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戦闘準備

 俺達の動向とは余所に世界は実にゆっくり時を刻んだ。

 無論、三日後に備えて動く俺達にとっては、その緩やかな時間も無駄にはできない。


 まず硝子達と合流を果たした俺は、それまでに得た情報を共有し、逐一連絡しながら様々な方面で現状把握に尽力した。

 例に挙げられる物では、アルトから特設マップの場所を得たり、ロミナからパーティー全員の武器を作成してもらったり、防具職人を紹介してもらって装備を一新した。

 海の装備な影響か青に近い色彩の防具が多く、鳥系も混ざったふわふわな感じも多い。

 そして特設マップの調査もした。

 他のパーティーなど情報は出尽くしていたが、このゲームは自分の目で見ておく事が重要だ。なので一度四人で調べた。


 場所は第一から第二の間。

 元は大きな壁のあった場所なのだが、そこがぱっかり開いて道になっていた。

 ディメンションウェーブの影響で道が出来たらしい。

 そのマップに入ると遠目ながら、黒い次元の裂け目を見る事ができる。

 だが、そのマップには現状モンスター一匹存在しない。

 その為、そこがどの様な形状をしたマップなのか調べる事は容易だった。

 地形は緩やかな段差こそあるが比較的平地。

 道は山を二つ挟んだ真ん中、右側、左側と三方向ある。

 その三方向はヒビの方角でも道が集約している。

 憶測だが、大規模攻防戦になった場合、敵が三方向から来る、と思われる。

 逆にプレイヤーが三方向から攻めるというのも無難な線か。


 そこが特設マップである理由は他にもある。

 まずマップ会話が存在する。

 基本的にはチャットを除けば現実と同様、どんなに大きな声を出しても近くの人にしか声は届かない。

 だが、ここではその人物がパーティーリーダーであればリーダー同士で会話ができる。

 そんな理由もあって現在パーティーの限界人数である10人で組む為にメンバー募集などが第一、第二都市の各所で騒がれている。


 ともあれ、各都市を見るに潜在的にディメンションウェーブに参加を決めている奴は相当数いる。特に現在第一、第二では武器防具、アイテムなどの売買が盛んだ。

 アルトもロミナも大変そうにしていた。

 その中で様々な情報を与えてくれた二人には感謝の言葉が尽きない。


 ただ具体的な参加人数が不透明な事を含め、沢山の人が参加する戦場は混迷を極める事が推測できる。

 中には作戦だの、計略だの話していた前線組もいたが、人数的に統率は不可能だろう。

 というのもマップその物が相当広い。

 プレイヤー人口を具体的に把握している訳ではないので迂闊な事は言えないが、1000人位なら簡単に納まってしまう程度には広かった。

 故に調査にも限界はある。


 こうして紡や姉さんに解体アイテムを譲ったり、アルトやロミナに売ったりする内に二日目が終わっていた。


   †


「今日が三日目だが、相変わらず変化なしか」


 装備などの準備を一応に終えた俺達は特設マップに来ていた。

 辺りは大地の表面に絨毯の様な雪が積もり、空と同じ赤い雲が上空にあった。

 次元の裂け目の黒いヒビは、この三日間まるで変化がない。

 ゲームが始まって一ヶ月目に何かあるとすれば今日なのだが……。


「……もしかしたら、他に何かあるのかも」

「目に見える物だけが真実ではない場合もあるでござるしな」

「一理ありますね。ですが、それならば気付く方がおられるのではないですか?」

「タイトルにもなっている位だから個人クエストって事はないと思うが……」


 半ば次元の裂け目を監視している俺達の緊張は最初こそ厳しかったが、既に何回、何時間とここに来ている影響で、緩くなり始めていた。

 常に緊張しろとは言わないが、何も起こらないので仕方がないとも言える。

 俺達以外もそれは同じなのか、周囲――12、3程、監視役のパーティーがいるが、それ等皆が話ながら警戒に当たっている。

 中には眠そうにしている者もいるが、何時間ここにいるんだろうか。

 話によるとロゼ達前線組の中には24時間体制で監視している所もあるそうだ。

 どこのゲームでも凄いのがいるもんだな。


「一応再度確認しとくか」

「わかりました」


 今日で何度目か分からないが装備やアイテムなどの確認は全員で定期的に行なっている。

 さて、俺も確認しないと。

 ステータス、スキル、アイテムなどを確認していく。


 名前/絆†エクシード。

 種族/魂人。

 エネルギー/92360。

 マナ/7800。

 セリン/46780。


 スキル/エネルギー生産力Ⅹ。

     マナ生産力Ⅶ。

     フィッシングマスタリーⅣ。

     解体マスタリーⅣ。

     クレーバーⅢ。

     高速解体Ⅲ。

     船上戦闘Ⅳ。

     元素変換Ⅰ。


 エネルギーが一週間前よりも随分と増えた。これも硝子達のおかげだ。

 海のモンスターは強いがその分経験値も多い。

 最初こそ船上戦闘スキルがなかった事が原因で色々と困ったが慣れればかなり良い狩り場でもあった。

 硝子なんて『船の上の方が、調子が良くなってきました』なんて言い出す始末だ。

 慣れって怖いと思う。

 意外と船は掴まる場所などもあるので、多目的な戦闘ができるというか……まあそこ等はディメンションウェーブとは関係ないか。

 場所的に内陸だしな。


 ちなみにスピリット三人組の中で俺のエネルギーが一番少ないのは今更か。

 エネルギーに関しては特に闇影が多い。

 火力が増して殲滅力が上がり、効率が上がるので文句は言わないが、あいつが使うスキルはドレインオンリーだからな。自然と増えていく。

