レッドテールキャットフィッシュ
新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
「どんな仕組みなのか気になるけど解析して入り込んで強者を気取るのもどうかって事よね」
「不正利用者というのは何処にでも現れる話であるのは否定しないよ。性質の悪いものだとゲームを破壊することを喜びにしている悪徳なプレイヤーも存在するからね」
ああ、FPSとかで不正プログラムを使って勝つとかの話ね。
開発者が一生懸命作ったゲームを壊すのが楽しいとかほざいたって話を聞いた事がある。
そういう馬鹿げた事を喜ぶって実に性格が悪いよな。
どんな人生を歩んだらそんな歪んだ発想になるのか逆に気になるレベルだ。
「場の空気を悪くさせ、場所を破壊してまで自分が凄いと言いたくなる者の気持ちは理解に苦しむね」
リアルセレブなクレイさんがそれを言っても良いのだろうか?
いや……金持ちだからこそ高潔な所があるのかな?
これが俗に言う金持ちへの偏見か。
「他にもどんどんプレイヤーが脱落するゲームで不正ツールを使って優勝しまくるとか聞いたなー」
「ああ、優勝を何度もすると手に入るアバターがあって、それを所持したアカウントの売買が目的だったと聞いたよ」
うわー……ゲームの闇が垣間見えるネタだ。
色々とヤバイな。
「お金で誤魔化してそんな代物を手に入れて虚しく無いのかしらね」
「そうだね。実に情けない話だと私も思うよ」
「Lv上げ代行してもらってゲームをクリアするのはどうなの、姉さん?」
俺によくさせてたよね。
「うるさいわね! わかってるわよ。限度を知れって事よ」
「むしろLv上げが必要なゲームは今じゃレトロな方だけど、奏くん達は古いゲームも楽しんでいるようだね」
クレイさんの態度が実に大人だなぁ……確かに今のゲームってLvはサクッと上がるの増えたよな。
ディメンションウェーブみたいなガッツリやるゲームの方が珍しいのは否定出来ない。
「何の話をしていたんだっけ? ああ……クレイさんの友人の話だけど、この子コレだって思った事はずっとやってるんだけど、ある日ピタッとやめたりするから長期的に見ると危ないわ」
「姉さん、別にやめる訳じゃなくてリソースを変えただけだよ?」
ずっとやっているのも良いとは思うけど、他にやりたい事が見つかったらそこに全力で行くのが大事なんじゃないかな?
今の俺はディメンションウェーブで釣りをすると言うのが目的な訳で。
「ただ、釣りって奥が深いからゲームが終わってもやってるとは思うよ。問題は未知の釣りは出来なくなって精々川か堤防での釣りになるくらいかな」
漁船にお金払って乗るのは俺のリアル財力では厳しい。
だってゲーム内じゃ島も所有する金持ちだけど現実はただの学生だよ?
「釣った魚をアイテム欄に一括で入れられる便利機能なんて現実には無いし、ままならないね」
「ゲーム独自の便利機能で煩わしさを軽減してるのは大きいなぁ」
楽しんで貰うために現実とは違うと言う要素が存在する訳で。
ただ、仕掛けの本格的な所は十分にあると思う。
近場で作業している姉さんとウサウニーに指示をしているクレイさんとの会話を切り上げようとした時――。
ガクン! っと強く竿がしなった。
「お?」
この手応えはヌシじゃないだろか?
