弓の技能
「弓?」
「ああ、ダンジョン内で硝子くんと紡くんと一緒に戦うのは、あまり戦闘が得意じゃない絆くんでは厳しくなって行くだろう? なら援護に徹する意味でも弓は覚えて悪い物じゃないと思うのだけどどうかな?」
弓か……そう言えば開拓業務に狩猟があった覚えがある。
ペックル達と一緒に狩猟するのも悪くないかもしれない。
罠とかついでに覚えれば、釣り以外での食料確保が出来る。
俺はモンスターを倒して強くなるとかじゃなくて、落とし穴とかの罠で狩猟をして肉を確保したい。
解体もそこで役に立つし……うん、良いかも。
「魔法を覚えるのも手だけど、どっちが良いかい? その場合、魔法用の武器を作るよ」
「んー……」
魔法はなー……地味に技能習得の前提が多くて、釣りとか趣味技能に割り振る隙が無い。
言い換えればスキルやエネルギー的に重たい。
その点で言えば、まだ弓等の方がいいかもしれない。
罠とか面白そうだし、かご漁にも興味がある。
釣りと罠の両方が関わるっぽい。
フィッシングマスタリーをしていたら取得条件が見えた。
「魔法か弓かと言われたら弓かな。だから弓で行くよ」
魔法系が少ないから覚えても良いだけど、そうなるとますますスキルを圧迫する。
本腰を据えてやるなら良いけど、今の俺は趣味人だから必要ない。
「アレ? 弓の技能が習得できる」
今まで弓なんて使った事無いはずだが?
何かの派生とかか?
「船で戦っている時、しぇりるさんと一緒にバリスタを使っていた事がありましたよね? その経験からでは?」
「あー、なるほど」
バリスタの効果も上がるなら悪くないかもしれない。
じゃあさっそく覚えておくか。
という訳で弓の技能を少しばかり振る。
「弦を引き絞って矢を放てば良いんだよな?」
リアルの俺は弓なんて持った事もない。
とはいえフィッシングマスタリー同様、覚えれば命中補正とかも掛かるだろう。
「そうらしいね。絆くんなら使いこなせると思うよ。コツはある程度安全な所を意識して矢を放つ事だ。このゲームにフレンドリーファイアは無いから矢が持つ限り撃てば良い」
ああ、硝子や紡へ当てる心配は無用って事ね。
「ダメージは無いけど、若干仰け反り判定はあるから程々にね」
「その点も考えて少しずつやって行きましょう」
そんな訳で俺達はダンジョンへ物資調達に出かける事にした。
ついでにLv上げと言うか、エネルギー稼ぎもする予定だ。
しぇりるが同行する手はずになったぞ。
で、硝子と紡の導きの元、俺達は地下80階から始める事になった。
2、30階でオロオロしていた立場的にちょっと緊張する。
「見た目は同じモンスターでも強さは段違いなんで気を付けてくださいね」
「とは言っても60階辺りとそこまで差は無いけどね」
「はいはい」
「お兄ちゃんは後ろから矢で援護してくれていれば良いよ」
「おう!」
そんな訳で俺は硝子と紡が戦うモンスターの群れを遠くから矢でペチペチと援護射撃を繰り返した。
しぇりるは相変わらず中距離から銛で突いていて、安全圏をキープ。
というか……硝子と紡がダンジョン内での戦闘馴れしているのか、出てくるモンスターをドンドン屠って行くな。
やっぱ戦闘センスが高い奴と俺とでは反応に違いが出ていると実感する。
矢で出来る限り安全な所から射抜く作業を繰り返していると、ボウマスタリーの熟練度が上がって割り振る。
不要になったら下げれば良いかと思ってLvを上げたら与えるダメージが少しずつ上がって行って、弓が軽く感じてきた。
硝子と紡が稼いでくれたエネルギーで下級エンシェントドレスを着用出来るまでエネルギーが溜まったので着用する。
「わーゴシックなデザイン。良く似合うよー」
「あのな紡、俺は別にドレスを着て似合うと言われても嬉しくもなんともないぞ」
「またまたー。実は嬉しいんでしょー?」
……うざい。
やはりリアル妹は鬼門だな。
何故俺はコイツをパーティーに加えてしまったんだろうか。
いや、勝手に密航してきたんじゃなかったか?
