稲作
ああ、米ね。
料理をする俺はNPCからそこそこ購入しているので開拓イベントに呼ばれたとしてもしばらくは持つ量を持って居る。
「米なんてカルミラ島を開拓してる時はペックルが売り出してたぞ」
それまでは魚とかで俺達は飢えをしのいで居た訳だけどペックル達が売り出したので困らなくなった。
「ウサウニーは売ってくれんのう」
ただ、プラド砂漠の開拓は中途半端で購入は出来ないか。
「米か小麦辺りは無いと主食の確保が大変になるわね。てりすもちょっと思ってた」
「農業プレイが推奨されるプラド砂漠じゃ売り出されない可能性はあるか。大豆は確保出来そうだけど……」
「豆腐作りが出来そうよね。オカラも一緒に出来るかしら、色々とアレンジレシピがあるのよね」
俺とてりすは料理技能持ちなので大豆があればそこそこ作り出せる。
豆腐にはにがりとか必要になるはずだけどそこはゲームなのでミニゲームで作成だ。
「自作納豆も作りたいわね。だからお米の補充はしたいわね」
「米は玄米を精製して作り出すものだろうけど……玄米は?」
「てりす、NPCから購入した玄米を少し持ってるわよ。これ使えない?」
てりすが玄米の入った袋を渡してくる。
農業スキルを上げて居る顔文字さんに見て貰う。
「植えられるようじゃな」
「持ってるのか。なら植えられなくはないとは思うけど……米は春に植える作物でもあるから」
「やり方わかるかの? 普通の畑とは異なるのじゃろ?」
こう……顔文字さんって経験者である俺に聞いてくるけどこのディメンションウェーブで俺の知識が何処まで通じるか未知数なのか分からないんだろうか。
「まー……顔文字さんが引っかかってた連作障害に関しては米は無いって長所はあるんだけど……」
姉さん達があのゲームで投げ出した位には米も癖が強いんだ。
「出来ないのかの?」
「色々と温度とか水の量とか気を配らないと行けないからなー今までよりも害虫に注意しないといけない。まだ初心者の顔文字さんに出来るかな……畑じゃなく水田にしないといけないし」
なんだかんだダンジョン内の合宿で俺は顔文字さんに害虫駆除とかを見つけては注意した。
日付変更が発生すると害虫が湧いたりしていたのでその都度顔文字さんに助言して駆除をな。
クレイさんが持たせてくれた薬で処理をしていたからこそ今回の合宿で収穫まで上手く事が運んでいる。
「水田じゃなくて畑で育てる陸稲って手もあるが……この水晶湖の畑を水田に出来るか?」
「んむ? 米とは水田だけではないのかの?」
「ああ、マイナーな方法で陸稲って言う方法があるんだ。こっちだと連作障害が発生するし収穫までちょっと時間が掛かるけどね」
「そんなのあるんだー? てりす知らなかった。絆ちゃん詳しいー!」
農家にならないのー? って姉さんにも言われた事をてりすは続けてぶっ放してきた。
なので家の事情でうちが農家じゃない事や俺自身にその気が無い事を説明する。
「米は農業の醍醐味じゃろ? 水田でやりたいのじゃ」
「そうだな」
難しいからこそ挑戦したいって気持ちを俺は否定しない。
だってまだ見ぬヌシを釣るってのが俺の目的であるわけだし。
「とりあえずシンプルに米……イネとはどんな物かと言うと湿性植物、沼地みたいな湿潤地で生育する植物って側面が強い植物って事。陸稲が出来るとは言ってもな」
俺は水晶湖の耕作地を確認する。
少々段差となっている……水が流れを作って居る所に隣接する耕作地を見つけた。
おあつらえ向きと言うかなんと言うかって感じだ。畦も上手く作れている。
本当は肥料とか色々と使って事前準備をしなくちゃ行けないけど、俺達が現在持って居る物資には限りがある。
準備はそこそこにするのが良いな。
「ここが向いてるかな。顔文字さん、こことここをクワで掘って、そこが排水先で畑を水田に変える」
「了解なのじゃ!」
