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対策と結果

「ううっ……酷い目にあったでござる……」


 海水で水浸しになった闇影が言った。

 あれから数分も経たない内にしぇりるが救出に成功して、今さっき引き上げた所だ。

 それにしても、まさかこんな事になるとは想像もしてなかった。

 三国志か何かで陸地と海戦ではまるで違うという話をマンガで読んだが、ここまで違うとは。三国志の場合、赤壁は河だが、似た様な物だろう。

 史実は知らないが演義だと圧倒的な数で上回っていた魏に策略を使ったとはいえ呉が勝利するんだったか。

 そう考えると船での戦闘は船上戦スキルが必要になりそうだな。


「……そういえば練習とか言っていた覚えが」


 出航前、硝子に向かってしぇりるが近場で練習すると言っていたのを思い出す。

 しぇりるさん、まさか分かっていたのか?

 気付かれない様に視線を向ける。

 するとしぇりるは相変わらず感情の読めない表情をしていた。

 まさかな。


「しぇりるは船上戦闘スキルどれくらいだ?」

「熟練度124でレベル3。絆は?」

「レベル……は分からないが、ランクⅡだ」


 スピリットは種族柄、他の種族とは違うという事なのだろう。

 正直、熟練度だのレベルだの言われても今一分からない。

 憶測だがレベル3はスピリットでいうランクⅢの事を指すのではなかろうか。俺達スピリットは船の上での滞在時間だが、レベルの場合条件が違ったりするのかもしれない。


「絆さんが船の上で迅速に行動できるのはスキルのおかげなのですか?」

「ああ。取得条件は船の上で12時間経過だ。取得するか考えておいてくれ」

「12時間ですか……短い様で長いですね」


 取得する気マンマンの硝子は取得条件を聞いて少しがっかりしている。

 確かに12時間は夜目と比べると比較的に条件は軽いが、ちょっと長い。


「にしても闇影はなんで落ちたんだ? ドレインを詠唱していただけだろう?」

「それが自分にも理解できないでござる。気が付いたら海に落ちていたでござる」

「……詠唱で意識が足にいかなかったのかも」

「あーありえるな……」


 結構船の揺れは無意識にバランス取っているからな。

 詠唱が仮に全意識を使う、みたいに設定されていたら転がって海に落ちる、なんて事も十分考えられる。

 この辺りは船上戦闘スキルで補えるのか? 補えると良いんだが。

 というか補えなかったら船の上で魔法スキルが死んでいる事になるぞ。

 無論、誰かが支えて魔法を唱えさせるとか仮案はあるが、現実的じゃないよな……。


「絆さん!」


 う~んう~んと思考していると突然硝子に話しかけられた。

 振り返ると目が輝いている。何か名案でも閃いたか。


「絆さんが私と闇子さんの手を握って戦うというのはどうでしょう!」

「……え?」


 いや、どんな戦い方だ。

 そりゃ足を引っ張られた硝子の安定を保つ事はできる。幸い硝子の武器は片手で使える扇子だ。更に闇影の詠唱による海落下防止もできるだろう。

 だけど……仲良くお手々を繋いで戦う。

 かっこわるくね?

 ……待てよ?


