからにはこの辺りで出てくるボスとかも本腰を入れて倒せるね!」
「今まで勿体ない気がしてましたものね」
ああ、俺にその辺りの解体も期待しているのか。
「しぇりるさんが解体を少ししてくれましたが難しいって言ってましたし、やはり絆さんこそですね」
ああ、しぇりるも覚えてるのな。
「ここのボスって?」
「氷雷獣と言う氷と雷を使いこなす虎の様な魔物です。二つの属性に変化して襲いかかってきましたね」
「何度か倒したんだけど、まだドロップを把握しきれてないんだーま、ポップしたら戦おうよ」
「了解」
なんて感じでその日は皆で渓流で出てくる魔物を倒したのだった。
件の氷雷獣って魔物は出てこなかった。
この前、硝子達が倒した所為で再出現待ちって事なんだろう。
「ちょっと休憩しようか」
「そうですね」
で、渓流で魔物を倒し、クエストに必要な数を満たした所で一旦休憩となった。
後は街に帰って達成を報告するだけって段階だな。
「それじゃちょっと釣りでもするかな」
「良いですよ。見てますからゆっくりしていてください」
「あいよー」
と言う訳で釣り具を取り出して渓流で釣りを始める。
今回はフライフィッシングに挑戦だ。
えっと……現地で調達できる餌の調査として近くの石を調べると……うん。釣り餌用の虫が採れる。
カゲロウとカワゲラがいるっぽいので持ってきたフライでどうにかなるはずだ。
技能習得をしたら作れる様になったんだよな。
しかもアルトに無理言ってブレイブペックルに付与まで掛けて貰ったぞ。
ヒュンヒュンと竿で空気を斬りながら魚がいそうな場所を見繕って何度か水面ギリギリに当ててポトリと落としてしばらく流す。
するとビクン! っと良い感じに竿がしなった。
「ヨイショ!」
ヒョイっと魚を釣り上げ確認。
ヤマメを獲得。
「おー! お見事でござる。洗練した動きでござる」
「手慣れてきたねお兄ちゃん」
「まあな」
で、しばらくヒョイヒョイと釣って行くのだが、手応えがあんまり無い。
一応、イワナとかアマゴが釣れはする。
塩を振ってその場で焼き魚にしてみんなに振る舞うぞ。
「絆さんとしぇりるさんのお陰で魚には本当に困りませんね」
「まあ、しぇりるはな」
俺に張り合って何故かしぇりるが銛で漁を始めてしまった。
水面に向かって銛を降りおろして見事に魚を捕えて見せる。
「イカ尽くしがもはや過去の事でござる。川の魚も美味しいでござるな」
そんなにイカが闇影にとって嫌な事なんだろうか?
ちなみに渓流だから大型の魚はそこまでいないがフライフィッシングの目標はサーモン……鮭だな。
まあ、ディメンションウェーブはゲームで、どこまで現実の知識が通じるかわからないのが怖い所だ。
ボーンフィッシュとか調べるとよく掛る仕掛けとかあるらしい。
さて……そろそろ別の仕掛けを試してみよう。
「あれ? お兄ちゃん。仕掛けを変えるの?」
「ああ、色々と試すことで釣れる魚も変わるだろうしな。あ……これをしてなかったな。フィーバールアー」
フィーバールアーを作動させる。
あ、餌釣りじゃ無理みたいだ。なのでフライルアーに変更する。
するとフライが適応されて派手なフライルアーに変更された。