フィーバールアー
カルミラ島を飛びだし、新たな地を目指して旅立った俺たちだけど……第四都市と言うか新大陸に関しては割とすぐに見つかってしまった。
どうもカルミラ島のディメンションウェーブが終わった際のアップデートで航路が開けたって設定なのか、流通って意味での設定なのか不明だけど新たな大陸への船が出るようになってしまったのだ。
この事が露見してアルトがカルミラ島はすぐに廃れるかもしれないと冷や汗を流していたっけ。
とりあえず先発隊とばかりに出かけたプレイヤーの証言を聞くと、帰路の写本で登録できない特殊な都市らしい。
しかも色々と制限があって使い辛いとか何とか……拠点と言うより中間地点って印象のある都市だったとの噂がカルミラ島には来ている。
そんな訳で俺達も新大陸とやらにすぐに到着した。
漁港ロラ……と言う簡素な船を止める港しか無い場所に無数のプレイヤーたちと共に俺達も船を停泊させた。
「いらっしゃーいペーン。カルミラ島出張の出店だペン」
……何故か漁港ロラではペックルがアイテム補充等の店を開いている。
どうもこれがアルトの言っていた交易と言う要素の一つらしい。
ここでの収益はカルミラ島の税収にカウントされるそうだ。
「ここが新大陸ですか……」
「思ったより早く見つかったでござるな」
「そう」
「ワクワクするね!」
「まあな」
新しい場所に到着し、無数のプレイヤーのいる人ごみの中を歩いて俺達は新大陸を見渡す。
港を抜けると草原が伸びている。
街道らしき道があって、プレイヤーたちがぞろぞろと道沿いに歩いて行っている。
「他のプレイヤーの方々に続いて私達も行きましょうか」
「いや、俺はこの港で釣りをしてる」
「またでござるか……」
なんか闇影が呆れた様な声を出している。
何をわかりきった事を言っているんだ?
「ここまでの道中でも絆さんは釣りをしていましたよね」
「硝子、新しい場所に着いた=新しい釣り場でもあるんだ。ここは海ではなく、漁港ロラと言う釣り場なのだ。何が釣れるかのチェックを忘れてはいけない」
「……そう」
ゲーマーとして、釣りが俺のライフスタイル。未知の場所に着いてする事と言ったらまず釣りが俺のする事だ。
「お兄ちゃんらしいね」
「もはや恒例となっているのは分かっていますが、ここで先に向かわず釣りをしたいとは……絆さんらしいです」
「じゃあどうするでござる?」
「……別行動」
しぇりるの言葉に同意だな。
「しぇりるはどうするんだ? 夢と言うか目的だった新大陸を見つけた訳だが」
「……まだ全てが見つかった訳じゃない。もっと調べる」
「まあなー」
まだ世界地図の全てが埋まった訳でもない。もっと海を調べ回るのも確かに必要な事だろう。
ただ、アップデートしないと新しい場所が見つからない様に細工されている様なので、程々に新しい事に挑戦するのも……また一考ではある。
「んじゃ、海をもっと調べたいのか?」
「のう……新大陸、調査……コロンブス」
「大陸の調査もしたいってことね」
しぇりるはコクリと頷く。
「じゃあ、俺が港で釣りをしているから皆は先に行っててくれ。何かあったら教えてくれよ」
「わかりました……ただ、本当、絆さんはマイペースですね」
「ただ、絆殿の奇想天外な行動で成功しているのだから否定は出来ないでござるよ……」
「あはは! じゃあ先に行ってるねお兄ちゃん! 水場があったら教えるからね!」
「おうよ!」
って事で俺は硝子達に先に行かせて港で釣りに勤しむ事にしたのだった。
「おい……あそこに居るのって釣りマスターじゃね?」
「ああ……あのクジラを釣ったアイツか」
「新大陸に来てやる事が港で釣りって徹底してんなー……」
「ゲーム開始時にも一日中釣りしてた姿が目撃されてるんだぜ。釣りのトッププレイヤーだろ」
「アイツの真似すれば成功するって感じで釣りを必死に覚えている奴もいるらしいぞ」
道行く人が俺を指差して、噂話をしているのが聞こえてくる。
悪い気はしないけれど、俺の真似ねー……別に釣りだけをして新しい場所を見つけた訳じゃないんだけどなぁ。
もちろん新しい場所での釣りは好きだけど……他にも色々と覚えてみたいスキルがアップデートで出ているんだよなぁ。
釣竿を垂らしながら次に覚えるか悩み中のスキルをチェックする。
お? 竿が引いてる。
何が釣れるかな?
