投網漁
「ああ……そうそう、白鯨素材の解体武器を作る為に勇魚の太刀を預かっても良いかい?」
「良いけど……俺じゃなくて硝子達の装備を優先してもらって良いんだが」
俺なんかよりも硝子達の装備を優先した方がこの先の戦いや冒険なんかを有利に立ちまわれる様になるはずだ。
「もちろん硝子くん達の方の装備も視野に入れているよ。ただ……硝子くん達から念を押されているのさ。君は釣り具以外はかなり無頓着な性格だから良い素材を持って来たら気に掛けてほしいとね」
うわ……なんか先回りされている。
まあ、本音で言えば硝子達に戦ってもらって俺は釣りに専念したいって気持ちも無くは無い。
「それと……しぇりるくんからのオーダーで釣竿の強化だったね」
「ああ」
俺はしぇりるから貰った素材をロミナに渡す。
するとロミナは俺の電動リールを一緒に受け取り、完成させたようだった。
釣竿を確認。
あ……追加スキルって項目が付いてエレキショックって代物が付いている。
「針が引っ掛かった相手に電気で攻撃出来るようになったね」
「もはや釣りなのか何なのか分からないな」
「それだけ、これからの釣りも厳しくなるって事なんじゃないかい? って……解体武器を渡した時より嬉しそうな顔をするのは鍛冶師をする側からすると複雑な気持ちになるんだけどな」
そんなつもりは無かったのだが、これからどんな魚が釣れるのかを考えたら誤解されてしまった。
とにかく、これで釣竿の攻撃性能もアップか……本当、先が思いやられる。
「さーてと……それじゃ、こっちも色々とやって行くかな」
「アルトくんから話は聞いているよ。クエスト頑張って」
「ああ、一週間くらいでササっと目処を着けて硝子達と合流する予定。それまでに追加で武器を作ったら持っていく」
「了解、新大陸での良い情報とか聞きたい所だね」
「んじゃ……」
徐にペックル着ぐるみに着替えて……。
「島主が珍妙な恰好をして店から出て行くね」
「制作者が何を言っているのやら、クエストではこれを着た方が効率が良いんだよ」
と言う訳で俺はクエスト達成のためにペックル達を引き連れて船に乗り、出航したのだった。
それから一週間、船での漁に関してだが……投網などを使っての数の漁だ。
出てくる魔物に関してはしぇりるが用意してくれたバリスタを駆使すれば特に苦戦することなく戦えたし、船に乗り込んでくる魔物なんかも新武器の青鮫の冷凍包丁で戦えば一撃に近い感じで戦えた。
ブレイブペックルに守らせたりしているので……うん。一人でも問題ないのは間違いない。
装備の良さなのか、今までの魔物で苦戦する事は無かった。
ただ、なんか強そうな魔物はいるにはいるので危なそうな時は急いで船を移動させて逃げた。
船とは言え巨大ペックルが動力なので逃げるのはそんなに難しくない。
……モンスターをハンティングするゲームの魚竜みたいなのもいて、そいつは強そうだと思って襲われても逃げに徹した。
先制攻撃のバリスタが全然刺さらなかったから間違いなく強いだろう。
硝子や闇影達と合流したら挑戦するのは良いかもしれない。
で、投網漁は一応カルミラ島に閉じ込められていた頃にもやっていたのだが……色々とわかった事がある。
まず、投網漁では獲れる魚は思ったよりも限られている。主は引っかからない。
これは当然の事なのかもしれない。
捕れるのはニシンやイワシ、カツオとかが多い印象だ。
後は言うまでもなく海域などで獲れる魚にも変化がある感じだった。
レーダー完備で魚群を見つけて投網を発射する機械で一網打尽の楽な仕事では……あったかな。
魚を捕まえるとペックル達が自動で船の倉庫に積んでくれる。
アルトとはチャットで連絡を取り、必要な魚の量を逐一報告しながら色々と捕って行った。
その合間にしっかりと釣りをしたぞ。
ただ……やっぱり思うのだが、俺は海釣りばかりしている気がする。
そろそろ川釣りをしたい所だ。
ああ、プレオープンだった水族館もオープンさせた。
海の魚は先に俺が寄贈しているし、硝子達に合流前に水族館は覗くつもりだ。
