劣勢状態
『皆の者。援軍がポツポツと来ておる。ここが正念場じゃ!』
あれから俺達は戦線を維持しながら少しずつ後退を重ね結局現在Dの4まで後退してしまっていた。
この辺りは道が狭くなっているので防衛には適しているが厳しい事実は変わらない。
更に敵の種類が増えた。
次元ノ骨。
次元ノ尖兵。
次元ノ弓兵。
これに伴って今まで魔法や弓で一方的に攻撃出来ていた状況が一遍した。
尖兵は槍を持っており、隙が少なく攻撃力が骨より高い。
弓兵は遠距離攻撃なので後衛に攻撃を当ててくる。
実に厳しい状況が続いている。
当然こっちだって一方的に押されている訳ではなく、援軍が少しずつ来ている。
そのおかげもあって戦線崩壊だけはどうにか免れていた。
「MPが回復した奴からスキルを使い続けるんだ。特に弓と魔法は回復を重視してくれ!」
俺達と同じくずっと防衛しているパーティーのリーダーが叫ぶ。
弓も魔法も範囲攻撃が有効打となるので戦線維持には欠かせない。
若干闇影が空気読めない奴っぽく見られているが、しょうがない。
あれでもドレインにだけスキルを振っている分、ドレインにしては威力が出るんだぞ。
ドレインにしてはな!
しかし、このままでは防衛線が崩壊するのも時間の問題だ。
既に何名か敵軍の餌食にあって死んでしまい復帰ポイントへ強制転移されてしまった。
おそらくDの4は右側最後の砦だ。
ここを落とされれば取り戻すのは容易ではなくなる。
「絆さん。決定打を撃たれる前に対策を取りましょう」
「丁度俺もそれを考えていた所だ。だが、具体的な手段がない」
「それなら私が敵軍の先端を押し広げます」
「おいおい、無茶言うなよ」
「無茶ではありません。スキルの乱発の効く私達なら可能なはずです」
確かに現状自軍がMP不足で困っている中、俺達スピリットは種族柄困っていない。
闇影が未だにサークルドレインを唱え続けられるのもスピリット故だろう。
現に今魔法スキル持ちの多くは安全地帯まで後退して回復している。
今回の戦いで気付いたがスピリットは持続力もある。
無論、エネルギーを回復させてくれる存在が自分から突っ込んでくるのも大きい。
言葉を待っている硝子の目を見る。瞳は決意で燃えていた。
……硝子ならそう言うんじゃないかって何となく分かっていた自分が嬉しい。
「エネルギー全損の可能性もあるんだぞ?」
「覚悟の上です」
「わかった。俺も行こう」
「絆さん?」
「さっき言った話、追加するな」
「はい?」
「硝子が間違えたら俺が間違いを正す」
呆気に取られた表情をした硝子。
そんなに俺の言葉が意外だったのか、正直微妙な気分だ。
「あの大軍に一人で行くとか、どう考えてもイカレテるからな」
「……そうですね。では、共に参りましょう」
微笑んだ硝子と共に俺は立ち上がり宣言する。
「こちらスピリットペアだ。種族的にスキルを撃ち続ける事ができる。敵軍の先端を押し広げてみる」
「はぁ!? あんた等死に行くつもりか!」
「その考えで良い。HPの高い壁程度に考えてくれ!」
心配する者の声をバックに勇魚ノ太刀を強く握り締めて走り始める。
現在の俺達を見てスピリットの分際で、と思っている奴も多いだろう。
実際その通りスピリット程度なのかもしれない。
だが、これ程スピリットが活躍できる場面はそうあるまい。
今は自分にできる事をするのみだ。
「硝子。扇子はある程度チャージが必要だろう。こっちでも何とか時間を稼ぐ。スキルを連打すれば多少は行けるだろう。硝子は相手を沢山巻き込める様にスキルを使うんだ」
「わかりました。ある程度のダメージは覚悟を持っていきましょう!」
「おう! 高速解体」
あれだけ数がいるんだ。今までみたいに掠り傷で済むとは思っていない。
何より弓兵がいるのだから遠距離攻撃も数えられない数飛んでくる。
それでも俺達はスピリット。
HPの高さとスキル乱発だけは誰にも負けない。
「接触します。乱舞三ノ型・桜花! 充填!」
待機中ずっとチャージしていた扇子スキルが敵を一閃した。
大凡10匹程の敵が崩れ、屍を乗り越える様に敵が現れる。
「クレーバー! クレーバー! クレーバー!」
立て続けにクレーバーを使い、赤エフィクトが途切れる事なく敵をなぎ倒す。
クレーバーは元々骨などと相性が良いのが今回に限り良い方向に転んだ。
