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開拓者の七つ道具

「ん……?」


 目蓋を貫く陽光を受けて俺の睡魔は薄れ、下半身が冷たい事に気付いた。

 冷たいのは単純に海水で濡れているからだ。

 身体の半分程が浜辺の海水に浸っている。

 低体温症とかにならないのはゲームだからだよな。

 取り敢えず立ち上がり状況を確かめる。


 名前/絆†エクシード。

 種族/魂人。

 エネルギー/61630。

 マナ/14070。

 セリン/68780。


 スキル/エネルギー生産力ⅩⅡ。

     マナ生産力Ⅸ。

     フィッシングマスタリーⅧ。

     ヘイト&ルアーⅡ。

     一本釣りⅠ。

     解体マスタリーⅤ。

     クレーバーⅤ。

     スライスイングⅡ。

     高速解体Ⅳ。

     船上戦闘Ⅴ。

     元素変換Ⅰ。


 エネルギーが増えている所を見るに溺れた事に対する減少はないみたいだ。

 それにしてもここはどこだろうか。

 見た所浜辺……見上げると南洋の植物っぽい森が広がっている。

 見知らぬ浜辺と森という条件で思う所はあるが、一度カーソルメーニューからチャットウィンドウを表示させる。

 その中のパーティーウインドウから硝子を……。


「あれ?」


 パーティー欄が空白になっている。

 つまりパーティーを結成していない、一人の状態という事だ。

 パーティー自体は特定状態以外を除けばいつだって抜けられる。

 しかし俺は抜けた覚えがないし、一度にあれだけのメンバーが抜けるとも思えない。

 何より硝子と紡がいるんだ。

 硝子は何も言わずに抜ける奴じゃないし、紡は血の繋がった兄弟だからな。

 他の奴にしたって勝手に抜けるとは思えない。

 ともかくチャットを送ってみよう。

 今度はフレンドリストを表示させて硝子にチャットを送った。


 ――現在あなたの電源が入っていないか電波が使われていません。


 俺の電源って何!? というか携帯電話かよ。

 ……システムアナウンスに文句を言っていてもしょうがない。

 訳もわからないまま、俺はフレンド登録されている全員に連絡を入れる。

 無論、硝子達だけでなくロミナや他知人もだ。

 その全てがこの訳のわからないシステムアナウンスが流れる。

 状況から連絡できない何かが起こっている、と考えるのが妥当か。


 幽霊船から落ちたのは俺だけじゃない。

 もしかしたら俺と同じく浜辺に流れ着いた奴がいるかもしれないな。

 俺は周囲を見回すも見える範囲には誰もいない。

 カーソルメニューにある地図を表示させてみる。

 現在地は比較的大きな島の南側にある浜辺だ。


 マップ名称は……カルミラ島。


 この名前には聞き覚えがあるぞ。

 確かソウルイーターを倒した報酬で手に入った島だ。

 確信はできないがハーベンブルグ伯爵が守ろうとしていた島である可能性も高い。

 単純にリミテッドディメンションウェーブの報酬とも取れるが。

 ともかく皆を探そう。

 俺は当ても無く浜辺を歩き始めた。



 結果だけを述べるなら浜辺に誰かが流れ着いた痕跡は見つからなかった。

 定期的にチャットを送っているが相変わらず壊れたみたいに変なアナウンスが流れるのみで状況は好転しない。

 本格的に認めなければ行けない状況になってきたかもしれないな。


 おそらく俺は……漂流した。


 島内部を探索していないのでまだ結論は避けるがカルミラ島は無人島だ。

 俺だけなのは何かしらのイベントによる可能性が考えられる。

 例えば幽霊船であの本や人魂イベントをこなしたのは俺だけだ。

 仮にそういった条件に当て嵌まったのが理由としてこの無人島で何を求められるのか。

 この手のゲームに無駄なフラグや条件はあまり無い。

 そう考えると俺一人でカルミラ島に漂流した理由があるはずだ。


 ……なんかこういうゲームあったよな。

 小学生の主人公が船から落ちたら無人島でそこでサバイバルをしながら生還を模索する。

 漂流モノのお約束だが、まさか俺が実践する事になろうとは……。

 幸い、その手の主人公とは違って俺は装備に恵まれている。

 例えばアイテムだ。

 食料に関してはイカが無駄にあるのでしばらくは持つだろう。

 何より料理スキルに必要な機材を所持している。

 海があるので釣りで稼ぐというのも良いかもしれない。

 重要なのはどれだけの期間をここで過ごす事になるか、だ。


 お!

