ボス考案
「ゲッホ! ゲホゲホ……」
まあ、そんな感じで川に流された紡が海岸に流れ着いた所で俺は再度言う。
「後、三回は味わってもらおうかな」
「ごめんなさい、お兄ちゃん! だから勘弁して!」
「俺に謝ってどうするんだよ」
せめてエネルギーの消費が激しい硝子に軽くても謝罪しておけ。
ゲームとはいえ、みんなが楽しめない遊びは感化できない。
闇影をボッチにさせてしまった件については棚に上げる。
その時は甘んじて罰を受けるさ。
「NPCごめんなさい!」
「お前、ネタに命掛けているだけだろ!」
「ごめんなさい! 人形を吊るしてブレイブペックルで遊ぶのはもうしませんから!」
そんな事をやっていたのか。
そ、そういえば俺も『アニマルな森』というゲームで、住民を落とし穴にハメたり、橋から突き落としたり、なんて事をした覚えある。
ゲーム内で起こす行動の闇を鑑みた気がした。
「まあまあ……今回のイベントも乗り越えたら結果的に良い事があるかもしれませんから、これくらいにしましょう」
硝子が俺を止めるので、止む無くこれ以上の制裁は見送る事にしよう。
一番被害を受けている本人が許しているんだから良いだろう。
「はあ……硝子に感謝するんだぞ」
「はい!」
「でだ。アルトの話ではブレイブペックルが抜けた穴が大きくて困るそうだ。おそらくラースペングーを仕留めることで帰って来ると思うが、どうやって倒す?」
「挑戦は一日一回。制限時間30分というルールのようだね」
戦うのは一日一回。
となると最低でも明日まで待たなければならない。
「硝子、ダメージを回復するのにどれくらい掛りそうだ?」
「仮に今からダンジョンに潜って精一杯戦ったとして……二日は必要なくらい削られました」
そりゃあ随分とやられたなー……硝子がこんなにダメージを受けるなんて相当なもんだぞ。
「再戦は見送るべきだろう。というか、また島にいる奴等全員が強制で呼ばれるんだろうか?」
それだと……波と同じく大人数で削り切るボスって事になる。
そうなったらこの人数じゃ不可能だ。
ただ……地道にダメージは入っていたんだよな。
三割位は削れたし、思ったよりは強くない。
時間さえ掛ければ倒せるはずだ。
まあ、制限時間があるんだけどさ。
「その辺りの条件は一回しか戦っていないし、まだ謎だね。ただ、僕が特に狙われたりしない所を見るに戦闘が出来ない人を攻撃する様なAIはしていないんだろうね」
「一定範囲まで接近しなきゃ攻撃されない可能性もあるだろうなぁ」
少なくとも俺やしぇりる、ロミナは狙われる確率が低かった。
その辺りのAIはよくわからない。
「後はそうですね……ダークフィロリアルというモンスターの攻撃は苛烈でしたけど、ラースペングー自体が直接攻撃する事はありませんでしたね」
「そうだったか? セルフカースバーニングって技を何度も放っていただろ」
「お兄ちゃん、気付かなかった? あの攻撃の条件」
「まあ……技名もそうだが、十中八九カウンター主体の戦い方なんだろうとは思った」
ダークフィロリアルに攻撃を任せて、自身は守りに徹する。
そして不用意な攻撃を受け止めてカウンターのセルフカースバーニングで辺りを焼き払って攻撃する。
相手の高威力技には反応してダークフィロリアルと共に守りを固める編成だ。
そして隙あらば檻で閉じ込める技を放って必殺技のアイアンメイデンで決めて来る。
って所だろう。
アイアンメイデンを撃つまではそこそこ時間が必要だったし、クールタイムか何かがあると見て良い。
何処までもいやらしい戦い方を好むな。
「あの技ですが……輪舞破ノ型・甲羅割りを放った際には発動しませんでしたね。絆さん達の援護射撃も盾で受け止めたり矢を掴まれたりはしましたが、セルフカースバーニングは発動しませんでした」
遠距離攻撃では発動しない……辺りの分析は俺でも出来る。
しかも硝子の話だと防御無視技が有効らしい。
どうみても防御系な敵だし、弱点って事だろうな。