顔文字さんが俺の指示通りにクワで掘ると水が流れ込んで水田へと変化していく。
俺はその水の流れを作って居る箇所の隣に石材を仮置きした。
「稲作で大事なのはまず玄米から苗……はすぐに変化出来るみたいだから良いか」
状態を確認して使えそうな質の高い玄米を顔文字さんに確認して貰ってある。
農業スキルをしっかりと振っている顔文字さんと知識はあってもスキル熟練度の低い俺では見える情報は違う。
「後はこれを一定間隔で植える。水田くらいは見た事あるでしょ? あんな感じ、さすがに俺も手伝うから」
「了解なのじゃ!」
「まずは苗をこう持って水田のここに埋める感じで……そうそう」
「おー……島主、ゲーム経験だけなのに随分と詳しいのじゃな」
そこはちょっと農家の人に興味があったのでゲームの事なんだけど……と、質問したら植え方を実践形式で少し教えてくれたのを覚えてるに過ぎない。
「あ、なんか楽しそー! てりすも混ぜてー!」
俺がレクチャーしながら顔文字さんは楽しそうに田植えを行った。
てりすは……うん、古い言い方のミーハーなギャルって感じで田植えを少し手伝っていたかな。
「ふんふ~ん……ふ~ん」
顔文字さんが鼻歌を歌いながら苗を植えて行くんだけど鼻歌でもなんか聞きやすいように感じる。
夜に畑の前で焚き火をして鼻歌を歌ってたし……クワの柄をマイクみたいに持ってたっけ。
なんか買い物に行った際に聞いた流行りの曲っぽい歌だったなぁ。
さて、元々そこまで水田を大きくは確保してないので割とすぐに終わった。
「おー! 簡単に田植えは終わったのじゃ!」
「実際はもっと大変なんだけど、そこはゲーム独自の簡略化って奴だろうな。ここから注意していかないといけないんだけどな」
「具体的には何なんじゃ?」
「言うまでも無く病や虫が付くのを注意深く確認して除去する事、害鳥とかも注意しないといけないし……」
ここは水晶湖だけど何処まで反映される事か。
虫は害虫って事で現われていたか。
ゲーム的な要素で案山子を設置すると鳥は追い払えるみたいだな。
「深水管理と言って寒さを避けるために水を深めに張って稲の発育を見守ったりしないといけないんだ。まあ、この水晶湖の温度は一定みたいだけど」
温度が何より大事で、この川の部分は水晶湖本体よりも高めだ。
なんて言うか文字通り稲作の為に作られた場所っぽい。
「稲作の半分は水の管理って言って水見半作って言葉があるくらい大事なんだ」
「色々と大変なのねー。好きじゃないとやってられない位細かくててりすだったら売っているお米だけで満足しちゃうわ」
俺もそう思う。
何が悲しくてディメンションウェーブで農業しなきゃ行けないんだよ。
細かすぎだろと思うけどそこは釣りも同じでやりたい人がやれば良い。
そもそもそこまで細かくやらなくてもゲームシステムはそこそこの代物を作ってくれるとは思う。
最初から良いモノを作る工夫程度の補正だな。
「なるほどなのじゃ」
「農薬代わりのポーションはしっかりと使ってくれよ。虫とか出てきたら報告して駆除をしていけば……まあ、技能がそこそこでも良いのが出来るんじゃ無い?」
稲には虫が非常に付きやすい。連作障害や病よりも恐いこともある。
ウンカとか見つけたら親の敵より嫌な気持ちになるって農家の人が言ってたっけ。
防除剤はこの虫の為にあるっぽいのでポーションで抑制は出来るはずだ。
って感じに顔文字さんに稲作を教えて行く事になった。
「ワクワクなのじゃ!」
まあ、水温のチェックと湿度管理がメインで顔文字さんはマメに畑を確認して回っている。
俺は釣りをしたりして過ごし、てりすは水晶湖内で掘れるところを巡回してたなぁ。
……てりすが掘っている所が徐々に壁の形状が変化して行っている気がする。もしかしてマメに掘ると地形変化も起こるのだろうか?




