ブートキャンプ
「ダンジョン内に畑か……」
カルミラ島のダンジョンにも釣り場があったのを思い出すな。
「ダンジョンってそのまま耕せる感じなの?」
よくよく考えるとカルミラ島のダンジョンの床を掘るって事はしてなかった。
顔文字さんはどうもブレイブウサウニーを手に入れる段階でやっていたっぽい。
「普通のダンジョンでは地面は掘ってもすぐに戻ってしまうがのう。特定の階層では畑に出来る様なのじゃ」
「ダンジョン内は時間の流れが違う感じ?」
「もちろんじゃな。あ、エレベーターの修理はどうにか出来たのじゃぞ。じゃなきゃヤツ等がうるさかったからのう」
顔文字さんはマシンナリーも少しは習得してるのか。
ふむ……どうやら俺が前に地底湖に潜って大量に魚を確保したのと同じ感じで特定の階層が畑として使用可能か。
「どうやら階層ごとに四季があるようで、絆が釣りをするのが好きなようじゃし水晶湖のある地下50階がおすすめかのう。水晶が時間で光を放って照射量が変わって時間の流れをわかりやすくしておって綺麗な場所なのじゃ。ただ、迷宮から出て戻ってくると作物の世話が出来ず枯れてしまったり収穫時期を逃してしまう事が多くてのう……」
「時間経過が別なのか」
カルミラ島のダンジョンではダンジョン内部の五日が外での一日経過という時間が流れていた。
「へー……じゃあ、あんまり本意じゃないけどダンジョン内の畑で徹底的に作物を短期間で作ってウサウニーを動かせるだけの量を確保してくれば良いか」
釣りも合間に出来るみたいだし、現在逼迫している地上での畑の浄化作業の合間にするには良さそう。
「畑の部分はそこまで多くはないのじゃぞ?」
ゲーム的な表現だと温室みたいな所だと思えば良いだろうか。
牧場系のゲームで温室というと季節を気にせず作物を植えられる便利な施設だ。
「無いよりマシって奴だな」
現在の状況に適した場所を見つけたって感じだ。
何より水晶湖って所に居るヌシがどんなヌシなのかも非常に気になる。
「そんな訳でダンジョン内で物資調達の為のブートキャンプを行う!」
全員が一旦集まった所で俺は堂々と宣言した。
「ほう」
「のじゃー」
「……」
反応はマチマチだ。
ちなみに一番反応が悪いのは姉さんだ。
「誰か俺に付いてくる人いるー? 15日くらい潜って畑の管理と俺の釣りの付き合いになる。超楽しいよー」
「……」
サッと奏姉さんは顔を逸らして黙り込む。
嵐が過ぎ去るのを待つかの様な態度だ。
最近はピーピーと口やかましく騒いでツッコミを入れていたけど、さすがにこの状況ではツッコミを入れる気も起きないらしい。
「私はアンタに頼まれた畑の浄化作業があるし! ダンジョンは戦闘で別の物資調達をするから降りるわ」
「あ、奏の嬢ちゃんずっりー! 俺もだぞ!」
姉さんとらるくは来ないか。
まあ、最初から期待してなかったし、俺が一人で色々とやってくるのが無難か。
「はいはーい! わらわは一緒に行くのじゃー!」
ここで顔文字さんが元気よく挙手している。
おお……ダンジョン生活を顔文字さんは付き合ってくれるのか。
なら徹底的に顔文字さんに農業を教えられるな。
本当にやる気があるって感じだ。
「私はちょっと遠慮させて貰うかな。薬の調合やウサウニーとペックル達の指示をするから」
「ええ……開拓地の発展を優先したいわ。色々と建てて行きたい所ね」
クレイさんとミリーさんは開拓地の整備と建造を優先したい様だ。
感覚的にはアルトに任せていた事をやってくれている。
「てりすは途中までだけどダンジョンで採掘したいから一緒に行こうかしら。水晶湖、てりすも見てみたーい!」
お? 三人目も登場か……ちょっとてりすのミーハーな所が、陽の気配を感じて苦手だけど目的がわかりやすいから良いとしよう。
