メモリアルクエスト
そうして帰って来るとロミナが手招きして出迎える。
ん? チャット? 内緒話って事か?
「内緒で話をしたいみたいだけど、どうしたんだ?」
「いやね。やっぱ絆くんが持って来る代物は個性的な物が多いなって思ってね」
「それは聞き飽きた。と言うか俺以外も最近じゃ解体が知れ渡って似た様な素材を持ってくる奴がいるだろ」
「そうではあるけど、この素材は絆くんが初なんだから聞いてくれても良いだろう」
「わかったわかった。で、何なんだ?」
「うん。短剣を作ってわかったのは、攻撃力も中々優秀で、付与効果にオートスティールが付いてる。戦闘中に勝手に相手からアイテムを盗める場合があるよ」
あー……あるな。そう言ったスキルとか、オンラインゲームとかで聞いた事がある。
通常攻撃で10%位の確率で盗むが発動して相手からアイテムを入手するとかそう言ったスキル。
ぶんどるとか色々と呼び名がある奴だ。
「技能で習得する奴にありそうだな」
「あるみたいだよ。短剣とか軽めの武器のマスタリーを上げて行くと出るらしいね」
「それが武器に入っているのか……」
「特化の人に比べたら劣るだろうけど、付与効果にある武器が出てくると泣けてくるかもしれないね」
とりあえず使える内に使うと便利な武器だなぁ。
「どうにか今の私にも作れるね。とりあえず絆くんに解体武器を支給する意味で作るのが良いかな」
「他に作れる系統で使える奴がいないんじゃしょうがないな」
素材の癖なのだからしょうがない。釣竿は釣り具であって俺の武器じゃないし。
解体も俺の特技だ。
「まだ素材に少し余裕はあるから必要になったらもう一本くらいなら作れるよ」
「わかった」
「今回作る解体包丁は青鮫の冷凍包丁<盗賊の罪人>だね」
「なんて言うか……微妙に恥ずかしい武器名だな」
何その奇妙な名前は。
「ブルーシャーク素材の解体包丁が青鮫の冷凍包丁で。そこに謎の銘が付くんだよ。それだけで似た別モノって位性能が高いんだよ?」
そうですか……とはいえ、雰囲気的には似た武器があって、それと見た目がそっくりだけど中身がまるで違う武器って事か。
モンスターをハンティングするゲームで似たのを見た覚えがある。エンドコンテンツ用の武器で紡と姉さんが粘っていたっけ。
偽装と言うか目立たない様に使うには良いのかもしれない。
あくまでこの武器の入手方法が少ないのならばだけど。
「確か絆くんはアイアンガラスキを持っていたよね。それを素材に使うから出してくれると助かる」
「これも必要なのか」
料理用の包丁って感じで今は使っていたアイアンガラスキを使うのか。
ちなみに俺が持っているアイアンガラスキは正規品だ。空き缶産の粗悪品ではない。
「素材の節約にもなるし、鍛冶をして検証をしていると使いこんだ武器を素材にすると良いのが出来るのが分かってきているんだ」
へぇ……そんな隠れた効果がねぇ。
長年愛用している道具が生まれ変わった際に、普通より良くなるってのは確かにロマンかもしれない。
「ま、アップデートの影響で強化が追加されているからついでに施しておくよ」
「頼む」
アップデートで新たに追加された項目に、鍛冶関連で強化が追加されている。
追加されたのは精錬だな。運よく良い品が作れると+1とか2とか付くのだけど、それ以外に(1)と付けられる。
安全圏として(5)までは付けられるのだけど(6)や(7)になると失敗判定があって、失敗すると武器が消失してしまうと言うオンラインゲームで付きものの厄介なアレだ。
しかも失敗判定を乗り越えて強化するとキラキラと光沢を宿す仕様で、挑戦欲求を激しく刺激する。
紡の読みだと(7)~(8)辺りが無難な強化で落ち着くだろうとの話だ。
一応島から出発前にみんな揃って安全圏の(5)まで強化して貰った。
この強化のお陰で勇魚の太刀でも解体が上手く行っていたが……。
と言う訳でアイアンガラスキも渡して完成を待つ事に。
「そう言えばロミナ、なんか島の図書館に列が出来ているがアレは何?」
島を回った際になんか図書館に列が出来ていた。
そんなに島の歴史とか蔵書に興味があるのだろうかと首を傾げた。
アルトに聞いても良かったがロミナに先に聞いた。
「ああ……アレはメモリアルダンジョンへの入場列だよ」
「メモリアルダンジョン?」
「うん。絆くんがこの島を入手した時のイベントを追体験出来る、リミテッドディメンションウェーブの再現クエスト」
そんなイベントまであるのか。
「絆くん達が旅立って数時間位かな? クエストが出たって口コミで島中に広がった後、腕試しにみんな挑戦して……失敗する人がかなり多くて騒ぎになりつつクリア方法の考案をしてたよ。曰く、『一発でこれをクリア出来た島主パーティーはおかしい』そうだよ」
おかしいって言われてもな。
成り行きでクリアは出来るだろう。
そんな難しいクエストじゃなかったし。
「そこをアルトくんが情報料を請求してクリア方法を売っていたのだけどね」
アイツはそういう事しか出来ないんだろうか。
さすがは死の商人。金になる物なら何でも売る奴。
カルミラ島の税収がありながらまだ金を欲するその貪欲さは感心するしかない。
しかも俺に黙っているという恐ろしさ。
「本来はそこで沈静化すると思っていたんだよ。挑戦したパーティーの一つがボスドロップに強力な片手剣が手に入ると話していてね。なんと今までの武器の倍の威力を持った強力な武器のお出ましさ」
ああ……あるな、そう言った代物。
でもドロップ率0.1%とかでしょう?
