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防衛戦

「ああ、だからそっちでもイベントが始まった事を伝達してほしい」

「わかったよ。絆、儲け話になる事を祈っているよ」

「そっちこそしっかり稼げよ。じゃあ切るな」


 俺はアルトとのチャットを終了させると硝子達前方を眺める。

 既に三人はモンスターと対峙しており、戦いは激化しつつある。

 監視していた他パーティーも参戦して、さながら戦場の形相を示している。

 援軍は紡、姉さん、アルトと各方面にしてある。

 もう少し待てば大軍でやってくる事だろう。


『だから突然敵が沸いてんだ! 援軍をくれ!』

『こっちもそれどころじゃねぇよ!』


 ……マップチャットは突然の事態に先程からこんな感じだ。

 少なくとも罵り合いというか、混乱していて会話できる状況に無い。

 だから援軍要請も終わった今、俺は前で戦っている仲間の所へ行くべきだ。

 勇魚ノ太刀を握り、走り出す。


『動揺するでない!』


 マップチャットに響く大きな怒声。

 あまりに大きいもので前方へ込めた足の力が緩んでしまった程だ。

 その声を聞いた各所のパーティーリーダーは気迫の様な物を感じて沈黙。

 こういう所は、やはりVRゲームだと思う。

 パソコンのオンラインゲームだと誰かが注意しても会話垂れ流しだからな。


『皆援軍を募ったと思う。今より我等が任は彼等が来るまで如何に耐えるかじゃ!』


 確かに、言っている事は間違いない。

 前方のモンスターを確認する。

 とてもじゃないが、現状の味方で人が足りているとは思えない。


『これより防衛線を引く、各地のパーティーリーダーは地図上の縦をA~E、横を1~6として場所を示し状況を逐一報告。現状を自軍全体で把握するのじゃ!』


 そういえばこのマップの地図表示は縦と横に英文字が振られている。


 A


 B


 C


 D


 E

   1  2  3  4  5  6 


 これで現在状況を把握するのは確かにありだ。


『まずは言いだしっぺでから言おう。Cの3、中央じゃ。小山から敵の大群と敵後方に黒い塔が建造されているのが見える!』


 黒い塔、か。

 おそらく俺達プレイヤーが破壊しなければいけないモニュメントだろう。

 まあ現状、敵が多過ぎて不可能に近いが、援軍さえくれば可能か。

 よし! この人の防衛作戦、乗った。

 俺は出来得る限りの声を出す為に息を吸い込む。


『こちらBの5、右側だ。敵と交戦中! 援軍報告は完了している!』


 俺の声を皮切りに随所から現在状況が報告される。

 敵は三方向全てに沸いており、各所で戦闘になっているらしい。

 現状では援軍が来るまで援軍の出し合いは不可能、このまま耐えるしかない。


『援軍も無能ではあるまい。直に来る! それまで耐えるのじゃ!』


 そんな声を随時発している。

 報告は終わった。当初の予定通り戦線復帰する。

 報告なら戦闘中でも可能だしな。

 走って進むと戦闘状態になっている闇影が見えた。

 あいつは俺達のパーティーの後衛だからな。当然か。

 そのまま走りながら喋る。


「クレーバー! 援軍が来るまで防衛する事になった。皆、死なない様にしろよ!」

「わかりました!」

「承知でござる!」

「……ん」


 スキルを叫んで勇魚ノ太刀を次元ノ骨に当てながら口にする。

 厳しい戦況だが、不可能じゃない。

 それに周りには俺達以外にも前線組だっている。

 簡単には負けないはずだ。


「絆さん、範囲攻撃を重点的に使うと良いはずです」

「あの大軍だしな。まあ俺は個別スキルしかないんだけどさ」


 解体武器の初級スキル、クレーバーは単体攻撃スキルだ。

 幸い骨とは相性が良さそうだがこの大軍が一匹減った所で焼け石に水。

 無論、その一匹を倒すのも重要だが。

 そうだ。まだ範囲攻撃云々は報告に上がってなかったな。


『敵の数が多い。範囲攻撃を中心に置いた方が良い!』


