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貴族の感覚

 なんか呆れられてしまった。

 感性の違いか、それともテンションが成せる現象なのか。


「そんなに儲かっているのか?」

「ああ、何せ僕が初期投資で開拓に使用した金銭を全額一括で倍額を貰ってもあまりある金が流れてきているよ!」


 倍額……まあ、アルトには島に来てもらってから面倒なペックルのスケジュール管理を全てやってもらっているから良いけどな。

 実際、俺の金というよりはギルドの資金って感じだし。


「これは絆くん達に巻き込まれた事を素直に喜ぶべきだろうね。ははははは!」


 アルトのテンションがおかしい。

 そんなにも金を稼いで何をする気なんだ、お前は。

 いい加減商人プレイは程々に多少強くなる事を考えたらどうなんだ?

 その金があれば現状の最強装備だって軽く手に入るぞ。

 まあ、俺も人の事は言えないけど。


「あまりにも儲かって笑いが止まらない。これが……領地持ちの貴族の感覚と言う物かな? なるほどなるほど」


 なんか貴族とか言い出したぞ。

 中世ヨーロッパとかだと貴族は領地から税金を徴収する事で財を成したとか聞いた覚えがある。

 おそらくそれと同じ様な事が俺達の身に起こっているんだろう。

 何せ俺の財布が見た事も無い数字になった後、城の倉庫へ転送されている訳だしな。


「素晴らしい感覚だ! だが、この経験をそのまま味わっていたらゲーム終了後が怖くなってくるよ」

「現実でも似た感覚で金を使いそうとか?」

「そうだね。ここからする事と言ったら……ふむ、投資か独立か……もちろん、絆くんが許可する所までだがね」

「三分の一くらいは自由に使ってくれても構わないけど、下手な投資をして失敗、蒸発、逃亡とかしたらどんな手を使ってでも追い掛けてやるからな」

「これだけの金があれば逃げもしないさ。仮に第三都市が廃れる時が来たとしても継続して金銭は手に入る。逃げる必要性が無い。むしろ解雇こそが恐れる事態だろう」


 逃げるのはバカがする事なんだろう。

 しかし、金金金と言いまくる友人は見たくなかった。

 元々アルトはこんな感じだった気もするけどさ。


「少なくとも第四都市が見つかるまではこの金の入りは変わらないだろう。ペックル達の雇用費など微々たるものだし、儲けしかないだろうね。更にギルドの使用料金も入れるとキリが無い! ははははははは!」


 現在、島の収入は交流船の船賃、宿屋等の施設利用料、道具や武具の税、更にインスタントダンジョンの使用料金、ギルドの申請料金と利益献上費だそうだ。

 このギルドの利益献上費と言うのはプレイヤーが設立したギルドメンバーが得る金銭の1%が物を売買したりモンスターを倒したりして得た金銭から差し引かれる。

 元々手数料と言う設定で引かれていた金の行き先がこっちに変わるらしいのだ。

 他にマイホームの購入だが、これは丸々俺達の懐に入る。

 島に関して、何でも金が掛る事に俺達を通すので自然と金が入る訳だ。

 アルト曰く、下手な事業を何度失敗しても取り返せる位の金が入る見通しになっているんだとか。


 ちなみにインスタントダンジョンの入場料はデフォルト設定の金額にしてあったはず。

 引き上げる事も無料にする事も出来る。

 但し、その分やらねばならない事も増えているけどさ。

 施設の修理費とか、島解放で増えた開拓とか、何に使用するか不明の項目も色々とある。

 アップデートを見越した物もあるらしく、全て把握するのは難しいとアルトは説明した。


「さてと、じゃあドンドン仕事をしていくとしようじゃないか! まだまだ僕には出来る事がある!」


 今のアルトは最高に輝いている! という事で納得した。

 後にアルトはいろんな意味でディメンションウェーブで名を轟かせる商人になる訳だけど、そのアルト曰く印象的だったイベントとして語るのが今回の開拓イベントだそうだ。 

 そんなアルトの後ろ姿を見届けてから俺はその場を去ったのだった。



 次が……闇影の粘着質な噂を流していた連中と遭遇した時だったか。

 俺達が世間話をしながら広場の方へ歩いていた時の事だ。


「さて、この後釣りでもするかな」

「いえ、さっきしてませんでした?」

「絆殿は相変わらず釣りばかりでござるな」

「闇影も釣りを覚えないか? せめて素潜り漁を覚えるのが良いぞ」


 しぇりるもやっているんだ。

 海で戦う事が前提の今の状況なら覚えても悪くは無いはず。


「拙者は忍びであって漁師ではないでござる」

「竹筒を使って水の中を移動する忍者がいるだろ?」

「そんな考え方が……いやいや、拙者の理想像から外れるのでござる!」


 今、ちょっと揺らいだな。

 水面を歩く方の忍者なら落とせるか?


