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守るべき敵、倒すべき敵

「……ここで最後だ!」


 一人になった俺は行っていない場所を駆け回ってギミックの謎を解いていた。

 ワープ構造を変化させる類の物があって何度か迷ったが、ワープ経路の変更と共に開けた道から行ける場所にそこ『船長室』はあった。


 俺は武器を構えて硝子がやった方法と同じく扉を蹴り開けて、敵の攻撃に備える。

 数時間前はのんびり見ていたが、意外にこの手法は役に立つ。

 そういえばVR系のFPSでも使われる手だったか。


 ……攻撃はない。


 一度顔を出して、何かいないか確認する。

 何もいない。

 辺りに気を使いながら部屋へと足を踏み出した。


「まさしく船長室って感じか」


 部屋にはボロボロに腐食した大きな作業机とイスが置かれている。

 壁際には本棚が置かれており、その後ろには何かの地図があった。

 これまでの道に鍵や特別なアイテムの類は見つけていない。

 もちろんパーティーメンバーの誰かが見つけた可能性は高いが、判明していない不確定要素は見付かってから考えれば良い。


 それにしても本、か。

 これまで幽霊船内で本などが置かれた部屋はなかった。

 俺は少し気になって本棚を漁る。

 何個か触れると読む前に所有者を選ぶみたいに崩れ落ちた。

 システム的に読める物が無いのかもしれないな。

 と、最後の本を手に取ると崩れずにページを捲れた。


 ……日記?


 触れるだけで壊れてしまいそうな色焼けした本にそう書かれている。

 著者は……ハーベンブルグ・ミーフィファナと高貴っぽい仰々しい名前だ。

 おそらく船長の名前とかそういう所だろう。


「日本語じゃない……あれ? 読める様になった」


 英語かどうかは解らないが途中から日本語に変わった。

 きっと雰囲気重視に作られていて、プレイヤーが読める様に変換するのだろう。

 なになに?


 ――○月×日。私はハーベンブルク。伯爵の地位を承った者である。

 私はさるお方よりあの島を任せられた。

 あの島は諸外国との国交に必要な、決して失ってはならない大切な島である。

 これは私が己を戒める為に書いた書記である。

 未来の私よ。これを見る度に自身を戒めて欲しい。


 う~ん……なんともプレイヤーに説明口調な日記だ。

 生物災害で有名なあのゲームも書記とか日記とか頻繁に出てくるが、こうマメな人間が多いのはゲーム世界ではお約束なのだろうか。

 ともかく確実にダンジョンクリアのキーアイテムだろう。

 続きに目を通す。


 ――×月○日。私が島に移り住む事数ヶ月が過ぎた。

 実に気の良い人々で島の住人とも私は打ち解け、良好な関係を築けた。

 そんな日々を過ごす中、私は不穏な噂を耳にした。

 近頃海に海賊が後を絶たないという。

 この島は我が国の為に重要な拠点、直に何か手を考えなくては。


 ――△月×日。私は自費で私設軍を設立した。

 皆生まれた時より海で過ごし、海で生きてきた者達だ。

 魔物との戦いの経験も豊富で、海賊と何度も渡り合った猛者である。

 これだけの者達が揃っているのだ、海賊も討伐してみせよう。


 ――◎月▽日。私設軍の生き残りが浜辺に流れ着いた。

 私は彼を手厚く保護して回復を待った後、事情を尋ねた。

 なんと我が私設軍は化け物の襲撃によって壊滅してしまったのだ。

 しかし最後まで解せなかったのは彼が海賊という言葉を使った事だ。


 ――●月◇日。化け物の正体を確かめる為、私自ら航海に出る事にした。

 周りは強く反対したが、この島は私の命であり、この海域は私の血である。

 私の手が届く範囲で散って行った者達の為に私も何かをしたい。


 ――■月▲日。私は化け物と遭遇し、その正体に気付いた。

 彼等は海賊ではない。私が雇った者達だった。

 しかしその血肉は腐敗しており、化け物と化していた。

 こんな姿で奴隷の様に使われては彼等も無念であったであろう。

 この日誌を書いたら私は人の魂を食らうあの化け物に決戦を――


「ん? なんだ……続きが……うわっ!」


 突然、本のページに人の手形の様な赤い跡が沢山付いて読めなくなる。

 びっくりした。

 いや、ホラーモノではお約束だが結構真剣に読んでいたので驚いた。

 それにしても海賊ではなく、化け物、か。

 真相に近付くと隠蔽しようとする何かの意思……つまり、何か裏がある。


 考えていると背後が明るくなった。

 振り返ると赤い人魂が、立て掛けてあった地図の辺りに集まっている。

 一瞬敵かと身構えるも、敵意という物を感じなかった。

 俺はそんな殺気とかを判断する能力はないが、なんとなく、そう感じたんだ。


「地図を見ろ?」


 何故だか人魂がそう伝えようとしている様に見えた。

 地図を見ると先程とは違って大きな船の見取り図が描かれている。


 ここの正確な地図か?

