バス釣り
「それでお客様、当ギルドに何の御用ッチュ? メッセージを送るっチュ?」
「ギルドマスターが分かればチャットを送る方が早いよね」
「問題は俺や顔文字さんと同じくフレンド以上じゃない相手からのチャットは拒否設定にしてるかもしれないって事かなー」
領地持ちってのはそれだけ妬みなどを受けやすい訳で、カルミラ島が解放された直後は訳の分からない罵倒が書かれたメールが時々送られて来たもんだ。
まあ、このゲームだと新規アカウントとか作れないので匿名でのメッセージは難しい訳だけどね。
それでも妙な妬みがこもった恨み節は来るわけで、そういった面倒な連中に絡まれないように設定してしまうもんだ。
そもそも解放時にデフォルトでメッセージをフレンドまでに指定される。
システムもその辺りは察知してるって事なんだろう。姉さんとはあの時までフレンド設定にしてなかったんだった。
試しに外したら送られてきたわけだし……確か『釣りキチ! 気色悪いんだよネカマ!』とか書かれてたなー。
「留守なようじゃし、島主は乗り気じゃないのなら、あとでわらわが連絡しておくのじゃ」
「あーい。どこかで会えると良いな」
「ギルド名だけで相当個性的な人みたいだし、割とすぐに会えるかもね」
会えてうれしい相手だと良いが……まあ、楽しみにしよう。
という訳でノースフェラトの城から出た広場で周囲を見渡す。
「ではみんなはどうするのじゃ? わらわは新たな作物が無いか市場を見てくるのじゃ」
「言うまでもない。川で鮭、湖でブラックバス釣りに挑戦するに決まってるだろ」
「予想通りの行動でござるな」
「そうですね。では私が川と湖に案内しますね」
硝子の案内で俺は釣りへと向かう事にする。
「私たちはどうしようかしら。この辺りの魔物で手ごろな相手でも探そうかしら? 紡と闇影ちゃん、行くかしら?」
「まーお兄ちゃんが釣ろうとしてる魚周りは硝子さんとお兄ちゃんのファンギルドが既に攻略済みだし、目を離しても良いかも?」
「そうやって油断してると絆殿が変なものを釣ってくるでござるよ」
そこまでじゃない! っとは言い切れないのが辛いな……河童とか予想外な代物が釣れたりするし。
「かといって地道な作業を見てるだけってのもねー何かイベントを見つけたら速攻で連絡しなさいって程度でやりたいことをしていくのが良いんじゃない?」
姉さんはこの辺りの判断力が高くて助かるね。
「それもそうでござるな。色々と手広く探して呪具スキルの媒介を探すでござる。こういった所で見つかる可能性もあるでござる」
「まあ、フラグっぽいものを見つけたら触れずに行けば変なイベントには遭遇しないだろう。ここでらるく辺りがチャットでフラグを立てない限りは」
って所でらるくからチャットが来た。とりあえず出てやろう。
『おーい。嬢ちゃんたちー』
……らるく、タイミングを狙ってるのだろうか?
「噂をすればなんとやらでござる」
『どうした? また変わったイベント見つけたのか?』
「いいや、噂をしてたらチャットが来たって感じ、なんかフラグっぽい情報はノーサンキュー」
ミリーさんが探していた遺跡を俺が思いっきり踏んづけたんだし、妙なフラグは勘弁してくれ。
『んだよ。釣れねえじゃねえか、じゃあ早速フラグを立てるぜ!』
やめろっての! 接待ネトゲじゃないから!
『とは言ってもねーここでの変わったクエストはどうも虫取りのクエストが多いのがメモリアルクエスト一覧で分かるところね』
てりすがチャットに入って来て補足してくれる。
虫取り……。
「ここの領主はどうも虫好きなようじゃ」
『あー……なるほど、絆の嬢ちゃんと似た感じでクエストを発見してるって事か』
「俺と同じってそんな釣りでクエストを見つけたりしてないぞ!」
『結果的に見つけたってのはありそうじゃねえか』
うぐ……否定できない。
俺みたいなやつがいるって事で片づけるしかないのか。
「絆さんが今行くところにそれらしいヒントはありますか?」
『ねえなー森の奥に行って帰ってきた者は~みたいな不穏なヒントはあるけど何処でも見るヒントだし』
ミカカゲの方でもあったなぁ。湿地帯の方で。
『まあ、見つかったら報告するから楽しみにしてくれよ。何かあったら教えてくれよな!』
って感じでらるく達はチャットを終える。
特にこれといった収穫は無いで良さそうかな?
