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商人アルトレーゼ

「ふふふ……」


 あれから十分後。

 持っていた鱗や骨、魚肉を全て売り払い、もう一度ボロ竿を買い直して戻ってきた。

 ちなみに今度は餌も買ってきた。

 代わりに全財産が65セリンとすっからかんだ。


 ともあれあの魚、絶対に食ってやる。俺は根に持つタイプだ。

 対戦ゲームとかでも熱くなって紡と度々やるのだが、生憎と勝率はあまり高くない。あいつ、対戦ゲーム得意なんだよな。一番得意なゲームがFPSという、戦争の申し子とでも扱っておくか。


 しかし自分でも思うが海に向かって不敵に笑う女の子とかドン引きだよな。

 まあ良い。あの魚……ぬしを釣ると決めた。

 それがこの世界に俺がいる理由だと思うんだ。

 なんかしょぼい気もするが、このまま黙っていられるか。


「さて、餌を付けてっと」


 前回は何も付いてなかった釣り針に餌を付ける。

 餌はミミズとかじゃなくて練り餌だ。

 一番安い餌なのでしょうがない。金が溜まったらもっと良い奴を買う。今は我慢だ。

 ちなみにルアーなんかも売っていたが湖とかもあるかもしれないな。

 糸を海面に付けて竿の先に精神統一する。

 雲なんかぼんやり眺めてられるか、俺はそんなに暇じゃない!


「来た!」


 ――アジ獲得。


 餌を付けた影響か食い付きが良くなった気がする。

 さすがに餌なしで引っかかるバカな魚はそういないという事なのかもしれん。

 餌の在庫は30個。30匹釣ったら、また道具屋にいかなくてはならない。

 しかし竿が引かれた瞬間、感覚的にいつもと違う物を感じた。

 気付いていないシステム的な何かがあるかもしれない。気の所為かもしれないが意識して釣りしてみよう。もしも釣れる魚や品質に影響があるなら大発見だ。


 ちなみに品質は絶対にある。

 道具屋でアイテムを売った時、一つ一つ値段が違った。

 小魚ばかりだったので売却値段はどれも高くなかったが、小さな物で1~3、大きな物で10~30セリンも差があった。

 エネルギー生産力がⅢになったらフィッシングマスタリーの取得は決定だな。


「来た……」


 今度は直に上げずに様子を見てみる。

 やはり何か違う。

 オーラの様な、例え様も無い浮き沈みが竿から両手に伝わってくる。

 どの瞬間で引き上げるのが良いのか。

 引きが強くなり、弱くなる。

 若干、弱い時の時間よりも強くなった際の時間の方が短い。


「今だ!」


 ――イワシ獲得。


 釣れたのはイワシだが、今まで釣った事のあるイワシの中で一番大きい。

 なんとなく鮮度も良い様に感じるので釣る際に判定があるはず。

 こういうシステム、結構燃えるんだよな。


「おお?」


 ぬし程では無いが今までちょんちょんという弱い感触では無く、竿が曲がる程度の強い引きを示している。

 ……いや、まあ竿がボロ過ぎて性能の低さが原因かもしれないが。

 逃がしたらもったいない。俺は先程と同じく引きの強い判定部分を意識して引っ張る。


 ――キラーフィッシュ獲得。


 ……なんだろう。この突然のモンスター臭。

 今までニシンだのイワシだの釣れていたので実在に存在する魚だけかと思ったら違うっぽい。尚キラーフィッシュさん、アイテム欄に入れる際に鋭い牙の付いた口をガシガシと動かしていた。どう見てもモンスターです。


 なんか場所が場所なら普通にモンスターとして登場しそうだよな、こいつ。

 取り敢えず、少しコツを掴んで来たぞ。

 この調子で魚を釣りまくってやる。


 結果は30匹の内26匹釣った。

 4匹は引きの強さを調整していたら逃げられた。

 魚によって逃げられるまでの時間が決まっているんだと思う。

 釣れた魚はニシン14匹、イワシ6匹、アジ3匹、キラーフィッシュ1匹、ボーンフィッシュ2匹と後半の奴はどうみてもモンスターだ。


 ボーンフィッシュに至っては骨しか付いていない。

 初めて釣った時、ちょっとビビった。

 というか、こんな骨しか無い奴が海に住んでいると思うとちょっと不気味だ。


「さて、ニシン一匹を残して全部解体するか」


 試しておきたい事がある。

 解体して売った方がセリンを多く手に入れられるのか否か。

 どちらにしても解体スキルを取得する為にやっておかないと行けないのは事実だが、金が沢山あって損する事はあるまい。

 俺はその場で慎重に戦利品達に初心者解体用ナイフを向けた。


   †


「腹減ったな……」


 あれから釣り→解体→売却→餌購入→釣りの無限ループに突入して数時間。

 結論だけ言えば解体した方が総合的に高値で売れる。

 餌も一つグレードアップしてミミズになった。

 何よりも釣った魚の数が100を超えたので条件だけならフィッシングマスタリーをⅡにできる。まあエネルギー生産力をランクアップさせてからなのでしばらく先の話だろうが。


