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怪談

 突然の事態にアルトは状況を把握する事が出来ず、目を白黒させながら三人に誘導されて鍋の方へと突き飛ばされて行く。

 このゲーム、PvPは出来ないけど突き飛ばすとかは出来るんだよな。

 まあVRで、しかもデータとはいえ生身の身体を動かすのに触れた際の衝撃が無いのは寂しい。

 目の前で起こっている光景的に微妙なラインだけどな。


 そもそもアルトってまともな戦闘をしてない商人だから腕力とか無いだろうし、話し合いが通じ無さそうな相手に恐怖で顔を引きつらせている。

 ゲームの世界にいるんだって自覚があるのかな?

 まあ寝起きでそんな判断が出来るかは不明だが。


「金なら幾らでも払う! だから助けてくれ!」


 酷い命乞いだ……。

 お前はどこの黒幕だよ。

 絶対に銃とかで殺される流れだろ。

 実は分かって言ってないか?


「ヤキマル、ベナ! オチトチ!」

「モビーディーック! エイハーブ!」

「モゲーレモゲー!」

「な、何に僕は巻き込まれているんだ! く……こんな事もあろうかと!」


 あ、割と緊急時の知恵は働くみたいだ!

 アルトが帰路の写本を取り出して掲げる。

 しかし、残念だったな。

 シュンと……海岸にアルトが瞬間移動した。


「な、何! 逃げられない!? うわあああああああああああ!」

「ニゲニゲムダー!」

「エスケープキャンセルー!」

「トウボウニゲー! ニゲニゲー!」


 逃亡を試みるアルトをロミナ達は器用に先回りして追いかけ、またも囲む。


「逃走不可のデスペナがありそうな場所に固定なんて……運営は何を考えているんだ!」


 あ、運営に文句を呟いている。

 気持ちはわかるが、そうじゃないだろ。


「ワルサワルサ!」

「カルマカルマ!」

「アクダンダクダン!」

「ま、まさかマナー違反をするプレイヤーを閉じ込める監獄だとでも言うのか! 僕は悪い事をしていない! 出来る事をしたまでだ!」


 ああ、そう言う考えに行く訳ね。

 つーか……運営がこれを見てたら厳重注意しそうだけどな。

 もちろん俺達の方を、だが。


「ウホッホー!」

「ハッホッホー!」

「イヤッホー!」


 で、三人掛かりでアルトを槍で突き始める。

 ダメージは入らないけどかなり鬱陶しいし、動きが封じられて嫌だろうなぁ。

 というかコレ、普通にハラスメント行為じゃないのか?

 そのまま再度鍋の方へと誘導されて行く。


「く……だ、誰でも良い! 助けてー! もう金儲け第一主義で行くのはやめるから! 運営、許してー!」


 アルトの叫びが木霊した。

 割と拷問に弱いな、アルトって。

 怖がりだし……運営の作った収容所とか思っていたのだろうか?

 まあ、潮時かな?


「もう少し人を選んで商売するかー!」

「はい!」

「ならば一度だけ見逃してやろう! 感謝するのだぞー!」

「ありがとうございます! え!?」


 ロミナがそこで仮面を外してしぇりるとと紡と手を叩き合う。


「いたずら完了!」

「復讐完了!」

「ミッションコンプリート!」


 ホント楽しそうだな。


「ろ、ロミナくんじゃないか! 一体どうしてこんな所に!?」


 俺と硝子は太鼓を叩くのをやめて葉っぱで作られた囲いから出る。


「よ、アルト! 随分と稼いでいた様じゃないか。お前いろんな方面から恨みを買い過ぎだろ」

「君までいるのか!? まさか」


 ここにきて嵌められた事を理解したアルトの顔が真っ赤になる。

 おー相当イラ付いているな。

 それにしてもVRの技術はここまで感情を表現出来る様になっていたのか。

 とは言え、やられるだけの事をしているのもまた事実だ。


「まったく……こんな真似をして、一体何のつもりなんだ!」

「アルトを驚かそうと提案したのはロミナ達だよ。俺じゃない」


 少なくともアルトを呼ぶ発想は俺には無かった訳だしな。

 普通に闇影を呼んでいたと思う。


「わからないはずはないだろう? 君だって前線組に絡まれて困った時もあるだろうに。金さえもらえば何でも売る事への嫌がらせさ」

「……はぁ。これもまた商売経験という訳だね。手広くやると恨みを買い、思わぬ嫌がらせを受けると……勉強というか、今後の参考にするとしよう。ゲーム以外でもありそうな事案だ」