連続でスキルを使わないと敵を倒せない程度のダメージだが効いている。
「クレーバー! クレーバー! クレーバー! クレーバー!」
回転するかの様にスキルに掛かる遠心力を加速させる。
隙を、物理ディレイを1秒でも多く減らす。
「乱舞二ノ型・広咲! 充填!」
当てる事を重視しているのか硝子は最低チャージ時間で攻撃を当てる。
無論チャージ時間の関係か一度では倒れない。
その敵にそのまま攻撃を繰り出し、仕留めていく。
一撃で倒せないなら攻撃を繰り返せば良いだけって奴か。
「絆殿! サークルドレイン!」
闇影の援護が飛んでくる。
敵軍の足元に円が浮かび、ドレインを命中させる。
既に弓や魔法でダメージが入っていたのか何匹か倒れた。
その後方には未だ敵がうじゃうじゃいるが、一瞬でも動きが鈍れば良い。
「……トグリング」
再度クレーバーを使う直後、俺の狙った敵にしぇりるが攻撃する。
闇影のドレインを受けていた影響か串刺しにした三匹同時に倒れた。
「闇子さん、しぇりるさん……」
「お前等な~」
「……わたしだけ仲間ハズレはダメ」
無表情の代わりに胸にあるマリンブルーの宝石が煌いた。
お前少年マンガのライバルキャラかっつーの。
若干死亡フラグ立っている気もする。
だがこの四人なら、もしかしたら。
「本当にやばくなったら後退するんだからな! クレーバー!」
「……わかってる。フルハープン」
剣戟、矢、魔法が飛び交う戦場の中、俺達四人は孤立している。
効率で考えれば、何やっているんだろう、とも思う。
それでもパーティー四人で何かをしている事が楽しいと思った。
ディメンションウェーブとかいう邪魔が入ったから断念しているが、俺達なら海を越えられる。純粋にそう断言できる。
ゲームとはいえ、こんな大群相手にやってくる大馬鹿共なのだから。
「退路、敵で埋まったでござる!」
「くそっ! 言った傍から後退不可かよ」
振り返ると、俺達に円を描く形で囲まれている。
敵行軍を遅らせる事はできているがこちらの退路が絶たれた。
「四面楚歌でござるな」
「そういうお前は、なんで俺達の傍にいるんだよ」
「自分、絆殿の影でござる故」
「……そういえばそんな設定あったな」
「設定とは酷いでござる!」
そんな設定でも嬉しいと思うのだから俺も単純だな。
……口にすると調子に乗りそうなので言わないが。
「さて、賭けでもしようぜ」
敵へ攻撃を繰り返しながら会話する。
丁度硝子と背中を預ける状態で戦っている。
まるで何かの戦記モノみたいで燃える。
絶対今、変な脳汁出ているよな。エンドルフィン的な奴。
「賭けですか?」
「そうだ。俺達がどれ位持つかの賭けだ」
「……それじゃあ賭けにならない」
「然様でござるな」
「全員生き残りかよ……」
「全額」
「全額でござる」
「なるほど、そういう意味ですか。では私も全額で」
「じゃあ俺だけ全員死ぬにいち……なんでもありません、全額賭けます」
冗談の通じない奴等だ。一瞬視線だけで殺されるかと思った。
こいつ等はほんの一ヶ月で殺気でも放てる様になったんじゃないか?
いや、ゲーム的な殺気だが。
にしても普段アレだけボケておきながら俺のボケは封殺とか。
まあ空気読めない自覚はあるけどさ。
「じゃあ、エネルギーをこいつ等に奪われるのは癪だ。全部ぶつける勢いで行くか」
「はい!」
「了解でござる」
「ん」
エネルギー全損は痛いが戦闘自体が面白いのでよしとしよう。
効率だけで語れない事だってゲームには沢山ある。
計算式は超えていないからスキルは無くならないしな。
決意して突撃しようと思った直後。
「すっごーい! あたしもスピリットにすればよかったな~」
そんな声が響いた。
しかも、とても聞き慣れた声だ。
「……紡?」
敵を飛び越えるかの様にやってくる我が妹。
ゲーム内ネーム、紡†エクシード。
その姿は漆黒のミドルアーマーにサークレットの様な兜からはみ出るケモノ耳。
そして巨大な鎌。
大鎌って奴か。
確か、長所は――
「遅れてごめんね、絆お兄ちゃん! これからこっちの反撃だよ! 死の舞踏!」
スキル発動と共に四連続の斬戟が響く。
それと同時に敵が何十匹と崩れた。
長所は――高威力物理範囲攻撃。
……賭け、全額賭けといて正解だったな。
海水が足りない……。