ミックス
「何にしても手探りでやっていかなきゃいけないって事ね」
姉さんがため息交じりに呟く。
まあ……こういう状況で一番適応するのは家のだと紡の担当だもんなー。
こう、知らないゲームを事前知識無しで上手くやっていくのは感覚派のアイツが一番なのだ。
姉さんは仕様を把握してから伸びるタイプで俺は単純作業をずっと出来るタイプだから。
スキル回りの未知を探るのにはそこまで向いては居ない。
俺が取得出来たのは釣りがしたいと色々と取っていった結果、偶然条件を満たしてしまったに過ぎない。
硝子達とも狩猟具から他のユニークスキルの考察をしたけど……やっぱり人によって意見が変わるもんなんだなー。
「絆、アンタが取得した狩猟具がキワモノ枠なのかそれとも別なのかって所もあって判断しがたいのよね」
「そこは否定出来ないよ。王道の剣や槍、弓辺りにユニークがあるかね」
「んー……その辺りはそれこそ無数のプレイヤーが持ってるから見つかったらすぐに取るプレイヤーが出て来るでしょ」
確かに……そんな王道武器だったら条件があっさり開きそう。
だけどいないのだからもしかしたら全体的に変わり種が特殊武器かも知れない。
「何にしても絆、アンタは戦闘組に組み込むのが良さそうね」
「えー……」
「えー……じゃない! 人型以外には有利なんだから貢献なさい」
「そうは言ってもな……現状は開拓なんだし戦闘はそこまで必須じゃないでしょ」
俺の返事に姉さんはやや考えて納得してくれたようだ。
「確かにそうなのよね……実に宝の持ち腐れね」
「下手に高火力過ぎると他プレイヤーから嫉妬を買いそうだけどな」
「絆、それは今更だから気にしてもしょうがないわ」
島主になったって所で既に嫉妬される立場よ、とか言われてしまった。
そんなー。
「そもそもアンタはペックルを大量に呼んで一人でも戦えるでしょ。ソロでも困らないのは便利よね」
「まあ……俺が戦える範囲でなら黙々とやるけどさ」
ああ、懐かしき姉達がやっていたゲームのLv上げ作業。
Lv上げが面倒なゲームを良く任されたんだよな。
レトロなゲームに多い仕様だ。
最近だとLvの上がりが早かったりしてそこまで必要じゃないゲームが増えた。
「考えて行きましょう」
「個人的には勘弁して欲しいなー俺がやりたいのは釣りであって魔物狩りじゃないってのに」
「狩猟具の所持者が言ってるんじゃないわよ」
ああ……なんかモンスターをハンティングするプレイヤーキャラクターの気分が分かってしまったような気がする。
「島主のスキル説明はこれくらいにして、今回の合宿のお陰で物資は大分増えたのじゃ!」
「そうだね。じゃあノジャはこの作物でどうするんだい? シードメイカーで種にするかい?」
「そうじゃな。一部は種にするとより上位の作物に出来る様じゃな」
工房の一角にあるシードメイカーで顔文字さんが確認をすると上位の作物の種にすることが出来る様だ。
「む? 技能が上がったお陰で色々と機能がアンロックされたようじゃぞ」
「へーそんな機能まであるのか」
結構やりこみ要素が組み込まれてるんだなぁ。
「ウサウニーを動かすだけならカブとかすぐに実る奴を使うだけでも良さそうだけどね」
「確かにそうじゃが手広く覚えたいのじゃ」
「まあ……その手のスキルの能力アップは種類になるもんなー」
同じものだけやっていけば良いって訳じゃ無いのがこのゲームの特徴だ。
効率良く同じ魔物を倒せば良いだけでは無いってのと同じ。
ウサウニーの運用はそうでも作物はそうじゃない。
「じゃあ地上の畑の管理になるか、後は作物のミックスだけどこれって品種改良になるのかな?」