 硝子は元々が前線組なので、基礎代謝が違う。

 実情、増えた様に見えて俺が一番低いって感じだ。

 まあ俺の使うエネルギーが多くても解体武器だから、そんなに変わらないんだが。


 武器は一新こそしたが、今回は勇魚ノ太刀オンリーだ。

 作成アイテムの関係か未だに威力では上だったりする。

 何より包丁みたいな刃物が多い解体武器の中で一番大きいからな。

 乱戦が予想されるディメンションウェーブではこっちの方が良い。


「多分、今日だと思うから足りない物があると思ったら、取りに行くんだぞ」

「……さっき行った」

「自分は三回程行ったでござる!」

「それは自慢にならないからな」


 相変わらずの俺達だった。

 ちなみに俺は硝子が必要なアイテムの確認を取ってくれて忘れなかった。

 硝子はこういう事きっちりしているので一度も戻っていない。

 個人的に凄いと思う。

 いや、単に俺がアイテム欄に物を入れ過ぎなのかもしれないが……。


「次の確認だが、この手のイベントは人が密集するから大体はぐれる。はぐれた場合、各自に任せるって感じでいいか?」

「了解でござる」


 今更だが作戦でもなんでもないな。

 実際、今監視しているパーティーですら結構な人数だ。

 ディメンションウェーブというのがどの程度の難易度で設定されているかは不明だが、参加者数的に一方的な敗北って事はありえないだろう。

 俺は既に何度目かは知らない準備が完了して黒いヒビへ視線を向ける。

 相変わらず変化の無い姿に欠伸すら沸いてくる始末だ。


「絆さん。少し気が緩みすぎかと」

「こうも何もないとな」

「そうですね。ですが今は耐えるべき時です」

「硝子は相変わらずだな……そういえば……」


 先日、俺は硝子の元パーティーと思わしき人物等に遭遇した。

 パーティー構成や装備の充実具合から強いのは確かだろうが、どうにも違和感が残る。

 勝手だとは思うが、俺の中で硝子は清く正しい、悪く言えば説教臭い奴だと思っている。

 その硝子があの手の輩と意気投合したというのは納得が行かない。

 なんというのか、ああ言う輩と遭遇したら説教とか初めそうな気がする。


「どうしました?」

「いや、単純に硝子の前のパーティーが気になってさ」

「あの方達ですか……」

「硝子の話じゃ、あんまり良い奴等じゃなかったんだろう?」

「いえ、最初は悪い方ではありませんでした」

「そうなのか?」


 とてもじゃないが、そんな風には見えなかった。

 こう、街のチンピラみたいな雰囲気というか。


「前線組と呼ばれ始めた頃からでしょうか、起こす行動が粗野になりはじめたのです」

「……硝子には悪いが、ありがちな感じだな」

「そうですね。人として当たり前の事に目を向けない彼等に注意する数は日に日に増えて行きまして……」

「ウザがれたと」

「はい。結局……彼等の事を、私の方が先に諦めてしまったんです」


 それで現在あいつ等は絶賛有頂天状態って感じか。

 俺もそうならない様に注意したい。

 強くなったり、金が増えたりすると心まで強くなった気がするからな。

 そうして誰かに諦められるのは……嫌だ。


「それじゃあさ、もしも俺が道を誤ったら教えてくれないか?」

「絆さんがですか? 今まで絆さんは誰かの為に行動していたと思いますが」

「そう評価されるのは嬉しいが、俺も人間だからな。どこかで間違える事はある」

「……わかりました。今度は必ず正しい道に連れ戻します」


 脊髄で言ってしまったが、ちょっと後悔気味だ。

 硝子ってなんか聖人君子みたいな匂いがするので、あれこれ言われそうな……。

 ん?


「……あれ?」


 前方に変化がある。

 黒いヒビ――次元の裂け目が鈍く発光している。

 既に硝子も気付いていて警戒態勢を取った。

 やはり来たか。今日来るとは思っていたが、当たるとは。


「うわ!?」


 俺達よりも前方で陣取っていたパーティーからそんな声が響く。

 直後、そのパーティー付近から土煙が上がった。

 そして次元ノ骨という名のアンデットモンスター、所謂人型の骸骨が現れた。


「……多いな」


 前方に広がる光景――


 骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨。


 土煙から現れる次元ノ骨、そして多過ぎて分からない後続モンスター。

 さすがはディメンションウェーブ。多人数参加型イベントって感じだな。


「絆さん、一度後退をしてください! 私、闇子さん、しぇりるさんで防ぎますから」

「おう! あれ? 俺は?」

「……絆はリーダー、報告と援軍要請」

「そういえば何故か俺がリーダーでしたね!」


 あれ? 闇影は……ってもうドレインの詠唱してやがる。

 ドレインは中距離スキルなので初発としてはありだがな。

 しかしアンデットにドレインって効くのか?

 まあいい。


「わかった。一度、後退して報告してくる! 無理せずに後退も考えろよ!」

「わかりました!」

「ん」


 二人の声を耳に、後方へ走りながらメニューカーソルからチャットを選択したのだった。


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― 新着の感想 ―
生産とか釣りとか言いつつイベント最前線で楽しむ気満々なの、好き。ただ、大規模イベントで日程もほぼわかってるのに現場で開始待ちするプレイヤー少なすぎないか……な
[気になる点] 1000人が簡単に納まるとなってるんですが、1000人だとバスケットボールのコート3面か4面位あれば余裕で納まってしまいますよ…。
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