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伯爵の置き土産

 あれから二日が経った。

 空いている土地の半分を畑に変えた所でドリルを片手に岩石の前に立っている。

 岩石は一言でいうなら巨大だ。

 俺の身長の三倍程で道を塞ぐ様に置かれている。

 不自然に置かれているがディメンションウェーブの衝撃で、島内部から転がってきた――とかそういう設定だったりするのかもしれない。

 ともあれハンマーでコレを壊すのは少々難しいだろう。


「ドリ……」


 叫びそうになったのを途中で止め、ドリルの取っ手を引っ張る。

 するとモーター音を立てて回転を始めた。

 同時にシールドエネルギーが700から699に変化する。

 ドリルはMPを消費して使用する道具らしく、エネルギーを消費してしまう。

 開拓作業にエネルギーを使い過ぎるのは危険なので地道に岩石を破壊する。

 要するに毎日こまめにドリルを岩石に当ててダメージを与えている。

 少しずつ亀裂が入ってきているので後少しだ。


「スキルが使えるようになればなぁ……」


 おそらくはマスタリースキルだとは思うが取得不可では厳しい。

 まあ元々第四都市を見つけようって時に海へ向かったのが悪いのかもしれないが。


 お?

 ドリルが石を破壊した時と同じ感触が手元にやってきた。

 すると岩石がピキピキと音を立てて半分に割れた。

 ……もう少し砕いて行って撤去する感じを想像していたんだが、まあ良いか。

 道の両脇に割れた岩石を門代わりにしながら先へと進む。

 文字通り島の中心へと進んでいるので微弱に斜面だ。

 山の中腹よりも少し前の方に屋敷跡があるのでそんなに時間は掛からないはず。


 よしよし見えて来た、見えて来た。

 屋敷は村と同じく随分と風化していて、ハーベンブルグ伯爵が設定上どの時代にここで暮らしていたのかを物語っている。

 これもミスリードだろうか?

 ソウルイーターが何十年も前に存在していたという事はディメンションウェーブ自体がここ最近突然現れた存在ではない、という事になるのだが……。

 いや、そもそも世界観云々を述べたらディメンションウェーブが第一回なのか、第三十回なのかは具体的に明記されていない。

 ここ等辺もプレイヤーが世界の謎に近付いていくストーリー性かもしれないな。


 さて、ここで立ち止まっていてもしょうがない。

 俺は古くなった屋敷の扉を開いた。


「え?」


 埃一つ無い手擦り。破損していない床。風化すらも感じられない。

 驚いた事に屋敷の内装は綺麗なままだった。

 どういう事だ?

 すると半透明の物体がゆらゆらと降りてくる。

 どう見ても幽霊です。ありがとうございました。

 幽霊は二人居て、片方は軍服に身を包んだ男性、おそらくハーベンブルグ伯爵。

 もう片方は女性……伯爵夫人とかか?

 ハーベンブルグ伯爵の幽霊は俺に気が付くと微笑んで喋る。


『――良くぞ化け物を倒してくれた。これで私も楽になれる。恩人よ、島は任せたぞ……』

「は?」


 訳も解らず唖然としていると成仏したのか二つの幽霊は天へと消えて逝く。

 そして霧が覚める様に辺りの景色に変化が起こった。

 直前まで見えていた屋敷が無くなっており、かろうじて支柱の跡が残るのみ。


 そしてその中心に大きな箱が置かれていた。

 近付くと箱には四つのボタンが付いている。

 肉、木の実、魚、人参。

 食物? あれか、選択式で中身が対応したアイテムに変化するとかそういう奴か。

 一応危険が無いか調べ、開けられるか確認を取ったが開けられない。当然ながらボタンが鍵を握っていそうだ。


「まあこの中だったら一つしかないよな」


 ルアーとか、性能の高い釣竿、あるいは釣り針などだろうか。

 きっと状況的にハーベンブルグ伯爵の贈り物だからな。期待して良いだろう。

 俺は迷わず魚のボタンを押した。


『ペーン!』

「うわっ!」


 魚のボタンを押すと箱から何かが叫びながら飛び出してきた。

 ビックリさせんな。

 くそっ、伯爵め、何を残していたかと思ったらトラップかよ。

 箱から出てきたのはデフォルメされたペンギンの様な形をしたモンスターだ。

 頭にサンタの帽子みたいな物を付けている。

 大きさは俺の胸位の高さ。

 ……デカイ? とも思うが良く考えたら俺は幼女だった。無難な大きさか。

 俺は迷わずケルベロススローターを持つとモンスターと対峙する。


「ペックルはモンスターじゃないペン」

「しゃべった!?」


 今まで倒してきたモンスターは人語を解した事が無かった。

 というかしゃべったら嫌だ。倒せないじゃないか。


「ペ、ペックル?」

「ペンギンとコルポックルが力を合わせてーーペックルになったんだペン」


 聞いてもいないのにやや説明口調で語りを始めるペックル。

 ペンギンとコルポックルでペックル?

