オレイカルインゴット
そうして四日程過ぎた。
「うーん……」
ロミナが工房でオレイカルインゴットを前に腕を組んでいる。
試作品で作った小手だったかが紡曰く、凄く優秀なんだけど、一個作るのに何度も失敗を重ねた……らしい。
硝子と紡は日課にしているダンジョンへと潜って行っている。
「何か作らないのか?」
「難易度が高くてね。在庫も少ない……絆くん、また採取して来てくれないか?」
「良いけどー……アレってそう何個も採れないんだよな」
あの後もしぇりると探索とばかりに素潜りで地底湖探索に行ったけど、最初に見つけた時は運が良かったのか、あまり採取出来なかった。
「ミラカ凝縮結晶装備やドラゴンゾンビ装備で戦えるみたいだし、余り拘らなくて良いんじゃないのか?」
「そうは言ってもね。釣りに拘る絆くんと同じく、私も鍛冶職人としての意地があってね」
なるほど……とは言ってもな。
と言う所でブレイブペックルがやってきた。
「何をしているペン?」
このブレイブペックル。
他のペックルとは異なるAIで動いている様で、それなりに受け答えをする。
何かしらのヒントとか言ってくれるかもしれないな。
「オレイカルインゴットで作れる物の難易度が高くて困っているんだ」
「わかったペン」
すると俺の視界に作成指示のアイコンが出てくる。
は?
手元の素材と言うか……工房内にある道具一覧で作れる物が出てくる。
いや、ヒントをくれよ。
「どうしたんだい?」
「なんかブレイブペックルが作成指示アイコンを出して来て……」
「ふむ……どうせ壊しかねない素材だ。折角だから何か作ってみるのはどうだい?」
「ロミナが良いのなら……」
と言う訳でロミナからインゴットを受け取り、手元の素材で何か作れないか探してみる。
オレイカルインゴットってアクセサリー系が多いな……。
いや、確かブレイブペックルって細工を持っているんだったか。
その点で言えば防具では無くアクセサリー枠が多いのは当たり前か。
「じゃあ……」
俺はオレイカルスターファイアブレスレットを指示する。
「わかったペン」
ブレイブペックルが工房の金床の前に座り込んで何やら弄り始めた。
「じゃあ残ったインゴットで私も挑戦するとしよう」
作業シーンを見ているとブレイブペックルは細工をしているみたいだ。
「くー……失敗した!」
ロミナが悔しそうに消滅したオレイカルインゴットのあった場所を見ている。
そんなにも作成するのが難しいのか。
やがて……。
「出来たペン!」
ピョコンと立ち上がってブレイブペックルが俺に腕輪を差し出す。
オレイカルスターファイアブレスレット+2
……なんだこれ?
アクセサリー枠だけど下手な防具よりも防御性能から何まで高くなるぞ!
魔力が突出して高くなる。
しかも媒介石エネルギー自動回復(弱)まで付いた代物だ。
ロミナに手渡して確認させると、若干眉が上がる。
「え、NPCにここまでの代物を作られると私の立つ瀬が無いのだがね。悔しいがここまでの代物をまだ作れない」
うわ……すげえ。素直に称賛の言葉が出るとか、俺だったら嫉妬とかしそう。
と言うかゲームバランス考えろ! とか叫びそう。
「島の素材なら難しくないペン」
「おそらくカルミラ島由来の素材ならばブレイブペックルにとって容易い物なんだろうね」
「そうなんだろうけど……このアクセサリーはどうするべきかな」
俺が使っても良いけど、硝子や紡に持たせても良いかもしれない。
まだダンジョン内で物資調達をしている。その効率を上げる意味でもさ。
で、オレイカルスターファイアブレスレットを見ていたらブレイブペックルが新しい項目……付与一覧を見せてくれる。
「素材さえあれば簡単に作ってもらえるだろう?」
「ちょっと待って、そういや付与って技能があるんだが……」
「そんな物は実装されていない……やはり少々先取り技能を所持していると言う事か」
とは言え……今、俺が手持ちに入れているアイテムだとそこまで優秀な付与を施せはしないんだがー……。
お?