む……地味に釣り辛い。
引っ掛けるのが中々難しい手応えと、引っ掛かった直後に暴れ出して手こずった。
まあ、十分に上げたフィッシングマスタリーの前ではそこまで苦戦はしなかったが。
「おお? シマダイだ!」
シマダイって言うのはイシダイの若い魚だ。イシダイは割と釣り人泣かせと言うか憧れの魚でもあるので自身の成長を感じられる。
ここでシマダイが釣れるって事は近くの岩礁地帯に行くとイシダイが釣れるかな?
問題は釣り針か……そこそこ強度が無いと噛み切られるだろうなぁ。
竿だけではなく釣り針も拘らねばならないかもしれない。
他にクロダイとウミタナゴが釣れる様だ。
ここの主は一体何が引っかかるか今から楽しみだ。
なんて感じに試行錯誤を繰り返していると……。
『絆さん』
「ん? ああ、硝子? どうした?」
硝子からチャットが飛んできたので応じる。
『ちょっとこっちに来てくれませんか? 試したい事が見つかったので』
「別に良いけど……」
『お願いします。道なりに進んだ先です』
せっかく乗って来たのになー。
なんて思いながら釣り具を仕舞って皆が向かっている先に俺も続いて行くのだった。
「やっほーお兄ちゃん。成果はどう?」
「呼ばれたからそんなに釣ってないけどシマダイが釣れたな」
「へー……よくわかんないけど凄いね」
よくわからんなら凄い言うな。
とにかく紡の挨拶を無視して硝子達に声を掛ける。
なんか……仰々しいズラーっと横に並んでいる城壁が続き、その真ん中に入口らしき砦のある場所だ。
プレイヤーが一列になって並んでいる。
「どうやらこの新大陸にある国はミカカゲと言うそうなのですが関所を通過しないといけないそうで……」
「へー……」
「門番の話だとね。国内に入るには通行手形と言う名のビザ申請が必要なんだって、そのビザを取るとこの先に三日間だけ滞在出来て、期日を過ぎるとこの関所に戻されるらしいよ」
「期日を過ぎると一日程、申請期間が必要だそうでござる」
「……そう。ビザ……常識」
滞在期間が決まっているね。微妙にリアルな設定のある国への来訪って事なのかな?
「しかもここで発行したビザだけだと更に先の関所は通れないし、首都に行くのには日数も掛るから三日じゃまず辿りつけないみたい」
「ふーん……で、それで俺を呼ぶのに何の理由がある訳?」
「ちょっとお兄ちゃん。こっちの受付のNPCに声を掛けて見てくれないかな?」
砦内でズラーっと一列で並んでいる列とは別のガラガラの受付がある。
俺たちの後から来たプレイヤーがチョロッとその受付に話しかけるのだけど、なんかそそくさと長蛇の列の方へと行ってしまう。
まあ……良いか。
俺はその受付の方へと向かう。
俺の前に並んでいる人がその受付に声を掛けると。
「ようこそいらっしゃいました! ミカカゲ国へようこそ……こちら、貴族地位所有者用の受付でございます。一般の冒険者の方はあちらの冒険者窓口でお尋ねください」
と、NPCが長蛇の列の方を手で指し示している様だ。
……とりあえず俺も声を掛けよう。
「ようこそいらっしゃいました! ミカカゲ国へようこそ……カルミラ島の島主様!」
うお。反応が違うぞ。
「こちらが滞在期日無期限のミカカゲ国の栄誉通行手形になります。お受け取りください!」
「あ、ありがとう」
サッと、通行手形と言う木製のアイテムを受け取る。文字が金色で書かれているなぁ。
「ミカカゲ国では他国から来る者達には滞在期間を設けております。普通の冒険者の方々は通行手形を受け取り、国内で依頼や危険な魔物の討伐等を行って実績を稼いで行き、通行手形の格を上げて行くことで滞在期間と関所を越えて行く事が出来るようになります」
なんか受付のNPCが長々と俺に説明を始めてしまった。
硝子達がなんか勝った様な顔をして俺の後ろに居るんだが……。
ともかく、どうやら普通のプレイヤーは一般受付の方に並んで普通の通行手形……ビザを受け取って実績を稼ぎながら国内へと進んで行くって事なのね。
「ですが、貴方様はミカカゲ国と交流のあるカルミラ島の島主様。これはギルドの皆様にも適用いたしますので、どうぞ我らが国ミカカゲをご堪能ください」
えーっと……つまり、色々と面倒な手続きを免除してくれるわけね。
カルミラ島で甘い汁を吸いつくした俺たちが次の場所でも優遇処置を受けるのかー……色々と大丈夫なのか?
