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小さな失敗、大きな経験

「やっぱ帆船は違うな!」


 俺達四人の船が出港した際の言葉はこんなものだった。

 手漕ぎボートは性能上、沖に行くのに時間も労力も掛かったからな。

 その点帆船は違う。

 おそらくしぇりるは舵スキルを取得しているのだろう。

 しぇりるが船を動かして俺達は海を眺めるという、ある種旅行気分だ。


「天気も良いですし、海というのは気持ちの良いものなんですね」


 日によってまちまちだが今日は天気が良い。

 どういう物理エンジンを積んでいるのかは知らないが、曇りの日や雨の日まであるので出港式としては幸運に恵まれた。

 硝子の評価も上々だし出発点はうまくいったと見て良いと思う。


「しぇりるはモンスターの分布知っているのか?」


 一応訊ねる。

 俺も多少船であっちこっち探索した経験こそあるが、具体的な分布は知らない。

 マグロが取れる位置は覚えているので必要がなかったともいえる。


「ん。弱いのから順に、試してみる」


 帆を調整しながら言った。結構大変そうだな。

 以前船を動かす奴が必要といったが、確かに一人は舵をする奴が必要だな。


「じゃあ俺は金稼ぎに釣りでもしてるから、敵は硝子と闇影に任せるぞ」

「わかりました」

「承知でござる」


 モンスターが多数やって来たら俺も援護するが、一匹や二匹なら二人で十分だろう。

 若干約一名がエセ忍者っぽいポーズで『にんにん』言っている所に一抹の不安が残るが……。

 それよりも船の所持率が少ない現在、マグロやタイを売れば金になる。

 帆船作成で失った金を少しでも増やすには丁度良い。


 そういう訳で俺は釣竿――船の材料集めのついでに作ってもらった『人面樹の竿』を取り出した。

 トレントの木が材料なのは言うまでもないが、比較的良い物を使ったので+1。

 これで竿の性能もランクアップだぜ。

 という訳で糸を海に垂らす。

 最近は釣りよりも戦闘や商談が多かったので、なんか久々に感じる。船が海を切り裂いて進むので今までとは違う感覚を伴ってこそいるが、やっぱ釣りだよな。


「釣れますか?」

「どうだろうな。釣れる時もあれば、釣れない時もあるからな」


 まあ現実よりは釣れるけどな。

 という補足も踏まえて護衛兼最高戦力の硝子と話す。


「しかし絆さんとしぇりるさんが仰っていましたが、海は随分と広いんですね」

「まあ海だしな」

「いえ、そうではなく、絆さん達の言葉を疑う訳ではありませんが、先が見えないというか、どこまで続いているのか不透明に思えます」

「……まあな」


 水平線を遠い目で眺める硝子に深く同意できる。

 どこまで続いているのか分からない。

 それはある意味、不安でもある。

 先に進めば進む程モンスターが強くなるというのもそれを拍車をかける。

 大昔のRPGは船を手に入れると自由度が広がった。しかし誤った道へ舵を取れば凶悪なモンスターが沢山沸いて全滅、なんて事もあったが……まさかな。

 そんな時は逃げれば良い。

 手漕ぎボートで逃げ切れたんだ。

 帆船としぇりるの腕があれば適正な場所で戦える、はず。


「……敵、臨戦態勢」


 これからの不安に胸を焦がしているとしぇりるが突然そう言った。

 俺は釣竿片手に周囲を見回すと東北の方向から黒い影、以前俺が戦ったキラーウイングがこちらに向かって急速接近している。


「自分の出番でござるな!」


 ドヤ顔で言い放つ闇影。

 頼りになりそうな気もするが、お調子者な所に不安が残る。


「行きます! 充填……」


 扇子を構えて硝子はいつもの鬼神染みた気迫と共にキラーウイングへ対峙した。

 前衛が硝子で闇影が後衛。たかが一匹相手に遅れは取らないだろう。俺は攻撃を受けない様に気を付けて立ち回れば良いか。

 そうこう考えている間にキラーウイングは攻撃の届く距離まで接近していた。

 硝子は扇子をキラーウイングに向け、闇影はドレインを詠唱する。


「――!」


 一呼吸置くと硝子はキラーウイングの攻撃を避けながら扇子を薙いて当てる。

 いつも通りの硝子に清々しさすら感じていると……何か変だ。

 薙ぎが命中してキラーウイングの体勢が崩れた、までは良い。未だキラーウイングは健在だが連続での攻撃、更には闇影のドレインが次に控えている。

 だが力の籠もった薙ぎを当てた硝子は自身の遠心力に囚われて船の外側へ――


「って落ちるぞ!」


 パシっと空を切っていた扇子を持っていない方の手を間一髪に掴む。

 硝子の不安そうな表情は俺が掴んだと見るや安堵の色に変わった。

 ……俺、今かっこいいんじゃね?

 じゃなくて。


「大丈夫か?」

「は、はい!」


 一瞬呆気に取られていたが直に頷くと硝子は体勢を立て直す。


「どうしたんだ?」

「いえ、足が……」


 足が?

 あれか、地上と船の上では感覚が違うって事か。

 まだ断言はできないが俺は船上戦スキルを取得している。

 だから補正が付いていると考えれば、硝子が本領を発揮できない理由も頷ける。


 ――ドボーンッ!


 何か大きな物が海に落ちる音が響く。

 若干ブクブクと泡の様な音も聞こえてキョロキョロと周囲を急いで探す。

 闇影がいない!


「……ヤミが落ちた」


 しぇりるの淡々とした言葉が耳に入り、焦りは高まる。

 俺達の中で戦闘メンバーが事実上壊滅状態。


「……助けてくる。絆と硝子は敵と船をお願い」

「わかった!」


 俺が頷くとしぇりるは海へと飛び込んだ。

 そういえば船を作る前は泳いでいたとか話していた記憶がある。

 多分水泳スキルでもあるのだろう。

 そんな事よりも今は思考をキラーウイングに集中させる。


「船の戦いは陸とは違うっぽいな。慣れるまでは俺が援護する」

「わかりました」

「船から落ちない様に助けるから」


 硝子が頷くのを見て、俺はアイアンガラスキを握る。

 キラーウイングは鳥系、相性は良い。

 更に言えば、そこまで強い敵でもない。

 ここで立ち止まってしまえば、あの海を越えるなんて夢のまた夢だ。


「よっと!」


 キラーウイングの攻撃をステップで避ける。

 船が広いので以前みたいな殴り合いは避けられた。


「今だ!」

「乱舞一ノ型・連撃!」


 既にある程度チャージが完了していた扇子から攻撃スキルが発動する。

 横からキラーウイングの胴へ命中。ついでに俺も便乗して攻撃しておいた。

 その甲斐もあって元々そんなに強いモンスターという事でもないが、鳥系が打撃に弱い事、硝子の装備や能力、蓄積ダメージなどの関係も相まって倒れた。


「だが、これは……」

「残念ながらマイナスですね……」


 パーティーを組んでいるので経験値は300を四人で均等。パーティー補正を含めてもスキルを使った時点でマイナスといえる。

 闇影に至っては海への落下でダメージを受けているからな。


「対策が必要だな……」


 補足だが、竿が引かれていたので釣っておいた。

 ニシンだった。


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