 メニューカーソルから見られる地図とは明らかな齟齬があった。


 その地図には番号が振られていて、各所で移動している。

 2番は甲板で動き回っており、3が底の方を彷徨っている。

 4番が船内の上側を歩き回っていた。

 そして5と6が真ん中付近で右と左から交差しようとして……6が別方向に行こうとしている。

 番号……?


 リーダー   1 絆†エクシード。

 サブリーダー 2 函庭硝子。

 メンバー   3 闇影。

        4 しぇりる。

        5 紡†エクシード

        6 アルトレーゼ。


 確か、この順番だったか。

 仮に割り振られている番号が正しいとして、これはパーティーメンバーの所在地か!

 そうなると現在全員が別々に行動している事になる。

 現時点で孤立して困るのは闇影とアルトだ。

 闇影は怖がっていたし、アルトは戦闘能力的に厳しい。

 ここから助けに行くには……。


「チャットウィンドウ?」


 地図に触れると強制的にチャットウィンドウが表示された。

 だが、さっきはチャットを送れなかったはず。

 ここからなら送れる?

 直に俺はウィンドウから2番を……硝子を選択した。

 現状一番何をしているのか解らない人物だからだ。

 プルルルという着信の様な音が響き、繋がる。


「絆さん? 今どこに……いえ、それよりも大丈夫ですか?」

「こっちは大丈夫だ? 硝子は甲板で何をしているんだ?」

「どうして私のいる場所が……くっ!」


 話している最中に硝子が苦しそうに唸った。

 おそらく何かと戦っている。


「すみません。現在戦闘中でして」

「そっちこそ大丈夫なのか?」

「今はまだ健在ですが、このままでは厳しいかもしれません。敵はボスモンスターでして、私一人では厳しい状況です」

「ボスか……わかった。直に皆をそっちに向かわせる」

「ありがとうございます。正直心細かったんです」

「ああ、必ず助けに行く。待っていろ」

「はい。それまで必ず持ち堪えて見せます!」


 チャットを切断すると次に連絡を入れたのは6番、アルトだ。

 今チャンスを逃せばアルトは紡と合流できなくなってしまう。


「絆? 君はどこからチャットを送っているんだい?」

「それよりもさっき曲がった道に戻れ!」

「どういう事だい? そっちは一度行ったのだけど」

「ああ、そっちに紡がいるんだ。今ならまだ間に合う」

「事情は知らないけれど、今は君を信じるよ。一人になってどうなるかと思っていたんだ」

「紡と合流したら――」


 俺はアルトに甲板までの道を伝えてから通信を切る。

 そして次に闇影に繋いだ。

 個人的には一番早く話したかったが状況的に三番目となってしまった。


「闇影」

「わああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!」

「うるせぇ! 静かにしろ! 俺だよ!」

「うわああぁぁぁん! 絆ちゃんの幽霊がああああぁぁぁぁ!」

「俺をちゃん付けするな!」


 落ち着かせるのに随分時間が掛かったが闇影にも甲板までの道を教える。

 次はしぇりるだ。

 四番、しぇりるはは甲板から一番近い位置にいる。


「…………」


 チャットを繋げると無言だった。

 お前初対面の時もソレだったけど、繋がってないか不安になるからやめろよな。


「絆だ。道は教える、甲板に向かって欲しい」

「……そう」

「しぇりるは大丈夫だったか?」

「……そう」

「そうか、大丈夫だったか」

「……ん」

「それで道なんだが――」


 自分でも思うんだが、最近しぇりるの言動が『そう』だけなのに解る様になっている。

 凄く微妙な気分だ。

 このままじゃ本当にしぇりる専用の翻訳家にされてしまう。

 ともかく一同が甲板に向かって行動を始める。

 途中間違えばその都度訂正のチャットを送り、全員が甲板に到着したのを確認した。


「さて、俺も上に行かないとな」


 地図を確認して可能な限り覚える。

 そして船長室を後にして立ち去ろうとした時、フッと赤い人魂が消えた。

 ゲームのアシストなんだろうが、助けてもらったのは事実だ。