「了解。という訳で俺と顔文字さん、てりすの三人でダンジョンの水晶湖にブートキャンプに行こうか」
「頑張るのじゃ!」
「やってくわよー!」
ちょっと不安の残る二人だけど、まあ音を上げるまでは付き合うとしよう。
「ちなみに水晶湖の季節は春じゃな」
「じゃあ春に植えられる種とかを持って行くのが良いけど……そんな種類ある?」
「そうじゃな……イチゴとじゃがいもとにんじんのタネを確保しておるぞ。他にクワに初期のタネとしてカブがあるのう」
「確保って……どこから?」
「ウサウニーを探検に行かせたりすると持って帰って来るのじゃ。他にダンジョンで魔物がドロップしたりするのう。ダンジョン内で生えていたりもするのじゃ」
へー……そんな代物もドロップする様に設定されるのね。
「工房内に最初からシードメーカーが設置されていたね。出来上がった作物を入れると作物の種を生成する道具のようだよ」
出来上がった作物の使い道がまだまだあるって所か……。
普通に面白そうだよな。
ここまで農業で色々あるなら仲間と連携が取れていたら結構凄い事出来ると思うんだけどなぁ。
「ここで習得出来るマシンナリーのレシピもあるようだし、使えそうな物資で技能強化はしておくよ」
クレイさん達にはその辺りの技能強化をしておいて貰うのが良いか。
しぇりるが居たら技能的に助かる状況だが……いないのだからしょうがない。
「とりあえず植えられそうな種を持って出発ー!」
「なのじゃー!」
「いえーい! らるくー! お土産沢山持ってくるから後で細工をしてくわよー!」
と俺は愉快な二人を連れてダンジョンの水晶湖って所へと向かったのだった。
「おー」
砂漠のオアシスにあるダンジョン内のエレベーターに乗り、出た場所には……カルミラ島の地底湖に似た感じの地底湖に無数の水晶が生えた幻想的な階層に出た。
水晶が光っていてダンジョン内でもそこそこ明るい。
如何にもファンタジー感あって中々良い場所だなぁ。
で、水晶湖の地面がある所の一部が柔らかい土があり、どうやら耕す事が出来るようだ。
「わー綺麗ね。この水晶、採掘で持ち帰れるのかしら?」
てりすは水晶に目を輝かせつつ笑顔で顔文字さんに聞いている。
「破壊不可な所が多いが一部は掘れるようじゃぞ」
「なるなるーノジャちゃんありがとー!」
「さて……さしあたって、ここで泊まる訳だけど……」
「テントじゃな! やや奮発して持ってきた木材でコテージ作成でもしてみるかの?」
想像以上に顔文字さんがアグレッシブな提案をしてくるな。
木材をそんなに持ってるのか? この砂漠で木材は割と希少だろう。
まあ……オアシスにある謎の林で定期的に生えてきて伐採出来るみたいだが。
木工も多少覚えているらしいからな……この人、戦闘組って割にはサブで色々と持ってるな。
「そんな心配は無用だ。俺達にはコレがある」
チャチャチャーン! と、ここで俺が取り出したのは前回のディメンションウェーブイベントでの報酬で出たペックルハウスだ。
前にも試した一見するとドールハウスの様な代物。
それをイベントリから出して顔文字さん達に見せる。
「なんじゃこれは?」
「わー懐かしい感じの玩具ね。てりすも子供の頃に持ってたわー」
うーん……やっぱり女の子の玩具って感じにしか見えないよな。
「これをこうしてこうやって」
ペックルハウスを拠点として使うのに良さそうな場所に設置するとムクムクっとペックルハウスは大きくなる。
後は鍵とばかりにペックルの笛を入り口に差し込んで完成っと。
パーティーメンバーは入って使用する事が出来る。
このペックルハウスは携帯シェルターなので使わせてもらおう。