「それで大丈夫なら、闇影をマストに吊るしておけばドレイン使えるんじゃね?」

「とんでもない事言っているでござる!」

「いや、固定砲台的にさ。この際張り付けでもいいぞ?」

「もっと悪いでござる!?」

「……ダメ。景観が損なわれる」

「しぇりるが言うならしょうがないな」

「釈然としないでござる!」


 まあ冗談はさて置き、真面目に考えよう。

 かっこ悪いとは思うが二人の手を握って戦うのも無理な手段ではない。


「そういえば後ろにバリスタがあるけど、あれは使えないのか?」

「使える」

「じゃあそれを使うというのはどうだ?」

「お金が掛かる」

「金か~……」


 船の材料を買い漁った所為で俺も少々心許ない。

 話によればバリスタの矢は弓矢の物より高額らしいので悩み所だ。


「しょうがないな……二人には船底で漕いでもらうか……」


 ボソっと呟く。

 さっき船内を覗いたら船底に押して漕ぐあの機材……名前知らない――があった。

 あれを硝子と闇影に押させて俺としぇりるで12時間戦えば良いだろう。


「何がしょうがないなんですか!」

「ポジションが完全に奴隷でござる!」

「ちっ! 気付かれたか」


 結構小さい声で呟いたつもりだったが聞こえてしまった。

 まあ四人で乗れるとは言っても、この至近距離で聞き漏らしたらそいつは難聴だが。

 しかしだ。

 お手々を繋いで戦うとか、こう恥ずかしいじゃないか。

 と訴えたのだが……その後数分の口論を挟んで。


「はぁ……分かった、かっこ悪いけど硝子の案で行こう」


 結局妥協して頷いてしまった。

 まあさすがに奴隷計画は自分でもナンセンスだと思うけどさ。


「はい!」

「絆殿が良い主で自分嬉しいでござる」


 現金な奴等だ。

 特にダークシャドウさんの方。

 ん?

 何か変な気配を感じてしぇりるの方を向くと初めて表情らしい不敵な笑みを浮かべて。


「……次ヘマしたら奴隷」


 しぇりるさん怖いっす。

 ともあれ仲良く手を繋いでの戦闘はさすがにアレなので、俺が二人を支えるという手段を取る事になった。というかさせた。


   †


「硝子、このまま防ぎきれるか?」

「やってみます!」


 作戦通り俺が二人を支えるという手段で戦っていた。

 現在俺の左手には無防備になった闇影がドレインを詠唱している。

 この間硝子を無闇に攻撃などで足を使わせると落ちてしまう可能性もあるので、前衛が硝子で敵の攻撃を扇子でいなし、俺が闇影の詠唱を支えて、ドレインが発動したら解体武器を片手に硝子のサポートに入るという、少々厳しい戦略を実践している。