「はいはい。硝子だって釣りを覚えてくれたっていうのに……」

「覚えはしましたけど、本腰は入れてませんよ」

「この程度で呆れられたでござる! 理不尽でござる!」

「そういやしぇりるは最近何やってんだ?」


 開拓を終えてから見ていない気がする。

 ちょっと前まで一緒に素潜り漁とかやっていたんだけどな。

 またマシンナリーの作業でもしているんだろうか?


「城と隣接している専用のドックでお金に物を言わせて船を作っている最中だったかと」


 アルトと提携してって事かね。

 しぇりるもやりたいようにやり始めたって事かな?


「この前話をしましたが、新大陸へ行けるように建造しているそうですよ」


 そういやしぇりるとそんな話をしたっけ。

 島から出る事ばかり考えていたから忘れていた。

 まあ……この島は中継港みたいな場所なのはわかるもんな。


 ここから更に外海に行く事を考えているって事だろう。

 ロミナは大量に持ち込まれる素材で今日もカンカンと武具を作っているし紡は知り合いに強さを見せつける為にインスタントダンジョンに行ったんだったっけ。

 何だかんだで纏まりが無いのが俺達かな。


 しかし……巨大ペックルではダメなんだろうか?


 ちなみにアルトの助言を受けて、新たにギルドへの入隊は認めない方針にしている。

 今集まって来るのは硝子や紡、闇影の強さを利用しようとする連中や金目当ての奴らで碌な奴が居ないんだったか。

 アルト程じゃないとは思うがな……まあ、一理あるから本当に信用出来る人員以外は断る方針だ。

 というか……俺が領主だって知らない人の方が多いし。


 そんな訳でカルミラ島は最前線としての地位を確立し始めている。

 最前線か……奏姉さんは今頃何処にいるのかな?

 会ったらみんなにギルドに誘うか話そうと思うんだけど。

 問題は変に連絡を取ると後でうるさいから声を掛けずにいるんだけどさ。

 何かあったらあっちから声を掛けて来る筈だし。


「それよりも絆殿、ダンジョンに行かないでござるか?」

「とは言ってもなー……」


 戦いだけがこのゲームの全てじゃない。

 開拓を終えた俺達はもう少しゆっくりとした生活をしても良いと思うんだ。

 そう闇影を説得しようとしたその時!


「あ、死神じゃねえか!」


 闇影を指差して声高らかにぶっ放したのは四人組だ。

 硝子がその四人組を見て眉を撥ねさせる。

 ああ、話で聞いたシージャックをしようとしたバカ四人か。

 トラブルの香りが半端じゃないな。


「垢BANされたと思ったらこんな所で何やってんだ?」


 垢BAN……アカウントBANの略称だ。

 アカウントは言うまでもなくオンラインゲーム等で使用する物で、BANは英語の英単語、禁止するって意味だったかな。

 闇影が露骨に嫌そうな顔をしながら硝子の後ろに回り込む。

 相手も硝子の顔を見て更に不快そうな顔を強めた。


「そんな大声で言わなくても良いんじゃないですか?」


 島の広場で大声で話すもんだから、周りのプレイヤー達が何事かと視線を向けている。


「不正な事をしているユーザーを指摘する事の何が悪いって言うんだよ! 凍結解除されたって許されるもんじゃねえぞ!」


 どうやらコイツ等の頭の中では闇影はアカウント凍結を喰らって、それが解除されたとか思っているようだ。

 確かに経緯を遠目で見ているだけだったらそう見えなくもない。

 しかしながら第三都市が見つかった現在、その理論は既に破綻している。

 はぁ……面倒なのに遭遇したなぁ。


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