 ――助けてくれてありがとう。


 俺は心の中でそう呟いた。


   †


「硝子!」


 船内を自分の庭の様に走り抜けてきた俺は甲板への入り口で叫んだ。

 広がる光景は硝子だけでなく、闇影達、全員の無事な姿。

 赤い月が船を照らし、ボスステージの形相を示していた。


「絆さんご無事ですか?」

「ああ、怪我一つ無い。そっちは大丈夫だったか?」

「はい! 皆さんの助けもあってどうにかなりそうです」


 そしてボスモンスター――ハーベンブルグと名前が表示された軍服を着た大きな骸骨。


 ――違う!


 あの航海日誌を信じるならばハーベンブルグという人物がボスのはずがない。

 ボスだけでなく、この船で現れたモンスターパイレーツスケルトンも犠牲者として、何物かに死体を操られているという設定だった場合、ハーベンブルグという伯爵の成れの果てをいくら攻撃した所で意味がない。

 おそらく魂を喰らう化け物って奴は別にいる。


 どこだ。どこにいる。


 ハーベンブルグ伯爵と戦闘中の硝子と紡、闇影、しぇりる。

 アルトは後方で指揮を取っていた。

 そんな五人を余所に俺は敵の正体を追う。

 ハーベンブルグ伯爵……元は正しい人物だった様だが今はボロボロの軍服に身を包み、巨大なカトラスを握って海賊紛いな事に手を染めている。

 設定上、彼は負けたのだろう。


 ……見えた。


 ハーベンブルグ伯爵の影に一瞬ブレがあった。

 ヒントがなければ気付かない程度の些細なズレだ。

 俺はケルベロススローターを左手に持ち、右手にエネルギーブレイドを持った。


「硝子、紡。そいつは敵じゃない!」


 そう叫びながら左手のケロベロススローターをハーベンブルグ伯爵の影に突き刺す。

 するとバチバチと以前聞いた事のある次元の穴が開く音が響いた。


「絆さん? それは一体……」

「敵はこっちだ。魂を喰らう化け物『ソウルイーター』そうだよな!」


 逃がさない様にケルベロススローターを刺したまま、一万と充填してビーム光を発したエネルギーブレイドに力を込めて影へ突き入れる。

 水が蒸発する様な音を発しながら甲板の床に消えるエネルギーブレイドの刃。

 ガランガランと崩れるハーベンブルグ伯爵の亡骸。

 合わせて俺は後方へ飛ぶ。

 そして影から飛び出した物体……本物のボスモンスターソウルイーター。

 白く凶悪そうな顔付き、赤い眼、大きな口と牙を持った醜い化け物。


「倒すべき敵は、お前だ」


 ソウルイーターはおそらくハーベンブルグ伯爵を囮に使って自身はダメージを受けずに戦うという、実は本体は別にいるタイプのボスだ。

 最近では少ないが昔のRPGでは度々見られたタイプでもある。

 有名なタイムスリップRPGではラストボスが真ん中の不気味な本体っぽい生物ではなく、左側にいる回復を担当しているオプションだったりする。

 プレイしたのはリメイク版だったが、攻略サイトなどを見ない俺は絶句した。

 なんせ本体を倒したら回復のオプションが偽者の本体を復活させたんだからな。

 つまりこのソウルイーターというボスはそれと同じでいくらハーベンブルグ伯爵を倒した所で全く意味のないボス、という事になる。


「種が解ればどうって事はない。皆、見ての通りボスはそっちだ」

「……なるほど。わかりました」

「影とか見てたけど全然気付かなかったよ~」

「……下に向けて銛を撃つのは得意」


 戦い方を理解した我等が戦力は納得の顔をして頷き、臨戦態勢を取った。

 そして残りの二人は……。


「ぎゃあああ! 本物のお化けが出たああああ!」

「もうそれ、いいから」

「ぼ、僕は敵の位置をちゅ、注意深く探る事にするよ」

「なんでドモってるんだよ!」


 こいつ等本当にブレないよな。

 いや、まあ反応的には美味しい役回りなんだろうけどさ。あっちの醜いソウルイーターを眺めても普通のモンスターと対峙した様な顔をしている三人よりは。


「と、ともかく! あいつを倒すぞ!」

「はい!」


 硝子の返事と共にソウルイーターへの猛攻が始まった。

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