 敵はブレイブバード。

 大型の鳥型モンスターで船の半分位の大きさだ。

 属性は知らないが身体に赤い線が入っている。ちょっとかっこいい。

 以前俺が戦った時は不利を悟って逃げ出したが、パーティーでならある程度戦えている。

 今は硝子と闇影が船上戦闘スキルを所持していないが、取得が完了すれば二人でも相手できそうだ。

 そうこう考えている間に硝子はブレイブバードの攻撃を扇子で受け止め、そしていなし、反動の少ない突きを繰り返している。

 まだか? と焦りの表情で闇影を見ると丁度ドレインが完了したらしく。


「ドレインでござる!」


 そんな声と共に黒色のエフェクトが高速で飛んでいきブレイブバードに命中、体内から緑色の粒子が闇影に戻ってきた。

 何だかんだで魔法ダメージなのを含め、エネルギー計算のほとんどを注ぎ込んでいるドレインの威力は高い。

 本音を言えばもっと火力の高い闇魔法を使って欲しい所だが、闇影のこだわりの様だし、俺達は何も最強を目指している訳ではないので楽しみを奪いはしない。

 なにより最強云々を言い出したら俺なんかは相当弱いしな。


「闇影、次は硝子だ。攻撃を受けない様に待機していてくれ」

「承知でござる!」


 ああ、実に歯痒い。

 これが陸地なら二人の猛攻は順番など無く、打ち放題だと言うのに。

 だが、そうも言っていられないのでアイアンガラスキを片手に硝子の近くまで接近する。


「行けそうか?」

「はい。充填量もかなり良い状態なので行けます」


 硝子の扇子を確認すると発光はかなり強くなっていた。

 戦闘方法の関係、闇影が詠唱している間はチャージ時間が長くなる。

 つまり硝子から発せられるスキルダメージも大きくなる。

 まだこれがあるので、最悪の状況とは言えないな。


「じゃあスキル後の隙はこっちで解消する。頼むぞ!」

「はい! 乱舞三ノ型・桜花!」


 白色に光っていた扇子が淡いピンク色……桜色に変わる。そして桜の花弁が散るかの様なエフェクトが発生すると扇子が開き、勢い良く切り裂いた。

 さながら『一閃』とでも表現したくなるが、あの線が攻撃範囲なのだろう。

 つまり現状ブレイブバード一匹相手に戦っているのでベストな攻撃ではないが、チャージ時間に相応したダメージが期待できる。

 そして勢いを付け過ぎた硝子の足がよろめく。


「おっと」

「ありがとうございます」


 それを受け止めて体勢を整えるのが俺の仕事だ。

 直様硝子はブレイブバードに向き直る。

 が。


「おい……逃げたぞ」


 ダメージ量が一定に達したのかは不明だがブレイブバードが突然急上昇を始めた。

 あっという間に空の彼方へ飛び立っていく巨鳥。

 え? 今までの苦労は全て無駄という事か?


 ――ピシュンッ!


 そんな金属を滑らせた様な音が背後から聞こる。

 振り返るとしぇりるが相変わらず無表情ではあったが、船後方にある物体を握っていた。

 そう、バリスタだ。

 矢一発が程々の額のする、あの兵器。

 俺の頭は直に状況を理解した。

 しぇりるはバリスタで追い討ちを掛けたのだろう。

 その証拠に空へ目を向けるとブレイブバードが落下を始めている。

 ステータス画面を眺めるとエネルギーが700も増えていた。

 つまり倒した、という事か。


「どうにか行けるな」

「そう」


 相変わらず口癖を呟くしぇりるを横目に考える。

 四人で700エネルギー。

 パーティー補正も入っているが、正直相当美味い。

 無論、現状では数を狩るのは不可能なのも事実だが、それでも常闇ノ森よりエネルギー効率は良い方だ。要するに一匹一匹の獲得量が大きいという事か。


「海、経験値的にどうだろう」


 元前線組で美味しい狩り場に詳しい硝子に訊ねる。

 もっと効率の良い場所はきっと沢山あるだろうが、ブレイブバードは海のモンスター群の中でも弱い方だ。中々評価も良いんじゃないか?


「……考えていたよりも多いです。私が前線にいた頃戦っていた化け物さんと同等なのではないでしょうか」

「そりゃ良かった。船作りだの、戦闘方法だの、あれだけ苦労して不味かったらどうしようもないからな」

「ですが、ここはまだ海の中では始まりなのですよね? 一体この先はどうなっているんですか? 正直、これで弱い方と言われると疑問しか浮かびません」


 硝子の言い分も頷ける。

 さっき硝子は前線にいた頃と同等と言った。

 つまる所、ブレイブバード程度の経験値が前線の獲得量という事になる。

 無論、殲滅力などの差は当然あるが、少なくとも俺はブレイブバードよりも強い敵を何匹も知っている。

 だが、そこから出てくる答えは不安ではなく……。


「だから、気になるんだろう?」

「……そうですね。あの先に何があるのか全くの未知数ですもんね」


 それは期待。

 冒険心と例えても良いかもしれない。

 解らないから行って見たいという凄く単純な欲求。

 俺としぇりるに限らず、硝子にもこの気持ちが理解してもらえるなら嬉しい。

 あの水平線の向こうに何があるのかわからない。

 だからこそ、行って見たいと思った。


「まあでも今は海に落ちたアレを拾って俺達の金になってもらわないとな」


 今はまだ、その時ではない。

 俺はしぇりるに解体武器の事情を話した。

 同じ狩り場で戦っている者が誰もいないのだから隠す必要も無い。

 こんな感じで俺達は船上戦闘スキルが出現する12時間もの間戦い続けた。



 そして。

 俺達はまだ知らない。

 災いが刻一刻と近付いている事に……。


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