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肺魚


「ちょっとどうしたのノジャちゃん!?」


 てりすも驚いたのか顔文字さんに尋ねる。


「どうしたもこうしたもないのじゃ!」


 顔文字さんが日記をてりすに渡して読ませる。

 するとてりすも眉を寄せた。


「絆ちゃんひどーい。てりす、リアルがどんなのか話したじゃなーい」

「そこはこう、あくまで自己申告だし」

「らるくの話とかどうするのよ。てりすの彼氏よ」

「口裏を合せている可能性は捨てきれないでしょ。逆にらるくが女かもしれない感じで」


 するとてりすが口に手を当てて吹いた。


「ぷっ! らるくがリアル女とかないない! 絆ちゃんも面白い考察するじゃないのー」

「何処までも徹底しておる……そもそもなんで子供部屋おじさんなどとわらわ達を思っておるのじゃ?」


 顔文字さんが日記を指さして抗議するので事情を説明しなければならないようだ。


「そりゃあネトゲあるある的な感じでさ。可愛い女の子アバターで第二の人生楽しみたい的な発想?」

「……お主もしや出会う人全てをそんな風に接しておるのではあるまいな?」


 え? うーん……まあ、姉さんと紡以外は割とその可能性を視野に入れて接しているとは思う。

 おそらく違うだろうなってのは硝子と闇影辺りかな?

 というか、みんなで楽しくゲームをするのは良いんだけど、出会いを求めている訳じゃないんだよ。


「その表情は確定じゃな。お主、自身の格好からみんなそうじゃと思うのは大間違いじゃぞ」

「いや、俺のこの姿は姉さんと妹の所為だし……本当は屈強な男アバター予定だったんだよ」

「それにしたってわらわ達を子供部屋おじさんと仮定して接するのはどうなんじゃ?」

「まあこの場にいる全員が実は子供部屋おじさんだったりする可能性もあるが……」


 そういう展開も割とリアルにありそうだよな。

 俺は子供部屋おじさんではないが、まあ二人に証明する手段はないしさ。


「なんじゃその地獄の様な絵面は……」


 確かに。

 傍から見たら結構笑えるが事実だったら地獄だ。

 う~ん、中々面白い展開になったなぁ。

 内心ちょっと笑っていたら手元が狂ってフィーバールアーが収穫後の田んぼの水路へと落ちてしまった。


「なんていうのかしらね……絆ちゃんって、こう……ずっと黙々と釣りをしつつ畑に関する助言をする所とか、今回の強化合宿も含めて思うけど、仙人みたいよね」

「じゃな……中身男という割には随分と枯れておる。初めて見るタイプじゃ」

「ノジャちゃんもあんまり騒ぐと子供部屋おじさんになっちゃうけど実際どうなの?」

「わ、わらわはリアルを話す訳にはいかんのじゃ。けど子供部屋でもおじさんでもないのじゃ」


 色々と込み合ってるな。大変そうだ。

 ヒョイっと引き上げようとした所でガクーン! っと今までで一番強い引きを確認した。


「お!」


 ぐいっと竿を上げるとメチャクチャしなった。

 この手応えは間違い無くヌシだ!

 幾ら釣ろうと水晶湖に釣り竿を垂らしていてもヌシがいる場所に入らなければ意味が無いって事か!?

 こんな水田跡に潜んでるなんて思うはずもない!

 バシャバシャとヌシが田んぼの跡で抵抗を見せる。


「なんじゃ?」

「大物が引っかかった。この手応えはヌシだと思う」

「ほう……上手く釣り上げられそうかの」

「それはまだわかんない」

「きゃー! 白熱したバトルかしら? 白鯨を釣ったって話だったわよね絆ちゃん。生絆ちゃんのヌシ釣りよー!」


 てりすがキャピキャピって騒いでる。そっちに意識を向けすぎると負けそうなんで後回しにしよう。

 ギリギリとリールを巻きつつヌシらしき奴が行きたい方向とは逆に竿を振って戦う。

 泥の中を泳ぐヌシらしき奴の引きの強さは驚きだ。

 こんな場所に潜んでるヌシってのは一体どんな奴なんだと疑問は湧いてくる。

 ヌシらしく、針と糸に攻撃をしているのが分かるし妙にヌルッとする奇妙な感覚で動き回っている。

 だが俺の今の装備を侮るなよ。

 俺が今装備しているのは蒼海の狩猟具にセットした武奈伎骨の釣り竿だぞ。

 引きの強さ的にカルミラ島のシーラカンス・ラティメリアと似た相手だと判断出来る。

 ならば俺に負ける道理はない!

