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ヘイトアタック

「痛っ……たった一発受けただけで5000ってなんだよ!」


 防御体勢で受け止めたケルベロスの攻撃は俺が衣服系防具である事を含めても高過ぎた。

 そのダメージの高さから実際に痛い訳でもないのに表情を歪めてしまった程だ。


 にしても約5000ダメージか。

 他のオンラインゲームでも大規模イベントのボスは総じて攻撃力が高いもんだが、これはプレイヤーキルをしてボスの強さとディメンションウェーブを印象付けるのが目的か。

 ともあれ、ここまで大きなダメージを与えて来て、尚且つ死に戻り不可となると、こいつで最後だな。

 そう決断付けた所でケルベロスに向き直る。

 このままここにいると危険だ。既にケルベロスが再度攻撃する動作を取っている。


「紡! MPが切れたなら一度下がるぞ!」

「う、うん!」

「硝子、悪いがしばらく頼む!」

「わかりました! ……絆さん」

「なんだ?」

「かっこよかったですよ」

「……ほっとけ」


 戦線から一度撤退しながら呟く。

 いや、まあ自分でも上手くいった自覚はあるけどさ。

 女の子にかっこいいとか言われるのは恥ずかしいじゃないか。


「お兄ちゃん……」

「ん?」


 味方盾持ちより後方に移動すると紡が俺に話しかけてきた。

 重い大鎌とミドルアーマーの割に避けていたのかダメージは無さそうだ。


「どうしてあたしを助けてくれたの?」

「紡が戦力として必要……ていうのは建前か」

「だね」

「俺がお前の兄貴だからじゃないか?」


 多分、他の奴だったら……仲間3人は除く――身代わりにはならなかっただろう。

 誰も彼も助けるお人好しじゃないからな、俺は。


「でも、スピリットは……」

「何気にしてるんだよ。5000程度、あってないような……いや、そうでもないけど……経験値的には結構……違う!」


 最後までかっこよく決めようと思ったが計算してみると結構厳しい。

 だけどゲームって、そういうんじゃないだろ。

 効率だけじゃないっていうか、無駄に溜り場で会話に花を咲かせて、狩りもせず一夜を明かした虚無感みたいのはあるけど、それが無駄とは言いたくないというか。

 なんというのか、俺がスピリットだからこそ死なせたくなかったというか。


「そう! スピリットは仲間を決して犠牲にしない!」


 エネルギーを失った時の痛みを知っているからこそ誰かを犠牲にしたりしない。

 その時できる最善を模索して、現状を打破する。

 それが俺達スピリットだ!

 結構ノリで口にした言葉だが、良いんじゃないか?


「絆殿……」

「っげ」


 自分に言い訳していたら、いつの間にか闇影が近くに来ていた。

 きっと先程の光景を目撃したのだろう。

 つまり、今咄嗟に口にした言葉も聞かれたという事に……。

 やべぇ。凄い恥ずかしい。


「絆殿……自分、絆殿のお言葉にとても感銘を受けたでござる!」

「は? はぁ……」


 疑問系の声をつい二度も洩らしてしまった。

 というか一瞬、こいつが何を言っているのか分からなかった。


「絆殿がお気持ちを見せた以上、自分も返す所存でござる」

「……それで?」

「妹君を一度我等がパーティーに入れる事はできぬでござるか?」


 パーティー? 何か支援スキルでも使うのか?