「そんじゃ早速鮭を釣りに行くとしますか」
「いってらっしゃい」
って訳で俺は硝子と二人で釣りへと向かった。
「ええ、こちらですよ。湖から少し離れた所にあるフィールドの川です。魔物も出ますがミカカゲより弱いので絆さんなら楽に倒せるはずです」
ほう……と、ノースフェラトから出て森を道なりに進んで行く。
「ミカカゲの渓流に似た雰囲気の場所だなー」
森の雰囲気がどことなく似ているように感じる。
出てくる魔物は……蜂蜜熊という……なんかハチがブンブンと纏わりついたクマの魔物だ。
なんか甘い匂いがするのと倒すと蜂の巣を落とすっぽい。
解体すると熊の毛皮と蜜の染みついたクマ手という素材が手に入る。
……ハニーハンドって事なのかな?
なんてやっていると川……穏やかな渓流に出る。
ところどころにプレイヤーが居て釣りをしている。
あ……なんか川の中で蜂蜜熊が水面を見てる。
鮭を取ろうとしてる感じな雰囲気だ。
「そうですね。確かによく似てるように感じますね。紅葉もありますし」
「ミカカゲだとなんで鮭が釣れなかったんだろうなー」
「アップデート毎に釣れる魚が増えたりするのでもしかしたら釣れるようになるかもしれませんよ?」
「そうだね」
ダークサーモンとかまさにそれだもんね。
「ちなみに鮭ですが、銛でも捕れるそうですよ。慣れるとそこの蜂蜜熊みたいに飛び上がる直後に武器で弾いて捕れます」
「硝子はできそうだね」
「……」
あれ? なんか硝子がなぜか顔をそらしてる。
なんで?
俺が小首を傾げていると硝子は非常に言いづらそうに苦笑いをする。
「いえー……その、このゲームではなく……修行で食材確保に山でやらされまして」
硝子の実家に関しても色々と気になるところがあるよね。
どうも口調や運動神経からして古風な家って雰囲気があるけど鮭を修行で捕ったって話……普通は無いよね?
それともどこかでは一般的な事なんだろうか?
あんまり踏み込むのは硝子も嫌だろう。
「とにかく、外の世界に出られたんだ! 早速挑戦! 今回はフライフィッシング!」
手元の釣り具で眠らせ気味のフライフィッシング用のルアーでひゅんひゅんと動かしながら適度に水面に落とす。
硝子は少し離れた所で普通にルアーを使って釣りをしているようだ。
釣り糸を垂らしつつ周囲を確認。
「ここのヌシであるヌシサーモンはこの前釣れたばかりです」
「硝子が釣ったのかな?」
「ええ、その……絆さんのファンクラブの方々が調査して釣り上げる直前に敢えて釣り糸を切ったりして私に釣り方を教えて下さり手柄にしてくれました」
「本当、大丈夫なの?」
「はい……絆さんの写真を遺影みたいに持ってお願いされまして」
……本気で怖いんだけどその集団。
俺の写真を遺影にって縁起でもない。
「絆さんが鮭を釣りたがっていた。けど居ない、このままでは誰かが釣ってしまう……ならばせめて私に釣ってほしいと、かなり仰々しい騒動になったんですよ?」
「らるく達はそれを見るべきだったんじゃないの?」
怖すぎるわ。
そして狩猟具のスキルのお陰で後方で俺たちを遠目に観察している集団を発見してるからな。
「さすがは絆ちゃんでござる。フライフィッシングで挑むのは王道」
「通でござる」
「絆ちゃんが見つかったと聞いて安心でござる」
「絆ちゃんの釣った鮭をペロペロしたい」
「絆ちゃんの捌いた鮭のイクラが欲しいでござる」
「サーモン奪取ランでござる」
絆ちゃん連呼すんな……何なのお前ら? 俺が釣った鮭に何をする気だ。
釣る意欲が減退しそう……。
っとやっているとグイ! と毛鉤が水中に引き込まれた。