「そのようじゃ。ふむ……特定の作物を入れることで新たな作物の種に変換する事が出来るのと、交配させるミックス機能があるようじゃ」
前者はカブとジャガイモを入れて別種のトマトに交換するみたいな感じで、後者は現実じゃ不可能なスイカとメロンを合成させてスイカメロンにするとかそんな感じの代物らしい。
ただ、決まった組み合わせじゃないと行けないようで奇怪なキメラ作物を作るのは現状無理なようだ。
この辺りは……さすがに俺の管轄外だなぁ。
知っている作物の育て方なら助言が出来るけどさ。
「奥が深そうな要素だな」
「そうじゃな」
「薬草類の栽培もお願いしたいね」
ああ、農薬関連でポーションとかクレイ達に作って貰う事になるからなぁ。
ダンジョンのドロップとかで誤魔化すのも限度がある。
色々と薬草類は植えられるようだ。
マジックオニオンも薬草に使えるとの話だ。
料理にも使えるけどメインは調合って所だったんだろう。
「地上でも作物を育てて行くのじゃ! ダンジョンでは手に入る経験値が少ないからのう」
「数で誤魔化したけどそれも限度があるだろうからなー」
何より種類を増やさないと話にならないわけだし、他の季節での作物も重要だよな。
ウサウニー達には開拓業務、土地の整備から建物の建築を頑張って貰わないとペックルの能力も発揮出来ない。
「そんじゃ巣穴で休眠しているウサウニー達に作物を与えて開拓を進めて行くのじゃ!」
って事で顔文字さんは早速ウサウニー達に作物を配って動かす。
やっと開拓開始って感じだな。
ウサウニー達が土地の整備を始めプラド砂漠は開拓が再開し始めた。
「で、絆。てりすさんが言ってたシェルターが気になるわね」
「……」
姉さんの詰問に俺はやむなく地上でもペックルハウスを設置して使う事になった。
こう……地上の住居は確かにあんまり文化的じゃないもんな。
石作りの無骨な家で言っては悪いけど住居の質が悪い。
ペックルハウスは三人くらいが限界だけどさ。
って事で開拓兼、農業は顔文字さん主導で俺が時々助言という体勢で進める。
まあ助言と畑の様子を見るだけで良いのでそこまで苦労はないか。
水やりはスプリンクラーが使われているし。
この辺りはじょうろで水やりをしなくて良い分だけ楽かな。
そんなみんなが作業に入っている中、俺はオアシスの前に立つ。
「さーて! ここでもレッツフィッシングターイム!」
じっくりと釣りをするために面倒な農業基礎知識を顔文字さんに伝授しているんだ。
この時を楽しむぞー!
ちなみにオアシスには大量のカニ籠は既に設置済みだ。
カニ籠にはカニが入って居た。オアシスクラブって実在しない種類のカニっぽい。
見た目はシオマネキを大きくしたようなカニだ。
これも狩猟の一種なのか実績にはカウントされたけどさー……なんか納得し辛い。
まあ、カニ装備の本来の材料である魔物も海岸沿いの砂浜が狩り場だったし不思議じゃないけどさ。
他にイエローパーチがカニ籠に掛かっていたっけ。
後はサンドマイマイってカタツムリとサンドオオカブトってカブトガニみたいなゲーム仕様の生き物が入って居た。
サンドオオカブトは……なんかロミナに渡したら防御力の高そうな装備を作ってくれそうな位に甲羅が固い。
ロミナのペックルに頼んで鍛冶でもして貰うかな。
ウサウニー達に施設強化をして貰って居るから工房の性能が上がるのも時間の問題だろう。
「何が釣れるかなー」
オアシスの木陰から釣り竿を垂らすっていうのも中々乙なもんだ。
優雅にチェアでも設置して釣りに興じるのも悪くはない。
当面はみんなの技術を磨いてもらってマグマに垂らせる釣り具を作ってもらわねばいけない。
「……こう、先に仕事をしたら釣りをしていても良いって話にしたけど引っかかるわねー」