 モーターリールと電気ショックを発動させて引き上げる。

 ブシャッと抵抗とばかりに泥から跳ねて姿を見せるが泥を纏ってパッと判断出来ない。


「なんじゃろうな?」

「泥臭そうねー」

「釣ったらボス戦闘とかあるのかのう?」

「釣って戦闘に――なったのは河童とかだけど、違うと――思う」


 地味に抵抗するぞこのヌシ。ええい! 大人しくしろ!

 直接攻撃する程じゃないけど抵抗しやがる。


「河童って……何処で釣ったんじゃ……又聞きで河童装備を聞いたが」

「サラッと当たり前のように絆ちゃん言うわね。てりす、そっちの方が気になるわ」


 よーし、一気に畳みかけるぞ!


「フィッシュー!」


 ぐもも……と、泥から引き寄せて出すと……そこから顔を出したのはヌシ肺魚プロトプテルス・エチオピクスと名前が記されて居た。

 大きさが2.5メートルもあるヌシだった。

 他の肺魚が50センチ前後だったので大きすぎ、というか別種だなコイツ。


「でっか! 暴れてた魚影よりもでっか!」

「魔物と見ても良いくらいの大きさじゃな」

「よーし、釣ることができたぞー」


 これで俺の目的の一つは完遂したようなもんだ。

 まさか田んぼの方に潜んでいたとはな。

 しかし……幾ら肺魚と言っても泥の中だけに生息している訳でもあるまい。


「泥の中にとか……どんな配置をしたんだと疑問に思うが……もしや農業を設定されたプラド砂漠補正という事か?」


 正しいか分からないけど畑や水田に釣り竿を垂らすと釣れるものなんかも出て来るのかもしれないという可能性が出てきたぞ。

 水田は……釣れる可能性はあるからなー……水場だし。

 何にしても水晶湖の水田に隠れてたって事だからこんなに時間が掛かったんだな。


「肺魚って確か夏眠する魚でしょー乾期でも平気って奴ー」

「その辺りの再現って事なのか? でも水晶湖の設定温度は春なんだが……」

「この魚ーなんかよく見るとラブリーな顔してるーキモカワって感じねー」


 キャッとてりすがヌシの顔を指さして言ってるけどサイズが大きくて不気味って感じだぞ。


「中々のファイトじゃったな」

「んー……カルミラ島で釣ったシーラカンスと同じくらいだったかな」


 実際、そこまでの強さじゃない。

 釣り具が相当強力だったから糸が切れる危険とか無く、かなりごり押し気味に釣り上げられた。

 顔文字さんの仲間が絶望したダンジョンの魔物の強さと同じ感じと言うのかな? 据え置きというか毛が生えた程度って奴は間違い無いだろう。

 この場所に隔離されたまま新しい狩場に行けないのは確かにちょっと辛いかもしれない。

 俺もまだ見ぬ魚を沢山釣りたいからなー。


「さすがに鍵とかは付いてないか」

「確か島主の時はブレイブペックルの部屋に入れる鍵が付いておったんじゃったか」

「顔文字さんは地面掘ったら出てきたんでしょ?」


 楽に手に入ってちょっと羨ましい。

 この辺りの難易度が軽いのか、運の判定か何かがあるのかはわからん。


「そうじゃな」


 魚拓をしっかりととってーっと。


「らるくに見せてあげたいけどどうしようかしら?」

「さすがに持ち運ぶのは骨が折れるし、この開拓地から出て島の水族館に行けばヌシは登録されて見れるから後で良いんじゃ無いかな」

「そっかー後でてりすがらるくに教えてあげないとね」

「水族館。デートじゃな!」


 おーらるくとてりすはリアルカップルらしいからそこはデートって事になるのか。

 ヒューヒュー。


「えー……てりすデートするなら水族館より博物館が良いわー鉱石とか原石とか置いてある所が良いー魚見てもどう調理するかしか考えないもん」


 わー、てりすに水族館はロマンがないのかー。

 俺は水族館に行くとどう釣るか考えるのになー。

 何にしてもプラド砂漠のヌシは俺が最初に釣ったぜ!


「じゃあさっそく解体と行きますかー」


 と、解体して出てきたのは古代魚系の素材……やっぱりシーラカンス枠だなー。

 少し型落ちで残念。


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