先ほどから垂らしている竿のしなりの中で一番大きいぞ。
「何か大物が掛かったみたいだね」
「そうなの?」
「うん。とはいえ、ここってカルミラ島相当だから……」
ここはカルミラ島での池なのかはたまた海なのかの判断に悩んでいたけどヌシが掛かるという事は池判定っぽいな。
引きの強さはやはり俺がどうにか出来てしまう程度だな。
現状だとルアーとか盗られると再入手が厳しいので絶対に避けたい。
そう言った意味で格下に位置するヌシならありがたくもあるか……個人的にはもう少し歯ごたえというか敵わない相手である方が好ましいのだけどさ。
ギリギリ……っと、リールを巻きつつヌシの魚影を確認する。
「格上なら姉さんやクレイさんに攻撃して貰って弱らせるとかお願いするんだけどね」
「やるかい? 魔法で狙ってあげても良いよ?」
「遠距離攻撃系のスキルはあんまり持ってないのよねー」
「大丈夫、むしろ弱らせられるとつまらない位には引きが弱い」
水晶湖のヌシ、肺魚と同じくごり押しが出来てしまう程度のヌシなので頼りにする程じゃない。
バシャバシャとヌシは抵抗を見せているけど糸や針が切れるような危険な強さでは無い。
「一気にエレキショックとかで弱らせたら面白く無い! やってやるぜー!」
ギリギリとヌシとのバトルを俺は楽しむように右に左にヌシの動きに合せて竿を動かしてリールを巻き続ける。電動モードにしなくても釣れてしまうぞ。
間違い無くこっちのLvが高すぎている。
やがて……岸近くまで魚影が来た所で……フィニッシュの一本釣りを放った。
「うおー! 一本釣りだー!」
ザバァ! っと竿を振り上げた所でヌシが姿を現した所で……何かクレイさんがヌシと俺が重なる角度に移動してカメラ撮影をしていた。
姉さんも何故かクレイさん側でこっちを覗き見てる。
「よし、上手く撮影出来たかな」
「クレイ、結構カメラ撮影が趣味だったりするのかしら?」
「いや、この角度で撮ると釣り漫画の決めシーンみたいになりそうだなと思ってね」
「納得だわ。私も面白いアングルで撮影出来たわ」
いや、何を撮ってる訳?
ビチビチっと釣り上げたヌシを無視して二人へと意識が向いてしまうぞ。
撮影した画像を送らなくて良いからね?
「で……釣り上げたヌシだけど、相変わらず大きいわねー」
「大物のようだね。ここまで大きいと圧巻ではあるけど……絆くんは驚く様子は無いね」
「最初は驚いたけど最近はそこまでかな。予想通りの奴が釣れたって感想」
釣り上がったヌシはレッドテールキャットフィッシュだった。
先ほど釣った個体の倍以上ある……3メートルだろうか。
恐るべき大きさで、もはや魔物って扱いであるのだけど、このサイズはゲーム内の魔物とかで遭遇するので驚きも大分少ない。
とりあえず魚拓とばかりに撮影をしてっと。
「まあ、とりあえず顔文字さん達にも自慢出来る様に解体は後回しにするけど……釣れちゃったなぁ……」
「何よ。イヤだったの?」
姉さんが怪訝な表情で俺を覗き込む様に見て言う。
「アレではないかい? じっくりと釣り上げたいと言う奴だよ。あっさりと目標を達成すると逆に面白く無い時もあるだろう?」
「ああ、なるほど。色々と頑張ってガチャ石を貯めて目当てのガチャに挑んだら最初の十連で目当ての代物が出ちゃったような感じね」
「具体的な感想ありがとう! そこまで察せられると辛いから程々にして!」
肺魚の方は条件が特殊だったから釣り上げるのに時間が掛かった代わりに強化合宿を堪能出来た。
けど今度は初日にあっさりと釣り上がってしまった。
これから俺はどうしたら良いんだ?
いや、暇さえあれば釣りをするつもりだけど目標が一つあっさり達成してしまった。
「難儀な問題だね。この辺りは割と理解は出来るつもりだよ。私の友達も似たように悩みを持っていたからね」
「極めると面白みが減るって奴ね。ここは隔絶されたような場所だし他に釣り場も無い。良いじゃないの。暇なら畑仕事を手伝いなさいな」
「色々と仕事したんだからもう遊びたいの!」
目標達成したから別の作業に戻れってのもなー……顔文字さんには既に色々と教えてるし農作業は既にウサウニーやペックル達がやり始めて居て間に入り込んでも面白く無い。
「ワガママを言うわねー……じゃあどうしたいのよ」
「そこはクレイさんやてりす達にマグマでも釣りが出来る様に品を早く作って貰うのが良いんじゃないかな」
「まだ私たちの技能が追いついて居ないので待っていて欲しいね」
うーん……。
「何にしてもアンタの事だからヌシ釣りだけが全てじゃないんでしょう。しばらく待ちなさい」
「うぇーい」
って事でいきなりオアシスのヌシを釣ってしまった俺はその日は陽が沈むまで釣りを堪能していたのだった。
ちなみにオアシスのヌシであるレッドテールキャットフィッシュを解体した所、やはりカルミラ島の池のヌシであるナマズと同じ素材が出た。
大鯰素材だね。一応その枠であるようだ。
顔文字さん達と夜に集まって話をする事にした。




