ディメンションウェーブ第三波-始動-
ペックル着ぐるみ。
遊園地とかにいる、あのマスコット的な着ぐるみの衣装だ。
「フィッシングマスタリーと泳ぎ補正、水中戦闘技能が掛るんですか……しかも性能がそこそこ高いですね」
「絆くんの所持する下級エンシェントドレスには及ばないしドラゴンゾンビ素材に僅かに負けてしまうがね」
地味にいろんな技能が追加されるみたいだな。
コレはある意味ペックルに成り切れる装備かもしれない。
この手のネタ装備はネットゲームではありがちだが……う~ん。
「ちなみにだ。先ほどのサンタ帽子の件があるだろう? この装備を着用すると一時的に種族がペックルに表面上変化する」
「何……? じゃあスピリットは?」
「その辺りのシステムまでは介在しないのは確認済みだ。後は分かるんじゃないかね?」
「俺がリーダーとしてみんながこれを装備したらドラゴンゾンビよりも上の性能になる」
硝子を初め、みんなに目を向ける。
しぇりる、ロミナ、アルト以外が首を振る。
「……ペンギンストーリー。ダイエット。レトロゲーム」
しぇりるは反応が微妙だな。
それは何のネタだ?
「幾ら強くなれると言っても困ります」
「そうでござる!」
「そうそう、そう言ったネタ装備はお兄ちゃん枠でしょ。何ならそのドレスを頂戴」
「誰がやるか! と言うか完全に俺をペックル枠に入れる気だな!」
「客寄せと顔を隠す意味で僕は良いかもしれないけどね」
アルトの場合はな……死の商人としての顔が割れない様にしようとしている様に見える。
色んな意味で便利かもしれない。
というか、この前の4人組が使うと良いアイテムだな。
「武器とかは作れないんですか? それならまだ妥協できるかもしれません」
「どっちにしてもネタ装備になりそうじゃない? 硝子さん」
「よくわからないんだよ。ありそうな雰囲気はするんだけどね」
「アップデートで出る新武器枠にあるんじゃないか?」
「かもしれないね。キー素材が無いとかの可能性もあるよ。どちらにしても海上では有利になるかもしれないから覚えておいてほしい」
「使わない事を祈りましょう」
そんな訳でペックル達はディメンションウェーブをプレイしているユーザー達に浸透して行ったのだった。
で、他に起こったイベントとして島の近隣に別の島が発見された。
こっちも一応、カルミラ島の領地内って扱いっぽい。
この島は単純なモンスターが生息する狩り場って扱いだ。
カルミラ島本島を拠点に島へ向かう船持ちプレイヤーが効率の良いモンスターを探して向かう構図が出来ているって所だな。
しぇりるが監督する船のドックには新規で船を依頼する人がそれこそ、山の様に来るようになった。
船作りに関しては製造系プレイヤーが急いで作っているらしいけど、やはりゲーム当初から船作りをしていたしぇりるには敵わないらしい。
しかもしぇりるが作る船にはマシンナリーで作ったレーダー付きなので、性能もピカイチ。
素材、金銭、全部持ちでしぇりるに作って貰う環境と言うのは、しぇりるからしたら幸せな状況かな?
本人はあまり喋らないからわからないけど、人数限定で依頼は受けている様だ。
島が解放されるまで好き勝手に船作りしていた腕前が評価されつつあるって事か?
ああ、後……やはり解体に関しては割と周知の事実となっていて、解体技能を磨いている連中がそこそこ増えている。
釣り人は俺が見た所、其処まで居ないのが不満に思う所だろうか?
釣りと解体は相性がいいと思うのだが……。
そんな感じで島での出来事は日々代わる代わる変化が起こっている。
インスタントダンジョンの時間節約術でケチくさく地道にLv上げするか未知の島を冒険して自分達にあった狩り場を見つけるか等、やる事の可能性が広がった感じだな。
で、島での変化にみんなが対応し始めた頃……。
――バリンッ!
聞き覚えのある音が響き渡り、島に強風が吹き荒れた。
「あー……」
俺は風が来た方角を見上げる。
島の近海にひび割れた空が映し出されていた。
前回は遠過ぎて色くらいしか判別できなかった波の発生現場が……割と目の前にあった。
そう……島の近くで波が発生するのがわかったのである。
「造船を急がせろ!」
「今回の波は海上で発生するらしいぞ!」
島のドックを買い取った造船技能持ちの職人達が急ピッチで船作りをしていた。
先発隊が調査した結果、波が起こるフィールドは全部海だったそうだ。
自然と船に乗って戦うか、泳いで戦うかの二択になる。
さすがに海の上を歩く魔法なんてのは見つかっていない。
空を飛ぶ技術も今の所無いし。
で、船上で戦うとしても一般プレイヤーは船の上で戦う事をしてきていない。
その為、船上で戦おうものならまともに体が動かなくなる。
硝子や闇影が初めて船の上で戦っていた時が印象的だ。
あの時と同じで、船の上での戦闘に慣れない連中は試験的に船で戦ったらボロボロにされたって話だ。
一部は海で戦う事をしていたから多少は船上戦闘技能を所持しているけれど、それ以外の連中は蔑ろにしていた項目だ。
どちらかと言うとインスタントダンジョンの需要が多かったのは時間の節約も然ることながら、船上戦闘技能を習得する手間を惜しんだ所為だろう。
アルトの話では前線組とやらはプレイヤー同士で不必要な技能を強引に習得させられるとか愚痴っていたとか何とか。
モンスターと戦えれば何でも良いってゲームじゃないだろうに……Lv=強さって訳じゃない。
どうも前線組って連中はその辺りの柔軟性が欠落しているのではないだろうか?
前に俺がやった事のあるゲームでもあったな。
情報サイトの攻略情報以外は信じないって連中の話。
ネット内で情報が出回る前に効率の良い方法を見つけた事があって、知り合いにより効率の良い方法があると教えても、そんな情報ネットに転がっていないから非効率だとか言い返された。
後に俺が見つけた方法が出回ると手の平を返されたけど、それまで聞く耳を持たなかった。
誰かが見つけたやり方をなぞる事しか出来ない人と言うのは一定数いるのを俺は知っている。
それが悪いとは言わない。
だけど、それが正しいなんて俺は思わない。
デマに踊らされるのもそう言った連中だと思うし。
話は戻るが船上戦闘技能は習得に時間は掛るけど、取得の難しい技能じゃない。
これがスキルポイント制のゲームだったら振り直しをしなきゃいけないけどさ。
ディメンションウェーブはスキルポイント制では無く熟練度要素があるので、どうにかなる。
この技能習得を面倒臭がる前線組の思考は一体何なんだろうか?
極寒地域で波が起こったら防寒具を着こまないと戦えないのはおかしいと不満を言う気か?
……まあ、気にしたって始まらない。
前線組には前線組のルールや常識があるのだろう。
どちらにしても島が解放されて日が浅く、俺達以外のプレイヤーは島に合わせきれていない状況での波に挑む事になった。
そういえば久々に奏姉さんに会ったっけ。
会ったと同時に不足分の素材を持ってないか聞かれた。
奏姉さんは相変わらずやりたいようにしているようで、俺が島主である事に気づいていない様子だった。
それもそれでどうなんだろう?
まあ、奏姉さんも仲間が居て、そっちで色々とやっているみたいだし、あんまり干渉するのもどうかと思うけどさ。
紡の方も知り合いと一緒にそこそこ話をしたそうだ。
しぇりるに船を作ってもらえないかと頼まれたとか言ってたな。
俺の所の船を貸すのは図々しいから紡自身が念を押して断ったみたいだ。