 アイテム欄を眺めていたら帰路ノ写本があった。ついつい状況に流されてしまったがこれはゲーム、帰還アイテムを使えば良いんじゃないか。

 俺は帰路ノ写本を使った。


 …………。


 波の音。カモメの鳴き声。白い砂浜。

 跳躍エフィクトの後、最初に流れ着いたカルミラ島の浜辺だった。

 きょ、強制セーブポイント……。


「だ、出せええぇぇー!」


 海に向かって叫んだ。

 カモメの声が返ってきただけだった……。


 ……しばらくここで生活する事になりそうだな。

 そうなると硝子達と合流した後を考えないといけない。

 あいつ等の性格からいって多少エネルギーに問題があっても合流さえすればどうにかなると思う。だけどエネルギーに差が付き過ぎるのも個人的に厳しい物がある。

 最悪アイテム欄に入っている木の船で脱出も考える必要がありそうだな。

 ともかく今は島を調べる所から始めよう。

 合流した時に多少役立てれば御の字だしな。


 そう決めて島内部へ歩き出す。

 右手にはケルベロススローター。

 エネルギーブレイドは持っていなかった。硝子に渡したままだったからな。

 まあエネルギーブレイドなんてボス戦位でしか使わないだろうが。

 カルミラ島はパッと見た感じ、南国という形相を示している。

 高い経費使って作られているのか虫の声とか、南国風の鳥とかが飛んでいて、気を許すとゲームである事を忘れそうだから逆に凄い。


 それにしても島か……魚、何が釣れるんだろう。

 って、こんな状況で何を考えているんだ。俺って奴は。

 今は現状を把握する事。

 幽霊船でもそうだが、一人になるのは久々だな。

 特に第一都市と同じ太陽光がある場所だと最初の頃を思い出す。

 あの頃はあの頃で楽しかったな。

 いや、パーティーで冒険するのも凄く楽しいけどさ。

 そんな考え事をしていると寂れた農村の様な場所が見えてきた。


 ……農村というか廃墟か?

 崩れかけた納屋。生い茂った草花。人気の無い雰囲気。

 何十年も前に人が住んでいた様な痕跡、みたいな場所だ。


「なんだ……あれ……?」


 村の中心に不自然な位浮いた物体が見えた。

 宝石が装飾された大きな箱でどう見ても場違いな形相を示している。

 個人的にミミックなどの、トラップモンスターが頭を過ぎる。

 空けるべきか、無視するべきか。

 仮にモンスターだった場合、一人で勝てるだろうか。

 こういう時に一人だと困る。

 仲間が居ればなんだかんだで開けると思う。

 しかし一人だと無理は利かないし、不安にもなる。


 うん、開けよう。

 宝箱に近付いて異常が無いか確認した後、開いてみる。

 もちろん開いた瞬間飛び退く。

 矢や毒ガスは宝箱のお約束トラップだからな。

 ……何も起こらない。

 開きっぱなしになっている宝箱に覗き込んで見るとアイテムが入っていた。

 小さな箱だ。

 宝箱の中に小箱とかマトリョーシカの派生か。

 さすがに小箱の中に箱はなかったので安心だ。


 アイテム名は開拓者の七つ道具。


 ……凄く嫌な予感がするんだが。

 こう、俺が一人でここにいる事がシステム的な影響を受けている様な、そんな気分だ。

 うわっ、捨てようと思ったらアイテム欄に勝手に収納された。

 呪いの道具かよ。


 ――いや、まあ好きなシチュエーションだけどさ……。


 今の俺には仲間がいるからのんびり開拓生活をしている余裕はない。

 ちなみに、これがパーティー結成前だったら喜んでいた所だ。

 そもそも……一人?

 なんでパーティーメンバーが除外されているんだ。

 開拓イベントにしたってパーティー全員とか、プレイヤー全員参加じゃないのかよ。

 ……思う所はあるが、我慢しよう。

 取り敢えず俺は開拓者の七つ道具とやらを使ってみる。

 すると変幻自在アイテムの様で、変化できる項目が現れた。


 クワ。

 カマ。

 オノ。

 ハンマー。

 ドリル。

 ロープ。

 釣竿。


「ドリル!」


 一つだけ浮いている!

 なんだこれ。ツルハシじゃダメだったのか?


「ドリル!」


 やばい、凄い興奮してきた。

 こんな姿は硝子には見せられないな。

 まあ……紡にはリアルで毎日見られている気もするけどさ。

 何を隠そう。俺は王国生活ゲームで姉さんと紡がゲーム内時間5年で飽きた所を1000年超えしている男だ。

 無意味に家系図が進み、最初に作ったキャラクターの血筋すら見えなくなる位やりこんだが、異常者の様に扱われたのはどうでも良い事か。ともあれ同様の理由で開拓物語を無限時空に入ってから200年突破も達成した事がある。


 ……少し興奮し過ぎだ。


「ドリル!」


 手始めにドリルを持ってみる。

 先端が螺旋状になっているハンドドリルだ。

 取っ手を引くと想像通りギュイイインというモーター音を立てて回転した。


「ドリル!」


 やっぱり男はドリルだよな。

 今時スーパーロボットでもドリルを使っている機体なんか見ないけどさ。

 と、ともかく今直ぐドリルを試してみよう。

 俺は硝子達の事など忘れ、一時の快楽に身を任せてドリル片手に走り出した。


 ……俺が正気を取り戻したのは十分も経ってからだったのはどうでも良い補足か。


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