ありがちありがち。
「新大陸では簡単に武器が入手できないし、出てくる魔物から作った武器もカルミラ島の通常ダンジョンで入手できる武器に毛が生えた程度。揃ってボスドロップ狙いに挑戦者が集まっているってことさ」
うん。オンラインゲームあるあるだなぁ。
「しかもね。このボスドロップ……強化発展するのが分かってさ、こっちも一本ほど作らされたよ。私しか作れないって言われてね」
「大変だな」
「まあ……随分と鬼畜な仕様だけどね。本当、運が良いプレイヤーがいたよ。強化を7までしないと下地に出来ないって言うのに、幸い強化するのに必要な素材はボスを周回したら集められるんだ」
おお……そりゃ剛運だ。
「一応、その武器は私が見た中では一番の攻撃力を持っていたね。前線組、垂涎の品だろうさ」
「ロミナが受けたって事は……悪い奴じゃないんだろうな」
「そりゃあね。君も知っているよロゼットくんさ」
ロゼット……ああ! いたいた。紡と一緒にデスゲームごっこをしていた彼ね。
運が良いなぁ。
「ちなみにドロップする武器名は海賊船長のサーベルで片手剣、これを素材にしてハーベンブルグのカトラスが出来る。なんと威力は今までの2.5倍。夢が広がる。島は今、メモリアルクエストフィーバーさ」
ああ、この島の設定上、前の持ち主だ。
海賊の船長ではないから正しい姿への昇華とも言える武器だな。
ここでもフィーバーしてんのか。
「絆くんも狙うと良いかもしれないよ。確か設定ではこの島の前の持ち主なんだろう?」
「あの列に並ぶのはちょっと……」
それくらいズラーっと並んでいたぞ。
クリアして出なかったら並び直しって感じだった。
入場制限があるんだろうなーってのはすぐにわかる。
「良い狩り場を求めて海に出たらしい君やみんなからしたら挑戦はする気は無いか……元々君達が達成したクエストだしね」
「まあな……最悪、買えば良さそうだし」
「買えてしまう君達の財布が恐ろしいね」
なんて言いながらロミナは青鮫の冷凍包丁<盗賊の罪人>を作り上げて俺に手渡した。
青鮫の冷凍包丁<盗賊の罪人>+3(5)
ブルーシャークの牙を素材にして作りだされた冷凍包丁。
ただし、使われたのは<盗賊の罪人>である為、他の青鮫の冷凍包丁とは次元の異なる切れ味を宿している。
<盗賊の罪人>の力を宿してる為、特殊な力を所持している。
固定スキル オートスティール 冷凍特攻 出血付与
おお……なんか手に吸い付く良い感じがする。
攻撃力も滅茶苦茶上がるぞ。装備条件が下級エンシェントドレスとほぼ同等と言う恐ろしい仕様だ。
幸いアップデートでエネルギー総量が自動で上昇しているので装備自体は出来る様だけど。
ケルベロススローターを軽く凌駕している。
料理用の包丁が一気にトップに返り咲いたとしか言いようがない。
ただ……飛行系の魔物用の解体包丁が無くなってしまったなぁ。
まあ、これだけの性能があれば全く問題ない範囲だがな。
「ちなみに、先ほど話したハーベンブルグのカトラスに負けず劣らずの性能を宿した代物になったよ」
そっか……まあ、片手剣なんて俺の仲間で使っている奴はいないし、良いんじゃないか?
これで解体が捗る……と良いのだけど何分冷凍包丁だから刃渡りが勇魚の太刀には劣る。
切り分けるのが大変そうだ。
手に馴染ませないと。
「色々と助かる」
「それはお互いさま。良い経験と種類確保になったよ。またこれで良い装備を作れるようになったからね」
なんて感じに俺はロミナから新しい装備を作って貰ったのだった。