ホットでハード
「このまま一気に開拓を進めちゃえばいいのよ」
「まあ、そうなるか」
「後でみんなに話して情報共有はすべきじゃな。もちろん外に出た際には口外しない事は誓ってじゃ」
「妙な因縁付けられかねないもんねー」
おお、その辺りの理解も早くて顔文字さん達は良心的だなぁ。
妙な粘着行為とかされる可能性は確かにあるもんな。
俺の場合、釣りをしてるだけってみんなに思われてただけだったし、重要拠点のカルミラ島が使えなくなるって事で変なのも絡んで来なかったんだよな。
「島主にわらわ達は追いつけるのかのう」
「新スキル取得しただけだから、顔文字さん達もいずれは追いつけるでしょ」
「ユニークスキルの取得条件が複雑過ぎると思うわ。他のユニークがどんな代物かよね」
「じゃな。何にしても色々と挑戦して行かねばならんと言う事のようじゃ」
って事で話しを終えて顔文字さんはボス討伐後の次の部屋へと行く。
このままエレベーターに乗って帰るんじゃないの?
「島主よ。ブレイブウサウニーはこっちの部屋の宝箱から出たんじゃ」
と……俺がカルミラ島で見たブレイブペックルを手に入れた部屋を顔文字さんは指さす。
「俺もそうだったなー」
「一般プレイヤーが行くとそこに報酬の宝箱があるのよね。開拓中だと違うのね」
「へー」
そんな事まで変化してるのか。
「そういえばアップデートでダンジョンの先に行けるようになったとかカルミラ島だとあったらしい。プラド砂漠は?」
「そこが気になったので調査じゃ」
ああ、ついでに顔文字さんも確認したかったんだね。
で、閉まっていた扉を顔文字さんが確認するとガチャッと扉が開いてしまった。
「行けるみたいだね」
「そのようじゃな」
「ランタンを確認するともう少し行けそうだけどどうする? ノジャちゃん」
「島主が高火力のようじゃし、もう少し足早に行ってみるかの」
そんな頼りにされてもなー。
とは思いつつ行きがけのついでで俺も頷く。
「了解、難しかったらすぐに撤退すれば良いよね」
「未知のエリアへ出発じゃな」
「らるくと奏ちゃん辺りが既に行ってそうよねー」
そんな元も子もない。
なんて話をしながら俺達は更なる階層へと進んで行った。
そんな訳でダンジョンの101階。
なんかダンジョン内の壁がより一層暗さを増してる気がするなぁ。
溶岩っぽいものも混じって流れてて熱そう。
出て来る魔物は一部カルミラ島の魔物の色違いのようだ。ここはプラド砂漠での同種の魔物って事なんだろうけど。
「シャガアアアBAッコ!」
「グレーターデビルズダンボル」
なんかダンボル草原で見たような外見の邪悪そうなダンボルが取り巻きを引き連れて現われた。
取り巻きは呪われたくるみ割り人形って不気味な玩具の兵隊。ちょっとホラー感あるな。
接近してくる前にブラッドフラワーのチャージを終わらせて近づいてグレーターデビルズダンボルに放って一気に削りきる。
「思ったより強く無いな」
「そりゃあ島主の攻撃ではの」
「アップデートしたと言ってもカルミラ島のダンジョンと似たような所だからじゃない? 毛が生えた程度なのはしょうがないわよー」
そうなるか……。
「とはいえ、島主よ。ドロップ品に植物の種が色々と混じっておるようじゃぞ」
ああ、そうだった。
戦っていく内に魔物が時々種をドロップしてたりする。
他にも顔文字さんがダンジョン内で自生している植物を採取していた。
俺の釣りに対する情熱と同じく顔文字さんも結構目敏いなぁ。
そうして進んで行くとピストルプラントという植物やショットガンフラワーという……種を撃ち出すスミレみたいな花型の植物を発見。
罠カテゴリーだろうか?
