ノワール
「この面子じゃ私とてりすさんが料理担当になるかしらね。絆、アンタも料理技能持ちなんだから手伝いなさいよ」
はいはい。料理技能持ちが三人で連携スキルをすれば料理は良いモノが確保出来るな。
……逆に硝子達は料理技能持ちが居ないから不安になってくるな。
カニの加工業務とかで技能は上がっているから誰か代行してくれていると良いけど……。
悲しいかな、我等がパーティーの料理担当が開拓イベント行きとなる。
ロミナも愛用のペックルを召喚してしまっているし、後で謝らなきゃいけないな。
「色々とわかったよ。みんな、これからよろしく」
俺の言葉にみんなすんなり頷いてくれた。
「とりあえずこれからどうしたら良いかな? 畑の浄化はクレイさん、調合担当だろうから薬剤を作って。奏姉さんがある程度耕したりしてくれるからさ」
「何か植えるのかい?」
「植える前に畑の浄化と休眠が優先かな。まあ……全部の畑を一旦確認しないといけないけどね。少なくとも今植えてあるのは諦めた方が良いよ」
「ほう……ではらるく、君は鎌の使い手だろうから草刈りをお願い出来るかな?」
「あいよ。社長」
今社長って言ったな。
重役って誤魔化していたはずだが?
リアルでの関係って大変だなぁ。
まあ、ゲームで協力して貰ったからリアルでの関係向上に寄与してそうだけど。
「とりあえず畑を全部一旦見て回るのが優先かな。顔文字さん、案内出来る?」
「了解なのじゃ。島主……絆は騎乗ペットを持っておるかの?」
「ああ。そりゃあ配布されてるから持ってるよ」
「では騎乗ペットに乗って移動するかの」
顔文字さんが工房から出ると騎乗ペットを呼び出す。
するとズモモ……っと現われたのは俺が持っている騎乗ペット、ライブラリ・ラビットとほぼ同じ騎乗ペットだった。
「顔文字さんも持ってるのか」
顔文字さんに合わせて俺もライブラリ・ラビットを呼び出して並べるように立つ。
俺が所持するライブラリ・ラビットは白い毛皮に青い瞳で法衣を着用した大型のウサギ獣人みたいな感じなのだが、顔文字さんが所持する騎乗ペットは黒い毛皮に赤い瞳で法衣を着用している。
対で立つと圧巻というか……兄弟みたいな感じで絵になるような気がしなくもない。
「わらわが持っているのはライブラリ・ラビットのNじゃな」
言われて騎乗ペットの召喚に必要な本を確認すると俺のはSと書かれている。
Wじゃないのか。ホワイトとかその辺りで。
「じゃからわらわはライブラリ・ラビット・ノワールと呼んでおる。絆の所持するライブラリ・ラビットとは逆の色合いなんじゃな」
S極とN極って可能性も否定出来ないけど好きに呼ぶのは良いよな。
黒に赤い瞳……ちょっと高貴な感じだな。
「乗り方は同じか」
まさか同じ乗り物があるとはなー……ってライブラリ・ラビットはペックルの笛とのシナジーでこの姿になっているっぽいので顔文字さんもウサウニーの笛とかそう言った代物を所持しているということになるか。
「ちょっと絆、ノジャ子、触れる様に設定なさい」
「ん? どうしたの姉さん?」
「のじゃ?」
ここで奏姉さんが騎乗ペットに乗った俺達に声を掛けて来たので振り向く。
「そうそう、そこ! もっふー!」
ズボ! っと俺と顔文字さんがそれぞれ所持するライブラリ・ラビットの間に入り込んでモフモフさせた。
設定を弄ると他プレイヤーも触っても良いように出来るけど呼び止めてまで触ってくるって……。
まー……気持ちは分かる。モフモフな感じではある。
「あ、奏ちゃんずるーい! てりすもやるー!」
ここでてりすも俺と顔文字さんの騎乗ペットの毛皮を堪能し始める。
「わー楽しかったわー」
堪能したのかてりすは下がって行き、姉さんも離れる。
「んじゃ姉さん。畑の状況を見てくるから草刈りと畑の浄化作業はお願いね」
「わかってるわよ。まだ始まったばかりだけどやってくしかないわね」
「そんじゃ顔文字さん。出発」
「ラジャーなのじゃー!」
そんな訳で顔文字さんの案内で俺達は開拓地にある畑を一周見てまわって行った。
