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下級エンシェントドレス

「どちらにしてもダンジョンで物資調達した方がいいと思いますよ。島の方でも採掘は出来ますが、絆さんの言う効率は段違いです」

「まあ、そうなるか。人数を多くすれば稼ぎも良くなるだろうし」


 ビクッと硝子達が俺の顔を見て震える。

 釣りは気にすんな。既にある程度は確保してるから!


「というかあのマップに隠しの採掘ポイントがあったから、採りに行くのは良いと思うぞ」

「ついでに釣りを五日するんだね」


 アルト、黙ってろ。


「その前にロミナに釣った主の素材を見てもらおう」

「ええ」


 ロミナの工房に向かう。

 おや? 施設の拡張がされている……アルトが指示をしたのかな?

 前よりも大きくなってる様な気がする。


「三日ぶりだね。釣りの成果はどうだい?」

「主を釣り上げたぜ!」

「毎度思いますけど、よく釣りあげられますよね」

「確かにそうだね。フィッシングマスタリーだけで片付けるには不思議なくらいな程に主を絆くんは釣り上げていると思うよ」

「試行錯誤を繰り返しているからなー……その釣り場にあった餌や仕掛けを使えば案外引っかかる。それにニシンに始まり、ナマズ相手に何度も敗北をしてるんだぞ」

「まあ、常時成功している訳じゃなくトライ&エラーの繰り返しなのは理解しているよ。それで今回はどんな素材かな?」


 俺はシーラカンスを解体した素材をロミナに差し出す。

 するとロミナは若干眉を寄せながら素材に目を向ける。


「ふむ……随分とレアリティが高そうな素材だね。上手く行けば良い武具を作れそうだ」

「今度は誰の装備を作ってもらおうかな」


 島にいるみんなの事を考える。


「稼ぎを重視するんだったら紡辺りが適任か?」

「んー……お兄ちゃん、私はダンジョンのボス素材で装備が欲しいな。あっちの方が好みなんだ」


 あれだけレア装備を欲しがっていた紡が殊勝な事を言っている。

 きっと本当に好みなボス素材なんだろう。

 多分、中二感のあるモンスターだ。


「ふむ……となると硝子に予備、もしくは若干上位になるかもしれないけど持ちかえて貰うかな?」

「いえ、私は特に困っていないので、絆さんかしぇりるさんが良いのではないかと思いますよ? これからダンジョンに挑むんですし」

「……私は大丈夫」


 しぇりるはエイハブスピアを持って答える。

 防具は良いのか? と思ったが、ロミナに作ってもらったっぽい装備を着ている。

 んー……。


「正直、絆さんの方の装備を見直すべきではないでしょうか?」

「確かに……言ってはなんだけど、絆くんはケルベロススローター以外の装備はそこまで突出した物はもう無いのではないかな?」

「ケルベロススローターがあるし……」

「そのケルベロススローターも若干心もとなくなって来てると思うよ。お兄ちゃん、ダンジョンの深い所だと厳しいと思う」

「何だかんだ言って、紡くんもモンスターがドロップした優秀な武器を使っているんだ。絆くんの装備はそろそろ替え時かもしれない。幸い、島で採れた鉱石や素材でそれなりの物が作れるよ」


 ふむ……それならしょうがないか。

 出来れば装備に見合った優秀な人材に持たせた方が効率が良いと思うんだけどな。


「そもそも絆くん。君が釣り上げた魚の素材だろう? 君が自分自身に使う事が本来正しいんだ」

「とは言っても、俺は釣りを優先しているし、竿は作ってもらったから文句は無いんだけど」

「適材適所に配る発想は尊敬に値するけどね。謙遜も度を過ぎれば嫌味になる。今回は妥協してくれ」

「……そうだな。わかった」


 そんな訳で俺用の武具を作ってもらう事になった。


「まずはそうだね。絆くん用のドレスを作るとしよう」

「う……」


 女性ロリキャラでやっている事をすっかり忘れていたと言うのに……ここにきて思い出される。

 そうだった。

 俺の外見は女キャラなんだった。


「何故言葉に詰まっているんですか?」

「さあ?」


 首を傾げる紡に殺意を覚える。

 お前の所為だろうが!

 俺はネカマをする気は毛頭ないんだぞ!


「ああ、お兄ちゃん、今更ドレスを着る事に抵抗があるって所? 気にしなくて良いのに。別にリアルで女装しろって言っている訳じゃないんだし、可愛さを追求すればいいんだよ」

「うるせー! 何が可愛さだ」

「お兄ちゃんだってゲームで女の子キャラ使った事あるんじゃん」


 俺は可愛いと言われるのが好きなんじゃないの! 着せて愛でるのが好きなの。

 女の子に成りたい訳じゃない!


「まあ、絆くんの外見は随分と拘って作られているなとは思っていたけれど……」

「私とお姉ちゃんの力作だよ!」

「本来は筋肉マッチョ予定だったんだ!」

「ふむ……絆くんには悪いが目の保養的に紡くん達の方を賛同したくなるよ」

「やったー!」


 ロミナー! 絶対に忘れないからな!