 微妙な造語だな。

 容姿はペンギン八割、コルポックル二割といった所だ。

 なんかリーダー格と思わしきサンタ帽子の近くに山から二匹のペックルがやってきた。

 麦わら帽子とカウボーイハットを付けたペックルだ。

 あれだ。個体によって付けている帽子に差があるのかもしれない。


「ペックルはこの島を開拓するんだペン」

「そ、そうか……がんばれよ」

「だからご主人には命令して欲しいんだペン」

「誰が主人だ」

「あなただペン。これをあげるペン」


 なんか肯定も否定もする前に変なアイテムを渡された。

 一昔前のPDAみたいな情報端末でペックルカウンターという名称だ。

 ペックルカウンターには三匹のペックルが描かれており『待機』と表示されている。

 待機のボタンを押すと従事させる仕事を選べるみたいだ。


 そしてペックルには一匹一匹『やる気』とやらがある。

 サンタ帽子のペックルが100%で他二匹が70%だが、どういう意味だろうか。

 あれか、空腹度とかそんな感じのゲージか。

 まあペンギンだし魚でも食べれば回復するのだろう。

 良く考えたら俺が押したボタンは魚だったな。


「餌の事かよ……」


 そうなると他のボタンを押したらどうなったんだ。

 憶測だがそれに該当した生物が現れるに違いない。


「そっちの二匹」


 麦わら帽子とカウボーイハットを呼び、アイテム欄に入っているイカを渡してみる。

 イカを手に取った二匹のペックルはイカを食べた。

 するとペックルカウンターのやる気ゲージが30%上昇した。

 全個体が100%になった訳だが……どうすれば良いんだ?


 これはアレだよ。サポートキャラクターだよな。

 条件はハーベンブルグ伯爵の屋敷に辿り着く、とかで以降開拓を手伝ってくれる。

 まあシステム要素なら使わせてもらうが。

 個体によって能力差あるよな。多分。

 麦わらが畑仕事で、カウボーイが狩りだな。サンタ帽子……何が得意なんだこいつ。

 取り敢えず当てはまりそうな項目を探す。


 農業、狩猟、畜産、漁業、伐採、建設、開拓、指揮の八項目だ。


 指揮ってなんだ? リーダーっぽいし、これと相性が良いのかも。

 でも既に俺が命令を出している様な気がするしな。ともかく、開拓という動作が何を意味しているのか確かめる為、サンタ帽子には開拓を命令させておこう。


「仕事を始めるペン」


 そう言ってペックル達は走り去っていった。

 きっと命令した仕事をやってくれるのだろう。

 取り敢えず村に戻ろう。


   †


 村に戻ると俺は唖然とした。

 サンタ帽子を付けたペックルが両手でハンマーを握って家屋を破壊していたからだ。

 まだ始めたばかりなのか倒壊こそしていないが、今にも崩れそうだ。


「なにやってんだよ!?」

「これはご主人。ペックルは開拓作業をしているんだペン」

「それは破壊って言うんだ! なんで家、壊しているんだ」

「新しい家を建てる為だペン」

「…………」


 意味は理解できるが……この廃墟、壊されると俺の寝場所が無くなるんだが。

 新しい家とか言っているし、後々建設とやらで家を作ってはくれると思う。

 だがそれまでどうするべきか。

 まあ……小回りが利かないのがサポートキャラのお約束か。


「わかった。お前は建設に回れ」

「わかったペン」


 そう言って帽子にハンマーを入れると今度はノコギリを取り出して立ち去っていった。

 どんな構造なんだ? アイテム欄と同じ原理なのだろうか。

 気になってノコギリを持ったサンタ帽子ペックルに付いていくとハーベンブルグ伯爵の屋敷跡地に着いた。

 そして帽子から木材を取り出し、ノコギリを当て始める。

 あの木材、どこから取り出したんだ?

 嫌な予感がしてアイテム欄を眺めるとちゃっかり減っている。

 あの帽子、俺のアイテム欄と繋がってないか?

 いや、ノコギリなんて持ってなかったけどさ。

 ……まあ良い。気にしたら負けだ。


 他の奴は何やっているんだ?

 ペックルカウンターを覗いて見る。

 カルミラ島を簡易表現した地図が表示され、三匹のペックルがデフォルメされたマークで動いている。もはや別のゲームだな。

 俺が耕した畑の辺りにいるペックルと森の中にいるペックル。

 こっちは予想通りの行動だ。確かめる必要も無いだろう。

 ともあれ便利なサポートキャラが現れ、作業は楽になった。


「まあ開拓とやらをしておくか……」


 その日は夕方まで今夜の寝所を残し、ハンマーで廃墟と化した村を破壊して回った。


 ……家を破壊するのがちょっと気持ちよかった。


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