結果として使えそうな畑は2割で残りは一度浄化しないと行けないとの事となった。
騎乗ペットのお陰で開拓地をすぐに見て回れたかな。
オアシスを中心に作られた開拓地で所々に石造りの敷地がある感じ……なんて言うかカルミラ島より遺跡っぽい名残がある。
「大体の施設というかオブジェクトはカルミラ島と同じ感じかな」
伐採場や狩猟に使うスペースが存在している。
ただ、伐採場は石切場って感じでプラド砂漠の場合は木ではなく石作りの建物がベースになるっぽい。
建物に関してはそこそこ建っているが閑散とした感じな印象だ。
俺の場合はアルトやしぇりるが島を賑やかにする設置物を仕掛けてくれていたからなぁ。
街灯とか石畳とかな。
「うーむ……想像以上に畑がダメな様じゃな……」
「一応ゲーム的な要素で畑の作物の時間経過は異様に早いから現実の農業より簡略化はされてるみたいなんだけどな」
だから姉さん達に畑の浄化を軽くお願い出来る訳だし。
で、姉さんとらるくが主体となって畑の草刈りをして貰いながら俺達はクレイさんの工房内で作戦とばかりに開拓地の畑の方針を決めていく。
「少なくとも畑の浄化と肥料を与えつつ適度に畑を耕して行かないと行けない……この辺りはペックルにやって貰うのが良いかな」
システムアシストがペックルには備わっているし現状の物資だとウサウニーは休眠状態が多くて運用が上手く行かない。
まずはウサウニー達が飢えずに活動出来るだけの食料調達をしなくてはな。
「こう……トラクターとかあれば良いんだけどな。騎乗ペット辺りで代用出来ないかな?」
「おそらく出来ると思うよ。トラクターはさすがに高度なマシンナリーが必要だと思うけどね」
開拓の七つ道具のクワでも出来なくは無いけど鋤というクワより前に存在する農具でこれを馬や牛に引かせて畑を耕す農法が存在する。
トラクターが無いなら騎乗ペット辺りかそれこそ顔文字さんが持って居るだろうと思えるウサウニーの笛で大きなウサウニーを出して動かして畑を耕すのが良いだろう。
「ともかく、効率的に畑を適切な環境に持って行くとしてー……その間に何をするのが良いか。農業だけじゃ開拓は進まないし……こう、何か良さそうな事をしていかないと」
みんな一丸になって畑の世話ってのも間違いは無いけどウサウニー達の食料調達だけが全てでは無い。
カルミラ島では魚の調達は俺が担当しつつ、漁とか船でやるようになって食糧事情が安定してから一気に開拓を進めていった。
「最終的に城の建設が目的となるけど顔文字さん。サンタ帽子ウサウニーはそう言った話は?」
「してないのじゃ!」
……城の建築を提案するほどの発展をしていないって事だろう。
ウサウニーカウンターを口頭で聞いた感じだとウサウニーも食料が足りないのは元より数が少ない。
人の入れるダンジョンの入り口が見つかり、速効でクリアしてブレイブウサウニーをゲットした所で足踏みとなっている段階なんだろう。
俺の場合……三人目に呼んだ人物がロミナだったのは正解だったんだろうなぁ。
「今はとにかくウサウニーの確保と活動させるための農業改革が必要だな」
かといって……劇的な方法がまだ出てこない。
この開拓地にある物資は自称前線組が不要と捨てていった品々が多少倉庫にあるだけだもんな……。
ドロップ品とか色々と物資を倉庫に入れておけよ……。
硝子や紡だって手に入れた品々を倉庫に入れていたのにな。
人的要因で単純に難易度が高いなぁ。
「ウサウニーってやっぱり畑を耕したりすると増える感じ?」
「それもあるが最近は出てこないのじゃ。収穫をしているとその雰囲気に釣られて姿を現すのが多いのう」
ある程度釣りだけでペックルが釣れた時期はあったけど、ある時全然出てこなくなった事があったっけ。
色々と挑戦する事で数が増えるから挑戦して行くのが大事か。
「結局は農業で作物が収穫出来なきゃ話にならないか……」
「後はそうじゃのう。すぐに使えそうな畑というとダンジョン内にある畑じゃのう」