まあいい。過ぎた事だ。
この島に呼んだのも俺だしな。
しかし、だからと言って言い返さない訳じゃない。
「もっとオーバーオールとか田舎っぽい格好でも良いくらいだ。釣り人なんだからな」
「えー! もったいないよー!」
やかましい!
とは言え……確かに硝子の言う通りエネルギーの上限に達してしまって、エネルギー限界突破という技能が出現した。
とりあえずⅡまでは振れそうなので取得しておこう。
スキルの効果的にしょうがないが、マナの消費量がかなり多かった。
「絆さん、似合いますよ」
「……うん」
硝子としぇりるが着替えた俺を褒める。
あんまり見た目に拘っていないから良いんだけどさ。
ふむ……確かに釣りに関して補正が掛るみたいだ。
フィッシングパワー+50とか書いてある。
この効果がどの程度かはわからないが、後で釣りをして確かめないとな。
「この装備ってどれくらいの性能なんだろう?」
今まで装備していた硝子からもらった装備の5倍くらいある。
「じゃあモンスターの一撃を一度受けてみたら? さっきも被弾してたでしょ?」
「ああ……かなり痛かったな」
弓で安全な場所から撃っているけど、それでも被弾する事くらいある。
何だかんだ言ってここは地下80階よりも下なのでモンスターの一撃も痛い。
若干、マイナスになるだろうけど、それを覚悟しないとどれだけ受けるダメージが減ったか分からない。
そんな訳で出てきたモンスターにわざと攻撃を受けてみる事にしてみた。
前と同じくシトラスジェリーの突撃を受け止める。
ペチ……。
「……」
ダメージ量少な!?
ケルベロススローターでタコ殴りにして仕留める。
ごり押しで黒字を叩き出せた!
「わお!」
「すげー! 全然痛くない! 雑魚を蹂躙出来る!」
「性能が高いのはわかりましたけど、絆さん……」
「お兄ちゃん、言い方って物があるよー」
「硝子もこれ着て戦ってみない? 敵が雑魚化して効率良いんじゃないか? 硝子の装備を俺が使うからさ!」
「えーっと、魅力的な提案ですけど、絆さんが使用していてください。私もそれなりに防御力はありますので」
「むしろお兄ちゃんってなんで古い防具をいつまでも使っていたのか不思議だよね。それなりにゲーマーなのに」
くっ……。
スピリットは媒介石とか別枠の防具があるお陰でダメージ計算が複雑なの!
そもそも硝子のくれた防具がかなり優秀だったのも理由なんだぞ。
ちょこちょこと買い換えるくらいなら一気に買い換えた方が強さを実感できるだろ!
最初の波ではしっかり装備を固めていたじゃないか!
「船上戦闘辺りではどうにか出来ていましたしね……あの頃の装備では頼りないくらいの難易度になって来ているのは事実です」
「一気に強い所に来ちゃった弊害かーまあ、どうにか出来たなら良いんじゃない。この点で言えばスピリットは有利だよね」
「……そう」
「まあ、そんな訳で絆さんを守るために意識を向けなくて良いなら私達ももっと前に出て攻撃出来ますね」
「だけどお兄ちゃん。さすがにボス相手に棒立ちになって居たら痛いじゃ済まないからね」
「わかってるよ!」
そんな訳で俺達はダンジョンを潜って行った。
そして地下100階に到着。
なんか重厚な感じの扉があるなぁ。
「この先にボスがいるんですよ」
「インスタントダンジョンだから入り直せば復活するんだよな?」
「ええ」
「ちなみにどんなボスがいるんだ? 紡の装備を見てもよくわからなくてさ」
なんとなく黒曜石っぽい素材で作られた鎌が気になる。
ここまでの活躍を見るに結構攻撃力がある様だけど……。
「ドラゴンゾンビだよ、お兄ちゃん。結構大きいからお兄ちゃん程度でも遠くから的に当てられるよ」