 そんなこんなで早くも魚釣りに熱中していたらお腹が空いて来た。

 セカンドライフプロジェクトというだけあって、空腹度が存在するのだろう。

 現実でいうハっと気が付いたら空腹感を抱いた深夜二時の様な、あんな感覚だ。


「……何か食べるか」


 幸い、比較的金銭は潤っている。料理屋の値段が如何程なのかは知らないが、最初の街で高額請求されたりはしないだろう。

 釣竿をアイテム欄に戻し、陣取っていた橋から街の中央へと向かう。

 魚はまだ分解していないが、後で良いだろう。今は飯が食いたい。


「お」


 進路方向の先、俺達プレイヤーが最初に現れた広場が見える。

 人並みは最初と比べれば少なく、精々雑踏の数は10か、20か。

 その中でアイテムの交渉をしていると思わしき人間と晶人がいた。

 ゲームが始まってまだ一日も経たないというのに商売が成り立つのだろうか。俺はさり気なく会話が聞こえる距離まで近付く。


「銅5個で375セリンだ」

「ありがとう。店売りは高くて助かるよ」


 どちらも初期装備なので判断に悩むが売っている方が商人、買っている方が鍛冶師、そんな雰囲気がある。


「あ、そこのお嬢さん」


 交渉を終えた二人を横目に通り過ぎようとした瞬間、商人の方がこっちにやってきた。

 なんだろうと思い。俺は後ろを振り返る。

 女の子なんていないじゃないか。


「いや、君だよ」

「俺?」

「そうそう君。オレっ子なんだね」


 そういえば俺は女キャラクターだった。

 最初は違和感が凄かった声もいつの間にか普通になってきたのですっかり忘れていた。


「いや、ちょっと事情があって女キャラ使っているだけだ」

「なるほどね」


 商人はかっこいい系の美形男子だ。

 身長は俺より高い。現実の俺なら目算でどれ位か分かるが、ゲーム内となると俺の身長が分からないので相手の身長は不明。ともあれ見上げて目に入ったのは髪だ。色は鈍い金色、なんとなく実在しそうな色をしている。


「で、何か用か?」

「いや、潮の香りがしたから、魚貝系のアイテムを持ってないかなと思って」

「匂い、するかな?」


 自分の匂いを嗅いでみる、が良く分からない。

 一度海に落ちているので、匂い位するかもしれない。


「するみたいだね。僕は草原の方に一度行ったけど、あっちは草の香りがしたよ」

「へぇ……」


 潮の匂いだけだと思っていた。

 結構手が込んでいるな。さすが高い金使われているだけある。


「それで、魚か貝を持ってないかい? 知り合いに料理スキルを上げたい子がいるから店売りよりは高く買い取るよ」

「ふむ……」


 右手を口元に当てて考え込む。

 解体していないので魚は50匹位アイテム欄に納められている。

 まあほとんどがニシン、イワシ、アジなのだが。

 しかし解体スキルがまだ出ていないので多少安くても解体してから売りたい。


「すまない。使用用途があってな。今回はやめておくよ」

「そっか。僕はアルト、チャットの時は『アルトレーゼ』で送ってよ。今はそんなに買い取れないけど、アイテムなら何でも買い取るからさ」

「分かった。覚えておく。しかし、こんな早くから買い取りなんてできるのか?」

「まあね。前線で戦っている人から安く買って、欲しがっている人に店売りより安めに売るんだ。で、前線の人にはポーションを街より少し高く売る。そんな感じで一応もう8000セリンは持ってるよ」

「凄いな。本当に商人みたいだ」


 各言う俺は2700セリンだ。今持っている魚を売り、餌の代金を引けば4500は行くはずだ。それでも転売だけで8000セリンは商売人として凄いんじゃなかろうか。


「ははは。何かご入用ならアルトレーゼ商会へ入店を! なんてね」

「なら、何か良い竿を売ってくれ。手に入ったらで良いんだが」

「竿か、道具系だね。材料があれば作れるけど、知り合いにいるから紹介しようか?」

「いいのか?」

「もちろん! 材料が無ければ僕から買ってくれるって約束ならね」


 中々に商売上手だ。

 まるで本物の商人でも見ている様で面白い。ある種のロールプレイという奴だろう。


「じゃあ頼む」

「毎度ありがとうございます」


 中々に堂に入った言葉使いだ。聞いていて清々しい。

 案外リアルでは接客業とかやっていたりしてな。


「それは何かの演技か?」

「そうさ。好きなマンガのキャラがこんな感じなんだよ」

「なるほどな」


 思いっきり外れている。

 なんて考えているとアルトが良い顔と手振りと共に口を開く。


「じゃあ連絡するからちょっと待っててね」

「ああ、ならついでに教えて欲しい事がある」


 不思議そうな顔でアルトが首を傾げる。

 話をしていてすっかり忘れていたが、待つという言葉を聞いて思い出してしまった。


「レストランってどこにあるんだ?」




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