さらば闇影
ここで人見知り全開とばかりに黙り込んで距離を取っていた闇影が問うように口を開いてクレイさん達に尋ねる。
「ん……?」
みんなの視線が闇影へと集中し始める。
闇影はゆっくりとクレイさん達の方へと歩き始めたぞ。
「小学生で人見知り、ゲームが上手で中二、楽器演奏が上手な娘」
ん? なんか改めて思うけど随分と闇影と特徴が重なるな。
何せプレイヤーネームが闇影なんて名前な訳だし。
俺達と出会うまでずっとソロプレイをしてたもんな。
って考えてみればゲーム開始直後不機嫌だったとか言ってた。
何か約束をすっぽかされたとか。
おい! 思いっきり闇影と特徴が被ってるじゃないか!
ヨヨヨ……と悲しんでいるミリーさんと慰めるクレイさん。
かなりお茶目に化石集めしてるのを開拓中に見たけど娘さんは随分と大事にしてるのは伝わってくる。
発掘中の雑談で娘さんの事を結構話してたし。
「嘘じゃないでござる?」
「ああ……私たちはあの子と一緒に過ごしたいだけなんだ」
「そう……だったんだ」
フッと、ミリーさんとクレイさんが顔を上げて闇影を見つめる。
闇影がアイテム欄からバイオリンを出して手短に曲を奏でる。
経験則で覚えるとか言ってたけど本当に演奏出来る様になるんだな。
結構上手というかスキルLvが上がってる様に感じる。
なんか聞き覚えのあるクラシックな曲だったような?
クレイさんとミリーさんは闇影の演奏に目を見開き、喜びの表情になる。
「本当に、楽しみにしてたんだよ。だけど急に仕事が入って来れないって……」
「……申し訳ないと思ってるよ」
「ああ――!!」
っとミリーさんが闇影に抱きつき、闇影が何やら小声で囁く。
たぶん、クレイさんとミリーさんのリアルネームとかかな? なんか人名っぽいのが聞こえたし。
で、クレイさん達も闇影に同様の事を小声で言い合っていた。
「パパママ……!」
「やっと逢えたわ! やっと……貴方の決めた設定を守って、話をした通りに頑張って来たわ」
「そうだとも、これからは一緒だ」
おお……感動の再会って奴だな。
というかマジかー……闇影が件の娘だったのか。
誰だったか記憶が混ざってて思い出せなかったけど闇影だったんだな。
で、そんな家族水入らずの空間に入れる訳も無く、俺は空気を読んでその場を足早に去る。
そんな俺をキョロキョロと見ていた硝子も後に続き、しぇりるも俺に付いてくる。
「うーん?」
「良いから来なさい」
で、空気が読めない紡を姉さんが引っ張っていき、ロミナが続く。
「ふむ……感動の対面じゃな」
「おー闇影の嬢ちゃんだったんだな」
「灯台もと暗しとはこのことねー」
と顔文字さん達が再会を喜ぶ一家に付き従う形で話をしている。
家出忍者は家族水入らずの楽しい日々が始まるんだな。
長い家出だったな。半年くらいになるか?
何はともあれゲーム終了まで楽しい親子の生活になるのだ。
さらば闇影。
これからは家族仲良く、達者で暮らすのだ。
と、俺達は完全にその場を後にした。
こう……空気的にね。
邪魔者は足早に去るのが常識という奴だな。
「闇ちゃんあっちのギルドに移籍って感じ?」
「と言うより家族水入らずでゲーム生活だな。これから寂しくなるな。闇影をあっちのギルドに移籍出来る様に追放っと」
そっと立ち去ってからプラド草原の街で話しをしながら闇影をギルドから追い出しておく。
この後どうするかね。
硝子に新しい釣り場で釣ったヌシの話とか聞こうかな。
「あの……絆さん? 先ほどから闇影さんから凄いチャットのコールが響いてるのですが……」
「絆どのたちぃいいいい! 何処でござるかぁあああああああああああ!」
なんか凄い剣幕で町中を走っているぞ。
思わず隠れてしまった。
「ご丁寧にギルド追放までしなくて良いでござるぅうううう! 早く出てくるでござる!」
うーん……アレが感動の対面をした直後の奴がする事なんだろうか?