で……船で行ける範囲で色々と周っていると流氷が漂う海域や温暖な海域とか、アップデートで行ける範囲が増えているのがわかった。
問題は新大陸が他にもあるかもしれないって所には俺だけじゃ難しい魔物がうようよといる点だ。
それを避けて進むと霧とかが出て先に進む事が出来ない。
アップデート待ちのマップって事なのか……って感じだ。
また船の墓場的なイベントに単独で遭遇するのは勘弁してほしい所だ……ああ、一度謎の力で船ごと弾かれたな。
「この先はまだ島主はいけないペン」
ってクリスがぶつかると同時に注意してきた。
たぶん、島主だからこそ出来ないイベントってのがあるのだろうと納得した。
条件を満たしているから進めないとか、逆に条件を満たしていないから進めるとか、ありがちな要素だしな。
「さてと……こんなもんか」
カルミラ島に戻り、アルトと合流した。
「うん……さすが絆くんだね。今、海で手に入ると思われる魚の大量狩猟クエストの必要数は殆ど揃ったよ」
「作業的に魚群を見つけて投網キャッチをしていただけだけどな」
こんなのでも釣り関連の習得条件を満たせるのだから大雑把な仕様だ。
数を釣るのが習得条件の物の中には投網は条件外って技能も増えてきたけど、投網での数が必要な漁は大分収まった。
「で、例の方もどうなんだい?」
「そっちも順調。初期投資をしただけはある。ぐんぐん上がっているし、船の一部に納品済みだ」
「やはりこの関連だと絆くんが一番だね。僅かな期間でそこまでやりきるとは」
「褒めても何も出ないぞ」
「ははは、これは厳しいね。ただ、この関連クエストは一定周期でまた発生する様だから、その時はまた頼むよ」
「一度クリアしたら終わりじゃないってのが地味に面倒だな」
「こういう所はどんなゲームでもあるものじゃないかい? デイリークエストさ」
確かにあるな。
オンラインゲームに始まり、ソーシャルゲームでも見る。
「どちらにしても、絆くんが達成してくれたお陰でカルミラ島の名産品も増えたし、新装備もアンロックされた。またプレイヤー達から金銭が得られる様になったね」
アルトが目を煌々とさせて言い切る。
最近、コイツが本当に死の商人へと進化して行っている様に見えてきた。
「アルト、今度はお前も手伝えよ」
「わかっているよ。そんなに難しくは無いみたいだしね。そう言う事業経営の経験にもなりそうだし」
なんか引っかかるが……まあ良いか。
ゲームを楽しんでいる様で何より、という事にしておこう。
「さて……じゃあ早速オープンさせた水族館を見させてもらうか」
「うん。こっちだよ」
と言う訳で俺はアルトの案内でカルミラ島で建築された水族館エリアへと案内された。
港から隣接したエリアにあるんだな。
前は図書館が建っていた所の裏で樹木が壁となっていた場所だったはずなんだが、図書館と繋がった形で道が出来ている。
水族館にはチラホラと……プレイヤー達が出入りしている。
で、入口にはデカデカと次元ノ白鯨の骨格標本が展示されていて、荘厳とした佇まいを醸し出していた。
「入場料がいるけど、僕達は当然の事ながら不要だよ」
「そうか」
水族館に入り、受付のペックルが声を掛けてくる。
「いらっしゃいペン。島主様ペン! 島主様は……寄贈された魚の合計で386コインペン。どうぞペン」
ってコインをチャリチャリって効果音と共に渡された。
「結構貰っているね。さすがは釣りマニア」
「釣りに関しちゃうるさいつもりだ。確かこのコインでアイテムと交換出来るんだっけ?」
「うん。ただ、個人的には次のアップデートとかを待つのも手だと思うけどね。絆くんがクエストをクリアしたらラインナップが増えたみたいだし」
こう……有名なRPGのメダルを連想する要素だな。
後で良さそうな物があるか確認しながら交換するか考えておこう。
コインの事は後回しにして案内図を確認する。
「一応徐々に増築する予定だけど、海水魚と淡水魚のコーナーで分けられるね。港近隣、沖合とか色々と寄贈した場所に割り振られるみたい」
結構本格的な水族館なんだな。