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ギミック

「……一体なんなんだ、ここは」


 探索を始めて既に数時間が経過していた。

 分かった事といえば地図を多少把握した程度で、船内がどうなっているのかまるで解らない。敵は前や後ろからやってきて、時間の経過と共に増えている。


 そして判明した事はパイレーツスケルトンが復活系モンスターである事。

 倒しても一定時間経過すると元通りに復活してプレイヤーを襲う。

 尚、経験値が入ったのは最初だけで以降は0。

 ダメージを受けた場合、回復する手段が乏しい。

 一応はシールドエネルギーの範囲で戦えているが、数の増加と共に受けるダメージも増えて来ている。エネルギー減少も時間の問題だろう。


「闇影はもう大丈夫っぽいな」

「さすがに何時間もいれば慣れるでござるよ」

「がんばったね。闇ちゃん!」

「紡殿……」


 なんかおかしな二人が友情を深め合っている。

 そうなると硝子達はアルトと友情を……なんだろう、釈然としない。

 いいや、気にしない。


 それにしても長い事彷徨っているが、硝子達と遭遇しない。

 ワープポイントの関係で出会えない場所にいるのかもしれないが、連絡手段すらない。

 これはどういう事だ。

 RPGに謎解きダンジョンといえば切っても切り離せない要素なのは確かだが……。


「あれ?」

「どうしたでござるか?」

「なにかあった~?」


 現在歩いている場所、そして地図を見比べてみる。

 良く見ると地図と現実の構造が違う。


「地図が間違っている……」


 そうなると地図を全部埋めた所で何の意味もない。

 良く考えたら途中何度も扉を潜ったりしている。

 仮にワープ機能が備わっていた場合、同じ場所をグルグル回っていても気付かない。

 通りで広いと思った。


 これはゲーム内ギミックだ。

 だが、種さえ解れば攻略の仕方も出てくる。

 俺、RPGのこういうギミック解くの好きなんだよな。

 MMORPGをそこまで熱心にやらなかったのはMMOはキャラクター育成の方に重点を置かれているから、こういう謎解きとか少ない、というのも理由の一つだ。


「紡、ちょっと考える。敵を近付かせないでくれるか?」

「ほい!」


 出発点からの徒歩経路を全て割り出す。

 そこから入った扉の数、入った方向、道の長さから逆算していくと……。

 八箇所ほど行っていない場所がある。

 仮に現在地の割り出しが正しいとして、八箇所の一つに一番近いのは。


「わかったぞ。こっちだ」


 そう告げると紡は経験値の入らないパイレーツスケルトンを撃破した所だった。

 紡は何か妙に目をキラキラと輝かせている。

 こいつ、RPGを後ろで見ているの好きだからな。

 というかゲームは全部好きなんだけどな、紡は。


「何がわかったのでござるか?」

「ああ、地図が間違っているなら自分の頭を信じるしかないだろう? だから最初から通った経路を割り出したんだ」

「そんな事ができるのでござるか?」

「昔のRPGじゃ当たり前だぞ? まあ紙とかあれば紙使うけど、今は持ってないからな」


 攻略ホームページとか使えば楽なんだろうが趣味じゃないんだよ。

 その所為で謎解きダンジョンに数時間引っかかって困る事多数。結局、紙にダンジョンの形状や出る場所なんかを記載していくうちに覚えた。

 まさかこんな所で役に立つとは思っていなかったが。


「あった。見た所……ホールか?」


 三人で八箇所の一つを訪れると大広間みたいな場所に到着した。

 天井にはシャンデリアが飾られており、青白い部屋が逆に怖さを引き立たせている。

 いや、おかしくないか?


「なあ、ここって幽霊船って事になっているけど、元は何の船だと思う?」

「海賊船ではないのでござるか?」

「それはありえない。海賊船にこんな豪華な場所があるか」

「だけどモンスターは海賊だよね」

「そうなんだよな……」


 単に現実でモデルにした船でもあるのか。

 あるいは何か謎解きの一つで、それすらもミスリードという可能性。


「ともかく辺りを探索して――」


 突然ガタガタと室内が揺れ始め、音を立て始める。

 そして頭上を眺めるとシャンデリアが大きく揺れていて落ちてきた。


「避けろ!」


 叫びながら横へ飛ぶ。

 あんなトラップ受けたらシールドエネルギーだけじゃ足りない。

 爆発にも似た破砕音が鳴り響き、シャンデリアが飛び取る。

 若干尖った破片が命中したが受けるダメージは10だの20だの許容範囲内。

 木片や木々の粉が舞い上がり良く周りが見えない。


「闇影、紡、大丈夫か?」


 声が返ってこない。

 もしかして当ったんじゃないだろうな。

 いや、仮に当っても闇影なら即死はありえない。

 あれでパーティーメンバー中一番のエネルギー、もといHPの所持者だからな。


「ちいっ! また分断トラップか」


 大広間だった場所は似た別の部屋に変わっており、闇影と紡の姿はない。


 怖い、という気持ちはある。


 ホラーなんかで怖いという気持ちを長らく忘れていたが、初めてみた映画はこんな気分だった気がする。

 長く一緒に行動した仲間とはぐれるのは怖いものなんだな。


 なんというのか、小さい頃デパートで一人待っていた記憶を思い出す。

 今考えれば特売か何かだったのだろう。

 母さんはここで待っていてと一言残すと俺はベンチで待つ事になった。

 しかし無用心だよな。子供が誘拐でもされたらどうするんだ。

 ともかく俺は母さんを待った。

 最初は大人に頼られた事で嬉しくなったりもするんだが、時間と共に心細くなって、辺りには知らない人しかいなくて、怖くなっていく。

 自分は捨てられたんじゃないか、みたいなありえない想像をしてな。


 そうか、一人っていうのは怖いのか。

 いつのまにか硝子がいて、闇影がいて、しぇりる達と一緒に行動する様になっていたから忘れていた。


「早く、謎解きして合流しないとな!」


 俺は頬を両手で二回叩くと気合を入れて歩き出す。

 地形としての現在地は解っている。

 このゲームは現実と同じく建物の大きさは現実に比例する。つまり一軒家に不自然な空間があった場合、隠し部屋などを外から見つける事だって出来る。

 そこで周った範囲から、行っていない場所は……。


「あっちか」


 俺は道を急ぐ。

 途中パイレーツスケルトンが徒党を組んでいて困った。

 硝子や紡達に任せ過ぎだな。これからは戦い方を学んでプレイヤースキルを磨くか。

 せっかくあんなに強い奴が周りにいるんだから教えてもらうのもいいな。


「……今、行くからな」


 俺は既に解答を導き出された道を走った。

 この寂しさを晴らす為に。

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