 状況から理解している奴も多いだろうが、再三確認するのに越した事はない。


「高速解体……クレーバー!」


 二つのスキルを立て続けに使用する。

 高速解体は身体が少し軽くなるからな。支援スキルとして使った。

 自分達に少しでも有利にさせる為なら、なんでも使う。

 少なくとも援軍が来るまでは。


「絆さん、スキルの乱発は――」

「敵からの経験値で元は取れる。今は一匹でも多く仕留めるのが先だ!」

「理に適っています。では私も……乱舞二ノ型・広咲!」


 これが俺達スピリット最大の長所だ。

 敵を倒して得られるエネルギーがマイナスになったとしても無限にスキルを使い続ける事ができる。例え一発の威力が種族的に低くても乱発すれば上回る。

 次元ノ骨は倒したその場からぞろぞろと行軍してくるが、それでも倒しまくればいい。


「弓持ちは撃って撃って、撃ちまくれ!」


 戦場内の誰かが言った。

 あれだけの数だ。撃てば撃っただけ命中する。

 後方をチラ見すると弓スキル持ちは徒党を組んでスキルを叫びまくっている。

 以前姉さんが言っていた、パーティーでは味方に当たる様な範囲スキルでも俺達を飛び越え矢が大群の中に吸い込まれていく。

 骸骨である奴等に突属性攻撃は効き辛いが、それでも効果は確実にある。

 現に少し敵の進軍速度が減少した。

 攻撃命中による移動速度減少って所だろうか。

 彼等に負けていられない。


「クレーバー!」

「……トグリング」


 しぇりるも半製造ながら戦っている。

 スキルはこの一週間で出た二番目の攻撃スキル、トグリングを使った。

 貫通属性であり、本来であれば魚系モンスターと相性の良いスキルだ。

 それでも前方向に貫通のあるこのスキルは敵を三匹は貫ける。


「自分は必殺忍法で行くでござる!」

「何が必殺忍法だ。どうせドレインだろ!」

「違うでござる」

「……なに?」


 闇影と言えばドレインしか使わない事で有名だ。

 俺達の中では火力を担っているが、きっと別のパーティーではゴミ扱いされそう。

 そんな固定スキル使い。

 その闇影が他のスキルを使うのか? エネルギー的に威力は高そうだぞ。

 次元ノ骨をなぎ倒しながらワクワクしていると闇影の詠唱が完了する。


「サークルドレインでござる!」


 ………………………。


「どっちみちドレインじゃねーか!」


 地面に巨大な円が描かれ黒紫色のエフィクトが次元ノ骨に喰らい付く、そしてドレインと似た様な色の緑の玉……普通のドレインより大きい玉が闇影に吸い込まれていった。

 しかも微妙に範囲広くて一度に10匹程命中した。

 ここ以外で使いそうにない、範囲吸収かよ。

 まあいい。闇影のドレインはあれで性能が高いからな。


「言いたい事はあるが、今は使いまくれ!」

「無論でござる!」


 それでも敵は一向に減らない。

 単純にこちらの数が足りていない。

 これはどう見ても多人数参加型大規模戦闘。当たり前といえば当たり前か。


「ちいっ!」


 不用意にスキルを使いまくっていたら、隙を突かれて四回攻撃を受けた。

 合計470ダメージ。

 一発一発のダメージこそ少ないが、これは囲まれたらあっという間に削られる。


「絆さん! 乱舞三ノ型・桜花!」

「助かる! クレーバー!」


 扇子のスキルは範囲攻撃が多い。

 今みたいな大規模戦闘にはうってつけの状況だ。

 現に硝子のスキルで敵五匹が一度に倒れた。

 今まで使ったエネルギーが回復して、少し上回っている。

 だが、それでも攻撃を受けたら意味がない。硝子の援護が入ってどうにか五回目の攻撃を受けずに済んだが、これは厳しい。


「絆さん、少し後退しましょう。私達は孤立しかけています」

「くっ! 了解した」


 落ち着いて周囲を確認すると硝子の言葉通り、俺達は敵を防ぎ過ぎて孤立している。スキル使い放題なのは長所だが、前と横から一度に攻撃を受けたら防ぎようがない。

 俺達は横の敵を攻撃しながら後退を始めた。


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