ドレイン強化を発見。
素材は吸血魚とボーンフィッシュ……。
仲間外れになってしまった闇影のご機嫌取りと実験には良いかもしれない。
「じゃあこれで」
「わかったペン」
ブレイブペックルがオレイカルスターファイアブレスレットを持って行き、今度はそこに手をかざして作業に入るモーションを始める。
「……何させても卒なくこなすね」
「ペックルの中での勇者みたいな奴だからな」
「もうブレイブペックルさえいれば他はいらないのではないのかね?」
「僻むなって、アクセサリーしか作れないみたいなんだからさ」
なんて言いながら少し時間が経過すると。
「出来たペン!」
ってな感じでオレイカルスターファイアブレスレット+2(ドレイン強化)は完成した。
付与無しよりも僅かに性能が落ちているが……コレはバランス調整か?
どっちにしてもしばらくは誰かに使って貰って、闇影と会った時にでもプレゼントしておこう。
現状だとサンタペックルが来ても闇影は必要ないけどさ。
ダンジョン攻略終わってるし。
「なんとも歯がゆい気持ちになるね。今日は寝ずに技能上げに励むべきだ!」
ロミナが謎の対抗心を出している。
まあ、硝子達が定期的に良い素材を持ちこんでくれるもんな。
波が来てアップデートされた後の事を考えれば悪い話じゃないはず。
「腕が上がって……島から出た後は前線組も驚きの腕前を披露するんだな」
「そうなるかもしれないね。まあ、職人仲間にはライバルもいたから、ライバルたちを出し抜いて一番の職人になったと自負しても良いかもしれないね。そこまで至れば馬鹿な連中を逆に返り討ちにも出来るだろう」
ロミナは俺の方を見て。
「むしろ絆くん達の専属鍛冶師でもあると主張しても良いかい? おかしな連中を黙らせるには良い名目なんだが」
「勝手に呼んでしまったしなぁ……別に良いけど、俺達はマイペーススローライフ勢だぞ? 今後もそのスタンスを崩す気は無いし、何処かで落ちぶれるかもしれない。そもそも一番なんて望んでいないが良いか?」
そう、結果的に今は、推定最前線らしい所に来てしまっているだけに過ぎない。
いつ落ちぶれるかわからないのも事実だ。
「問題ないさ。好きにさせてもらっているのだから名目貸しだけでも良い」
「それこそ、気に入った連中が居たら直ぐに移籍可能な立場……良いかもな」
「良い人材を絆くんは抱えていると思うがね。硝子くんや紡くんは前線組でも有数の人材だ。闇影くんだって波での成績を見れば他の追随を許さない。そしてアルトくんまでいるんだ。そんな仲間達に囲まれているのに本人は釣り三昧……君を見つけてコンタクトを取る方が難しいと思うがね」
しぇりるは船職人だから有名とか関係ないか。
なんか島でカスタマイズしている船が海賊船みたいになって来ているのは気にしない方向で行こう。
この中で代表を一応している俺に声を掛けるのは……案外難しいのかな?
ま、島を出たら釣りをしているのは決定だし。
……俺って何処かで隠居している仙人みたいな生活してる様な……?
この考えはやめよう。
「さてと、じゃあ良いアクセを作ってくれるブレイブペックルには硝子達の分までアクセサリーを作ってもらうか」
その間に素材をゲットすれば良い。
「あ!? ったく、面倒な仕事を押しつけてくるんじゃねえペン」
「……は?」
ブレイブペックルを再度見つめる。
するとそこには先ほどの様な丁寧と言うか若干ボケっとした様なペックル顔では無く、妙に鋭い眼光になり、口の悪いペックルがいた。
何度も確認する。
おかしいな……ブレイブペックルなのに反応が違うぞ。