激しく接待をされている様な気がする。
ただ……それだけカルミラ島での隔離業務をさせられた見返りって事なのかもしれない。
考えてみれば開拓の遅延は起こりえる問題な訳だし、適切な人材を呼べなければ上手く行かない可能性は高いだろう。
俺はそう言った面だと友人知人に有能な人材が多くて助かった。
「やったでござるな!」
「アッサリと通れそうですね」
「うん! やっぱお兄ちゃんに話しかけさせて正解だったね」
「ごー……」
って感じで受付のNPCの指し示す方向から硝子達は関所を通って行ってしまう。
チラッと隣を見ると唖然とした表情や納得し難いかとばかりに不満そうな顔をするプレイヤーたちが見える。
どうやって通っているのかまでは聞こえていないはずだから……粘着とかはされないかな?
まあ……これも特権って事で行こう。
「ありがとう、お兄ちゃん」
「ああ、また何かあったら連絡をしてくれよー」
「まだ釣りに戻るんですね絆さん」
「そりゃあまだ港で満足するほど釣りをしてないからな!」
「せっかくの新マップだって言うのに釣りに戻るでござるよ……」
闇影がなんか呆れた目を俺に向けてきた。
そんなの今更だろ。
って訳で俺は永久ビザをもらったその足で港に戻って釣りに勤しんだ。
日が沈み……人通りもまばらになっても尚、俺は港に停泊させた船で釣竿を垂らす。
しぇりるが設置してくれた灯りのお陰で夜釣りも苦じゃないな。
「うーん……仕掛けはやはりこの辺りが無難か……後はウキと錘、撒き餌も視野に入れて……」
何が釣れるのか一目でわかれば苦労はしない。
ここは色々とトライ&エラーを繰り返すのが常だな。
「そう言えば……」
独り言になるが前にブレイブペックルからフィーバールアーってスキルを授かっていたっけ。
これって何なんだろう?
とりあえず発動させて見るか。
「フィーバールアー」
フィーバールアー
釣竿を使った補助スキル。
魚を引き寄せる光を宿すルアーを付与する。
一回の使用に1000のエネルギーを消費する。
取得条件、エピック
ランクアップ条件、???
う……エネルギーを1000も消費したぞ。
すると俺の釣竿の糸の先に釣るしてあった針がブレイブペックルから渡された無駄に派手なルアーに姿を変える。
強制的にルアーに変化する仕組みか。
「……よっと」
スナップを掛けて海に向かって投入する。
直後――ビクっ! っといきなり手応えが帰って来た。
「お?」
リールを回して釣り上げるとシマダイだった。
急いでシマダイを収納した後、ルアーを確認。
……まだ効果が続いているとばかりにルアーは姿を維持している。
なので再度投入。
やはりいきなりルアーに魚が掛る。
「これは……文字通りフィーバー……入れ食いになるルアーだ!」