「君がもしも筋肉マッチョだったらこの場にこのメンツが揃ったかな?」


 なんだと?

 まるで俺が女キャラだったからみんなが付いて来たかの様な言い方だ。

 ……流行の萌え系アニメじゃないんだぞ。

 かわいい女の子がきゃっきゃうふふしていたから仲間が出来た、とかそんな訳ねーだろ。

 そうであってほしい!


「コホン……じゃあ防具のドレスを作るとしよう」

「鎧とか、もっとゴツイ装備に出来ないのか?」

「出来なくは……出来ない」

「今言い直したな? 出来るんだな?」


 どういう事だ。

 何故俺を愛でる方向に話が進んでいる。


「まあまあ、絆さん。私も絆さんの今の格好は気に入っていますし、どうかドレスを着てくれませんか?」

「硝子、お前もか」

「君は元々釣り人だろう? 重装備の戦士では無い筈だ。見た目に拘るのは良い事だと思うよ」


 なんとなく言い分は理解出来る。

 腑に落ちない点はあるけれど、わからなくもない。

 鎧系の装備は重量が増えて動き辛いらしいしな。

 釣りをする、という目的を加味するとやはり軽装が望ましいだろう。


「お誂え向きに、古代魚素材で作れるドレス……布系防具に釣り補正があるみたいだ。鎧だと別の物になるが良いかい?」

「……はぁ、わかったよ。じゃあ頼む」

「武器も私が見繕う。残念だけど釣竿は作れそうにないがね」


 大鯰の竿があるから良いだろ。

 つーか、これが俺の武器みたいなものだ。

 そんな訳でロミナが武具作成に挑んだ訳だけど。


「む!?」


 ドレス作成をしていたロミナが声を漏らした。

 それからしばらく作業に没頭している様だったけど、顔色が悪い。

 作成で発生するミニゲームの類と裁縫をかなり集中している様だった。

 やがてがっくりと肩を落として俺にドレスを一着手渡す。


「すまない……少々失敗して予定とは異なる物になってしまった」

「ロミナが失敗するとか珍しいな」


 前線組の筆頭鍛冶師だった訳で、島に来てからも鍛冶をずっとしていた。

 そんなロミナが失敗とか、それこそ珍しいだろう。


「作成に入る見立てでは問題が無かったのだが……この古代魚の素材はかなり高位な素材だったみたいでね。ナマズの比では無かった。素直に私の技術Lvよりも必要な物が多かったんだ」


 かなり悔しげにロミナはドレスを見て言っている。


「製造を始めた途端に正体を現して、どうにか形にするので精一杯だった。もしも自力で確保した素材だったならとても渡せない。確認してみてくれ」

「は、はあ……」


 そう言いながら俺はロミナに渡されたドレスを広げる。

 失敗して消失するよりはマシな物って事だろうか?


 下級エンシェントドレス


 フィッシングパワーという補正はしっかりと付いている。

 多少フリルのついたドレスだ。

 下級と言う所がロミナの言う失敗だろうか?


「下級の割に装備出来ないんだが……」


 今の俺では装備する事もままならない程の必要ステータスだ。

 これで下級って、ロミナが失敗せずに作れたらどれだけの品になるんだ?

 硝子の話を参考にすると、俺のエネルギー面でのステータス上昇はもう少し見込めるはず。

 それを加味しても、限界ギリギリで装備できるって所だぞ。


「失敗したから必要ステータスが高いのか?」

「いいや……そこは変わらないだろうね」

「マジか……こりゃあ扱いきれないな」


 素材のレアリティが高過ぎて装備品を使いこなせない。

 こりゃあ、もう少し待っていた方が得策だな。

 というか、シーラカンスの素材がそんなにレアだと言う事は、シーラカンス自体がレアだったのかもしれない。


 主というだけでなく、引っ掛かる確率も相当低かった。

 15日も潜っていた訳だし、確率的に考えて相当低く設定されている。

 もしかしたらフィッシングマスタリーの数値が足りないと引っ掛かりづらいとか、そういう判定があるのかもしれない。

 あるいはマップの性質上、長期滞在出来るから確率が低いとか、考えはいくらでも出て来る。


「はぁ……」


 おや、ロミナが溜息を漏らしている。

 気にしているみたいだ。


「気にしないで良いよ。とりあえずがんばれば装備出来そうだから受け取っておくさ。しっかりと作れる様になったら武器も頼むよ」

「ああ、任せてくれ。これは私の意地だ。絶対に素晴らしい物を作りあげて見せよう」

「わー……ロミナちゃんでもこんな事あるんだね」

「私自身も驚きだよ。ここまで作成難易度が高い代物があるなんてね。この先のアップデートでどれだけ限界が上がるか恐ろしい話だ。もっと精進するとしよう」

「さてと、じゃあ装備はある程度妥協しなきゃいけない訳で、出発の準備をするとしようか」

「待ってくれ、失敗の穴埋めと言う訳じゃないがね。絆くんには是非とも受け取ってもらいたい武器がある」


 ロミナはそう言うと俺に……ミラカボウという弓と矢筒をくれた。


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