 支援スキルの中には対象が自分だけ、無差別、パーティーメンバーのみ、と様々な種類がある。俺が使っている高速解体などは自分にしか掛けられないタイプだ。


「紡、できるか?」

「うん。できると思う」

「じゃあロゼもこの戦場にいるだろう。リーダー会話で一報入れとく」


 現状一匹のモンスターに対して数え切れない人数が集中している。

 この中からロゼを見つけ出すのは不可能だが、リーダー会話を使えば可能だ。


『戦場内にいるロゼットに告げる! 紡を借りるぞ!』


 大きな声で叫ぶと現状報告の誰かが返事をした。

 おそらくロゼで間違いないだろう。

 直に俺はカーソルメニューからパーティーの項目を表示させて、紡にパーティーを要請した。


 ――紡†エクシードさんをパーティーに招待しました。


「闇影、言われた通りパーティーにいれたぞ」

「では、先程取得したスキルを使うでござる」


 そう言うと闇影はいつもの様にスキルを詠唱する。

 ドレインと比べると詠唱時間は短く、直に完了した。


「エネルギーコンバーターでござる!」


 スキルを叫ぶと闇影から青白い魂の様な物が紡に吸い込まれる。

 正直、闇影がドレイン以外のスキルを使っている事に違和感を覚えつつ、紡が不思議そうな表情で闇影を眺めた。


「MP回復?」

「スピリット固有スキルでござる。自身のエネルギーをパーティーメンバーに転移させる事ができるのでござる」

「スピリット以外ならHPとMP回復って事か」

「その通りでござる」


 中々に便利なスキルだ。

 しかし闇影だけ何故、そのスピリット固有スキルとやらが取得できたのか。

 スキル構成談義などでも硝子達から、そう言ったスキル名を聞いた事がないので、習得条件が相当厳しい可能性がある。


「そのスキル、習得条件なんだ?」

「総獲得エネルギー量が100万を超えるでござる」

「……なんだって?」


 総獲得エネルギーという事はゲームが始まってから手に入れたエネルギーの事だろう。

 そのエネルギー量が100万を超える。

 条件としては比較的に緩い。

 時間と共にエネルギーが増えるスピリットなら最終的には項目が出現する。

 スピリット専用という分類でいえば元素変換に近いスキル、だろうな。

 だが、ゲームが始まって一ヶ月で100万となると相当難しいはずだ。

 しかしながら闇影は俺達と出会うまでの二週間マイナス3000のドレインでプラスにするという日々を送っていたはず。

 以降も常にドレインを使っていた事から習得できた、という事か。


「だけど良いのか? 消費量は知らないが」

「自分、絆殿の言葉に感銘を受けた故、問題ないでござる。それに今までエネルギーを必要以上にもらっていたでござる。多少放出する事に躊躇いはないでござる」

「……わかった。頼む」

「承知でござる!」


 闇影はもう一度エネルギーコンバーターを詠唱する。

 紡のMPを聞くに五回の使用が必要だそうだ。

 これで紡の戦線復帰は相当早くなったはず。

 当の紡は三回受けた辺りで復帰を申し出る。


「もう大丈夫だから行くね!」

「了解でござる。中距離からも可能でざる故、スキルを使いまくるでござる!」

「わかったよ。ありがとう、忍者ちゃん!」


 そう言って笑顔を見せると紡はケルベロスの元へ飛んでいった。

 ケルベロスの方向で硝子が紡の空けた部分を一人で補っている。

 簡易的に攻撃パターンを分析するに、ケルベロスは三つの頭それぞれにAIが搭載されている。その証拠に攻撃が頭毎にターゲットを変えている。

 確定はできないが、遠距離攻撃に対して反応するタイプが炎を吐く奴。

 硝子が炎を吐きそうになったら顔へ打撃を与えるので炎の発射がズレる。

 その直後、ケルベロスの右腕が硝子を襲う。

 硝子は攻撃を避けず、右腕を真剣に見据え……。


「乱舞四ノ型・白羽返し!」


 攻撃を扇子で受け止め、スキルの発動と同時に強烈な一撃がケルベロスに命中した。

 ……カウンタースキルって奴か。

 対戦ゲームなんかで度々見られる、敵の攻撃を受け止めるのが発動条件となる技。

 相手の攻撃を先読みしなければならないので扱うのは難しいが威力が高い。

 あのスキルがどの程度の威力かは知らないが、多分強いだろう。


「ソウルサイス!」


 そこに紡も参戦してケルベロスに攻撃を与える。

 紡の攻撃は頭三つを同時に攻撃した。

 ダメージ判定が複数?

