ディメンションウェーブ第二波-終結-
サンタ帽子ペックルの言葉を聴いて、やって来たのは開拓途中の森。
既に他のペックルは避難して森は静かだ。
そうして何がいるのかを偵察がてら確認すると凶悪な顔をした大きなペンギン。
色は紫。フリッパーの部分が翼になっており、木の上に止まっている。
あの大きさで良く飛べるなとか、木は折れないのか、とは言わない。
この世界はゲームだからな、そういう超常現象も起こる。
「とりあえずあいつを倒すか」
久々にケルベロススローターを右手に持って構える。
見た所イベントモンスターっぽいし、そんなに強くはないだろう。
クククッ……我が楽園を荒らす者には天罰を与えてやる。
そう息巻いた訳だが。
――
――――
――――――
「あんなのに勝てっこねぇ!」
五分後、俺はモンスターカルマーペングーから命からがら逃げ出していた。
なんだ、あいつ。たった一発で2000もダメージ受けた。
単純なダメージだけならケルベロスにも匹敵しているじゃないか。
そもそも良く考えたら、この島はもう少し後になって来る場所だったな。
ドリルの存在からして、その可能性は十分あったが今まではモンスターがこの島にいなかったので忘れていた。
ぶっちゃけ俺一人であんな奴は倒せない。残念だが俺には無理だ。
「硝子が居ればな……」
俺の中で最強は硝子だ。
今まで隣で何度も強敵と戦ってきて、ほとんど無傷という実績がある。
しかし、いない者を頼ってもしょうがない。
今はまだ無理でもエネルギーを貯めて後々ゴリ押しで倒せば良い。
取り敢えず、しばらくは伐採と建設を繰り返して施設を充実させよう。
断じて負け惜しみではない。
ともかく、森からは出てこない様だしカルマーペングーは放置だ。
覚えていろよ。いつか絶対腹を割いて素材にして食ってやる。
仕方が無いので今まで開拓に回していたペックルを別作業に回す。
とは言っても最近は命令を出しているだけで、特に何かをする訳ではない。
しかし餌の消費に問題がある。
50匹以上いるからな。一応はペックル自身にも漁業を任せているが、さすがに50匹分の食料を確保するには至っていない。
そういう訳で俺はここ最近釣り生活を営んでいる。
……偶にペックルが釣れるからな。
「釣り……それは俺のソウルライフ……」
もはや、言い訳のセリフになっている気もするが、良いんだ。
代わりに肉や木の実、野菜、卵、牛や羊などのミルクなどは俺が没収している。
こいつ等、魚貝類しか食べないし。
尚、ペックルの消費量が多過ぎてイカは随分前に底を尽いた。
この生活を潤滑に回すにはどうしても俺が釣りをしなくてはならない。
ははっ! 最高だ……。
こんな生活もあって釣竿のレベルは7になっていた。
俺がカルミラ島に来てから釣り場にしているのは岩礁だ。
竿を海に垂らして、引きが来るまでのんびりと待つ。
ちなみに釣れる魚は……。
メバル、カサゴ、アイナメ、クエ。
これ等の魚が釣れる。
どれも現実ではあまり食べた事が無いのだが、白身の魚が多い。
食べたら味が良かったので、毎朝ペックル用以外にも残す程だ。
クエに至っては見た目の割に凄く美味しかった。
現実では知らないが、この味が本物なら帰ったら食べてみても良い。
ぶっちゃけクエだけはペックルにあげたくない位味が良い。
正直、個人的にマグロより美味いと思う。
あんまり名前を聞いた事が無い魚だけど、今度調べてみよう。
「あ~……クエ、釣れないかな~……」
クエの事を考えていたら食べたくなってきた。
刺身にするか、鍋にするか。
この二つが一番美味しかったので基本二択にしている。
ペックル畑やペックル牧場から取れた食材を合わせると尚良い。
問題をあげるとすればクエは難易度が高く、フィッシングマスタリーを重点的に上げている俺ですら逃がす事がある。
例えが難しいがぬしでも釣るみたいに難易度が高い。
ぬしとは違って引っ張る力は重くないが、タイミングが厳しい。
だから、最初の内は十匹に一匹しか釣れない程だった。
「ん……?」
海は風が強い日も多いのだが、突然強風がやってきた。
そこまで酷い物ではないが、ちょっと懐かしい。
ディメンションウェーブを初めて体験した時なんか酷かったからな。
そういえば硝子達は今頃何をしているんだろうか。
あれから随分経つが一向に来る気配がない。
カルミラ島での生活は一日一日忙しいので忘れていたが、気になるな。
「…………あれ?」
ふと視線を海から空に変えると東の空が赤い。以前、皆と一緒に戦ったディメンションウェーブと同じくワインレッドに染まっている。
そういえば生活に追われていて忘れていたが、そろそろゲームが始まって二ヶ月目だ。
あれはもしや、ディメンションウェーブ第二波じゃないか?
「ま、まさか……」
なんだかんだでディメンションウェーブ第一波は楽しかった。
多少エネルギーを失うという問題もあったがエネルギーブレイドを手に入れるなど報酬も大きかったし、第二波も参加を決めていたのだが……。
「参加できない……?」
そんなバカな。
いや、ゲーム会社的には現在俺がここにいる事の方が問題なのかもしれない。
カルマーペングーの強さから適正じゃないのは間違いない。
自業自得とはいえ、不参加とは……。
「出せええええぇぇぇぇ! 俺は参加するんだー!」
俺は海に向かって吠えた。
イベント中なら出られるかも、と淡い期待をしたが木の船でも相変わらずだった。
そうして諦めて砂浜で波の方を眺めながら体育座りをしているとサンタ帽子のペックルがやって来て言った。
「大分開拓も進んできているペン」
「そうか」
「誰か会いたい人はいるペン?」
「そうだな……硝子に会いたいな」
「その人の名前は『硝子』で良いんだペン?」
「は?」
なんかペックルが不自然なセリフを吐いている。
何故サポートキャラクターが硝子の名前を聞きたがる。
……教えてみるか。
「函庭硝子って名前だ」
「詳しい文字を教えてほしいペン」
そういうとペックルはシステムウィンドウを表示させて文字の入力画面を出した。
俺は一時の期待を込めて『函庭硝子』と入力する。
「わかったペン。会える事を祈っているペン」
サンタ帽子のペックルはそう言うと踵を返して仕事に戻って行った。
なんだったんだ?
良く分からないが、どちらにしても俺はディメンシュンウェーブ第二波に参加できそうにない。
結局、その日はペックル用の餌と俺用のクエを釣っていると陽が沈んで行った。