「変わった植物じゃのー」
って顔文字さんがそんな植物を採取してる。
色々と凄いな。
まあ俺もゴーストフィッシュとか色々と収納した事あるけどね。
「鉱石もちょっと増えたみたいよ。ほら絆ちゃん! ジオード出てきたわ! 化石もあるみたい」
採掘ポイントを見つけたのでてりすも採掘をしてる。
ついでに来るのには良い場所だったようだなぁ。
なんて感じに進んで……うん。魔物はそこまで強く無いな。
ミカカゲの第二関所を超えた辺りの魔物の強さだ。
アップデートで新しい場所が見つかった場合は型落ちしてるくらいの強さで……本当、本来は出遅れた人を救済するダンジョンなのは変わらないみたいだ。
しかしまー……顔文字さんとてりすがそれぞれ関心のある発見が出来たみたいで良いんだけど俺はちょっと疎外感があるな。
なんて思いながら110階まであっさりと到達してしまった。
少し開けた場所……中継ポイント兼、休憩所って感じだ。
やっぱり先には扉があって開かない。アップデート後に開くって感じだろう。
でー……見た感じマグマ溜まりって感じの場所でなんとなく暑い。
「ここも農園に出来るようじゃな」
「温度的に夏って扱いかな? いや、それより高めだからちょっと育てるのは特殊な代物になるか? サボテンとか……ただ、地上も砂漠だしなぁ」
「あんまり差は無い感じー?」
「んー……砂漠は夜冷えるからずっと暑いって意味ではこっちでも良いのかも知れないけど……」
砂漠の植物としてサボテンとか変わり種で育つ可能性はある。
「うーん。もしかしたらゲーム独自の植物とかを育てられるかもしれない」
「該当する植物探しも楽しそうじゃな」
なんて雑談をしつつ帰ろうかと思って居るとバシャっと音がした。
振り返るとなんとマグマの中から魚の尾らしきものが一瞬見えた。
「溶岩の中に魚が!」
あんな所に魚が居るなんて思いもしなかった。
いや、よく考えたら奏姉さんや紡にやらされたハンティングゲームでそんな魚の敵がいたじゃないか。
なるほど……ディメンションウェーブにもそう言った魚が居るって事だ。
水場しか魚はいないという俺の考えが凝り固まっていたという事だ。
「島主の目が輝いておる」
「マグマの中に魚を見つけちゃったのね。釣ることになるのでしょうけどどうするのかしら?」
「普通に釣り竿を垂らせるのかの?」
「そこは実験だ! まずは普通に釣り針で挑戦!」
っと俺は釣り針に餌を適当に付けてマグマに向かって投げ込んでみた。
ジュ……っと音がして餌が焼け、釣り針が溶け糸が焼け切れる……。
うーむ……適した仕掛けじゃないようだ。
「火属性のルアーなら耐えきれるかなー……ただ、糸が焼けちゃったから糸をどうにかしないと厳しいか」
釣り場ならカニ籠も設置出来るだろうかと試しに一個、マグマに投入して見た。
案の定そのまま焼けてしまった。
「これは中々ホットでハードだぜ」
「HOTでHARDね!」
「お主等は何を言っておるんじゃ……」
「うーん……ここで釣る場合、釣り具を特注しないといけなさそうだなぁ……」
耐火性の高い糸、ワイヤーとかを確保いないといけない。
餌とかも吟味しないといけないし……。
「問題は釣り具の作成技能は俺持ってないんだよなー」
ロミナの知り合いに作って貰ったのが大半だ。
フィッシングマスタリーで自作するにしても技能は元より実績が足りない。
「ロミナのペックルが多少は鍛冶が出来るとは思うけど……それでも厳しいよなぁ」
どうしたら良いだろうか?
「釣り具のルアーって細工にも掛かってるから多少は釣り具を作れると思うわよ。地上で色々とやって見るわ」
「お? それは良いな! 良かったらお願いするよ」
俺は釣り具職人じゃなく釣り人だからな。
細工でも作れるならお願いしよう。どちらかと言えば鍛冶に近い代物になりそうな気がするけどさ。
「付与とかも視野に入れると良いかもしれないわよ。単純なのだと鎖を作って糸代わりにするんだけど、付与で火耐性を付けたりするのも効果ありそうじゃない」
確かに……色々と工夫をして燃えない糸を作って釣りにするのが良いだろう。
「マグマから顔を覗かせるタイミングで銛で突き刺して取るのはどうじゃ?」
「その手も否定はしないけど出来れば釣りをしたいな」
しぇりるだったらやってそう。
何にしてもあの溶岩内で跳ねている魚を釣ってくれる!
「じゃあ寄り道も終わったし帰ろう」
「そうね! 本当、有意義な強化合宿だったわね」
「じゃな! これからやっとわらわ達の開拓が始まるのじゃ!」
って感じにホクホクの期待に胸を躍らせた俺達はダンジョンから帰還したのだった。