 目算だが顔三つと身体って所か。もしかしたら腕なども入るかもしれない。


「くそっ! ボスの攻撃が一定しない! このままじゃ瓦解するぞ!」


 盾役の誰かが叫んだ。

 確かに参戦したばかりの紡を狙ったと思ったら、硝子にも攻撃が振るわれる。

 そして定期的に自軍に飛んでくる炎や尻尾攻撃。

 ボスのAIとしては正しいが、攻撃が一人に集中しないのは火力を担う弓や魔法スキル持ちには厳しい。

 弓はライトアーマー、魔法はローブ系という制限を受けるからな。どうして防御力という面で厳しくなる。特に今はケルベロスの攻撃を受けたら致命傷だ。

 あの頭のうち、一頭でも狙いを釘付けにできれば……あるじゃないか!


「あの火を吐く頭のヘイトを稼いでみる!」


 俺はアイテム欄に武器を仕舞うと人面樹の竿を取り出して叫んだ。

 ぶっちゃけ、この戦場には似合わない平和な装備だよな。

 弓部隊、盾部隊を超えると眼前では硝子と紡がアクロバットを繰り広げている。

 遠くで見ていてもアレだが、近くだともはや曲芸だな。

 プレイヤースキル一つでここまで違うとは……。


「火を吐くのは真ん中だったな……」


 くっ!

 俺を狙ってくる奴は一頭もいないのにケルベロスの動きが激しくて狙いが定まらない。

 ともかく当てるだけ当ててみるか!


「ヘイト&ルアー!」


 青色の発光を伴った錘がコツンとケルベロスの頭に命中する。

 すると僅かだがこっちを向いた……が直に弓部隊へ向き直る。

 効果が無い訳じゃないなら、当てまくればいいか。


「ヘイト&ルアー!」


 ×3発撃った。

 ヘイトは蓄積型で、遠距離からの攻撃に反応する真ん中の頭は徐々に俺へ向ける時間が長くなってきた。

 うわっ! 炎を吐き出そうとしてやがる。

 弓部隊とは反対の方向へ頭を誘導する為、横にステップする。

 炎にカスって当った。1500ダメージ。

 硝子達の様に避けられれば良いんだが、俺にあんなアクロバットはできない。


 だが、成果も大きい。

 弓部隊&魔法部隊さえ無事なら勝機はまだある。

 よし、もう一発ヘイト&ルアーだ。

 スキルを使うと、左腕に当った。

 やべ、ケルベロスの左腕が俺に迫る。


「ファストシールド!」

「……ロゼ、か」


 俺を庇う形でロゼが盾スキルを使用していた。

 無論、無傷とはいかないが健在な所を見るに盾スキルの効果は期待できるっぽい。


「絆、あいつの攻撃はオレ達が防ぐ。このままヘイトを稼いでくれ。攻撃が絆に集中すれば近接攻撃もできる」


 近くにはミドルアーマーを着込んだ両手斧や両手剣といった攻撃力の高い武器を持つプレイヤー達。確かに硝子達みたいなアクロバットを全てのプレイヤーに求めるのは酷ってもんだよな。

 ちなみにヘイトアップ系のスキルは近距離攻撃に多いらしい。

 当たり前だよな。後衛に攻撃が集中して良い訳がないし。

 だからヘイト&ルアーみたいな遠距離属性の付いたスキルは少ないそうだ。

 代わりにダメージはゴミだが。

 多分だがこのスキル、本来の用途は魚を呼び寄せるスキルだ。

 まあ特殊な環境とはいえ、今この瞬間役に立つので良いとしよう。


「わかった! 高威力スキルでささっと、あのデカブツを倒してくれよ!」

「任された。行くぞ!」


 矢が刺さり、魔法が焦がし、武具が穿つ。

 今正にディメンションウェーブは終結を迎えようとしていた。

 


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