「ダークフィロリアルを一気に畳みかけて倒したらどんな行動変化をするかわからないけど、あの強固な守りが解けるかも!」
確かに、あまりにも硬いタイプの敵は取り巻きを倒すことでその硬さが解除される事は多々ある。
が、厄介なのはラースペングー自身が回復魔法っぽい事をして来る事だ。
その所為でダークフィロリアルは倒し辛い。
「倒しても一定時間後に再召喚してくる可能性もあるな。研究の為に挑むのは悪くないが、何度も戦うのは骨が折れるし、スピリットには厳しい」
現に硝子が元の強さに戻るのに相応の時間が掛る。
「ともすれば、現状だと下手に触れずに地道に開拓をするか、戦力が整ったら再戦するか……」
そこでロミナが手を上げる。
「まだ実験していない攻撃手段が無いかい? いや、正確には硝子くんがやっていた技の種類にも寄るんだけどね」
「と言うと?」
「若干変則的な攻撃には効果がある……例えば毒や麻痺、石化等の状態異常に弱いとか」
「古く続くゲームとかだと無効化されるパターンの多い物だなぁ」
効けば良いな程度。
海外のゲームだとラスボスでも状態異常が効く事は多いんだが、日本製のゲームは通常ボスでも完全耐性の場合がある。
どっちの基準かはわからないが、実験は必要だな。
「防御無視は通じたからありえなくは無いか」
「後はそうだね……確実にやらなかった攻撃手段が他にもあるよ」
「なんだ?」
「魔法」
あー……まあ、そうだな。
俺も硝子もしぇりるも紡もみんな武器持って好き勝手に攻撃するタイプだ。
ロミナやアルトは論外だろう。
こちらは商人&製造職なのだからしょうがない。
俺もどちらかと言えばこちら側で、言うなれば半製造だしな。
釣り的な意味で。
「魔法効果の発動する道具を使用すれば良いのかもしれないけどね」
アルトはその辺りの心得があるのか若干困り顔で呟く。
コスト面度外視で挑むにしても通じるかどうかだし、道具でどうにか出来るほど強力な物を作れるのかも分からない。
「何か良い手はあるか?」
「道具作りは多少心得が無い訳じゃないけど、効果的な物が作れる自信は無いなぁ。それこそしぇりるくんのマシンナリー辺りが効果的かもしれないよ」
するとしぇりるは首を横に振る。
「ボム」
「爆弾?」
頷かれた。
あまりお勧めしないって事かな?
「ノーマジック」
「魔法じゃなく物理だから意味が無いって事か」
「そう」
うーん……。
「火炎瓶とかは魔法か否か……」
「魔法扱いだろうけど、炎のカウンター攻撃をして来る相手に通じるかな?」
難しいな。
それこそ島で採れる素材で何かしらの道具を作って投入するのが限度か。
あるいは一度負けるなり撤退して、対策アイテムの作成イベントがあるとか、ありがちと言えばありがちな展開だよな。
「俺達の仲間には魔法使いが居ないのがここに来て響いているな」
「完全に闇影くんを無視する勢いだね」
「サンタペックルが反応すれば呼ぶんだがな」
アルトが来て以来、随時説明しかしていない。
精々『ペックルはモンスターじゃないペン』とお決まりのセリフを言う位だ。
そろそろ来てもおかしくないから、今度こそ俺達の遅れてきたヒーローの出番という訳だ。
「絆くんは魔法を習得しようとは思わないのかい?」
「熟練度的に考えると、遠回りになりかねないしな……硝子、どうやって覚えるんだっけ?」
「杖等の魔法をイメージする武器の熟練度を上げると習得出来ますよ」
どっちにしてもいきなり強力な魔法をこの状態で使用するのは難しいだろう。
これまでの経験からスピリットが魔法系と相性がそれなりに良いのはわかっている。
エネルギーさえ溜め込んでおけば撃ち放題だからな。
とはいえ、あの強固な守りを突破するだけの強さが求められる。
「ここにいる皆さんは魔法の習得をしていませんからね」
「応急手当的な軽度の魔法は使用出来るけど、生憎とね」
と、アルトが言う。
へー……さすがは商人、金になりそうな回復魔法は習得済みなんだな。
まあ使っている所を見た事が無いし、きっと熟練度は低いんだろう。