コール音がもの凄い。
連打するなよ。システムに警告とかされかねないぞ。あそこまでの連続チャット要望って。
まだプレイヤーが到着してないからって騒ぎすぎだろうに。
「空気で去る展開じゃない? アニメとか物語だとさ」
「そうよね。流れだと去るのが相場よね」
「言わんとしてる所はわかるような気がしますが……闇影さんは違うようですよ」
「……闇、寂しがり屋。仲間はずれ嫌がる」
「これは仲間はずれではない。親子の時間を大事にしようとした配慮だ」
「イエス……けど闇、呼んでる」
「どうしたんだろうね?」
しょうがないので再度合流する事にした。
「闇影、俺達は家族水入らずの所に割り込む程、野暮な奴だと思われたら心外だぞ」
「勝手においてかないでほしいでござる! 流れで行くならカルミラ島の城に拙者が先回りするのが無難でござるのは分かるけど面倒でござる」
「だからって鬼の形相と叫びまでするなよ」
まったく、寂しがりのお嬢様だ。
「そうじゃな。島主一行の動きは自然と言えば自然じゃったな」
「このパターンでも違和感は無いって感じだったぜ」
「闇影ちゃん、気付いたら凄い勢いで走って行っちゃったのよね」
「で、闇影。俺達に何の用? 両親と楽しくゲームやるんだろ?」
「絆殿達も一緒に遊べば良いだけでござるよ! まだまだゲーム時間は続くでござるから!」
そんな大声出さなくても良いだろうに。
とりあえずクレイさん達の方に顔を向けるとミリーさんと一緒に苦笑してるぞ。
「そんな訳だから娘とこれからよろしくお願いするよ。私たちもね」
「わかったけど……闇影、お前は俺と顔文字さんのどっちのギルドに所属する気だ?」
「拙者は絆殿、父上と母上は顔文字殿の所に所属するでござる!」
「別に俺達は構わないが」
良いのか? 親子で別ギルドとか……。
「パパママじゃないのか?」
「い、良いのでござる!」
どうにも闇影のこだわりという奴かな。
「顔文字さんの所を一家専用ギルドにするってのも手ではあるぞ。他の面子は全員こっちが受け持ってさ」
「抜けられないわらわの気持ちを考えよ! ギルドチャットが一家の雑談で垂れ流しになるのだぞ!」
それはそれで辛い。自分の家なのに他人の一家が我が物顔で使って居て居候気分を味わう環境になりそう。
「チャットをするのは元より一緒に冒険とかすれば良いだけでござるよ」
「感覚で言えば……バカンス中の現地の友達と遊んで居る感じが近いんじゃないかな?」
「そう……」
クレイさんの補足にしぇりるが納得した様に頷いてる。
わかるわけ?
「まあ、クレイさん達の話だと短い休暇をゲームで引き延ばした感じだから近いと言えば近いか」
「何より優先順位は娘が第一だからね。仕事は無く、趣味で商売を嗜んで居る訳だし」
ゲーム内での商売はあくまで趣味だもんな。
生活に直結する問題では無い。
「そうか」
「そんな訳だから置いて行かないでほしいでござる!」
「はいはい。わかったよ」
俺は闇影にギルド申請を送って再加入させておく。
「そんな訳だからこれからも贔屓によろしく頼むよ」
「了解。こっちも……あ、そうだ闇影」
「なんでござる?」
「フフフフ、お肩でも揉みましょうかお嬢様……こう、どうかゲーム終了後には色々とよくして頂きたいです。フヒヒヒ!」
あえて誰とは言わないが、せめてここに居ないアイツの演技をしようと思う。
「何の真似でござるか!」
闇影の背後に回ってゴマすりをしつつ肩を揉むモーションをしたら気色悪がられる。
思惑通りだ。
「チッ! お兄ちゃんに先を越された!」
「アンタねー……」
とは言いつつ姉さんも紡と同じ表情をしてるのでやろうと考えては居たんだろう。
「絆さんは本当、変わらないですね。お茶目と言って良いのでしょうか」
「まあ、ここに居ない奴だったらやるだろうなって思ってさ。本音は、別にリアルまで持ち出す気は無いかな」
「拙者のリアルを知ったらアルト殿がやりそうだとは思うでござるが、ここでネタに走らなくても良いでござる!」