 おお、物分かりが早いな。

 さすがは死の商人。

 ディメンションウェーブをやったのも何かその辺りの理由が絡んでいるんだろうか。


「少々いたずらが過ぎる様な気もしますけどね」

「硝子くんまでいるとは……帰還アイテムは強制セーブだし、しっかりと理由を説明してもらえないかな?」


 アルトは硝子を見た後、俺に視線を向ける。


「ああ、実はな――」


 俺はアルトに島に来てからの出来事を説明した。


「なるほどね……謎の消息不明事件は君達が犯人だった訳か」

「あーそれって硝子さんやしぇりるさん、ロミナさんが行方知れずになったって話の奴でしょ」

「そうだよ。巷の噂という訳じゃないが、僕の経験談も織り交ぜて、余り道筋から逸れた真似をすると謎の行方知れずになると噂になっているんだよ。運営に強制ログアウトさせられたとか、本物の幽霊船でその騒動に関わった者を一人一人引き入れているんだとか……ゲームとは思えないなんて怪談と化しているよ」

「ディメンションウェーブの運営がそんな細かい事で騒ぐのか?」


 運営の所為で俺はかなりの被害を受けているんだぞ。

 何日ここにいると思っているんだ。


「さてね。後は闇影くんに付き纏う黒い噂に尾ひれが付いたのも理由だね。僕も関わりたくないと思ってしまったくらいだ」

「闇影? どう言う事だ?」

「ふむ、まずは絆くんの消息が掴めず連絡も出来ない状況。次に硝子くんが忽然と行方知れずになった……それからしぇりるくんだ。よーく考えてみてほしい」


 リミテッドディメンションウェーブというミニイベントを達成したリーダーの姿が消え、次々とその時のメンバーの消息が掴めなくなる。

 ホラー染みているな。


「しぇりるくんまでは良かったんだよ。また何かのイベントに巻き込まれているのかな? とね。だが……予測を裏切る自体が発生した」

「予測を裏切る自体?」


 まあ、オレが行なった事から大体想像は付くが……。


「次がロミナくんだ。ほぼ無関係な人物が消えたんだ」

「あー……まあ」


 それは事故な。

 本人には許してもらえたから。


「噂を好む連中は揃って騒ぎ立てるし、ゲームだろうと恐怖を感じるさ」

「ネットゲームって昔からこの手の怪談あるもんね」


 ああ、確かに。

 現実のプレイヤーが死んでもログインしている~~とかだろ?

 VRが出てからはそういう都市伝説も昔より増えた気はする。


「何かが起こっている。自然と犯人候補として絆くんと同行していたメンバーに注目が集まるのは自然だろう? 紡くん、闇影くんと僕にね。ついでを言えば次の被害者は紡くんだった」


 結果、アルトは上手い事立ちまわって、注目は闇影に集まる。

 酷い話だ。


「そう言えば闇ちゃんと一緒に狩りしてたな」


 硝子と一緒に俺探しを手伝っていた闇影。

 硝子が消えた後はしぇりるの所に厄介になり、しぇりるが消えた所でロミナが保護をしていたが……そのロミナまで消えた。

 その後、紡と行動を共に……で、紡が消える。

 いやぁ……うん、なんていうか、うん……。


「オンラインゲームでプレイヤー間で呼ばれるなんてまず無い、珍しい二つ名を彼女は得たよ。いや、そんな事あるんだね」

「ほう……死の商人という二つ名を持つ人物を俺は知っているけどな」

「ダメージキングの二つ名を持っていた君には言われたくないな」

「はは、二度目の波が起こった所で返上しただろ。死の商人程じゃないさ」

「薄ら寒い会話ですね」


 俺とアルトの攻防に硝子を初めとした、周りの連中が目を細めている。

 くそ、何故か俺の評価まで下がっているじゃないか。

 ともかく、なんか会話をして誤魔化そう。


「あれだ、アルト。南国の島でハーレムだぞ? 最高に金持ちっぽくないか?」


 アルトだけ男キャラクターなので事実上ハーレムの完成だ。

 特に意識していた訳ではないが、結果的にそうなった。


「……」


 俺の言葉を聞いて、アルトは周囲を眺める。

 現地民の格好をしたロミナ、しぇりる、紡、そして俺と硝子。


「こんなハーレムは嫌だ」


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